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第十四話「オフサイド・トラップ」2/6

 =珠川 紅利のお話=


「映像とか音声の記録聞いてると、おーちゃん、“ ボク ”って言ってない?」


 昼休み、転校してきた夢さんと話の中、彼女の幼馴染の央介くんの仕草について、気になっていたらしい事を私に聞いてきた。

 彼女は、話し方や行動から人懐っこい元気な子だと思ってたけど、割とマメで理知的なのかも?


「おーちゃん、自分の事を、ボク、ボクって言ってて、おかしいなー、って」


「え…? 央介くんは――」


 思い返す限り、央介くんはいつでも“ 僕 ”だった。

 例外は――


「この間の…附子島少将さんとのケンカだと、わざわざ“ オレ ”から言い直して“ ボク ”って…」


 そう、夢さんが言う通り、彼女と出会った時、軍の人と話している最中に、一度だけ、叫ぶように、自分の事を“オレ”と言っていた。

 確かに、あそこの事は気にかかってはいたけれど。


「おーちゃん、前はカッコよく“ オレ ”!って言ってたんだよ?」


 夢さんは自分を親指で指す決めポーズをしながら、そう言う。

 それが、央介くんの仕草のマネなのかはわからないけれど。


 にしても、やっぱり“ オレ ”の央介くんが居た、そういうことになる。

 一応、聞き返してみる。


「央介くんは、いつも“ 僕 ”って言っていたと思うのだけれど…」


「うーん? 転校して来て、変わっちゃったのかな? 友達関係とか変わっちゃえば、ガキ大将!ってわけにもいかないし」


 ん? 妙な単語が出てきた。

 ちょっと確認しよう。


「ガキ、大将?」


「うん、おーちゃんはクラスで一番ケンカ強いし、頭もいいし、賑やかだし。だから、クラスでも盛り上げ役とかまとめ役とかしてた」


 えっ!?

 ちょっと待って、今の央介くんとキャラクターが全然違わない!?


 あ、いや、でもケンカで強いのはハガネでの戦いもそうだし、学習時間に15歳級の数学教科をすらすら解いていてびっくりした記憶がある。

 でも、そこが合致するだけで、賑やかで盛り上げ役というのは、想像もできない。


「スポーツマンだし、バスケでもぴょーんって飛んで、ダンクシュートしちゃうんだよ!」


「ダンクって…央介君だとゴールが身長の3倍ぐらいあるのに?」


「うん! …あ、でもサッカーだとね、一人でどんどん突っ込んでいっちゃうから、よくオフサイド貰ってた」


 オフサイド、サッカーで相手陣に残った二人を繋ぐ線を、一人で越えてしまう反則。

 しかし、こちらでの体育の時間、サッカーでは央介くんも佐介くんもディフェンスとアシストに徹していたから、オフサイドなんてありえない。

 観戦するしかない私は、それをよく見ていたから、はっきりそうだと言える。


 そうすると、やっぱり、夢さんの話と、央介くんの行動が違う。


「えっと…、まずその話が信じられなくて…。央介くんは、いつも物静かだったから」


「そうなの? おっかしーなー…。そもそも“ ボク ”って言うのは…、たっつーの方だったんだけどなー」


「たっつー?」


 更なる聞き慣れない単語に、疑問符を付けて聞き返す。

 といっても、夢さんの呼び方からすれば、親しい間柄でのあだ名、かな?


「うん、幼馴染の男の子! おーちゃんと、むーと、たっつーで、いつも三人組! …今はちょっと、だけど」


 また、ちょっとだけ夢さんの表情が悲しそうなものが混じる。

 そういえば、央介くんは二人の幼馴染を傷つけたという話だった。

 そのもう一人が、“たっつー”くん、なんだ。


「あっ…! ひょっとして、おーちゃんとたっつーの中身がどこかで入れ替わって…」


 突然、夢さんがすごい方向の推論を持ち出して来た。

 おかしなことばかり起こす巨人がいるのだから、そういう事が起きないとは言えないけれど…。


「…でも、たっつーの喋り方なら、もっと軽い感じだし、違うかな!」


 …うーん、結局、どうなんだろう。

 私はそのたっつーくんを知らないから、ここは何とも言えない。


 それにしても、誰かは“ オレ ”だったような――

 ――深く考えなくとも、すぐに思い浮かぶ人物がいた。


「そういえば…、佐介くんはオレって言うよ」


「あー! たしかに! …うん、言われてみれば、さーちゃんはおーちゃんの喋り方、そのまま! そのままだから、気づかなかった…!」


 あ、あれ? どういうこと?


