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第十九話「アシンメトリック・ウォー」1/4

ひと月もの間に渡ってお待たせしました!

さあ、舞台で戦いの再開です!

 =多々良 央介のお話=


 僕は、ハガネに鉄棍を振るわせ、相手――双生王・アルファが盾として構えた鏡を殴りつける。

 投射物を反射する鏡でも、直接の殴りつけなら反射されようがない。


 真後ろで、アゲハがバタフライ・キッスのドリル槍を使って、同じように双生王・ブラボーの鏡を弾く。

 最初こそ、この鏡でアイアンチェインやMRBS(磁力ビーム)を反射されて危ない所だったけれど、手品のタネが分かってしまえばどうってことはない。


《頑張って! 央介くん! 夢さん!》


 通信から聞こえる紅利さんの声援に笑顔を返し、ハガネで手を振る。

 後は余裕も余裕の戦いだ。


 左右対称の姿をした二体の巨人、双生王は二体で一体の巨人だった。


 最初こそ一体の巨人として現れて、手に持った鏡で僕たちの遠距離からの攻撃を無効化。

 ならばと接近して攻撃してみれば、そこからアルファとブラボーと名付けられた二体へ分裂、前後か左右の同時攻撃をしかけてくる。

 おまけにどっちかを撃破したと思っても、もう片方が無事だとまた分裂しなおして最初から。

 手強い相手だと思った。


『バニシングツイン、っていうんだ。かーちゃんの腹の中で途中までは二人居たんだってさ』


 クラスの男の子、伊豆(いず) 木衛(きのえ)くんはそう言っていた。


『それで名前も双子のつもりで考えてたから、片手落ちみたいになっちゃった、だってさ』


 きのえには、きのとが対になる名前。


『多々良は良いよな。双子ってやっぱ便利だろ? 勉強を分担できるし、ゲームも対戦相手に困らない!』


 双子に見える僕と佐介、真実は違うのだけれど、二人同時の笑顔でごまかしておいた。


 彼の、もう一人の自分がいる状態への憧れ。

 それがこの巨人。


 二体で分担し合う、二体で補完し合う。

 けれど、二体で同時に動く。

 二つに分かれていても一人から生まれた巨人だから、別々に考えて動くのが難しいのかもしれない。


 だから、挟まれてる状態から抜け出すだけで攻撃は予測しやすい。

 そしてハガネとアゲハが背中合わせに居れば、二体を同時に攻撃できる。


 目印は、彼らの最大の武器だった手持ちの鏡。

 表裏に構えたハガネとアゲハで、一緒にこの鏡を貫けばいいだけだった。


 僕とむーちゃんは、掛け声で息を合わせて、とどめを刺す。


「せー…」


「のっ!」




「…いやー、給食に間に合ってよかったー。今日はカレーの日だったもん」


 下校中、佐介は今日の戦いをそう締めくくった。

 笑顔で応える車椅子上の紅利さんと、むーちゃん。


 ついに給食が楽しみになったとは、佐介のポンコツも極まったのかもしれない。

 …そりゃまあ、僕もカレーライスは嫌いじゃないし、楽しみにしていたのは事実だけども。


 そんなことを考えているとごく小さく、遠雷が聞こえる。

 夕立が近いのかもしれない。


「最初にバタバタしたけど、それからは楽勝!って感じだったね」


 紅利さん視点での締めくくり。

 実際、戦闘時間は大したことはなかったと思う。

 その原因としては――


「アトラスも居ない普通のDマテリアルだけの巨人だったからね。これで負けちゃいられないよ」


「そういえば居なかったね、悪プリンセス。…この間の戦い酷い目にあったから? …あっ、紅利っちゴメン」


 むーちゃんは自分の話に紅利さんを責めるような部分が含まれていたことを気にしたみたいだった。

 でも、紅利さんもすぐに応える。


「んーん、気にしてない。それに私の巨人(紅靴妃)で悪いギガントが来なくなったなら、少しは役に立ったのかなって」


 あの戦いの後、僕と紅利さんがぎゅうぎゅう抱き合って泣いていたところ、むーちゃんも飛び込んできた。

 そしてそのまま僕たちに抱き着いて、僕たち以上に大声で泣きだして、それに驚いてやっと僕たちは泣き止んで。

 軍の人たちが見てる前であんなにわんわん泣いてしまって、今でもまだ恥ずかしい。


 それはさておき。


「ギガントのプリンセス…このまま出てこなくなれば楽なんだけどなあ」


 僕は率直な感想を口に出す。

 実際問題、プリンセス付きの巨人はMRBSが効かないだけならともかく、能力を最大活用してくる上で動きが悪辣で機敏。

 好き好んで戦いたい相手ではない。


「でも今日の巨人も狂暴化されてたんだから、工作員どもは依然として周囲にいるはずだ。すぐに戻ってきそうなもんだが――」


 佐介は急に言葉を切った。

 そのまま何かに気付いて走り出していく。

 まさか、ギガントの工作員!?


 僕は佐介の駆けていった方向に対して、紅利さんとむーちゃんを守る構えをとる。

 すると、佐介が戻ってきた。ニコニコ笑顔で、腕に紙袋を抱えて。


 ――うん?


