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第十七話「国道99号線にサンドシャーク!」3/7

 =多々良 央介のお話=


「一体、何が?」


「どういう事なんだろうな? さっきまでオレを追いかけてたんだが、ここに来た途端に、狙いが無茶苦茶になった」


 ショッピングモールの床を泳ぎ回る巨人ザメと、それを引きつけて逃げ回った佐介。

 それらを追いかけて、僕たちが辿り着いたのは、おもちゃ売り場。

 ところが、ここにきて巨人ザメは佐介を追いかけるのをやめていた。


 おもちゃの棚の上でプラモデルの大箱と並ぶ佐介は、手にこびり付いた精肉の破片を強調するようなジェスチャー。


「臭いで追いかけてるんじゃないっぽい。それと棚の上は狙ってこない」


 佐介も、判断に困っているみたい。

 さっきまでは、間違いなく佐介を追いかけていた巨人ザメ。

 それが今は、ターゲットを見失ったかのように周囲を泳ぎ回っている。


 ショッピングモールの、おもちゃ売り場――。


 何か引っかかるものがあると思っていたら、そうだ、紅利さん。

 彼女は、ここで火災に巻き込まれたと言っていた。


 サメに警戒する傍らで周囲を見回しても、火災の跡は残ってはいない。

 でも、これだけ沢山のおもちゃがあれば、それらが使用している電池によるエネルギーの合計は大きなものになるだろう。

 一つの電池が燃え上がって、エネルギーを吐き出して、それが近くの電池を壊して、次の炎を作る。


 だから、紅利さんは両足を失って――。


 車椅子の女の子を頭に思い描きながら、佐介の方へと向かう。

 その時だった。


 何かが足元でけたたましく、金属音を鳴らす。


「――っ!!」


 慌てて確認すると、それはおもちゃの猿のぬいぐるみ。

 両手に持った楽器を鳴らして、今度は鳴き声を上げはじめる。


 どうやら、今の警報からの避難騒ぎで、棚から落ちたものらしい。

 こんな時に余計な神経を使わせないでほしいと、ぬいぐるみに手を伸ばしながら、ため息を吐く。


 ため息を吐いた、瞬間。


 ぬいぐるみの真後ろの床から、巨人ザメの大顎が飛び出てきた。


「うっ!?」


「おーちゃん!!」


 横から僕の体に飛びついて、サメの噛みつきから逃してくれたのは、むーちゃん。

 ばきん。と、何かが壊れたような音がする。

 地面に潜り込むサメの口元から、何かが零れ落ちたのが見えた。


 それは、床にころんと転がる。

 それは、首。

 猿のぬいぐるみの、首。


「ひっ…!」


 僕は、動けない。

 僕にしがみついているむーちゃんも。

 棚の上にいる佐介も。


 巨人ザメが地面に潜った場所に残されていたのは、ぐちゃぐちゃに噛み砕かれた、猿のぬいぐるみの体。

 次の、次の攻撃が来る前に、この場から離れないと。

 でも、手も足も、固まったように動かない――。


「棚の上だ! とにかく上れ!」


 佐介の叫びを受けて、やっと体の硬直が解ける。

 僕とむーちゃんは、必死でおもちゃの高い陳列棚の上に登った。

 お行儀がどうのこうのとかは言う暇もない。


 棚から見下ろすと、巨人ザメは再び床から背ビレを出しての回遊に戻っていた。

 また襲ってくる気配は、ひとまずない。


「どうして急に襲ってきたんだ…?」


「それよりも、さっさとハガネとアゲハ出しちまったほうが良くないか。もう周りに人はいないし」


 佐介の言う通り、ハガネになってしまえば、巨人ザメといっても大魚程度の大きさになる。

 ただしモールの天井の高さを考えると四つん這いで、かつ盛大に品物や店の設備をなぎ倒し踏み潰しながら進む感じになるだろう。

 それは、やっていいことなのだろうか? 仕方ない事と言えばそれまでだけど…。


 そんなことで戸惑っていた僕の隣から、むーちゃんの消え入りそうな声が聞こえてきた。


「ごめん…おーちゃん。Dドライブ、ない…」


「えっ!?」


「その、今日はお休みだからって、おおかみママさんに預かられちゃって…」


 間が悪い、というのを身を持って体験した気がする。

 えーと、そうなると…僕がハガネを出して、その四つん這いの背中にむーちゃんを乗せて、外に向かう?

 背中のむーちゃんの護衛には佐介を置いておけば、なんとか…なるかな?


「テフがスペア持ってるから、合流しちゃえば大丈夫なんだけど…。テフ、こっち来られない!?」


 途端に、僕の携帯が軍からのコール音を鳴らした。

 急いで取り出して着信。

 携帯の画面に映ったのはむーちゃん。…に、そっくりのテフ。


《央介さん、夢、申し訳ありません。現在、当機はショッピングモール駐車場において、敵性巨人の襲撃を受け、車両上へ退避中。合流行動は困難と考えられます》


「サメ、他にも居んのかよ!」


《佐介の見解を肯定します。敵性巨人“陸鮫妃”は複数存在し、当機が地面に接触することを条件に襲撃を開始します》


 ――テフが地面に降りると、攻撃してくる?

 確かに、この巨人ザメ、陸鮫妃は最初は佐介だけを追いまわしていた。

 その時の佐介は地面に居た。


 地面にいる補佐体が襲われる。

 しかし、そうなると今度は僕が襲われた時だけ、条件が違う。

 あの時、僕は、騒がしい猿のぬいぐるみに手を伸ばして――?


