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第二十話「武力王、我と在り」1/4

 =多々良 央介のお話=


「……というわけで、今は私とおそろいの道着を着せています。素敵でしょう?」


 教室の檀上で軽子坂さんが格闘道着を着た不思議なお姫様人形の紹介を終えた。

 今日の3時間目は、クラスのみんなが自分の宝物についてスピーチをする授業だった。


 しかし、軽子坂さんの語った内容からすると、その奇妙なお人形の姿は僕が彼女の巨人を倒した事が切欠。

 僕は、彼女の精神のどこかを壊してしまったことになる。

 胸がずきりと痛む。


(気にすんなヨ。ってかカルコマリーナは抱えてた流血や破片恐怖症がアレで上書きされて落ち着いた面もあル)


 …か、カルコマリーナ?

 先ほどから授業の片手間にテレパシーでサイコとの脳内議論。

 軽子坂さんの事で、少し話が止まってしまっていた。


(アカリーナとよく遊んでタ、軽子坂 真梨。だからカルコマリーナ。アンダスタン?)


 分かるような、分からないような。

 それにしてもサイコ、そうやって人の心や記憶を昔まで掘り返すのは、失礼じゃないかな。


(失礼って言われても同じ幼…とっとっとっと。アー…それで佑介のPSIの感触はさっき言ったナ?)


 また何かごまかされた気がする。

 まあ、そもそもの議論は数日前に襲ってきた佑介とシルバーデビルについての事で、それ以外は横道だったのだけれど。


「軽子坂さん、よくできました。それじゃあ次、夏木くん」


 先生が授業を進め、次の子が自分の宝物を手に立ち上がって、壇上に登る。


(にしても機械だけでサイコキネシスとはネ。てっきり同属、サイオニックが乗ってるもんだと思ってタ)


 サイオニック。

 それはDマテリアルという機械を用いずに、PSIエネルギーで不思議な現象を起こせる人たちの事。


 一方、シルバーデビル。

 最初にあいつが現れたのはクロガネを撃破した後の事。

 その時に炎の攻撃をしてきたのは、巨人の現象だからと深く考えずにいた。


 あとで人が乗っているアトラスが現れたことも、その考えの後押しになったと思う。


 でも、佑介ははっきりと言った。

 乗っているのは補佐体で、機械だけでPSIエネルギーを発生させている、と。


 その事が気になったらしい佐介がお絵描き画面に走り書きをする。


《おまえこの間、PSIは生き物の力だとか言ってなかったか?》


(言ってはいなイ。テレパシーだシ)


《そういう意味じゃねーよ!》


 筆音激しい佐介と無音のサイコの漫才はともかく、ギガントは補佐体だけでPSIエネルギーを作り出すことに成功している。

 機械の速度で、機械の精度で巨人を作り出してくる敵。


 勝ち目が見えなかった。

 相手の気まぐれで見逃してもらっただけだった。

 次にまたクロガネとシルバーデビルが、今度は本格的に協力して襲ってきたら…。


(なぐさめになるか分かんないけド、その気まぐれ起こしたのはポンコツと同型で央介の補佐体なんだかラ、央介の負けだとは思わないかナ)


《同型じゃねーし! あんなキショい腕つけてねーし!!》


 子供っぽさ丸出しのポンコツは置いておくとして、サイオニックとして、サイコからあいつと戦うためのアドバイスが欲しい。

 少しでも勝機を見つけるために。


(ンー…専門家、専門家かなア。まあ、通用するかはわからないガ、こっちは生物で相手は機械って部分かナー…)


 生物と、機械?


(戦闘中、相手のサイコキネシスを観察してたんだガ、なんていうか形が硬いっていうカ、定格・定型で…)


「はい、夏木くん、綺麗な鉱石標本をありがとう。次は…根須くん」


「んぐっ…。はい」


 急に、サイコからのテレパシーが止まった。

 あれ、でも前にも似たようなことがあったような。

 いつの事だっただろうか?