 佐介が紙袋から取り出して、齧り付いたのは湯気の出るホットドッグ。

 更にもぐもぐの無言のままに袋を僕たちの方へ突き出してきた。

 袋の中には、更に三つのホットドッグが入っていた。


「急に動いてびっくりするじゃないか…。それに無駄遣い…買い食い…」


「むぐ。さっき狭山達が美味そうに食ってて、どこで売ってるか気になってたんだ」


 ああ、そういえば校門を出た辺りのベンチで、狭山さんと、奈良くんたちが群れていたっけ。

 にしてもこのポンコツ、食い気まで出てきて…。


 そんなことを僕が気にしていた所で、横からむーちゃんが袋に手を突っ込んで二つのホットドッグ包みを摘まみ出して、一つをぱくり。

 もう一つは、紅利さんに差し出して。


「いただきんぐんぐ。んぐぐんごむぐぐーご、んぐっ」


 《夢は、『いただきます。奈良くんと小さい兄弟が並んで食べてるのはコマーシャル効果大きかったね』と言おうとしました。お見苦しく、失礼》


 むーちゃんの胸元のDドライブから、テフの通信音声。

 お行儀悪い幼馴染の通訳ありがとね。

 一方でホットドッグを受け取った紅利さんは、包み紙を開きながら。


「あきらくんも居たけど、えーと…」


 紅利さんは何かを言いかけて、やめてしまった。

 そのまま彼女は妙な沈黙を続ける。


「…根須くんがどうかしたの? 紅利さん」


「…うんと、なんでもない。考え事してたの」


 そう言って、ホットドッグを食べ始めた。

 言いたいことでもあったのだろうか?

 何か、言おうとしたことを止められた、みたいな間があったような。


(央介、女の子には色々と事情があるんだゼ)


 突然のテレパシー。

 それ、他人の事情関係なく覗き見するサイコが言う事?

 頭の中で言い返して、その時間の分だけ妙な沈黙を作ってしまって。


「…変な顔してどうかしたの? 央介くん」


「…えーと、なんでもない。考え事しててさ」


 簡単に言い訳して、ホットドックを齧る。

 色々言いたいことはあるけれど、言うわけにもいかない。

 鏡映しのように二人で首を傾げて、キツネにつままれたような顔をしていたら、一早く食べ終わったむーちゃんが話しかけてきた。


「話を戻して、プリンセスなしの巨人ならMRBSだけで倒せるよね! …って話だったんだけどー」


「あー。最初、夢さんのビームが反射されてびっくりだったね」


 プリンセス無しなのに、少し手間取った原因はそれだった。

 近づくと分裂して挟み込んでくる。遠巻きに飛び道具を使うと鏡で反射してくる。

 他の巨人にはない特性だった。


「あの鏡、空間そのものを捻じ曲げてるとか父さんが言ってたかな。だからDマテリアルを破壊できずに反射してきたんだって」


「あやうくアゲハが吹っ飛んじゃうところだったよ…」


 アゲハがMRBSを構えた瞬間、変にぎらつく鏡に気付いて、アゲハをその場に押し伏せたのは正解だった。

 でなければむーちゃんのDドライブや、テフがどんなことになっていたか。


「おーちゃん、守ってくれてありがとね!」


 むーちゃんはそう言うと僕に覆いかぶさるように抱き着いてきた。

 ――重い。

 重いし、人の往来もある道の真ん中では恥ずかしい。


 僕が周囲に助けを求めて伸ばした腕が、横から伸びてきた二つの手に捕まえられた。

 手を伸ばしてきたのは紅利さん。

 危なげに車椅子から身を乗り出して、僕の腕を彼女自身の胸元に引っ張り寄せた。


 紅靴妃との戦いの後から、紅利さんは少し雰囲気が変わったような気がする。

 時々義足を使って歩こうとするし、今のコレだって車椅子が傾いても構わないような動きだ。

 その上で、僕の近くにいることや触ってくることも増えた。


 結果として今、僕の腕には柔らかい温かさが押し当てられている。

 その、なんというか、彼女は車椅子に乗っていたから体つきが分かりにくかったのだけれど、クラスの中でも成長が大きい子なんじゃないだろうか。

 細身のむーちゃんとは真逆で、母さんみたいな…。


 考えれば考えるほど、今の自分がいけない事をしているような気がしてきた。

 女の子二人に抱き着かれているというのは、多分普通の男の子がしていていいことじゃあない。

 だからといって、急に引きはがそうとしたら、彼女たちは気分を悪くするかもしれない。


 そもそも、この間はそんな紅利さんと僕はぎゅうぎゅうと抱きしめ合って――


(女のなーかに、男がひっとりー。イッヒッヒッヒ)


 ――サイコ、うっさい。

 それにここには佐介だって居るだろ!


 頭の中で声を荒げる。

 ホットドッグの最後の一口を飲み下しながら。

 続いて聞こえて来たのは、佐介の声。


「そうだな、もう一人ぐらい男が居ればいいかな?」


 それは、佐介とは逆方向から聞こえた、佐介の声。

 違和感に振り向いた視界に飛び込んできたのは、一瞬で戦闘態勢に入った佐介。


 その向こう。

 佐介の向こうに、もう一人の佐介。


 佑介が、そこにいた。

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