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第二話「要塞都市の巨人と巨人」2/3

 =多々良 央介のお話=


 大音量の警報が町全体に流れる。

 特徴のある音、戦闘警報だ。

 多分、そしてやっぱり起きてしまったのだろう。


 少し遅れて、僕の携帯からも緊急時の呼び出し音。

 すぐに取り出して、回線を開く。


《央介! ……今は大丈夫か!? 佐介も居るな!》


 父さんからだ。

 大丈夫の意味が色々ある状況だけれども――


「ええと、珠川さん――昨日の車椅子の女の子が傍にいるだけだから、ある程度は大丈夫!」


《そ、そうか。うん……それなら仕方ない! 巨人が、出現した! 駅の方向だ、見えるか?》


 駅の方、駅の方は……ここは丘を越えた住宅地で、家屋もいっぱいあって見えそうもない。


「ここからは全然ダメ!」


 隣から紅利さんが心配そうに見ている。

 ――また、巻き込んでしまう。


《……ええ、はい……。それなら……》


 携帯から流れる音には、父さんの周りにいる人の声も少し混ざっている感じだった。

 多分、父さんは今、この都市の指令室に居る。


《――よし央介、そこでハガネを出していい! それで巨人を確認してから、女の子をシェルターにまで運ぶ、いいな!?》


「うん!」


 父さんからの指令内容が少し嬉しかった。

 不自由な紅利さんを、置いていけ、とか言われなくて。

 ――それでも心配はあった。


「……巨人の方の動きに間に合うかな!?」


 焦る疑問に、父さんはすぐに答えてくれた。


《今はまだアクティブになっていない、おそらく形になっただけだ。だが――》


「――すぐにギガントが何かしてくる、だよね」


 佐介が横から割り込んで結論を喋る。

 “今までの僕たちの戦い”では、毎回そうだったから。


《……そうだ。今、軍と警察で巨人の周りで警戒して、そうならないようにしているが……》


「ギガント関係なく、巨人自体が暴れ出したら?」


 前に、何度かそういうことがあった。

 けれど、その質問に答えたのは父さんじゃなかった。


《安心して、そういうのでも私達はプロだから!》


 通信に割り込んだ、女の人の声。

 確か、長い尻尾をもった獣人の隊長さんで――。


「――狭山、一尉、さん」


《はい正解。でもそういう場合、さんは要らないわ。ましてや作戦中だからね》


「あっと、はい。わかりました!」


《いいお返事! うちのバカ娘もそうであってほしい!》


 娘……そういえば転入したクラスに、狭山一尉と同じような尻尾の女の子が居たような。

 考えが少し横に逸れてしまった。

 けれど、狭山一尉の続く言葉が元の路線に引き戻してくれた。


《こっちは怪獣とでも戦える軍よ! さあ、こっちは任せて、早く女の子を助けてあげて!》


「……はい!」


 軍。

 この都市は、軍隊が丸ごと管理している要塞都市。

 だから僕たちはここにやってきた。


《央介、Dドライブをチェックしたが問題ない。いつでも動かせる。だが……》


 通信の主は父さんに戻る。

 その父さんの声には少しだけ、悩む感じがあった。


《……すまない、こっちなら、もう少し落ち着くと思ったんだが、ギガントの連中のが上手みたいだ。……もう少しだけ、お前の力を貸してくれ》


「大丈夫、父さん! 僕は、ハガネと佐介が守ってくれるから!」


 それに、これは僕がやらなくちゃいけない事。

 ――償わなければいけない事。


「紅利さん、ハガネを出すから離れてて!」


 僕は胸元から、ペンダントにしていた“それ”を取り出す。

 ひし形の青い結晶、高純度のDマテリアルで構成された装置、Dドライブ。


「やるよ、佐介!」


「応っ!」


 佐介は取り出した煙幕弾を地面に投げて炸裂させ、周囲への目隠し。

 なるべく周囲に見られるわけにはいかない。

 すでに一人の女の子を巻き込んでしまって、色々負担をさせてしまっている。


 僕は、突きだした両手でDドライブを構え、それに意識を集中する。


 それはもう何度もやってきたことなのに、まだ怖い。

 巨人を使って、自分が引き起こしたことを思い出してしまう。

 巨人を使って、これから自分が引き起こすことを考えてしまう。


「央介くん……」


 近くから紅利さんの声が聞こえた。


 ――そうだ。

 今の僕には、やらなければいけないことがある。


「Dream Drive! ハガネ!」


 僕は“僕の巨人”の発動コードを口にした。

 Dドライブが激しく発光し、僕はそこから流れ出たエネルギーの奔流に飲み込まれる。

 だけど、僕はいつも通りにその流れを越え、流れの向こうにある扉を開く。


 すぐに視界が開け、僕は巨人――ハガネの“中”にいた。


 周囲は、半透明なハガネの兜の中にいるように見えている。

 けれど実際には、“扉の向こうの世界”――巨人の力の源の領域にいて、そこからハガネを操っている状態だと父さんは言っていた。


 意識で、ハガネの両手を動かし、感覚を合わせる。

 問題は、なし。

 作られた場所、新東京島から遠く離れても、ハガネは僕の巨人ということに変わりはなかった。


 ふと、頭のてっぺんを触られたような感覚があって、見上げる。

