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第十一話「空間湾曲!分かたれた二人」4/5

 =多々良 央介のお話=


 “そいつ”が、呼びかけてきた。


「…酷いな、央介。オレは、佐介なのにさ…」


 こんなことをするのは、他には居ない!

 僕の激しい気持ちを受けた佐介が一足早く、そっくりな“そいつ”に飛び掛かっていた。

 佐介の殴りつけが受け止められた瞬間、金属同士を激しく叩き合わせたような轟音が響く。


「お前は…、ギガント製のオレの偽物か!!」


「お前と部品一つの差もない本物さ! 創られたのが後なだけだ!」


 二人は、僕でも見分けがつかなかった。

 そう思った瞬間、紅利さんの側にいた佐介の服が、虹色の輝きに覆われると、全く別の、無機質な服に変わる。

 あれは、ギガントの、ステルス技術を使ったものだろうか。


「意味がわからねぇな。偽物は偽物だろうっ!」


「ついこの間まではオレはお前だったのさ!」


 偽物は、意味の分からない言葉を吐いてから、佐介を蹴って弾き飛ばした。

 佐介は地面で受け身をとって、すぐに立て直そうとする。


「佐介!? この…、偽物ぉっ!!」


 僕も、この戦いに加わるべきだろうか、一瞬迷った。


 その時、“そいつ”は赤いペンダントを構えていた。

 形はDドライブそっくりで、色だけが真逆の、赤。

 Dマテリアルの赤。


 そのまま“そいつ”は、何かに呼びかけた。


「来いよ、構築王! パズルを作るだけじゃなく、少しは戦えるんだろう!?」


 視界の端から、巨大な黒い影が飛び込んできて、渡り廊下を遮る。

 佐介が慌てて僕の傍に戻ってきて、そこでやっと影の全体が把握できた。


 巨大な槌を構えた巨人。

 軍が付けた名前は、構築王。


 学校を無茶苦茶にしていた巨人が、偽物の佐介の指示で動いた。

 また、ギガントが、巨人を悪用する技術を手に入れた。


「央介、そんな辛そうな顔するなよ…。すぐ終わるからさ」


 構築王の首元に手を掛けて掴まった偽物が、気安く、話しかけてきた。

 黙って、偽物の顔を睨む。

 その顔の何処にも、佐介との違いが見つけられなくて、余計に苛立ちが増す。


 偽物は、一瞬、顔を俯かせた。

 そのまま、空いている方の手で自身の髪を引っ掻いて、撫で付ける。


 それは、佐介とは丁度逆の髪形。

 下ろした前髪で左目を隠した姿。


 “そいつ”が、叫ぶ。


「佐介ェェェッ!! オレは、佑介! お前をぶっ潰すためにここにいるっ!!」


 そいつ、“佑介”の叫びに合わせて、構築王が咆哮し、手に持っていた槌を佐介目掛けて振り下ろした。

 佐介がギリギリで避けたのを確認して、僕は青いペンダント、Dドライブを構える。


「やるぞ! 佐介!」


「ああ、偽物をぶっ壊す!!」


「Dream Drive!! ハガネェッ!!」


 ハガネの巨体になっていく光の向こう、構築王の更に後ろ。

 渡り廊下の扉近くに、紅利さんの姿が見えた。


 彼女を怯えさせてしまっただろうか。

 偽物が彼女を傷つけてはいないだろうか。


 そう思った瞬間、構築王は渡り廊下から飛び退いて、校庭の方へ駆け出していた。


「逃がすかぁっ!!」


 組み上がったハガネの主砲が構築王を狙い、アイアンチェインを撃ち出した。

 けれど、それは空中で迎撃を受けて、あらぬ方向に弾かれた。


 構築王の首元から放たれた“アイアンチェイン”によって。


「くっ!? あれは…!」


鳥船妃(このあいだ)のアイアンチェインは、そういうカラクリかぁっ!!」


 一週間前の敵が使った、違和感のある攻撃の正体が、目の前にいる。

 その敵は、こいつに戦わせられていた、その事への怒りも、体を強張らせた。


 飛び道具がダメなら、直接の格闘戦に持ち込むしかない。

 僕は、ハガネを走らせ、構築王を追わせた。


《央介、一度冷静になれ! 相手はどんな隠し玉を持ってるかわからないんだぞ!》


 いきなり、携帯から父さんの声。


「うっ…、わ、わかった!」


「父さん! あんな偽物さっさとぶっ壊さなきゃダメだ!」


 急に佐介が、大声で怒鳴った。

 あれ? 普段は僕より冷静なはずの佐介が、こんなに攻撃的になってる?

