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第十七話「国道99号線にサンドシャーク!」4/7

 =多々良 央介のお話=


 襲ってきた巨人ザメに関する父さんの見解へ、僕は確認と疑問を込めて聞き返す。


「ロレンチ…。サメが電気を狙う? でもそれだったら、そこらじゅうの機械とか全部襲っちゃうんじゃないの!?」


《おそらくだが、サメの能力を模しているこの巨人――陸鮫妃は既にアトラス支配下にある。その上で、補佐体の条件を満たす場合に襲い掛かるように設定されているんだ》


補佐体(オレたち)の、条件?」


《そうだ。第一に一定以上のPSIエネルギーを持つ。第二に1.5ボルトやその倍数の電圧を持つ。この二つが一定距離に揃うと襲ってくる、そう考えれば他の襲撃事件とも辻褄が合う。他にも何らかの確認方法を持っているかもしれないが…》


 ああ、そうか。

 だから僕が猿のぬいぐるみに近づいた時、陸鮫妃が襲ってきたんだ。

 僕のPSIエネルギーが加わった電動のおもちゃを、佐介と間違えて。


 でも、微妙に気になったのは――。


「なんでオレはその電圧になってるんだ? まさか、おもちゃの電池で動いてるのか?」


 僕の代わりに佐介が父さんに問いかけた。

 それが切実な疑問なのは、当事者である佐介の方かもしれないけど。


《補佐体の骨格に内蔵してある補助電池は、一般的な電池で応急修理できるような設計にしてある。ギガントは佑介を作ってきたわけだから、そこは把握しているんだろうな》


「骨格の応急修理って…、オレが電力不足になったら体を切り裂いて電池突っ込めって!?」


《まあ…、そうなるな。繋がってる中で機能してるパーツを自動で選択するようになってるから、複雑な処置は必要ないぞ》


 何か酷くスプラッターな話を聞いた気もする。


 それにしてもPSIエネルギーと電力のセット。

 “電動”車椅子に乗った紅利さんは、無事だろうか?

 巨人が現れた以上、地下シェルターに避難しているはずだけど、この巨人は地面を泳ぐ。


 いや、彼女が無事なように、僕がこの巨人を倒さないといけないんだ。

 一刻も、早く。


《――よし。央介君、夢君は条件を満たさないよう注意して建造物外へ脱出し、そこでハガネ、アゲハを発動したまえ》


 大神一佐からの命令が下る。

 でも、この命令では一人が対象から抜けている。

 元々、頭数からは除外されがちだけど――?


