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第十二話「ハガネ対クロガネ」4/6

 =多々良 央介のお話=


《ば、馬鹿な!? 補佐体単独で巨人を作り上げただと!?》


 真っ白な思考の向こうで、父さんが叫んでいる。

 それで、やっと我に返った。


 目の前にいる、もう一体のハガネ。

 偽物が作り出した偽物。


 クロガネと名乗った巨人。


「…エルダースのジジイは、周囲の不特定多数から漏れたPSIエネルギーを集積する…とか言ってた、かな…」


 佐介の、声がする。

 エルダース…? クリスタル・エルダース?

 どうして、そんな名前が今出てくるのだろう?


「佐介、何を言って…?」


「オレじゃねえ! 奴だ!」


 また、佐介の声。

 これは――


「…央介。オレの声が聞こえているのか? あはっ、これはいい! 央介と話せるなんて最高だ!」


「央介! 理屈はわかんねぇが、ハガネとアイツ…クロガネが混線してる!! 声も、それだ!」


 なんだよ、これ…!!


《ほ、補佐体バイタルデータに異常発生! 負傷状態と…。あれ? も、戻りました!?》


《ハガネとスティール1で二重アクセスを起こしているのか!? 一度回線の検査を!》


 こんなの…、許していられるものか!

 巨人は、父さんがみんなの役に立つことを願って作ったのに!

 ハガネは、父さんが僕を護るために作ってくれたのに!!


「佐介っ! アイアンスピナーを!!」


「ああ! 外さない!!」


 どこからか、小さな、笑い声が聞こえる。

 これは、佑介の!


「ふふっ、撃つのか。撃てるのか、央介? なら…」


 ハガネは、目の前に鋼鉄の螺旋を構えた。

 その瞬間、クロガネは鏡で映したように、全く同じ螺旋を構えていた。

 構わず、放つしか――


「アイアン・スピナァーッ!」


「…スティール・スピナー」


 二つの螺旋が、正面衝突する。

 そして、貫通。

 相討ちを恐れたけれど、ハガネはなんともなっていない。


 いつも通り、ハガネは、攻撃対象がいた場所を通過した少し先に着地する。

 けれど――


「手ごたえがっ!?」


 仕損じたことを感じて振り向いた瞬間、目の前にあったのは、巨大な鋼鉄の螺旋。

 クロガネは、既に次の攻撃に、移っている!


「うっ、わっ!?」


「危ねぇっ!!」


 ギリギリ、だった。

 考えも何もなく、必死でハガネを避けさせた。

 クロガネの必殺の一撃が、ハガネを掠めて通り抜けていく。


「おしい、おしい…」


 着地したクロガネは、ゆっくりと振り返る。

 その右手の人差し指をハガネに向けて。


「央介…気付いているかな? アイアンスピナーは、最大の威力を発揮するため、ハガネの存在自体を極限まで一点に集中させている」


 佑介が、わざわざの説明。

 酷く、いらつく。

 それが分かっているはずなのに、クロガネは両手の人差し指の先を突き合わせる。


「そのアイアンスピナーが直撃する瞬間、同じようにアイアンスピナーで一点集中していれば…、そんなのまともに当たると思う?」


 その両指先は、ぶつかることなく、交差していった。


「理屈が、それならぁっ!!」


 当たりを最大にする、格闘戦を挑む。

 でも、飛び掛かっていった先では蹴りが内側に入り込まれて受け止められる。

 すぐに姿勢を戻して放った打ち上げの拳も、紙一重で避けられる。


「当然、オレは央介が何を考えてどう狙うかも、全部分かっている…」


「ダメだ! 央介、奴のが守りに分がある!」


 二つの同じ声が、どちらも僕の馬鹿さを刺してくる。


「そして…」


 佑介の呟きが、現実を突き付けてくる。


「悩んで動く央介より、機械回路として判断しているオレの方が、速い」


 一瞬。

 一瞬だった。

 目の前に鋼鉄の螺旋があって、それがアイアンスピナーだと気付いた。


 こんなに、速く形成できるの?

 僕のは、僕らのアイアンスピナーは、螺旋を作って、力を籠めるのに少しかかるのに?

 混乱した思考が手足の動きを遅らせて、これは――躱せない。


「スティール・スピナー」


 思わず目を瞑った次の瞬間、僕の頭に鈍い痛みが走った。

 痛みは、頭の左側。


 やられ、た?

 目を開くと、視界が、随分傾いている。

 ハガネが、おかしな角度に吹き飛んでいる。


 ――これは、僕の痛みじゃなくて、ハガネのダメージ?


 慌ててハガネの姿勢を立て直し、頭部を内側から確認する。

 そこには鉄の柱を打ち出して、ハガネを横に突き飛ばしてくれた“主砲”があった。

 頭の痛みは、その主砲がハガネ全体を吹き飛ばした時のものだった。


 でも、主砲は、佐介が担当している部位は、相手のスピナーを受けて、大きくえぐれて――


「――!? さ、佐介!?」


「だ…、だいじょーぶ…。少しは、クールダウンしろよ?」


 酷く辛そうな、佐介の返事。


 後悔で、やっと思考が落ち着かさせられる。

 主砲は何とか元の形に再生しようとして、少し苦労しているような感じ。

 佐介がギリギリで庇ってくれて、助かったんだ…。

 僕が、考え無しで突っこんだのをカバーしてくれて、その身代わりに…!


