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第二十一話「合衆国陸軍巨人機械化歩兵実験小隊」3/5

 =多々良 央介のお話=


「相手小隊の歩兵全てが対巨人装備をしている」


 大神一佐の言葉に続いて、僕たちが見ている画面に大勢の兵隊が並んでいく。

 その一人一人が、軍隊用の大きな銃を構えていた。

 これが、これから模擬戦をする相手。


 ――巨人で、人間を相手にする。

 それは、少し、悪い事をするような気がした。


「対巨人装備となると、私が使ってきた閃光爆音弾みたいなものですか? 他にも?」


 声を上げたのは狭山一尉。

 確かに狭山一尉の閃光弾には時々助けられてきた。


「うむ、それもあるが、見てもらった方が早いだろう」


 その質問に応じるように、映像は兵隊さんの持っていた銃に切り替わる。

 軍用の大きなマシンガンと、その銃口の下から飛び出た鋭い矢じり。


「これが歩兵隊員たちが持っている装備だ。小銃部分は巨人相手では飾りにしかならないが、先ほどのワイヤーアンカーの小型版が装着してある」


「ガリバーを縫い留めてくる小人の国、ってことですか」


「そうだ。小型化した分で威力や拘束力は当然落ちるが、数が居る」


 おとぎ話を持ち出した狭山一尉の冗談に、大神一佐は真面目に応じた。


 歩兵一人一人が、全部武器を持って攻撃してくる。

 巨人対人間の群れ、どうイメージすればいいんだろう?


「央介、オレたちみたいな補佐体も、人間サイズの対巨人装備だぜ?」


 不意に佐介が口を出した。


「佐介の見解を肯定します。敵性補佐体の集団と仮定すれば、ある程度の想定が可能と判断します」


 続いたのは佐介とは反対側、むーちゃんの向こうに座るテフ。


 ああ、そうか。

 敵の補佐体、佑介が襲ってくるって考えれば、少しわかりやすくなった。


 ――でも、佑介が沢山襲ってくる。

 それは、少し考えたくない戦いだ。

 一体の佑介、クロガネでも厄介なのに――。


「話を戻させてもらうが、いいかな」


 画面の向こうの大神一佐が、余計な方に踏み込み始めた僕の考えを遮った。


「歩行戦車の武装にも言える事だが、PSIエネルギーを流し続ける必要があるために、対巨人兵装の発射点から兵士が離れることはできない、という点は君達に有利に働くだろう」


「であれば、対象火器を手放させれば巨人への有効性が停止すると判断しました。これについて如何を問います」


 その分析をしたのはテフ。


「そういうことだ。そうやって相手の攻撃能力を奪い、行動を停止させれば制圧状態と判定される。今回、相手の4分の3を制圧状態とすれば君達の勝ちとなる」


 巨人で人間を攻撃したりしたら大怪我じゃ済まない。

 そんな人間相手でどうすればいいのかなと思っていたけれど、なるほど攻撃できなくすればいい。

 ……じゃあ、逆にこちらはどういう条件で動けばいいんだろう。


「そして、こちら側、巨人は行動不能の包囲状態……動けなくなって囲まれる。もしくは、相手のアンカーの直撃があれば負けになる。そうなったら動いてはいけないぞ。反則でレッドカードを貰ってしまう」


 気になった部分を大神一佐がすぐに説明してくれた。

 その語り口は少し遊びを含んだ喋り方で、ゲームの説明のよう。

 思いがけない冗談に、僕らもクスリと笑いを漏らしてしまう。


 大神一佐が優しく頷くのを見て、その冗談が僕らの緊張をほぐすためのものだと理解できた。

 ――いつも、ありがとうございます。


 僕が密かに黙礼する隣で、佐介が質問をなげる。


「で、兵士の方は武器を引っぺがしちまえばいい。メックの方はどうすれば攻撃できなくなるんだ? ぶっ壊していいのか?」


「ふむ、メックはアイアン・チェインやバタフライ・シルクでの拘束か、巨人の手によるタッチで制圧となる。破壊は避けるべきだが、事故で損傷させてしまう分には問題はない。模擬戦とはそういうものだ」


 大きく壊したらダメ、か。

 それはそうか、相手の持ち物なのだから。

 でも――


「タッチするだけでいいんですか?」


「そうだ。巨人はそもそも接近や接触で異常事態を引き起こすものが多い。それを踏まえた設定だ」


 ああ、なるほど。

 周りの風景をすべて捻じ曲げてしまうものとか、みんな裸にしちゃうのとか、そういう極端なものだっていたもんね。


「じゃあ楽勝じゃん。向こうは大勢でこっちを囲まないといけない。こっちはそうなる前に縛るか触るだけでいい」


「そう容易いものではないぞ。相手は訓練された正規軍人なのだからな。何より巨人を運用するこちらには被害が出ない分、本気でかかってくることになる」


 佐介の侮りに、直ぐに大神一佐からの厳しい言葉が返る。

 それでも、こっちもあっちもそこまで積極的な戦いになるわけではないみたいだ。


「じゃあ、怪我人は……出ないですむかな? 模擬戦って感覚がわからなくて……」


「むーがやってた訓練では、敵役をしてくれたEエンハンサーの人が時々、かな。すぐに治っちゃってたけど」


 むーちゃんは何でもない事のように言う。

 それはまあ、不死身のEエンハンサーならそれで済むんだろうけど。

 しかし、これから戦う人たちは普通の人間だ。


 だから――


「米軍の人たちも、ギガント相手に戦ってくれている――仲間なんだから、怪我はさせたくないよ」


 思いついたことをそのまま喋る。

 そう、これが素直な気持ち。


 ところが、それに口を挟む人が居た。


「……ふむ。央介君は味方には怪我をさせたくない。逆に言えば敵なら怪我をさせていいと思うのかね」


 ――大神一佐、だった。


「それはそうでしょ?」


 すぐに、はっきり答えたのは、佐介。

 僕は自分の言ったことに何か問題があるか少し考えた。

 敵が、ギガントがしてきたこと。


 結論は、変わらない。


「ギガントに、容赦なんてしたくないです」


「……そうか、勇ましい答えだ。悪くない」


 大神一佐は少しだけ遅れて肯定してくれた。

 けれど、そこから少しだけ話が続く。


「しかし、生きていくうえで今の考えが壊れることもあるかもしれない。その事に気を付けたまえ。そういう時に戦士は酷く弱くなる」


 考えが、壊れる?