 佐介くんは、大人しい央介くんに対して、割と男の子っぽい喋り方をしていると思う。

 だから、大人しい央介くんと、ヤンチャな佐介くんだと、ずっと思ってきたのに。


「そこらへんは、本体の精神を受信して動くのが補佐体だから、おーちゃんの影響かな? でも、そうなると、おーちゃんはなんで…」


 これは、央介くんと、佐介くんも、似たようなことを言っていたと思う。

 佐介くんは、心を受信するロボットみたいなもの、そう言っていた。

 でも、それを考えると、央介くんと佐介くんの雰囲気が全く違うというのは、おかしなことかもしれない。


 さっき感じた、夢さんの理知的な部分を取り出すと、ロボットっぽい真面目なテフさんの感じになる?

 じゃあ、夢さんの言う、過去の央介くんが、オレの佐介くんで、僕の央介くんは…。


 えっと、めまいが、してきた。


 めまいの中で、予鈴のチャイムが鳴る。

 考えるのは、また今度にしないと――。


「サッカーだあああ!!」


 ――モヤモヤした頭を、右耳から左耳に突き抜けていった、特大の歓声。

 クラスの男の子、修斗くん。

 サッカー好きの彼は、この時間をよっぽど待ち侘びていたのだろう。


 けれど、実際のところ、彼はリフティングとかは上手くても、サッカー自体はお世辞にも上手くはない。

 なにより、クラスには狭山さんとか奈良くんみたいな体育オバケもいる。


「うっせーよ、流! おめーは蹴鞠してる暇あったらアタシに回せ!」


 案の定、狭山さんが叱りつけている。

 彼女は彼女でしょっちゅう尻尾を使ったハンドになってしまう問題プレイヤーなのだけれど。

 尻尾は三本目の足だと言い張っているけど、くるんと回してボールを捕まえちゃうのだから、手の扱いでいいと思う。


 夢さんは、まだ央介くんを探している。

 でも、そろそろ授業開始のチャイムが――


 ――その代わりに響く、サイレンの轟音。


《戦闘警報が発令されました。住民の皆様は、指示に従ってシェルターへ――》


 すっかり聞き慣れてしまった戦闘警報とアナウンス。

 巨人が来たんだ。


「くそっ! 折角のサッカーだったのに!」


「時期的に、最後のサッカーだったのにな…」


 戦闘警報に交じって、妙な方向から、声が聞こえた。

 驚いて、声の方向を見ると、何かが校舎の屋根の上から降ってきた。


 そのまま、屋根の上から伸びる手と、繋いだ手による振り子の動きで、私たちのいるベランダに飛び込んできたのが佐介くん。

 続いて、飛び降りてきた央介くんを、佐介くんがしっかりキャッチ、央介くんもベランダに降り立つ。

 互いに信頼しあった見事なコンビネーションだけど――。


「あーっ!!」


 当然、夢さんが叫ぶ。

 もう二人、体育オバケがいた。

 探してたのに、すごく近くにいた。


「ひどいよ! おーちゃん! むーはお話したかったのに!」


「う、うん。それは、そうなんだけど…」


《夢、戦闘警報発令中です。私語は控えめに、直ぐにアゲハの発動準備を。》


 夢さんの当然の怒りと、それを諫めたのは夢さんと同じ声の、テフさん。

 その声は…、夢さんが胸元から青い結晶のペンダントを取り出す。

 テフさんの声は、央介くんのと同じ、そのペンダントから聞こえている。


「テフまで邪魔する!」


《邪魔をしているのは、出現した巨人です。後で央介さんを取り押えるのを、手伝いますから》


 夢さんは、ペンダントに向けて話しかけている。

 それが通信機になってるのかな?


 さて、私はシェルターに避難しないと。

 シェルターの救護室――の隣の防音機能のある寝室が、最近の私の特等席だ。

 そこで、央介くん達と軍の人たちの通信を聞かせてもらっていて、私からも周りを気にせず連絡できる。


「がんばってね! 央介くん、夢さん!」


「ありがとう。出来るだけ、早く解決するから」


「おーちゃんとむーが揃って、解決できないことなんて何もないもん!」


 そう言って、央介くんと佐介くん、夢さんが揃って駆け出す。

 私は――


 ――うん…、避難。


 教室では、一人、避難となって項垂れている子がいた。

 修斗くん、大好きなサッカーできなくなって。


 ――可哀想。

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