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第十九話「アシンメトリック・ウォー」3/4

 =多々良 央介のお話=


 一度はMRBSで消滅したクロガネ。

 けれど何処からかDマテリアルが補給され、その姿を取り戻した。


 戦場となった街角に、雨が降り始める。


「あのDマテリアル、どこから!?」


「空中からだ! 何もない所から!」


 何もない所…!?

 でも、覚えがある。

 クロガネの傍にいた“見えない存在”は――。


《クロガネの直後方だ! 大気振動がそこだけ異常に少ない、アトラスが居る!》


「なら! アイアン・チェインだ!」


 大神一佐の指示を受けて佐介が先んじて鎖の束を放つ。

 けれどこうなると、クロガネの攻撃から主砲を守っていられなくなる――。


「バタフライ・シルクを投射します」


「むーがクロガネを牽制する!」


 ――だけど、今はアゲハも居てくれる。

 クロガネ、佑介の読心能力はむーちゃんには通用しない。


 ハガネが放った鎖は“空中の透明な何か”に、アゲハのシルクはクロガネに絡み付く。

 場所が特定できた、なら!


「バタフライ・シャイン!」


 僕がアイアンスピナーを、と構えようとした瞬間、アゲハがMRBSを斉射する。

 けれど、気づく。

 鎖が絡まった透明物体は逃げずに、前衛へと打って出ていた。


 そのままMRBSの直撃を受けた透明物体からは、周囲へ激しく放電が行われる。

 アトラス同様に、磁力攻撃を無効化してきている!

 そして、それだけではなかった。


「…PKシステム・ファイアー」


 誰かの声と同時に、透明物体とハガネの間の空間が真っ赤に染まる。

 何もなかった場所を灼熱の炎が包み、僕は思わずハガネを後退りさせた。

 アイアンチェインが、バタフライシルクがその炎に破壊され、拘束力を失う。


「あちちっ! だぁっ、オレの鎖を焼き切りやがった! ただの炎じゃねえ!!」


「当機のバタフライ・シルク、完全に焼却されました。PSIエネルギーによる攻撃と断定します」


 佐介が悲鳴を上げ、テフが状況を分析する。

 炎の巨人攻撃、これにも覚えがある!

 確信は持てないけれど、クロガネを倒した後に現れた巨人はこいつじゃないだろうか。


 僕の考察の一方で、拘束から解き放たれたクロガネと透明物体。

 ハガネとアゲハは更なる攻撃に備えて身構える。

 その時だった。


《ペイント弾と凝固プラスチック弾! ステルス飛行体を炙り出せ!》


 大神一佐の指令から間を置かず、僕たちの戦っていた隔壁だらけの街角へ色々なものが降り注ぐ。

 それは破壊威力のある爆発物ではなくて、絵の具のような色とりどりの粘着物。

 たちまち周囲の路面壁面、そして空中にいた透明物体は極彩色のまだら模様に染め上げられる。


「これで見やすくなったぜ! 大神一佐サンキュー!」


「佐介、言い方あるだろう!」


「形は…アトラスみたいだけど!?」


 確かに、まだら模様に染まった飛行物体の形はアトラスによく似ていた。


 その後ろ、粘着物の飛沫を被ったままで不気味に沈黙を続けるクロガネ。

 ――どうしてコンビネーションで攻めてこないのだろう?

