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第十六話「月下の悪魔嬢」5/5

 =多々良 央介のお話=

 僕たちが家に帰ってきたのは、夜中も日付が変わって、ずいぶん経った頃だった。

 戦いの後、通信が回復した大神一佐から、何とか十字架の事を伝えられてよかったと言われて、少しの作り笑顔。


 それからすぐにむーちゃんが意識を取り戻して、ハガネはアゲハに抱き着かれた。

 テフが担当しているマント部分も抱き着いてきていたので、引き剥がすのにひと苦労。

 その後、悪影響が残っていないか検査を受けさせるということで、僕たちだけ先に帰ることになった。


(いいじゃないカ。吸血鬼の魔の手から助けてもらったなんテ、女の子なら一生ものの思い出だゾ?)


 パジャマに着替えた頃に、頭の中に話しかけてきたのはサイコ。

 今日は、まあ助かったかな。

 でもサイコ、助けてくれたのはうれしいけど、有角さんの巨人とか、事前に何とかできなかったの?


(あの腹黒乙女チック止められるもんかヨ。それに彼女、巨人の出し方モ、お前がハガネってのも知ってるからナ)


「ええっ!? ど、どうして…」


 衝撃で、思わず口に出してしまった。

 母さんは…、部屋でお仕事かお休み中だろうから、気にはされないと思うけれど、これ以上喋らないように自分の口をふさぐ。


(彼女の親父さんが軍の情報士官ってのト、吸血鬼の嗅覚で、央介の血の匂いと、人間の血の匂いがしてない佐介に気付いてたんダ)


 血の匂い…そんなのがあるんだ…。

 他には周囲で気付いてる人って居ないのかな?


(とりあえず現状ではいなイ。ワタシと有角だけダ)


「吸血鬼にESPに、こっちのクラスどうなってんだ。次は魔法少女か恐竜人でもでてくるんじゃねーか?」


 佐介が横から口を挟んでくる。

 確かにまあ、東京島の学校では、獣人の子とセミ・バイオニキスの子ぐらいしか見かけなかった。

 それでも魔法少女や恐竜人は都市伝説、流石にないと思うけど。


(まーたワタシがクラスにいると決めつけてるナ、ポンコツ)


 結局、どうなの?

 サイコって、クラスの子?


(アーアーアー電波障害ダー。で、吸血鬼に狙われる条件と巨人投影の条件は被ってるからナ! 央介も有角に噛み付かれないように気を付けろヨ!?)


 露骨にごまかして来た。

 それにしても気になったのは、僕が有角さんに噛まれる、という話。

 その…僕の血が狙われてる、の?


(あア、割と狙ってル。“大人になる”っていろんな意味があるけどモー、そうなる前にってナ)


 大人になる。

 大人、大人って、え、ええええ…えっと…。

 その、変なことを考えてしまった…。


(今、考えてることがあながち間違いでもないガ、順序が違ウ)


 顔が熱っぽくなってしまった僕に対し、サイコの口調…念調?は真面目なものを感じる。

 でも、順序?


(一番大きいのハ、女の人。その中でも子供を産むって自覚が出来始めるト、PSIエネルギーが本能的にお腹を守り始めル)


 PSIを使ってまで、お腹を守る。

 ああ、赤ちゃんを守るため?


(そうダ。生物としてはかなり重要なことだナ。だからクラスで言えバ…、狭山(ルッコ)は巨人出さないと思うゾ)


 長尻尾の狭山さん?

 どうして、彼女が巨人を出さないの?


(アイツ、ちょっと前から、自分と同じような子どもを産むってことを割と気にしてるかラ。PSIの状態が大人に近イ)


 …ああ、そうか。

 狭山さんは、狭山隊長さんの子供で、エンハンサーだから、その子供も…。


(んデ、それ以外の人モ、PSIエネルギーを自分の筋肉とか皮膚とか内臓とかに向けだス。より強い生き物ニ、より強い護り手になりたくて、ネ)


 それが、大人になる、っていうこと?


(あア。そうなると、PSIエネルギーの流出は減って、外に出なくなル。当然、巨人にも出にくくなル。この辺は前にも話したナ)


 前。最初にサイコが話しかけてきた晩の時かな。

 確かに似た話をしてた気がする。

 ずっと詳しくなってるけど。


(ワタシも調べたんだヨ。それで、PSIエネルギーは、生き物が少しでも願い通りになってほしい、っていう時に生まれる、神経が作る力だそうダ)


 神経が作る力っていうのは、僕も知ってる。

 巨人との戦いの中でも、神経に関わる影響を受けると、色々おかしなことになるから。

 でも、願い通り? ハガネがイメージ通りに形を作るみたいなもの?


(普通の人だト、サイコロを千回万回振った時ニ、一回願った出目に変わるかも、ぐらいの力だナ)


 それ、いくらなんでも弱すぎない?

 あと、偶然転がって、狙い通りの目が出ることだってあるから、判定なんてできるのかな。 


「統計がわずかに狂う、はずだ。誤差レベルだろうけどな」


 えーと、統計。なるほど。

 佐介は流石に機械分あるから、そういう考え方ができるんだな…。


(それでも全身の細胞、そのサイズと数から言えバ、“偶然上手くいく” を “狙って起こせる”なら、その割合でも有利に動くしナ)


「サイオニックは、全部上手くいかせちまってるわけだが、とんでもねーな?」


 佐介がそれ言うの?

 最近は自分でPSIエネルギー作り出してるって、変なことになってるのに。


(話を戻すガ、吸血鬼はそういう大人の血が嫌いみたいダ。PSI食ってるって話は見つからなかったガ…、なんか似た部分があるんだろウ)


 大人になると、PSIは性質が変わる。

 じゃあ、大人になったら、巨人は出せなくなる?

