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第十四話「オフサイド・トラップ」4/6

 =多々良 央介のお話=


 空に弧を描き、飛行する真っ赤なギガントの機械。

 その天井には、白いドレスをなびかせて悠々と仁王立ちの少女、ギガントのプリンセス。


 軍が武装ビルの火砲で追撃をしている。

 けれど、それらもDマテリアルが作るバリアに防がれ、効果を上げられない。

 そうするうちに、相手は、リフティングに戯れる球蹴王の上空に舞い戻ってきた。


《ギガントがテクノロジーの結晶、Dブースター・アトラスの威力、ご覧あそばせ! さあ、あなたたち、おやりになっておしまいですわ!》


GODDAMN!(ちくしょうっ!)


SHOWTIME!(やってやらぁ!)


 通信に混ざったのは、聞き覚えのある、声。

 これは…!


《声紋照合、先日逮捕、後に外部の手引きで脱走したギガント工作員両名のものと合致!》


「あいつらかよ! 最初に潰しとけばっ!!」


 佐介が吐き捨てるように言う。

 まったくだ。あいつらなんて、生きてたって何もいい事なんて――


《Dominate Drive!! ですわっ!》


 悪人どもに憤る時間もなく、飛行機械“アトラス”から、耳慣れない掛け声と共に、真っ赤なケーブルが何本も伸びる。

 まるで血管のようにも見えたそれは、真下に居た球蹴王に伸び、突き刺さる。


 球蹴王は、それに嫌悪感を感じたのか、必死で振り払おうとしていた。

 だけど、その抵抗もすぐに収まり、両手をだらりと下げ、身動きを止める。

 遊んでいたサッカーボールを周囲に転がしたまま。


「あいつ、巨人にくっついた!?」


「おーちゃん、何が起こってるの!? こんなの説明になかったよ!?」


 むーちゃんが突然の事に混乱しているけれど、これに関しては、こっちも何が何だかわからない。

 ただ、絶対にろくでもないことだというのはわかる。

 すぐに、軍の通信から叫ぶような報告が入る。


《敵性飛行機械、自称アトラス、対象の内部と球蹴王とでPSIエネルギーの循環を観測! 球蹴王に対し、何らかの干渉を行っています!》


《まさか、あのアトラスとやらは、以前に投入していた巨人誘導機器の一種か!? だが、わざわざギガントの人員が表に出てくる意味はどこにある!?》


《狭山一尉の回収完了。再度のコード発令の待機か、央介君達のサポートに回るかの命令求むとのことです》


 アトラスは、ケーブルを巻き取りながら球蹴王に吸着、巨人に背負われるような状態になった。

 同時に、球蹴王の頭上に半透明のプリンセスの姿が現れる。

 ホログラフ、だろうか?


(クソッ! ダメだ、あのマシン! Dマテリアルか何かでESP遮断してやがる!)


 ――っと!?

 急に頭の中に響いたのはサイコのテレパシーだった。

 でも、いつもと少し雰囲気が違う、ような。


(悪イ、央介! 目に見えてる以上、こっちでもアシストするつもりだったけド…。読心とか…手伝いになるようなことハ、無理ダ!)


 そういえば、前に場所が分かれば心を読めるとか言ってたっけ。

 確かに、この状態なら相手の場所なんて丸わかりだ。

 だけど――


(この間の、クロガネ連れて行った巨人もだガ、何か乗ってる、ぐらいの感覚しか読めなイ!)


 …ああ、あれか。

 そうか、サイコもあれこれやろうとはしてくれていたんだ。


(あれこれやろうとしテ、何にもできなイ! 畜生、通れッ!!)


