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第十九話「アシンメトリック・ウォー」2/4

 =多々良 央介のお話=


 日常の下校途中、街角に居た佑介。

 ギガントが作り出した佐介のコピー。


 ――最悪の敵。


 すぐに警報が鳴り響きだし、周囲の隔壁が警報と共に動き出す。

 むーちゃんを通してテフが軍へ通報したのだろう。


 佐介が気迫の飛び蹴りを放つ。

 それを左腕一本で佑介が受けとめる。

 体と体の衝突の瞬間に響いたのは、見た目に反して金属質の激しい音。


「回路がエラー吐いてお友達になりにでも来たか、偽物!」


「央介の顔を見に来ただけさ。出来ればお前を排除するがなッ!」


 佑介と佐介は一度ぶつかり合って、互いを大きく弾く。

 僕は、この場にいるそれぞれがすべき行動を考える。

 まずは、行動できない紅利さんの対策。


「むーちゃん! 紅利さんをおねがい!」


「わかった! でもクロガネ相手はアゲハの方が良くない!?」


 確かに佑介の読心能力は僕に限定されたもので、むーちゃんには通用しない。

 けれど、アイツの武器は読心能力に限った物じゃない。


「補佐体が居ない状態じゃ、アイツの思考速度に対応できないよ! テフが来るまで時間稼ぐから!」


「コイツは一度ぶちのめした相手だ。負けはねーよ!」


 僕の説明に続けて、佐介が応答と挑発の言葉を吐く。

 対した佑介もそれを返すように――


「言ってくれるな、偽物ッ!」


 その言葉と共に怒りとも笑いとも分からない表情を見せて、攻撃を仕掛けてきた。

 攻撃対象は佐介。


 佑介の狙いはあくまでも佐介だということはわかってる。

 コピーされたものとはいえ佑介も僕の補佐体で、唯一の障害と言えるのは佐介だけなのだから。

 だから、僕に出来ることもある。


「――ッ! やめてくれよ、央介!」


 佑介が呻く。

 佑介と格闘の応酬を繰り広げる佐介の影から、僕はショルダータックル。


 行動自体は佑介に読まれていて、当たるはずもない。

 けれど――


「――僕に危害を加えられないなら、佐介の盾になることはできる!」


「あんまりやってほしくないけどな!」


 佐介の苦言もそうだし、父さんが聞いたら頭を抱えるような話かもしれない。

 補佐体、佐介は僕を護るために作られた存在。

 それを逆に僕が護るなんて、あべこべも良い所なのだから。


 攻撃できる範囲に居るのが僕だけになって、佑介は一度飛び退く。

 そこへ佐介が追撃を仕掛ける。

 低く姿勢を沈めての足払い。


 佑介はそれを軽々と飛び越えた。

 だけど、その空中に浮いてから着地までの隙に、僕が両足を揃えてのドロップキックを当てに行く。


 僕と佐介のコンビネーションなら、相手の態勢を十分に崩せるはずだった。

 けれど、佑介は右腕からアイアンチェインを伸ばし近くの壁に突き刺していた。


 佑介は固定された鎖で自身を引っ張って落下の方向を変えた。

 その姿勢は着地向きの状態ではなくて、激しく地面にぶつかって転がる。

 転がって、距離を取って再び立ち上がる。


 ダメージの気配は、ない。

 僕か佐介が直接ぶつかればPSIエネルギーを接触させてダメージを与えることが出来る。

 逆に言えば、それ以外でどんなに強力な衝突があっても、佑介自身へのダメージにならない。


 右腕からアイアンチェインを伸ばしたままの佑介に向け、僕たちは次の攻撃の構えをとる。

 でも、その姿に違和感を覚えた。


 アイアンチェインは、佑介の右腕から切り離された空中に発生していた。


 巨人の起こす様々な現象からすれば些細な違和感。

 だけど、何かが違う。

 次に言葉を発したのは、佐介。


「その右腕…、ただ修復したもんじゃないな? さっき殴り合った時から間合いが妙だ!」


 佑介の右腕。


 それは以前のクロガネとの戦いの終わりに横槍が入って千切られて、残骸が僕たちの側に残されていた。

 でも、補佐体の体は案外簡単に修理されることを、身近で時々無茶をする補佐体の実例で知っている。

 だから今の佑介に右腕が存在していたことには特に変だとは思っていなかった。


「…そうだな。お前と俺との決定的な違いが出来ちまったんだった!」


 佑介はそう言うと、右腕を体の前に構えなおした。

 次の瞬間、その腕が不気味な虹色に輝いてその本当の形を現す。

 僕の後ろで、紅利さんとむーちゃんが小さく悲鳴を上げた。