 さっきの火炎攻撃に合わせて、僕らへ攻撃を加えることも出来ただろうに。


「…佑介さま。インビジブル・シェードが無力化、及び飛行能力が僅かに低下。原因の付着物排除のため、機体を出現させることをお許しください…」


「一々聞くな。勝手にしろ」


「心遣い感謝いたします…」


 誰かと、佑介の会話が聞こえる。

 佑介の声には、苛立っているような響きがあった。


 相手はおそらく飛行物体の操縦者。

 そして、この声はプリンセスじゃない。

 ――子供の、声。


 会話通り、次に動いたのは飛行物体。

 その表面でいきなり爆発が起こって、破片が飛び散る。

 故障や自爆ではなく、付着物もろとも表面を切り離したのだろう。


 その煙を、雨風が洗い流す。

 中から現れたのは――


「――銀色の…アトラス!?」


 露わになった飛行物体の真の姿。

 見覚えのある形だけど――


「系列は同じさ。積んであるものが人間か機械だけかの差があるけどな」


 答えたのは佑介。

 以前、佐介は自分ならギガントに被害が行くように戦うと言っていた。

 その行動の最たるものなのかもしれない。


《機械だけ、だと…?》


 通信の向こうで父さんが呟くのが聞こえた。

 機械だけの飛行物体。

 ロボットみたいなものなのかな?


 ――あれ? 何かおかしいような気がする。


「で、その新しいオモチャを見せびらかしに来たわけか?」


「…こいつは勝手にくっついてきたのさ。偽物は頭も悪いな」


 佐介と佑介の軽口の叩き合い。

 その中で僕は考え続ける。

 機械だけだという飛行物体のしてきたことの中に、何か引っかかる事がある。


《シルバー1…ではコードが通りませんね。シルバー…、コードを“シルバーデビル”とします》


 オペレータさんが飛行物体の呼び名を定めてくれた。

 シルバーデビル、銀の悪魔。

 ギガントによる新しい敵。


「佑介さま。戦闘支援の許可を頂けますか…?」


「余計なことはするな。むーちゃ…、アゲハの行動阻害だけしていろ。傷つけるなよ」


「御意のままに…」


 シルバーデビルはわざわざ佑介と会話して行動を決めている。

 ギガント側同士なのに意思疎通が上手くいっていないのだろうか?


 それでも、動き出したシルバーデビルは機敏に飛び、アゲハとクロガネの間に立ちはだかった。

 さっきの会話通り、クロガネに有効な攻撃手段を持つアゲハを封じるつもりなのだろう。


「むぐぐー…、あなた邪魔!」


 アゲハは拘束糸を放って、クロガネやシルバーデビルを縛ろうとする。

 けれど、シルバーデビルの操る炎で全てが焼き払われてしまう。


 そんなことに気を取られているうちに、ハガネの目の前にクロガネが迫っていた。

 左手を突き出して格闘を挑んできたクロガネにハガネを組み付かせてその動きを止める。

 こいつが狙ってくるのは佐介、ハガネの主砲だけ。


 でも、わかっていても――!


「央介の陰に隠れてばかりか、臆病者!」


「相棒が護ってくれるのは臆病とは言わねーよ! ぼっち野郎ッ!」


「そうかよ! ならァッ!」


 ギリギリでハガネの主砲はクロガネからは死角に向けていた。

 異変に気付いたのは次の瞬間だった。


 ――クロガネに巨大化した右腕が付いていない。


 その時、僕の視界の端を真っ黒い物が走り抜けていった。

 目で追いかけて捉えたのは、伸ばした指を節足動物の足のように疾走するクロガネの腕。

 それは、クロガネとでハガネを挟む位置まで移動し、一瞬の溜めから地面を蹴ってハガネに飛び掛かってきた。


 クロガネ本体に組み付いていた僕には何もできなかった。

 対応したのは佐介。

 ハガネの主砲から鋭い螺旋槍が飛び出して、襲い来る右腕を貫く。


「気色悪いッ!」


 奇襲攻撃を防げた。

 そう思った瞬間――。


「残念だな、朝の分裂巨人と違ってオレは並列思考できる!」


 ハガネの重心が抜きとられ、一瞬の浮遊感。

 奇襲してきた腕の方が陽動だと気付いたのは、ハガネが地面に投げ倒された後。

 クロガネに組み付いていたから、受け身も取れず。


 地面に叩きつけられたハガネのダメージは大したことはない。

 けれど、視界に広がる雨雲の空と、奇怪な腕を繋ぎ直して見下ろしてくるクロガネ。

 やられる――!


