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第二十話「武力王、我と在り」4/4

 =多々良 央介のお話=


《形のない巨人、だと!?》


「ああ! これが突発的なものかアトラス制御かはわからないけどな!」


 ――嘘を吐くのはこのまま佐介に任せた方がいいかも知れない。

 僕は、目の前の友人。

 あきらの武力王との戦いに専念したい。


 確か、シルバーデビルとの戦い方のヒントを教えてくれる。

 そういう話だったよな!


(その通り! しっかり理解してもらうから覚悟しろよ!?)


 途端、武力王は高く跳んでからの必殺の飛び蹴り、バベル・ブレイク・キック。

 けれど全然なっちゃいない。

 見え見えの動きすぎて、僕にとって回避は容易だった。


 ハガネに横ステップをさせて、蹴りを躱す。

 そして、着地後の反撃動作の準備はもう出来ている。


(流石に戦闘経験が違う! ――けどな?)


 完全に回避した。反撃に移る。

 そう思った瞬間だった。

 佐介が警告を発した。


「ッ!? 後ろから!」


 目の前の武力王に食い付こうとして背後からの攻撃がハガネの体に突き刺さる。

 痛みをこらえ、受け身のために振り向いて気付く。


「嘘…でしょ!?」


 そこに居たのは、ハガネを蹴り飛ばした武力王。

 そしてその武力王を取り巻くように、地面に、建物上に、武力王の群れ。

 それぞれが再度跳躍し、バベル・ブレイク・キックとしてハガネに殺到してきた。


「あ…、アイアン・スピナー!」


「やってるよぉっ!!」


 降り注ぐ武力王たちの蹴り。

 それをスピナーの突破力で辛うじて逃げ延びる。


 逃げ延びたところで、なんとか姿勢を立て直す。

 その瞬間にも背後から襲ってくるかもしれないという恐怖が行動の精度を下げる。

 呼吸は整わない、次にとる動作もどれを選べばいいのか戸惑う。


 動き鈍る僕の目の前で、大勢の武力王が一体一体消えていき、余裕のポーズをとった一体だけが残った。

 攻撃してくる様子は、ない。


「インチキもなんでもアリかよっ!?」


《これは…ギガントのサイオニックによる攻撃か!? 夢君は、アゲハの出動準備はまだか!》


 通信の先で大神一佐が混乱しているのが聞こえる。

 そういえば、むーちゃんはどうしているんだろう?


(出てこれないように細工はさせてもらったぜ。今日は俺たちの日だからな)


《黒野さんですが、MRBSコンテナとの合流経路のドアの開放が感知困難な範囲で阻害されていて迂回や突破で遅れています!》


《事前からこんな工作を済ませていた!? これは各個撃破狙い…?》


 …大神一佐に、都市軍にすごく迷惑をかけていると思う。

 真相がバレたら、怒られるじゃ済まないかな。


 でも、それも今更か。

 僕は――。


(そうさ。俺たちは大人には言えないようなことを、とっくにやっちまってるのさ)


 ――俺たち?

 あきらも、何か抱えてしまったことがあるのだろうか。

 そういえば最初の時に同病相憐れむって言ってたような。


(俺に勝ったら教えてやるさ、行くぞ!)


 あきらのテレパシーと共に飛び掛かってきた武力王。

 ハガネに反撃を身構えさせて――気付く。

 そうだ、彼は読心してくる!


「ならオレの出番!」


 佐介がハガネの主砲を操り、アイアンチェインで武力王を迎え撃つ。

 読心してくるっていうなら、クロガネ相手の応用ができるはずだ。


(はず、で行動するなって大神一佐が言ってなかったか!)


「うっ!?」


 武力王を捉えたアイアンチェイン。

 けれどそれは何の抵抗もなく武力王を貫通していった。


「こ、これは…!」


「液体化しやがった!?」


 こちらの攻撃を文字通り受け流した武力王はそのままハガネに取りついてきた。

 やはり武力王の姿は溶け消え、液体としてハガネ全体に粘り付く。


(液体人間の呪縛だ。26話、怖かっただろ?)


「こんなの絶対にブリキオーの攻撃じゃねえ! 悪役だ悪役!!」


 佐介の悲鳴か抗議は僕のものと大差ない。

 しかし武力王だった液体に絡めとられたハガネは身動きも取れない。

 ここまで密着されていると、ありとあらゆる攻撃を放ちようがない。


《央介君、アゲハが救援にいくまで、こらえて!》


 オペレーターさんはそういうけれど、あきらの説明からすればこの巨人にはMRBSも効かない。

 どうする? この巨人が本当に敵ならどう立ち向かう!?


(央介、忘れてないか。巨人は何に例えるといい?)


 あきらから提示されたのはヒントなのだろう。

 でも、僕は一体何を忘れている?


 戸惑う僕とハガネの前に武力王が姿を現した。

 もちろんハガネを固めている液体部分はそのままに。

 武力王は拳を握ってゆっくりと構えをとり、そこから正拳を突き出した。


 その拳は、ハガネよりも巨大に膨れ上がる。


「う、うわぁっ!?」


 僕は思わず大ダメージに怯えて叫んだ。

 けれど、その拳は幻のようにハガネをすり抜けていく。


(当たったり、当たらなかったり…)


 呆気に取られて、突き抜けていった拳を見送る。

 巨大な拳は、そのまま背後の隔壁の中に吸い込まれるように消えた。

 幻影によるフェイント――いや、これもヒント。


「巨人は――」


 僕はDドライブを握りしめて、覚悟を決めた。

 深呼吸を一つしてから、ハガネを分解する。

 そのままハガネを巨人の分解直前、巨人の構築直前の“形の無い状態”にして、武力王の拘束から抜け出した。


「――巨人は幽霊みたいなもの! 形なんてあったりなかったりする!」


 僕は答えを口にしながら、少し離れた場所でハガネを再構築する。

 その様子を見て、武力王は満足げに頷いた。


(そうだ! 巨人、PSIエネルギーの形は考え次第! それなのにシルバーデビルは自分の腕をわざわざ焼却切断した! 変だろ!?)