「オレは?」


《佐介君は二人を安全に脱出させるために囮になり、その後は建物屋上を目指して移動だ。困難なら運搬用ドローンを向かわせるが?》


 どうやらちゃんと別の命令があったようだ。

 それを聞いた佐介は、常備しているポーチからフック付きのワイヤーを取り出す。

 そのまま、天井で剥き出しになっている鉄骨の梁へフックを投げつけ、ワイヤーを引っ張って掛かりを確認して、頷く。


「大丈夫。自分で行ける。ちょっと物壊すかもだけど」


《施設側へ軍から補償は出る。だからと言って気前よく壊されても困るがな》


「それじゃあ――。あ、大神一佐、奥さんに何か言っておくことある?」


 珍しく、佐介が気を利かせて、対岸のレジ上の大神さんにも聞こえるような大声を出す。

 …いや違うかな。これは大神一佐をちょっと困らせてやろう、弱点を探そうという魂胆だ。

 そういうのやめろ、って何度思わさせる。


《…軍人の身内は、作戦上の優先順位が下げられる。救援用のドローンは出すが、他の避難請求対象への対応が済んでからだ》


 佐介の悪意ある冗談への大神一佐の返答は、とても真面目で、でも重たいものだった。

 何か、とても、悪いことをしてしまったような気がする。

 流石の佐介も、目を泳がせ気味になっていて。


 でも、その時。


「ハチくんが、何を言うか、わかってるわ、よー? あったかいお風呂、あったかいお夜食、あったかいお布団、用意して、待ってるわ、ねー?」


 大神さんは、通信先にも聞こえるように、大きな声で呼びかけてきた。

 そのまま笑顔で手を振りながら、続ける。


「はい! みんな、笑顔で、お家で、待っていられるように。笑顔で、お家に、帰れるように。頑張りなさーい!」


「あ、あの…」


 僕は、何か、声を返そうとして、結局何も思いつかないままで。

 そこへ、更に。


「作戦、でしょう! 急ぎなさい、ね! GoGoGo!! MoveMove!!」


 大神さんの掛け声に火を点けられて、先に動いたのは、佐介。

 わざと一度地面に降りて、陸鮫妃の攻撃を誘いながら。


 僕たちも、もう止まってはいられない。

 陸鮫妃が佐介を追いかけだしたのを確認してから、棚から飛び降り、ショッピングモールの外へと走り出す。


 大神一佐は、立派な軍人さん。

 大神さんは、かっこいい奥さん。

 その二人が夫婦なのが、素敵な事だと思う。


 僕とむーちゃんは全速力で店内を駆け抜けて、モールの大ゲートから外へ飛び出した。

 駐車場の車の上で発光サインを出している人影は、むーちゃんの補佐体、テフ。


 僕たちはなおも走りながら、揃ってDドライブを構え、起動コードを叫ぶ。


「Dream Drive!! ハガネ!」


「Dream Drive!! アゲハ!」


 二人分の発動光は、流石に目に突き刺さる。

 そんなことに怯んでも居られず、光の中の扉を開き、巨人の中へ。

 眼下で、光る粒子が二体の巨人を形作っていく。


 先に組み上がったのは――。


「巨人ハガネ! 敵対巨人への対応を開始します!」


 気付くと、テフが駐車場の車の上を飛び跳ねながら、組み上がり途中のアゲハへ向かってきていた。

 でも、その行く手では、車同士の間隔が随分開いている。

 車のいない地面には、数多くのサメの背びれ。


 僕は、サメ群れの中へとハガネを踏み込ませる。

 ハガネならサメに攻撃されても、サイズ比で考えれば小さなピラニアの牙程度。


 そのまま、ハガネの右手を伸ばし、テフの足場を作る。

 テフもその意図を察してくれたようで、直ぐにハガネの右手に飛び移り、右腕上を駆け抜けて肩。

 更に逆方向に延ばした左手から、少し遅れで近づいてきていた“裸”のアゲハへと飛び移る。


「おーちゃん、ありがと! いくよ、テフ!!」


「央介さん、ありがとうございます。補佐体テフ、巨人アゲハとの融合を開始します」


 テフの姿が空に溶けて崩れると同時に、アゲハの全身に青い発光線が描かれだした。

 同時に、アゲハの全身を覆うマントが形成されていき、それが終わった時。


「夢幻巨人アゲハ! 敵対巨人への対応を開始します!」


 二体の巨人が並び立った。

 でも、僕の巨人。ハガネは万全の状態ではない。

 佐介は――。


《よし、巨人隊は第一目標を達成したな。ではショッピングモールの屋上駐車場へ移動、そこで補佐体・佐介と合流したまえ!》


「了解しました!」


 一度は離れたショッピングモールへ向き直り、高さ30mほどの屋上へと飛び乗る。

 そこへ、すぐに駆け寄ってくる佐介。

 ――あれ?


屋上駐車場(ここ)の床は平気なの?」


「なんか襲ってこないぜ」


《今、佐介がいる施設の屋上は、言い換えれば施設の天井。数多くの電気系統がある。佐介だけを正しく察知して襲うことができないんだろう》


 ああ、そうか。

 足元の更に下には、沢山の電灯や空調機械が並んでいるわけだもんね。


《更に、店内の監視カメラをこちらでモニタリングして、サメの現在地をドローンで投影しているわ》


《陸鮫妃が地中にいる場合は確認が困難だ。しかし階層化している施設屋上であれば、構造を突き抜けてくる際にカメラで場所を確認できる》


 つまり、モール屋上は陸鮫妃にとっては襲いにくく、僕たちの巨人にとっては安全地帯。

 佐介をハガネに融合させながら、他に思いついたことをHQへ質問してみる。


「夢幻巨人ハガネ、以下省略! …僕たちがここに逃げたことで、別の人が襲われたりとかは?」


《その可能性も考えたが、現在、陸鮫妃のサメは央介達のいるモール付近に集結している。心配は不要だ》


《今はPSIエネルギーも検出できているわ。このサメ一尾一尾はPSIエネルギーが検出しづらい特性を持っているみたいだけれど、これだけ集まればね》


 父さんと、それとは別源での母さんからの回答。

 通信に映る母さんの背後には、狭山一尉と、大神さん。

 良かった、救助されたんだ。


 状況がはっきりした所で、横から問い掛けてきたのは、佐介。


「ここがひとまず安全でも、サメに囲まれた孤島みたいなもんだろ? それもヤシの木一本無し」


「サメいます、って海に飛び込んで撃とう!…ってのは無しでお願いします」


 佐介とむーちゃんの言い分ももっともで、屋上から地面を見下ろすと、ショッピングモールを取り囲むサメの背びれ。

 しかもさっきまでの背びれと違って、かなり大きい物が混ざっている。

 それらの糸を引いているプリンセスが“巨人を攻撃できるサメ”に切り替えてきたのかもしれない。


「これの中に本体が混ざってる、のかな?」


《不明だ。だが広域に展開する形態としては依然戦った羊雲王に近い。つまり多くのサメは独立したDマテリアルで出現範囲を補っていることになる》


 僕の疑問に、大神一佐の状況分析による完璧な答えが返ってきた。

 続くのは、作戦計画。


《地面に潜り込んでいる相手にはDボムは有効とは考えにくい。なので、央介と夢ちゃんに頑張ってもらう》


《MRBSをそちらへ空輸する。それで陸鮫妃の分身体を出現させているDマテリアルを破壊するのだ。アゲハと、ハガネで!》


 なるほど、MRBS(磁力ビーム)での攻撃。


 …うん?

 MRBSで、ハガネも?

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