 びっくりして、ハガネの足が止まった。


「あ、ああ…悪い、央介…。やっぱ、ああいうのは、生理的に気持ち悪くてさ」


「うん…そうだ、ね」


 佐介の深呼吸が聞こえる。

 いつもながら、ハガネに混ざって実体が無くなってる時なのに、どうやって呼吸をしているのやら。


《さっきの佐介との会話…、部品一つも差がない本物、と言っていたか? ハッタリかもしれないが…》


「少なくとも、殴り合ってみた感じ、こっちと同じ巨人の力で体を覆ってた」


 父さんは唸りながら、相手の技術について考えだした。


《一体どこまで再現されているか…。ただ…俺は佐介たち――補佐体は主人の精神だけと同調するように設計した》


「同調? それが、どうなるの?」


《夢幻巨人になったハガネの攻撃などのエネルギーは、央介のPSIエネルギーを、佐介が調整して出力しているんだ》


 えーと? どういうこと?

 父さんの科学講義に答えたのは、佐介。


「…あいつ、ハガネになってないのに、そもそも央介が居ないのに、攻撃エネルギーの塊、アイアンチェインを使ってきた?」


《そうだ、ギガント側に何か改造を加えられたかして、他の巨人からもPSIエネルギーを奪えるようになっている、のかもしれん…》


 ただでさえギガントの偽物なのに、他の子の巨人から、エネルギーを奪う。

 ますます、許せなくなってきた。


「真っ赤なDドライブを使ってたのは、見たけれど…」


《いずれにしても、警戒しろ。最悪、佐介同様に央介、お前の精神を受信している可能性がある!》


 父さんが最後に爆弾を放り込んできた。

 それって、ずっとサイコに心読まれながら、トランプを遊ぶような無理なんじゃ…?


「安心しろ央介、オレの考えは読まれない。俺がサポートすれば勝てるさ」


「だといいんだけど…。でも佐介、頼りにしてる」


 そこへ、いきなり構築王の槌が飛んできた。

 遠くへ逃げていた構築王が投げつけたそれを、ギリギリのところで避ける。


 避けた瞬間、紐のようなものが目の前を通り過ぎていった。

 その紐が鞭のように空中に叩きつけられ、破裂音を立てる。


「これ…、空間の組み換えの音!?」


「一体何が…ぐえっ!!」


 一度は避けたはずの槌が、再度飛んできて、ハガネの主砲を直撃した。


「佐介!? 大丈夫か!」


「偽物の野郎っ!!」


 ハガネを、構築王がいる校庭へと駆け下りさせる途中、なんとなく、理解した。

 最初に飛んできた槌を、空間を組み替えて手前に移し、ぶつけ直したんだ。

 その時に使っているのが――


「さっきの紐だ! また組み換えが来る!」


「紐の先端に…画鋲?」


 ハガネを通り過ぎて飛んでいった紐が空間に叩きつけられて派手な音を立て、空中に直線が描かれる。


 次の瞬間、直線の先、ハガネの背後には構築王自身が居た。

 振り向こうとしたときには、構築王の手に戻っていた巨大な槌が、ハガネの頭部目掛けて横薙ぎに振り回される。


 ぎりぎり、腕を差し込む防御が間に合って、叩かれた方向に吹き飛ぶことで直撃から緩和。

 腕一本を犠牲に、深刻なダメージを受けずに済んだ。

 校庭でごろごろと転がって、構築王と距離をとってから、体勢を立て直させる。


《央介君。戦闘は継続できる? …さっきから飛び交っている紐、それと構築王の腕部構造は、大工道具の墨壺に似ているわ》


「スミツボ? どういう道具なんですか!?」


《墨の付いた糸を使って、直線を建材に書き込む道具、らしいの。その線を柱とかを組み合わせるための目安にする…ごめんなさい。辞典の読み上げなので、これ以上の事は…》


「…いや、なんとなくわかった。組み換えはあの線を基準にやってる、って考えればいいんだ!」


 佐介が答えをだしてくれた。


 確かに、学校や空間に描かれた直線と、線以外は滅茶苦茶になった空間。

 そして、空間が繋ぎ変えられるのは、線が描かれる音の直後。

 状況証拠ばかりで、必ずそうだとは言い切れないけれど、今はその考えで動くしかない。


 ただ、少し引っ掛かることが。


「でも、それだと線を引く中心点、構築王近くでは、それこそ空間を無茶苦茶に繋ぎ変えできるんじゃ?」


《先にあの紐を捕まえれば、空間操作を止められるんじゃないか? 線が引かれるまでの勝負になるが…》


「抜き打ち勝負ってことになるな。それなら…」


 佐介の言う通り、瞬発での対応勝負なら、ハガネに分がある。

 なにせ――


「――央介とオレの二人で、二倍の対応ができるからな!」

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