「気にすんな! 相手の機械ぶっ壊せば、全部チャラだ!」


 珍しく佐介がサイコの肩を持っている。

 普段は言葉も交わさないまま、犬猿の仲だったのに。

 そんなことを考えていたら、苦笑している自分に気が付いた。


「おっと? よーし、いい笑顔だ! ハガネもいい感じに安定した! あとは――」


 佐介から、声がかかった。

 そうだ。

 僕がやることは。


「――いつも通りに、巨人を止める! それだけだ!」


 僕は、気合を込め直して、アトラスを背負った球蹴王に対して、構えなおした。

 アゲハが横に並んで、同じ構えをとるのも見える。


《作戦会議は終わりまして?》


 ホログラフのプリンセスが問いかけてくる。

 それにハガネの指を突き向けて、決意をぶつける。


「ああ! その機械がどんな機能を持っていても、僕が、ハガネが、全部ぶっ壊す!」


 対してプリンセスは不敵に笑った。


《それは、無理ですわね。このDブースター・アトラスはギガントのサイオニック技術の結晶ですの。そして、これよりこの巨人は!》


 プリンセスが、勢いよく両腕を広げる。

 同時に、球蹴王の両腕が同じように広がった。

 これは――


《わたくしの腕!》


 プリンセスは格闘の構えを取り、鋭く拳を突き出した。

 そして、彼女の動きに合わせて巨人もパンチを放つ。


《わたくしの脚!》


 更にプリンセスはドレスがめくれ上がるのも気にせず空を蹴り上げた。

 やはり、巨人も同じ蹴りを見せる。


《スポーツ科学の結晶たるわたくしと、完全に同調して動くのですわ!》


 わざわざカラクリを教えてくれる。

 それだけの自信があるのか、よっぽどこちらを馬鹿にしているのか。


 実際、さっきの一連の格闘の型は、きちんと訓練をした人間の動きだった。

 僕は、用心して、球蹴王との距離を図りなおす。

 その時だった。


「バタフライ・シャイン!」


「照射開始。長々と口上を述べる間に行動すべきです」


 むーちゃんとテフの声。

 二人が喋り終わる前に、真横に居たアゲハがマントを全開放し、その内部にあったMRBSを二挺、ライフルのように構えて攻撃を仕掛けた。

 照準用の光線は、球蹴王と背負われているアトラスを間違いなく捉えている。


 しかし――


《残念でございましたわね! アトラスは対音波は当然、対磁力構造になっておりますの。磁力は電力に変換され、放散させるだけですわ!》


 プリンセスの嘲笑いと同時に、アトラスから周囲に向けて猛烈な電撃が迸った。

 MRBSによる目に見えない磁力の攻撃は、相手にダメージを与えることができなかったらしい。


《また、対策されているか! 巨人同士の戦闘データ回収を邪魔するもの一切を許さないつもりか!?》


 大神一佐が通信の向こうで怒声をあげた。データ、回収…?