 どういうことなんだろう。

 戸惑って、隣の画面の父さんの顔を見る。


 父さんは、少し悲しそうな顔をしていた。

 そして――。


「央介。お前が戦わなくていいように、父さん頑張ってるからな」


 ――ええと、その、ごめんなさい。


 少し、周囲の空気が絡まりつくような感じになって、みんな黙ってしまった。

 やっぱり、子供が戦うようなのはおかしいのだろうか。

 でも、僕はこの世界に巨人がいるなら、戦い続けないと――。


「オホン。大人もね、子供達の前で頑張りたいからね」


 急に咳払いをしてから声をかけてくれたのは、傍にいた狭山一尉。

 そのまま、長い腕で僕たち子供全員の背中を叩く。

 狭山一尉は女の人だけど、その腕はとても力強かった。


 僕は狭山一尉の顔を見上げて、何を言うか考えて。


「えっと……、今日は狭山一尉が手伝ってくれるって聞いてます」


「そうよ。今日は私もみんなと同じ巨人扱い。なんだか引率の先生になった気分ね」


 狭山一尉はそう言った後で、腰に差していた、棒のような物?を引っ張り出して構える。

 柄元のスイッチを入れられた途端に、その棒は全体が淡く発光しはじめた。


「これ! 央介君のお父さんが作った新兵器!」


「ああ、D導出棍棒。Dロッドと呼ぶが、そんな難しいものではないんだ。武術を習っている程度の人間のPSIエネルギーを誘導して、小さいが巨人状態にする」


 Dマテリアルを使ってエネルギーを固定する武器。

 ああ、なんか覚えがある。

 つまり――。


「悪夢王と戦った時の盾の、小さいバージョン?」


「もしくは父さんが構えた時の棍だな。あれ、なんでかPSIエネルギー乗ってるからオレが殴られても痛い」


「きちんと鍛えた人間なら、よく馴染んだ武器でだけそういう芸当ができる。体から少しだけPSIエネルギーを伸ばせるというか、武器も体の延長上というか……」


 父さんのこの話は、サイコ――あきらが言っていた話とどこか繋がっている感じがする。

 流石に、その事を伝えるわけにはいかないけれど。

 父さんは頭を掻きながら、この武器――Dロッドの状態について説明を続けた。


「で、Dロッドの光はどこまでPSIエネルギーが出力されているかの目印になってるだけなんだ。ビーム剣とかそういう感じにできれば良かったんだがなぁ」


「同僚に持たせてみたけど……、普段から格闘武器使わんのは駄目ね。根本がちょっと光るか光らないかだけ」


 同僚――、狭山一尉のだとすればEエンハンサー、ということなのかな。

 要塞都市には何人かいるって聞いていたけど、まだ出会ったことはないや。

 あ、でもクラスの狭山さんは、それに含まれるかな。


「今回はこれの実証実験でもあるの。お相手さんも対巨人……PSI付与兵器を持ち込んできているから、それに対する反撃や防御として機能するはずよ」


「成果が十分ならばEエンハンサー部隊での巨人制圧も可能になる。今、実際にアグレッサーがDロッドの試験運用部隊として、レクチャーが行われている」


「え? それ初耳ですけど。それにEエンハンサーのアグレッサーってまさか――」


 大神一佐の説明に何か思う所があって言葉を途切れさせた狭山一尉と、一方で僕は考え込む。

 アグレッサー? アグレッサーってなんだろう?

 佐介の方をうかがうと、わからない、という素振り。


 後でちゃんと調べないと。


 大人たちの話はそれで終わりみたいだった。

 じゃあ、あとは僕からの簡単な質問。


「ええと、それで大神一佐。今日はどう戦えばいいんでしょうか?」


「それだがな。特に難しい事は考えずに、全力でぶつかっていきたまえ」


 大神一佐からの答えは酷く簡単な物だった。

 簡単を通り越して、何もないと言った方がいいかもしれない。


「相手、アメリカの軍隊だぜ? なんか自衛軍必勝の作戦とかあるんじゃないの?」


 佐介がとにかく情報を引き出そうとして、質問を重ねていく。

 それでも、大神一佐の答えは変わらず。


「その軍隊による作戦を受けてみるのもいい経験になる、彼らの胸を借りてきたまえ」


 反応したのは、むーちゃん。


「あ、負けてこいって言ってるー。ひどーい」


 ――ああ、そういうことか。

 こういう時は、むーちゃんの方が頭が回る。


「そうだな、大人は仕事としてきちんと戦うための訓練を行っている。8:2、いや7:3で君達の負けと考えている」


 大神一佐の、かなりシビアな予告。

 そんなに、負ける?

 これでも、一年ぐらい巨人と戦ってきたのに……。


「まあ、気は悪くしないでくれたまえ。では、諸君の健闘を祈る」


 その慰めの言葉と敬礼で、作戦会議は作戦もなく終わった。

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