 でも会話できなくなってしまった以上は仕方がない。

 真面目に授業に専念することにしよう。


 僕は、視線を壇上へ向かういつでも赤帽子の根須くんに向けた。

 すると彼が手にしている物に見覚えがある事に気付く。


「あれ…は…」


 向き直った根須くんは、手に持っていた“それ”を壇机の上に置く。

 間違いない、あれは――


「――ブリキオー、だ」


 思わず名前が口に出たそれは、僕が2年生のころに配信していたアニメの巨大なロボットのヒーロー。

 世界征服を企む悪の軍団オデオン帝国に立ち向かう青年、来馬(らいば) 雷武ライブの相棒。

 大好きで、父さんにねだってプラモデルも買ってもらって。


 ――でも、あのプラモデル。

 新東京島の家に置いてきちゃったんだった。


 今、根須くんが持っているのは、確か数量限定の金属モデル。

 流石に、あれを忙しい父さんにお願いするのは小さいなりに我慢したように思う。

 …いいな、根須くん。


「あのロボット、かたちがハガネに似てない? 手足が大きいのとか…」


 隣でひそひそ声をあげたのは、紅利さん。

 その声が向いているのは僕ではなく、むーちゃん。


「おーちゃんブリキオー好きだったから似ちゃったのかも」


 幼馴染が遠慮なく昔の事を掘り返してくる。

 似てないもん。

 その、なんていうか、影響は受けてるかなって思うけど…。


「えーと、この玩具、ブリキオーは僕が酷い熱を出した時にお父さんが買ってくれたものです」


 根須くんがブリキオーにポーズをとらせながら語り始める。

 必殺技のバベル・ブレイク・キックの構え。


「熱で寝込んでいたある日でした。目を覚ました時にはこれが枕元に置いてあって、それで、熱が引いたら一緒に遊ぼうとお父さんが言ってくれました」


 ああ、お父さんと遊ぶって、いいな。

 うちの父さんは遊ぶと言っても武術の訓練になってたから、玩具でっていうことはなかった。

 それに、次の年の宇宙が舞台のアニメは怪物が怖くて見るのやめちゃったのもあって、プラモデルも買わなくなっていった。

 それからは玩具よりゲームで遊ぶようになって――


「その後ですが、実は割と貴重な物だったのに、そうとは知らず、一度は飽きておもちゃ箱の底にしまい込んでありました」


 ――ゲームも、今はもう、手を出すのも嫌になって。


「後になってから、これが貴重な物という以上に、お父さんが苦労して手に入れてくれたものだと知りました。それからはただの玩具ではなく、僕の宝物になっています」


 根須くんはそこまで話し終えると、ブリキオーと一緒にお辞儀。

 ブリキオーがお辞儀をするシーンは…無かったと思うけどな。


「根須くん、よくできました。そうね、皆さんも物を大事にしましょう」


 スピーチを終えた根須くんが教壇から降りて、僕の前の席に戻ってくる。

 同じブリキオー好きへの笑顔を向けると、彼は察しよく笑顔を返してきた。


 ――その途中だった。

 根須くんが抱っこするように持っていたブリキオーを、横から長細い物が伸びてきて彼の手元から引っこ抜いた。


「割と子供っぽかったんだなあ! なあ、あきら?」


 ブリキオーを自身の尻尾から受け取ったのは、長尻尾の狭山さん。

 そのまま、ブリキオーの各部を弄って、動きを確認し始めた。


「別に今はそれで遊んでるわけじゃないからな? 返せよ」


 根須くんは噛みつきそうな顔で、狭山さんに抗議する。

 狭山さんはお構いなしに、ブリキオーにバンザイポーズをとらせて、子供がやるように空を飛ばす身振り。


 違う、そうじゃない。

 ブリキオーの飛行ポーズは両手を腰に構えて、背中のロケットで力強く浮かび上がるんだ。


「ぎゅいーん! エンハンサービーム!」


「おい! 壊すなよ!? 返せって!」


 狭山さんの手にあるブリキオーが空に弧を描く。

 それが、ブリキオーを取り返そうと身を乗り出していた根須くんの顔をかすめた。


 小さく固い音がして、赤いものが宙を舞う。


 一瞬遅れて、それが根須くんの帽子だと気付いた。

 落ちていく帽子の向こうに、驚き顔の根須くん。


 僕は見てしまった。

 普段、帽子で隠れていた彼の額、バツの字になった深い傷。


「あっ…! わ、悪い。ごめん! あきら!」


「狭山さんッ!」


 狭山さんは直ぐに頭を下げて謝り、急いで帽子を拾い上げた。

 先生が強めの声を上げる。


 けれど根須くんは手を挙げて軽く振り、それ以上に荒立てて欲しくないという意思を示した。


「別に気にしてねーよ。ほとんどみんな知ってる事だし。それより早く返せ」


「あ、あのさ、悪かったよ。こんなことまでするつもりは無かったんだ」


 そう言って、狭山さんは拾った赤帽子を差し出した。

 そういう所、やっぱりお母さんの狭山一尉がしっかりして…体罰は良くない気もするのだけれど、うん。


「そっちじゃなくて、ブリキオーを返せ」


「お、おう…」


 根須くんはすこしズレたやり取りをしてから席に座り、受け取ったブリキオーを机上の箱にしまう。

 それからやっと真っ赤な帽子をかぶりなおした。


 ――色々と、思う所はあるけれど、流石に口にし辛い。

 そう思っていた時。


「そういえば…、多々良と黒野さんには見せて無かったっけな?」


 根須くんは察しよく振り向いて、僕たちに語り掛けてきた。

 なんというか、助かった。


「それでいつでも帽子だったんだ…」


「まーね。知らない人が見るとうるさくてね、帽子被る癖つけてんだ」


 見えた限りではかなりひどい傷だった。

 むーちゃんなら傷の度合いや原因も分かると思うけど、そこはあまり触れるべき部分ではないだろう。

 暗黙の、というやつだ。


「紅利の足と同じさ。再生医療なら消せる。でもそれは大人になってから」


「あきらくん、私の足は再生しても動くか分からないってお医者様に言われてるんだけど…」


「おっと悪かった。でも、この間みたいに足がふっと生えるかもしれないだろ?」


 根須くんのあんまりな軽口に、紅利さんは難しい顔をして黙ってしまった。


 根須くんはそういう所が無神経なのだろうか?

 紅利さんとの付き合いが長いような感じもあるけれど、かなり酷い言い分をしている。

 ブリキオーを切欠に友達になれるかなと思ったのに、ちょっと難しいかも知れない。


 そのあと、授業は二人が宝物スピーチのために登壇して、僕や佐介の番が回ってくる前に終わった。

 次の時間の水泳の準備をしながら、残った疑問。


 根須くんの額、なんであんな酷い傷がついたのだろう?

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