 ギガントの光学迷彩で偽装していたそれは、左右のバランスを欠くほどに大きく、酷く機械じみた腕。


 佑介はしばらく機械の手腕を握ったり開いたり、ゆらゆらとさせていた。

 本人も、その腕を睨みつけながら、語り出す。


「気持ち悪いだろ? 俺が一番気持ち悪いぐらいだからなあ…。ただ――」


 突然、佑介の機械の右腕から黒い直線が迸った。

 それは複数本のアイアンチェイン。

 鎖の束は明らかに意志を持って空中を泳ぎ、佐介に絡み付く。


「――不便ってわけじゃあないな!」


「ぐっ…!? これはっ…!?」


 鎖は完全に佐介を拘束してしまった。

 僕に残る佑介に攻撃できる手段は、たった一つ。


「佐介っ! きさまぁっ!」


 僕はDドライブを取り出し、構える。

 だけど、次の一手に移れない。

 今、この場にハガネを作り出したら――。


「ほら、むーちゃん。早く紅利ちゃんを連れていきなよ。ハガネが出せなくて央介が困っちゃってるじゃないか」


 そう声をかけてきたのは、敵対している佑介自身。

 僕からは後方、むーちゃんが短く息を漏らして、怒気を抑えるのが聞こえた。


「…おーちゃんにもさーちゃんにも傷つけたら、許さないんだから!」


「央介くん、無事に帰ってきて! 明日の学校にも!」


 視界の外で、紅利さんの嘆願と車椅子のモーターの音が響き、遠ざかっていく。

 ――これなら。


「Dream Drive! ハガネ!」


 敵に塩を送られた状態だけれど、ためらっている暇はない。

 見れば佑介は、鎖で佐介を拘束したまま引き摺って、後退しようとしていた。

 にわか出現のハガネの手を急いで伸ばして、二人の補佐体を繋ぐ鎖をつかみ取る。


 あわよくば佑介を逆に引っ張り寄せるつもりだったけれど、相手は鎖を自切してアクロバティックに跳んだ。

 そのまま、市街に立ち並んだ高い隔壁の上に飛び乗って、こちらから距離をとる。


 僕は、佐介を縛る鎖ごと引っ張り上げた。

 拘束はもう解けていて、佐介は片手で鎖にぶら下がりながら、ハガネの胸元にもう片手を伸ばして、融合を始める。

 始めながら、佑介に向かって問いかけた。


「わざわざハガネを出させてくれるのか。また何か土産でもあるのかよ!?」


「夢幻巨人ハガネ、ギガント所属補佐体との戦闘を開始します!」


 隔壁の上に立つ佑介は、機械の腕に真っ赤なDドライブをぶら下げ、それを顔の前に垂らす。

 その向こうの顔が、薄く笑うのが見える。


「偽物より俺の方が優秀だってことを見せつけたいだけさ! Dummy Drive!」


 隔壁の上、赤い稲光が混ざった真っ黒い光の中で佑介の姿が溶けて消える。


 代わりに姿を現したのは、ハガネとは左右対称の姿、クロガネ。

 ギガントによる、模造品の巨人。

 隔壁の上に立ち、ハガネを見下ろしてくる。


 相手はハガネと同じ戦闘力に、補佐体の高速思考能力を持つ強敵。

 だけど――。


「佐介! やれるよね!」


 一度戦った相手。

 また思考能力のある巨人という意味では、アトラス合体巨人とも戦い続けてきた。

 その経験が、僕たちに十分な自信を与えてくれた。


「ああ! こっちは独自に攻撃させてもらう!」


「その内容も筒抜けだがなあ!」


 アイアンロッドを瞬間で形成させて構え、隔壁上のクロガネに飛びついての突き。

 飛び退くクロガネが放ってきた鎖を横薙ぎで打ち払った。


 それとは並列に、佐介がアイアンチェインを不均一に発射して、クロガネの逃げ場を奪う。

 クロガネを狙っての攻撃は、佑介の機械特有の高速思考で迎撃や回避されてしまう。

 けれど、相手が受け止める必要のないものを少しずつばら撒いて、戦闘への障害を増やしていく。


 相手の狙いはハガネの左側頭部、佐介が変じている主砲。

 僕はそれだけを庇って、全部筒抜けの格闘を続ける。


 ハガネの攻撃の先には必ずクロガネによる受け流しが待ち受けている。

 ハガネの防御の裏には必ずクロガネによる差し込みが入ってくる。


 けれど、そのクロガネの行動にも、ハガネ主砲――佐介が放った鎖の束が降り注ぎ、その動きを阻害した。


 クロガネはそれらの鎖を避けようと足を捌き直す。

 直そうとして、ばら撒いていたアイアンチェインの一本が絡む。


 流石にクロガネはその程度で転びはしない。

 だけど遅れる。

 そこへ、ハガネの正拳を突き込んだ。


「ぐっ!!」


 やっとクロガネに打撃を当てる事ができた。

 僅かに佑介の呻きが聞こえて。

 だけど――


「浅い! 直撃とはいかないか!」


