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第十五話「義脳少女は羊雲の夢を見る」3/5

 =多々良 央介のお話=


《狭山一尉、応答してください! 狭山一尉!!》


 不死身のEエンハンサー、狭山一尉は、雲の群れの巨人、羊雲王に襲われてしまった。

 何か外傷を受けたようには見えなかった。

 それなのに、狭山一尉は、ドローンの上で、倒れている。


《狭山一尉のバイタル各種センサー、異常は特にないようで…いえ、これ発熱、してます?》


《獣人やEエンハンサーは元々体温が高いのだが…。いや、42.8℃は、明確に発熱だな。相手の攻撃は…病毒か何かか!?》


《狭山一尉をドローンごと回収します。医療班は完全防備で当たってください》


 どうしよう、狭山一尉が倒れるなんて。

 あの雲、そんな危険な雲だったなんて。

 じゃあ、あれは、触ったら病気になる瘴気の雲?


「VBとの簡易接続体No.D、機能掌握体No.C、量子掌握体No.B、最終到達点たる現象掌握により創成に至るNo.――」


 僕が慌てていると、いきなり喋り出したのは、佐介。

 意味の分からないことを口走って。


「佐介!?」


「――ん? どうかしたか? …いや、オレ、なんか言ってたな」


 自覚は、あるらしい。

 そういえば、狭山一尉も、倒れる前におかしな話を始めていた。

 二人の共通点は――雲に触れた事。


 さっき、佐介はアイアンチェインで狭山一尉を助けようとして、羊毛雲の群れに触れていた。

 結論を理解して、佐介が不安を漏らす。


「うげ、それだけでアウトなのかよ」


「大神一佐、佐介…補佐体の言動の異常を報告します。えっと、アイアンチェインが相手と接触したことが原因だと、思います」


 報告って、こんな感じでいいのかな?

 もう少し、軍隊式に合わせられるようにしなきゃ。


「…しかし、あいつ、大丈夫かな。こういうのに一番弱いだろう?」


 突然、佐介が何か半端な物言いをした。

 少し考えると、サイコの事だと気付く。

 そうか、この手の状態をばらまく巨人は、彼にとって致命的な事になる。


 巨人だって、心の形なんだから、あの雲に触れたら、同じ目に合う。

 佐介が陥った状態からすれば、防御も何も関係なく。


《HQ了解した。巨人隊は、回避に専念したまえ》


「分かりました。縦穴とかの隠れ場所、使わせていただきます」


 ハガネとアゲハは、なるべく羊雲王から見えないように、建物の影を走って、エレベーターの縦穴に飛び込む。

 飛び込んですぐ、頭上のシャッターが半ばまで閉まって、より隠れやすくなった。

 これで、時間が稼げる?


《あらあら、尻尾を巻いて逃げ出したんですの? でも逃げ込んだ巣穴が分かっていれば追いかけるのは簡単ですわね!》


 プリンセスの呼びかけに続いて、雲の群れが僕らのいるエレベーターに殺到してきた。

 しまった、逃げ込んだ瞬間を見られていたのかもしれない。

 これじゃ逃げ場が、ない!