 ……! 言われてみれば、おかしい。

 あの時のシルバーデビルも、今の僕みたいに巨人を解除するなりすれば行動可能になって居たはず。


(固形なんだろう! 機械ってことだろう! 決められた部分から抜け出せないところがあるんだ!)


「耳が痛ぇ」


 あきらによる補佐体の弱点の指摘に、ぼやいたのは佐介。

 一方で武力王は再度構えなおす。

 決着を、つけるつもり?


(ああ、俺の最強の攻撃だ! 相手も同じぐらいできるはずの攻撃! 耐えられるか、央介!)


 武力王は、それ以上動かなかった。

 けれど、代わりに七色の輝きを背負う。

 その美しさに目を取られた瞬間。


(サイコ・キネシス…、気合ッ!!)


 激痛が走った。


 腕、右腕。

 一瞬で、ハガネの右腕が消し飛んでいた。

 攻撃らしい攻撃には見えなかったのに。


「う、うわああああっ!?」


「な、何をしやがった!?」


(俺にもできる、弱いサイコキネシスさ。赤ん坊の時に、哺乳瓶を倒した程度の――)


 再び、武力王が輝き始める。

 次の攻撃は、ハガネの左手を穴だらけにしてきた。

 僕は苦痛に耐えながら、ハガネを武力王の前から退避させる。


(逃げても無駄だぜ。テレパシーと同じで、どこまででも届く。どこに逃げても聞こえる――)


 逃げようとしたハガネの足が砕け散る。

 何度攻撃を受けても、それを視認することができない。

 あきらは、こんな、こんな戦いができるの…?


(怖かったんだよ…。みんな怖いこと考えてるんだ。いっぱいの人が、どれだけ上手く暴力振るうか考えてたんだ!)


《央介君! 諦めないで! 抵抗して!!》


 頭の中と、通信から悲鳴が聞こえる。

 無抵抗のつもりはない。

 だけど、あきらからの攻撃の正体がつかめない。


(そのことを、お父さんに言ったんだ。そうしたら、お父さんはお母さんとケンカするようになった)


《もうすぐアゲハが――》


 通信は突然聞こえなくなった。

 同時に、僕の周囲に見えていた風景も真っ暗闇に閉ざされた。

 ハガネか、僕の五感が壊されたのだろうか。


(お母さんが、僕みたいに“聞こえる”ことを黙ってたからケンカになったんだ。お父さんはそういうのが許せない人だった)


 いつの間にか、何も見えない僕の前に、ハガネの中にあきらが立っていた。


(お母さんが妹達を連れて出ていって、お父さんは残ることを選んだ僕を殴って、おかしなことをやめさせようとしたんだ)


 これは見えているわけじゃないのかな。

 心で受け取っているとかそういう状態なのかもしれない。

 裸で、帽子を付けていないあきらの額には、痛々しい傷跡。


(お父さんは最期に刃物を向けてきたんだ。それで切られて、僕は必死で抵抗して――)


 あきらは、ぽろぽろと涙をこぼしながら、額の傷から血を流しながら話を続ける。


(――お父さんを、“そうじゃない状態”に作り変えてしまった。最初はそれでいいって思った)


 最初は、それでいいと思った。

 僕の周りに、巨人が形を成していく。

 まだハガネじゃない、一番最初の不完全な投影体の頃の姿。


(でも、作り変えたお父さんは、もう元のお父さんに直せなかった。取り返しがつかなかったんだよ…!)


 僕の巨人の前で、僕が倒した二体の巨人が倒れていた。

 僕の大切な二人の友達が血だらけで倒れていた。


(嫌な事思い出させて、ごめん…。でも、友達になれると思ったんだ。辛い事、自分がした事を抱えて歩いてる君となら)


 僕が身にまとっていた巨人はゆっくりと形を変えていきハガネとして完成される。

 隣には、佐介がやれやれと言った感じで立っていた。


 まったく、新しい友人は回りくどいやり方をしてくる。


 ハガネが視界を取り戻した。

 通信がけたたましくこちらへの呼びかけを続けている。

 大丈夫、僕はもう戦える。


 一方で目の前に立つ武力王は、大分造形が歪んで、部分部分が薄れて消え始めていた。

 それでも僅かに光を宿し、サイコキネシスで攻撃しようとする。

 けれど、それはもうハガネに傷をつけることもできず、装甲表面に触れた感覚がある程度。


「息切れ、してんのか…。スタミナも無いのに無理しやがって」


 佐介がいつもの憎まれ口。

 ただ、そこにはもう刺々しさはなかった。

 僕は苦笑しながら、ハガネに構えを取らせる。


「僕は容赦は、しないよ。…アイアン・ダブル・スピナー」


(ああ…そうだ、それでいい…)


 外と内の鋼鉄二重螺旋。

 それに貫かれて、僕たちのヒーローの姿は光になって消えていった。

 同じくしてあきらからの呼びかけも、ぷっつりと切れる。


 ――その後、体育館裏で倒れっぱなしだったあきらを衛生科の兵隊さんに助けてもらった。

 彼は巨人に襲われたと言い訳したけれど、大人達は信じてくれただろうか。


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