「夢さーん。央介さーん」


 警報以外の音が聞こえなくなった店内に、急に響いたのは女の人の声。

 声がする方を見ると、こちらに走ってきている大神さん。

 僕は慌てて呼びかける。


「あぶないですよ!! こっちに近づかないで!!」


「地面にいるとサメが襲ってくるのー!! おおかみママさんも高い所に登ってー!!」


 大神さんは僕たちの呼びかけにすぐ応えて、高く跳び上がった。

 動きにくそうなお着物を翻して、近くのレジ台の上に着地する。

 流石の獣人の身体能力という他はない。


「これで、大丈夫、かしら?」


「多分ですけど! …よく襲われませんでしたね!?」


「ふうん…。ここに来る、まで、襲われもしなかった、けれども」


 大神さんが相変わらずの語り口での説明。

 やっぱり、陸鮫妃が狙ってくるのには、何か条件があるのかもしれない。


「おおかみママさん、どうして追いかけてきたの!? こっちあぶないのにー!」


「危なくても、なんでも、しなきゃいけない事、あるときは、飛び込まなきゃ、ね?」


 そう言いながら、大神さんが手提げバッグから取り出したのは、青い菱形の結晶体。

 むーちゃんのDドライブ!

 届けに、来てくれたんだ。


「今日ぐらい、騒々しい仕事、忘れて欲しかった、から。預かっていたの、だけれど、ね?」


 大神さんはDドライブをこちらに投げて寄越した。

 狙いはあんまり正確ではなかったけれど、佐介が棚から棚に飛び移りながら、キャッチ。


「それにしても、よく場所がわかりましたね」


「これでも、犬の、獣人。嗅覚で、迷子と弱い所を探す、これが得意なの。特に、佐介さん、凄い匂い、よ?」


 佐介の肌に擦り付けさせたレバーは、サメを引きつけてもらうためのものだったけれど、思わぬ副産物があったみたいだ。

 嗅覚で僕たちを追跡できた大神さんと、佐介の場所を特定できない陸鮫妃――。


 どうやってか探り当てる、弱い所、攻撃の相手。

 大神さんは嗅覚でそれを探す。巨人ザメはそうではない。

 …大神一佐にも、弱い所があるんだろうか?


 僕が余計なことを考えた瞬間に、携帯が大きくコール音をたてた。

 覗き込んだ画面には、その大神一佐が映る。


《央介君、夢君。無事のようだな》


「はい! 佐介と、大神一佐の奥さんも無事です!」


《奥さ…ハナがそこにいるのか? ま、まあ無事ならいい。それで陸鮫妃についての対応は、テフと共有しているな?》


 大神一佐は少し焦ったような様子をみせていたけれど、すぐに元通り。

 家族が関わっていても仕事で動かなければいけない。

 軍人って、大変なんだろうな。


 僕も、自分の戦いの事に頭を切り替えて、さっきまでの事をわかる限りで報告する。


「陸鮫妃は、地面に触れていると襲ってきやすい。主に佐介やテフみたいな補佐体が狙われます。匂いで誘導しようと思いましたが、嗅覚で狙っている感じはしません。ただ…」


「さっき、おーちゃんも襲われました! おサルのぬいぐるみが身代わりになって助かったけど、補佐体以外も狙うみたいです!」


《補佐体以外ではぬいぐるみと央介君を攻撃…。なるほど良い情報だ。では、こちらからも情報の修正がある》


 大神一佐が続ける一方で、映像の脇に父さんが映る。

 置いてきた母さんについて聞きたいけれど、今は我慢。


《先ほど配信していた情報中では、男女が襲われたが無傷としていた。だが当人達からの被害報告だと、所持していた旧式の音楽再生機器が破壊されたという。――何か、重ね合わさる条件を考えられるか?》


 重ね合わさる条件。

 補佐体が狙われて、それ以外だと騒がしい猿のぬいぐるみ。旧式の音楽再生機器。


「音、かな? あの猿のぬいぐるみ、ジャンジャンキーキーやってたから…」


「音だったら、大声上げてた央介たちや大神の奥さんも狙われてたはずだろ?」


 僕と佐介で推論のぶつけ合わせ。

 自問自答の一種だけれど、機械仕掛けの佐介と、僕では気づくところが少し違う。


《ぬいぐるみが、ジャンジャン、キーキー?》


 聞き返して来たのは、オペレーターのお姉さん。

 さっき、むーちゃんの説明をそのまま流してしまったけれど、現場を見ていない軍の人たちにとっては、少し誤解のある表現だったかもしれない。


「ええと、ごめんなさい。ぬいぐるみといっても、電動でシンバルを鳴らすようなものでした」


《ああ、ホラー映画で無駄に主張してくるみたいなの…》


《――電動…、電動だったか!? 央介、それは電池で動くタイプのか!?》


 急に、父さんが大声を上げて食い付いてきた。

 補佐体と、電動のおもちゃと、サメにどういう繋がりが――?


「う、うん。人が近づくとセンサーで動くような奴だったと思う。それで僕が拾おうとした時、陸鮫妃が襲ってきて…」


《…あんまり心配かけないでくれよ…。 …だが、おかげで相手の攻撃基準が分かったぞ》


 画面の向こうの父さんは、何か機器を操作して、共有する画面に情報を表示させた。

 大きく映るサメの頭部。鼻先に強調する矢印。


《ロレンツィニ器官、サメは電気を感じ取って対象を狙う能力があるんだ!》

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