 すぐに、嫌な声が聞こえだす。


「違うよ、央介。オレは最初から偽物しか狙ってない。だから、じっとしててくれ」


 僕はそこでやっと相手の目的に気付いた。

 というよりは、勝手に自分、ハガネが目的だと思い込んでいた。

 ギガントが狙ってきたのは、ずっとハガネだけだったから…。


「…は! オレを壊したら…本物になれるつもりかよ? んなわけねーだろ…!」


 ダメージのせいか、佐介は少し苦しげだ。

 それでも、佐介が言うとおり。

 全く同じ機能を持っていても、偽物と一緒に戦うつもりなんて、ない。


「そんなのはどーでもいいよ。偽物がいるのが気持ち悪いだけなんだからさ」


「ああ、全くだ…! 偽物の機械仕掛けの戦闘ロボットなんて、気持ち悪い事この上ない!」


 佐介と佑介の同じ声での言い合いが続く。


 ――でも、何となく、二人の声の差が分かってきたかもしれない。

 佑介の方が、馬鹿にしているような余裕を含んでいる、ような気がする。

 もしくは、佐介の方には余裕がない?


 どっちにしても、僕がそれを考えた以上、すぐに佐介に合わせられて、分かりにくくされてしまうかもしれないけれど…。

 それに、僕の攻撃も全部…。

 そこまで考えた時に――


《ならばその機械の処理能力! 我々によって飽和させればいいだけのことだ!》


 急に通信に飛び込んできたのは、大神一佐の声。


「大神一佐…、軍もEエンハンサーも通用しなかったのに、まだやるの?」


 佑介が、馬鹿にした口ぶりで言い返す。

 佐介は、何も言わない。


 と、ハガネの表面を、何かが触った感じがした。

 それは右肩の上。

 重武装した獣人がハガネの肩に立っていた。


「え、えっと!?」


「央介、狭山隊長だよ! 変身してるんだ!」


 佐介に言われて、やっと理解した。

 全体的に膨れ上がっているけれど、なんとなく普段の姿と共通してる部分もある。


「央介君! 手を貸すわ! …あんなデカブツ相手で私が役に立つかはわからないけどね!」


 そう言う狭山一尉の片手には、この間の鳥船妃との戦いでも使った大砲。

 たしか、強力な閃光弾が込められていたはず。

 一瞬なんだかわからなかったのは、足が三本あるように見えたことだけど、少し考えて尻尾だと気づく。


《狭山! スティール1は、事前の戦闘で防御用の装備品を失っているはずだ! 事実、眩惑状態では行動が鈍っていた!》


「では、タイミングはそちらにお任せします! 私はアドリブで!」


 どういう、ことだろう?

 僕が戸惑っていると、大神一佐からの、説明。


《以前、巨人に強烈な光線を当てて混乱させたことを覚えているか? あの際は佐介も行動できなかっただろう?》


「…クロガネは巨人としての防御力はあっても、目と耳への防御力は、ない?」


《そこを塞げば今度は戦闘行動をとれないからな! その隙に央介君、ハガネが攻撃するんだ!》


 これが、やるべき作戦。

 ――でも、何か見落としているような…?


「…央介、あまり良くない気がする。目潰しは、効くと思うけど――」


 佐介が、警戒を呟く。


「じゃあ、効くかやってみれば?」


 更に佑介からの侮りの言葉。

 弱点を指摘されたというのに、薄笑いすら聞こえる。


《仕掛けるぞ! 防衛機構隊、照準合わせ! 各々の間隔で撃て!》


 大神一佐の号令からすぐ、閃光が辺りを真っ白く染める。

 バトルスーツ備え付けのゴーグルが、それらから目を守ってくれて、何とか周りを把握できた。

 遠い花火のような音がしているけれど、これも実際にはとんでもない音量なのだろう。


 佐介もバトルスーツを着用していたけれど、ハガネに溶け込んでいる現在はこれの効果はあるんだろうか?

 ――そう疑問を持ったけれど、答えが返らなかった。

 普段なら、僕の疑問には直ぐ答えてくれるのに?


 それ以上を考える間もなく、ハガネの肩の上に居た狭山隊長が飛び出していって、地面を走りクロガネに迫る。

 あの人に攻撃手段はないはずだから、手に持ってる大砲の閃光弾をクロガネの目前にぶつけるつもりなのだろう。

 ハガネも、このタイミングで攻撃を合わせないと…。


 ――でも僕の攻撃は、クロガネに読まれてしまう…!


 身動きが取れなくなった瞬間、主砲からアイアンチェインが放たれた。

 佐介が、何も言わずに発射していた。

 確かに、これなら、相手に読まれる心配はない。

 そして、一度縛ってしまえば、こっちの考えが読まれても、鎖への抵抗の分で先手がとれるようになる…と思う。


 しかし、閃光で視界を奪われているはずのクロガネは、姿勢も崩さなかった。

 そのまま、右腕の最小限の動きだけ。

 アイアンチェインの先端の鉤を打ち払った。


「え!?」


「やっぱりだ! アイツ見えてやがるッ!!」


 佐介が、この作戦が失敗していることを告げた――

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