 一方で、佐介が思い当たることを問いかける。


「でも周囲のDマテリアルは壊せるんだろう!? この間みたいにDキャプチャーってので捕まえちゃえば…」


 確かに、アゲハの持っていた装備で、巨人のいる場所を固定することができていた。

 あれを使えば、アトラスが何をしようと巨人自体を止められるはず。

 しかし、すぐに返ってきたのは、父さんからの説明。


《駄目だ! PSIエネルギーから見てあのアトラス自身が、巨人の出現中枢と化している! ああなると、出現位置の誘導は無意味になってしまう!》


「うっそーっ!? それじゃあ、むーに出来る事って…!」


 むーちゃんの嘆声。

 無理もない。これじゃ、アゲハのありとあらゆる装備が無駄になってしまう。

 そう思った時に、大神一佐からの命令が走る。


《夢君、君はハガネのサポートに回るんだ! それに今、第二の巨人が場に現れた時に役立つのは君の装備だ!》


「あっ…! はい! バタフライ1了解です!」


 ――こういう時に、大人の人は上手く気を回せるんだ。

 少し安心して、意識を蹴球王に向けなおした、その時だった。


《さあ! こちらから参りますわよ!》


 プリンセスの啖呵から、続いて、掛け声。


《必殺の! プリンセス・シュート!》


 プリンセスに操られた球蹴王は、サッカーボールを一度高く蹴り上げた。

 僕は、ボールと球蹴王の両方に警戒を向けようとして、対応が遅れる。


 球蹴王は、ハガネの方向に向けて、跳んだ。


 その姿に、落下してきたボールが丁度重なる。

 ジャンプの勢いそのままに繰り出された鋭いボレーキックがボールを捕らえた。

 キックの威力と落下の勢いが加算されたボールは、猛烈な速度と回転を伴い、空中に曲線を描いて。


 気が付いた時には、ハガネの目前。


 頭部の酷い痛みと、視界の喪失から、一瞬だけ前後が分からなくなった。

 浮遊感から、慌てて受け身の構えをとったことで、ハガネが地面に叩きつけられるのだけは阻止。

 そこでやっと周囲の地形が見えて、ボールの直撃で自身が大きく吹き飛ばされたことを理解する。


「おーちゃん! 大丈夫!?」


「目が、チカチカする…!」


「すまん央介! 防御が間に合わなかった! でも攻撃手段が分かった以上は!」


 むーちゃんと佐介が、右から左から心配してくれる。

 すぐにハガネを起き上がらせた。

 一方で、凶器となったボールは、既に球蹴王の元に戻っている。


《ヘディングがお上手ですこと。 ボールをわざわざ返していただけるなんて》


 プリンセスがそう言って、球蹴王にリフティングを再開させる。

 どのタイミングで、次の攻撃がくるのか、ハガネに身構えさせた。

 しかし――


《へっへっへぇ! おいハガネぇ! 知ってるぜ、お前の弱点はぁ!!》


 アトラスに同乗しているらしき、悪人の声。

 同時にアトラスから、何かが、いくつか、撃ち出された。


 それは、空中で小さな爆発を起こす。

 爆発から噴き出したのは、煙。

 真っ黒い煙の洪水!


《有視界戦闘! 見えない状態では行動できねえ、そうだろう!?》


 煙幕が、球蹴王を覆う。

 攻撃のタイミングが、つかめない!


「クソっ! フーリガンみたいな真似を!」


《各砲塔、無煙炸薬弾装填! 煙幕を吹き飛ばす! 観測は!?》


《レーダー類に一切の反応なし! PSIエネルギー観測から推定位置を央介君、夢君のHUDに表示します! ただ0.1秒ほどラグが!》


 佐介が毒づき、大神一佐が様々な指令を下す。

 すぐ、僕のゴーグルに、ぼやけた人型が表示される。

 サーモグラフィみたいな感じだけれど、危険なボールの位置は、はっきりと確認できた。


「見える見えーる! 煙幕から距離とっちゃえば、ラグがあっても平気だもーん!」


「お気の毒ですが、そちらの工作効果は消えてしまいました」


 むーちゃんと、テフが挑発を込めて相手に呼びかける。

 僕も、ハガネを後退りさせて、アゲハをフォローできる距離にまでもっていく。

 ここなら、煙幕からボールが飛び出してきても対応できる、はず。


《では、平気かどうか、試してみる必要がございますわ、ねっ!》


 プリンセスからの応答には掛け声が混じり、輪郭だけの球蹴王にも動きが見えた。

 直後、煙幕からボールが飛び出す。

 今度の弾道はハガネに向かわず、アゲハ狙い!


「むーちゃん!」


「余っ裕!」


 とっさに振り向くと、アゲハは既に防御態勢をとっていた。

 腰を落として、両腕で顔面を守っている。


 ボールは、アゲハを直撃した。

 けれど、完璧な防御姿勢は、その威力を受け止め、弾き飛ばす。

 アゲハに攻撃が向かってしまったことが、ハガネで守れなかったことが、少し悔しいけれど。


 アゲハの防御と同時に、武装ビルが放った砲弾が炸裂し、球蹴王を覆っていた黒い煙幕を吹き飛ばした。

 弾き飛ばされたボールは、周囲のビルの壁面でバウンドし、球蹴王から離れた方へ転がっていく。

 すぐに、むーちゃんの気丈な声。


「残念! 必殺シュートも煙幕も効かない――」


 ――あれ?

 不自然なところで声が途切れた?

 アゲハも、何か半端な姿勢で、その動きを止めている。


 どこからか、ホイッスルが、鳴り響く。


《残念…。必殺シュートは、これからですわっ!》


 気付く。

 球蹴王の足元に、いつの間にかボールが現れている。


 いけない――


 僕は、無我夢中でハガネを動かし、止まったままのアゲハを庇った。

 サッカーボールが歪むほどの勢いで、球蹴王の脚が振り抜かれる。


 必殺シュートが、ハガネに突き刺さった。

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