 この程度で有効打になんてならない。

 それぐらいわかってる。

 前回は、都市軍全部の協力と佐介のフェイントがあってギリギリ勝てた相手なのだから。


 突然、クロガネの目の前に大きな物体が形成された。

 僕は一瞬遅れて、でも佐介とで最適の対応で返す。


「スティール・スピナー!」


「――っ! アイアン・スピナー!」


 二つの鋼鉄螺旋が交錯する。

 攻撃範囲が限りなくゼロに近づく技を利用しての回避。

 前の戦いでクロガネにやられた事を返す形になった。


 ――前と違って、拮抗できている。

 佑介の高速思考には佐介の高速思考をぶつけ、僕は佑介が行動しにくい行動を重ねていけばいい!


 そのまま、ハガネをクロガネに押し付けて、互いの腕での組み合いに持ち込む。

 ハガネの首は斜め向きに構え、クロガネからの攻撃が直接入らないように。


「どうした偽物。そろそろむーちゃんがアゲハになって加勢するぞ!」


 佑介相手には、はっきり煽ってかかる佐介。

 逆もまた同じ。

 戦いに有利なように揺さぶりをかけているというよりは、本当の憎まれ口だと思うけど。


「ああ…気に食わねぇ。ハガネの姿を壊す力なんて使いたくもないのに…なぁっ!!」


 ハガネの、姿…!?

 佑介の言葉の意味を理解する間もなく、ハガネは後方に吹き飛ばされた。

 強い衝撃を放ったのは、クロガネの右腕。


 その右腕は、さっきまでとは全く別の形に変貌していた。

 左右のバランスを崩すほどに大きな、トゲの付いた甲虫のような腕。

 手甲部分からは鋭い爪が伸びて。


 それを認識した次の瞬間、クロガネはハガネに肉薄してきた。

 獰猛な爪が、ハガネの主砲だけを刺し貫こうと突き出される。


 相手の変形で切り替わった間合いだけれど辛うじて対応できて、爪の直撃だけは避けることができた。

 それでも、主砲の表面には傷が刻まれてしまった。


「佐介、大丈夫!?」


「痛ってぇ! まるっきり怪物だな!」


「言ってろ偽物ぉッ!」


 変わらない佐介と佑介の罵り合い。

 でも、そのやり取りで、なんとなく佑介がこの新しい力を使いたがらなかった理由が解った。

 クロガネは、ハガネを超える力を使えば使うほど、佐介とは別の怪物になっていくんだ。


 でもそれは、僕たちにとっては、付け入る弱点。

 思った時点で伝わってしまうから、大きな意味は無いのかもしれないけれど。


 可能性を考えながら、クロガネの大爪をアイアンロッドとチェインの二段構えで止めて凌ぐ。

 でも、相手の攻撃が、重い。


「駄目だ、押し切られる!」


 攻撃の圧力に態勢を崩したハガネには頭の主砲を庇う余力が残っていなかった。

 クロガネの追撃は、強い光を反射して直撃への軌跡を描く。

 だけど――


「…残念。時間切れか、想定より早かったな」


 佑介のつぶやきと同時に鋭い爪はハガネ主砲を貫き、しかしそのまま幻のように掻き消える。

 続いて、クロガネの全身も薄れていく。


 クロガネを照らしていた強い光は、照準光。

 見えない攻撃の見える部分。

 ハガネに攻撃が届く一瞬前に、アゲハのMRBSがクロガネに降り注いでいた。


「おーちゃん! 間に合った!?」


「ありがと、助かった!」


 クロガネが居た場所には、電光を身にまとった佑介。

 その手元で砕け散ったのは真っ赤なDマテリアル。


「紅利さんは!?」


「狭山一尉が駆け付けてくれて、任せたから大丈夫!」


「スティール1にアトラス同様の放電現象を確認。磁界防御機構を装備と仮定」


 むーちゃんとの状況確認に続いて、テフが相手の状態分析を伝えてくる。

 なるほどMRBSへの防御策はちゃんと持っていたのか。

 でも、夢幻巨人二体相手に補佐体だけではもう戦えるはずもない。


 そう思って、ハガネの立ち位置を動かし、アゲハとで包囲しようとした。

 その時だった。


《央介君、警戒だ! 周囲に何らかの飛行物体がいる!》


 大神一佐の警告が通信から響いた。

 同時に僕が見たのは、笑顔を崩さない佑介と、その手元に飛来したDマテリアル。


「あのDマテリアル、どこから!?」


「空中からだ! 何もない所から!」


 次の瞬間、僕たちの目の前に再びクロガネが現れていた。


 正体不明の支援を受けている歪な姿のクロガネ。

 立ち向かう、僕のハガネとむーちゃんのアゲハ。

 能力非対称の戦いアシンメトリック・ウォーが始まる。

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