《央介君、夢さん、巨人を一度解除して! 横に車両を待機させてあるわ!》


 通信から、オペレーターのお姉さんの声。

 見ると、エレベーターの横口で、ランプを点滅させてアピールしている装甲車両が居た。

 慌ててハガネから飛び出て、佐介と一緒に車両の方へ走る。


 むーちゃんと、テフもすぐ後ろに続いていて、一安心。

 その後ろでは、ハガネと一緒に消えゆくアゲハから、色んな機械が剥がれ落ちて、轟音を立てる。


「あれ使い捨てしちゃっていいのかな!?」


「今はそんなこと気にしてる場合か!」


「4人全員を確認! 全員掴まって! 飛ばすぞ!」


 装甲車両に飛び乗ると、慌てた様子の兵隊さんが僕たちの確認。

 そしてすぐに車は急発進した。

 僕たちは加速度で後部ドアに押し付けられる。


 ドアの窓から見えるエレベーターシャフトは、突入してきた雲に埋め尽くされていった。

 首をすくめた佐介が呟く。


「あそこに居たらと思うと…ぞっとするな」


 トンネルを走る車の後ろで、いくつものシャッターが閉まっていく。

 とりあえず、ピンチからは脱出できた感じだ。


《巨人隊、無事で何よりだ。あの雲は、物理的な破壊はできないようでな。入口さえ閉じていれば問題はないらしい》


 大神一佐からの通信。

 取り出して覗き込んだ携帯の画面には、大神一佐の顔画面以外に、都市に設置されたカメラの映像が表示されていた。


 そこに映っていたのは羊雲王。

 組んでいた立方体が崩れるぐらいに雲を分離させて、要塞都市にいくつも開いたエレベーター穴を総攻撃している。

 これでは、こちらが被害を受けることは無いかもしれないが、打って出るのは無理だろう。


「あのアトラスってマシンさえ攻撃できればいいのにー!」


 むーちゃんがやり場のない気持ちを吐き出す。

 確かに、雲を攻撃に使い始めたのは、あのアトラスが操り出してから。

 アトラスさえ排除できれば、危険性はだいぶ減るはず。


《なら、大人の出番だ! 大神一佐、アレを試します!》


 急に通信に割って入ってきたのは、父さんの声。

 そういえば最近、帰りが遅かったり、作戦にも出てこられなかったり、また何か作っていたみたいだけど。


《アレ…か。しかし…多々良博士、アレは本当に効果があるのか? 原理を聞いた限りでは、酷く不安なのだが…》


《大神一佐。不安に思わないでください! 信じてください! 絶対に効き目があると!》


 大神一佐が戸惑っている。

 そして、父さんに至っては何か願掛けをするような言いぶりだ。

 父さん、一体何を作ったんだろう?


《新規登録で…名称はDボムですか? では、ドローン部隊、Dボムの展開を開始してください》


 その指令からすぐ、映像内の空中に、数多くのドローンが飛び出していった。

 ドローンからは、黒くて丸い物体が空中で切り離され、それはそのまま空中にぷかぷかと浮かびだす。

 よく見れば小さなプロペラが付いていて、空中での位置は調整できるようだったけれど。


「気球…爆弾とかそういうのか? あんまり…秘密兵器っぽくないけどなあ?」


「うん…、それに通常兵器じゃあ、巨人に効果はないはずだけど…」


「むーも知らない!」


 むーちゃんが知らないとなれば、これは父さん側が作ったもの。

 もしアゲハ関係、あの苦手な少将の人が進めていた計画であれば、むーちゃんはその訓練を受けているはずだ。


 映像は何度かカメラを切り替えて、浮かぶ物体、Dボムを映し出す。

 すると、更に切り替わった映像からは、音声が流れだした。


《…はい、現地報道室から古山です。現在、空中に浮かんでいるのはDボムという、都市軍側による対巨人機雷だと発表がありました》


《機雷ですか? 爆弾という事ですね? しかし、都市軍の攻撃で巨人に有効だった実例はありませんが、その辺はどうなのでしょうか?》


 これは…、戦況の報道映像だろうか?

 でも、なんで僕の携帯にまで、こんな報道番組が映ったんだろう。


《新兵器は、既に実験が行われて、巨人に有効だったという検証がされているそうです。…新兵器、発光していますか? そうですね、赤く、点滅を、始めています》


《表面に…数字も出ていますね。爆発のカウントダウンをしているのでしょうか。しかし、兵器がわざわざカウントダウンをするものですかね。古山さん?》


 実験?

 巨人相手にあんなのが実験されたなんて、聞いたこともないけれど…。

 そうこうする内にも、Dボムの点滅は激しくなって、表示されている数字も10を切った。


「父さん、Dボムって何なの!? こんなの聞いてないよ!?」


《説明はあとだ! 今はあの爆発を見守っていてくれ! 3…2…1ッ…!》


 カウントダウンを終えて、要塞都市の上空で、Dボムは爆発を起こした。

 閃光は真っ赤な火の塊になって、真っ黒い煙になり、煙は風に流され始める。


 でもそれは特に、何もない空中。

 当然、羊雲王に影響もなく。


《かなりの…爆発でしたね。古山さん、現地はどうですか?》


《こちらは問題ありません。シェルター内部なので衝撃も何もありませんでした。ただ、敵対している巨人は、爆発から退避したと都市軍側からの説明です》


 やっぱり、何の効き目もなかったらしい。

 不安になって、父さんにあれが何なのか、聞き直す。


「…父さん?」


《まあ待て、央介。これからだ!》


 父さんの言葉に合わせたように映像の中に、再びドローンが飛び交いだした。

 ばらまかれる大量のDボム。

 羊雲王の雲たちは、それを気にしている様子はない。


《退避…。では、あの雲の巨人は、爆発被害を恐れて逃げた、ということですか? …えー、古山さん! 空中に再度、新兵器が散布されていますね?》


《あっ、はい、今度は投入数を増やす模様で…》


 報道は続く。

 一体何が起こっているんだろう?

 そうこうするうちに、多くのDボムが激しく点滅しだす。


 そのうちのいくつかは、羊雲王の雲の群れの中に突入していって。


 要塞都市の空が、一瞬、真っ赤に染まった。

 一瞬遅れて、映像の音声から轟音が響く。


《なぁっ!?》


 続いて聞こえたのは、プリンセスの絶叫。

 少しして黒煙が薄れた。


 その向こう、羊毛雲の群れに異変が起こっていた。

 爆発に巻き込まれて、消し飛んだのか数が減り、明らかに焼け焦げた雲もいくつか。

 効き目が、あった!?


《ななな、何ですの、この爆発!? どうして物理的爆発で巨人にダメージを与えられるんですの!?》


 プリンセスもよほど驚いたのか、悲鳴をそのまま外部に向けて流してしまったようだ。

 よくわからないけど、ざまを見ろ。


《央介! これが、Dボムだ!》


 父さんのガッツポーズが、携帯に映る他の映像を押しのけて表示されていた。

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