 ――僕も?


(いや、ワタシらサイオニックは、大人になっても力を使えるシ…。お母さんが、そうだったから…)


 お母さん。

 そうか、当たり前だけど、サイコにもお父さんお母さんが居るんだ。

 どんな人なんだろう?


(あア…、ノイズだから忘れてくレ)


 あれ、何か気にしてほしくないような、圧力。

 ごめん。


(うン…。PSIってサ、多分…自転車に乗れるかどうかをもっと激しくしたみたいなもんじゃないカ? 一度覚えればその感覚を忘れずに済ム)


 自転車に乗る。

 子供の内に覚えておくといいっていうけど。

 そういえば、父さんは多々良流の感覚を覚えておいて欲しいって言って、僕に訓練つけてくれた。それも同じかな?


(それと上太郎博士で言えバ、大人でも限定的に巨人を使える方法を研究してル。Dボムも上手くいってたシ、完成も近いはズ)


 それ、息子の僕が初耳なんだけど。

 …でも、仕方ないか。

 僕は――。


(――!! 悪ぃ、思い出させるつもりは無かったんだ!)


 ううん…、いいよ。

 これは、忘れちゃいけないことだから。


(…なんていうか、お互い傷持ちだと、うっかりがあるな)


 そうだ、ね。

 ん? またサイコの雰囲気違う。


(おおおーっト! あとは…あれダ! 央介が大人になったらどうなるか、だナ!)


 無理やり話切り替えたよね。

 でもまあ、ありがと。


 大人、か。

 以前は、父さんみたいな科学者になりたいって思ってた。

 それと――


(――大人になる頃でモ、夢さんが傍にいたつもりだっタ、カ…。でも、もう近寄れなイ。…彼女、君を憎んでも恨んでもいないぞ?)


 …サイコ。

 人の心、読みすぎると、嫌われるよ。


(あー、はいはイ。それでも夢さんとアゲハがゾンビ化して襲ってこなかったのハ、君の足手まといになりたくないって抵抗したからダ。遠ざけ過ぎは、気の毒だゾ)


 それ、は。

 答えが、思いつかない。

 僕が間違っているのはわかる、けれど――


「そろそろとっちめるか?」


 ――佐介。


(やれやレ、物騒だナ。これだから正体は明かせないんダ)


 急に、からかうような口ぶり。

 気を遣われているのだろうか。


 でも、うん。

 明日、むーちゃんに出会ったら、ありがとうって言おう。

 それぐらいなら、できるから。


 …ああ、いや、もう今日かな。


「…今日。あっ!? ヤバいぞ、央介! もう空が明けてきてる!!」


「ええっ!? うわホントだ…!」


(あー…、夏はほんっとに夜が短くて…、ああー…)


 その後、とにかく頑張って眠ろうとしたけれど、もう手遅れ。

 窓の外の空はどんどん明るくなっていって。


 そして、悪夢のような夜が明けた。



 眠い目をこすりながら、歯磨き、洗顔、着替え。

 給仕ロボットのキュージィさんが用意してくれた朝ご飯を無理やり飲み込む。

 部屋の机で寝ていた母さんに毛布を掛けて、いってきますをして、そのまま、ふらふらしながら学校に。


 教室には、むーちゃんは、いない。

 大神一佐に確認してみたら、昨日の事があったので、大事を取って午後から登校させる、だって。

 僕も、休めばよかったかな…。


 一方で、クラスメイトと楽しそうに話し込む有角さんが居た。

 サイコの忠告からすれば、彼女はハガネの事を知ってると言うけれど、そんな様子は全く見て取れない。

 吸血鬼、こわい。


 よろよろしながら席について、僕と、佐介。

 それと、前の席の赤い帽子の男の子、根須くんが揃ってぼやく。


「眠いよお…」


 See you next episode!!

 要塞都市、神奈津川市は山の中。海無しの県。

 海の幸からほど遠いこの街で、

 鮫の大顎がハガネに襲い掛かる!

 次回『国道99号線にサンドシャーク!』

 君達も、夢を信じて、Dream Drive!!


 ##機密ファイル##

 PSI波、PSIエネルギー

 極めて検出の難しく、しかし異常な干渉力を持つ波と、それによる物理干渉の値。

 PSI波の媒介粒子はボース粒子の一種であり、時間因果を飛び越えて干渉を起こし、質量の有無を切り替える特異性質を持つ素粒子サイキオン。

 サイキオンは存在の定義こそされており、いわゆるサイキックの原動力だという理論は提唱されていたが、長らく確定した検出ができずにいた。


 一方で、生命体の神経系は、億年単位の進化の過程で、サイキオンへの干渉能力を持つまでに至っており、神経系に多細胞から課せられる生命本能という負荷がかかることによって、微細ながらエネルギーを取り出せていたことは以前からほぼ判明していた。

 しかし、こちら側からの研究では、培養液中の神経細胞は本能分が欠乏しがちで検出が困難であり、かといって活動している生命体自体からは確定した情報の獲得が難しいという壁にぶつかり、長年有るの無いのでの不毛な論争に終始していた。


 そんな中で各国、各研究機関ともにPSIの特異性には古くから着目し、それを各分野に応用しようとしてきた。

 それは物体や距離に影響されない特性から、主に軍事、次いで司法の補助として。

 原理不明なまま、活用法だけが伸びる。一見奇妙な事だが、珍しい事ではない。


 ところが、同力学分野の新鋭、多々良上太郎博士により「ミクロの自己圧縮式光子螺旋でサイキオンを巻き絡めとる」Dドライバー理論が完成。

 これによりサイキオンの確実な検出とエネルギー転換における機械的な干渉が可能となり、それを利用してのD領域干渉も実証された。

 この技術の未来は、まだ誰も知らない。

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