《間に合えぇっ!》


 通信に響いた声と同時に、大爆発がクロガネを吹き飛ばした。

 爆発による巨人へのダメージ。

 これは――


「――Dボム!」


「ぐぅっ! 父さんか!?」


 吹き飛ばされたクロガネはすぐ態勢を立て直した。

 僕も、倒れたハガネを飛び起こさせてクロガネへ、そして周囲で戦うアゲハとシルバーデビルへ警戒を向けなおす。


「父さん、ありがとう!」


《間に合って何よりだ! 市街地で使うのはちょっとおっかなかったけどな!》


《自衛軍も牽制を行う! その間にハガネはシルバーデビルを狙いたまえ! 奴はクロガネのカバーを行っているため行動の幅が狭い!》


 あ…、しまった。そうか。

 僕はハガネ対クロガネ、アゲハ対シルバーデビル、二つの1対1で押し合うように考えてしまっていた。

 そうじゃなくて、不利を抱えている1体を2体で集中攻撃するように動くべきだったんだ。


 急いでハガネをアゲハ前方に割り込ませて、シルバーデビルとクロガネを同時に捉えるように構えた。

 この状態でクロガネが僕の方へ攻めてこようとすれば、必然的にシルバーデビルの前に出る事になって、アゲハの射程に入る。


「流石軍人。弱みを狙うのが上手いな…」


《狡く立ち回るのが兵法というものだ。央介君を護りたいなら理解すべき事だぞ。補佐体》


 ――っと、今喋ったのは佐介だったのだろうか、佑介だったのだろうか。

 僕にも判別がつかない言葉へ、大神一佐が諭し返した。


 今、ハガネが主として狙うべきはシルバーデビル。

 相手の武器は火炎。

 火炎王と同じだったら最大威力の攻撃であってもスピナーを使うのは危険、なら――。


「佐介! 太めのチェインと格闘戦で行く! むーちゃんはシルバーデビルを抑えながら飛び込んでくるクロガネを!」


「らじゃっ! シルデビの影から出たら撃つ!」


 ハガネとアゲハのフォーメーションを組みなおす。


 組み直して直後、最初に攻撃してきたのはクロガネ。

 防御も、庇われることも考えていないような突撃。


 その攻撃をハガネで受け止める。

 すぐにハガネの肩口に、アゲハの砲門が突き出た。

 MRBSが即時照射されて、クロガネを捉える。


 けれど、クロガネはその瞬間に視界から消えた。

 クロガネは前の戦いの時と同じく、回避目的でスピナーを使い、瞬時に最小の面積になって攻撃範囲外へ離脱していたのだ。


「こいつ! シルバーデビルとか関係なく、むーちゃんの攻撃を受けないつもりか!?」


「当たり。MRBSには照射前に電力を溜める隙がある。狙ってるって分かれば避けるのは簡単だ」


「ならこれはどうかなぁっ!!」


 クロガネを追ってアイアンチェインが飛ぶ。

 更に追いかけるようにバタフライシルクも。

 この状況を作ってやれば――。


「PKシステム・ファイアー…。佑介さま、後退を」


 クロガネと僕らの間に、炎を纏ってシルバーデビルが割り込む。

 でも、これが狙い!

 クロガネを庇うために身動きが取れないシルバーデビルに、僕はハガネの拳を振り下ろした。


 その拳が、シルバーデビルの表面に叩きつけられる寸前で受け止められた。

 ハガネの腕を受け止めたのは、銀色の腕。


 そこから、シルバーデビルの機体を覆うように、巨人が姿を現す。

 白銀の衣をまとった、足の無い浮遊巨人。

 見覚えのあるその姿に、僕は唸る。


「やっぱりあいつだ! この前の幽霊巨人!」

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