 すると、どこから登ったものやらハガネの頭の上にフルフェイスヘルメットをかぶった佐介が立っていた。


 それは今までの佐介がしなかった事。

 実際、佐介はロボットにあるまじき行動をとることがあった。

 僕はそれを悪ふざけか何かと考えて、強めの声をかける。


「こら! 遊ぶな!」


「高い所から相手の巨人を見てたんだよ。ほら、あそこ」


 ――あれ、どうやらちゃんと考えのあっての行動だったみたいだ。

 たしかに慣れない土地なのだから、しっかり周りを見て確認するしかない。


 少し反省しながら佐介が指さしていた方向をハガネの視界越しに見る。

 駅前から伸びる、坂の大通りに、それは居た。

 たてがみと、長い尾をなびかせた、馬の頭をもった巨人。


 戦闘モードに切り替わった携帯から、軍の広域通信が流れる。


《……雄性突起を確認、対象の形状から、戦闘コードを発行します。現対象のコードは“馬頭王”です。繰り返します……》


 いつも通りに、巨人の名前が定まる。

 今、今度、僕が何とかしなければいけない相手。

 対処しなければいけない巨人の名前は、馬頭王。


「次は下だ、紅利ちゃんがいる。足の感覚を作る前に確認しろよ? 踏みつぶしちゃうぜ」


「わかってる」


 佐介の注意を受けて、意識をハガネの足元へ向ける。

 ハガネの足元で、紅利さんが見上げていた。


 ――今後、彼女に巨人、ハガネというものの状態を説明するとしたらどうすればいいだろうか?


 巨人というのは、例えるなら幽霊みたいなもので、目に見えても触れなかったりする。

 そこから、巨人自身や操る人間が意識することで形も触りも決まっていく。

 そんな感じの“巨人の形をしたエネルギーの塊”……という説明で納得してくれればいいんだけど。


 考えながら、僕はハガネの外にいる紅利さんに語り掛ける。


「紅利さん、今から目の前で、ちょっと屈むから、驚かないでね!」


 彼女はうなずいて、尋ねてきた。


「どうするの? また手のひらに乗ればいいの?」


 車椅子から乗り出すような姿勢の彼女。

 なんとも危なっかしい。

 慌ててハガネを彼女の前にしゃがみ込ませる。


「車椅子ごと、シェルターまで運ぶから、しっかり車椅子に掴まってて!」


 同時に佐介がハガネの頭から飛び降りて、紅利さんを車椅子ごと抱え上げた。


「わあっ!? 佐介くん、すごい力!?」


 佐介はこういう時、何も言わなくても動いてくれるからいい。

 と、そこで紅利さんは何か疑問をもったようで、


「……あれ? 佐介くんは外に出てきて大丈夫なの? 昨日は……どうなってたの?」


「戦うとき以外は、ハガネと合体しなくても十分なんだよ」


 そう、佐介は巨人同士での戦いのために、父さんが作ってくれた僕のパートナー。

 正式名称だと、補佐体、とかいう。


 紅利さんを車椅子ごと抱えた佐介をハガネで拾い上げる。

 すぐにハガネを立ち上がらせながらも、余計な考えが頭をめぐる。

 ……もし、巨人が悪用されなかったら、この戦いがなかったら、佐介は居なくて、かわりに僕の隣には――。


「……たかーい!」


 不意の歓声が、落ち込んでいく僕の考えを現実に引き戻した。

 紅利さんは嬉しそうに感想を僕に伝えてくる。


「すごいね、央介くん! お家の屋根に登ったみたい! 不思議な景色!」


 悪人に銃を突きつけられる大騒動の最中だった昨日より幾分余裕があるせいか、彼女は随分と楽しげ。

 それでも今は市内に警報が響いている中。


「これでも緊急事態なんだけどな」


「あっ、そうだった。ごめんなさい」


 ――佐介が代わりに注意してくれた。

 素直に謝る紅利さんは、やっぱりきちんとした子みたいだ。


《央介、ハガネ、そして通信状態は問題ないな?》


 父さんからの通信。

 僕は携帯のカメラに向かって頷いて返す。


《よし、シェルター入口は青く光ってる柱が目印だ。くれぐれも注意して、彼女を運ぶんだ》


「うん、任せて」


「まぁ、昨日も同じようなことしてるしなー」


 紅利さんと佐介を両手で包み、ハガネとして大きな一歩を踏み出す。

 警報を聞いて避難を始めた人たちが、街に現れた異物、ハガネを見て、叫び声をあげだす。

 確かに、突然現れた巨人は怪物にしか見えないのはわかっているのだけど……。


 その時、ハガネの周りに数機のドローンが飛来した。

 続けて、それらに装備されたスピーカーからアナウンスが流れる。


《当大型物体は、都市自衛軍の特務兵器です。現在、救助活動にあたっております。本件に関するお問い合わせは、市の軍部受付まで…》


 繰り返されるアナウンス。

 そのおかげで、人々の反応はそれぞれとはいえ、パニックが広がる様子はなかった。


「こりゃいいな! この町は設備が整ってるって、こういう感じか!」


 佐介が快哉を上げる。

 ああ、これが軍が常駐する要塞都市の設備なんだ。


 ドローンたちはそのまま道の誘導や、道路上の人よけまでしてくれた。

 おかげですぐにシェルター前までたどり着く。

 通信の先の父さんに聞こえるように、思ったことを言う。


「確かに、楽! 気持ちも、動くのも!」


 ハガネの威容に驚く避難者たちの前で、ゆっくりと屈み、紅利さんと佐介を降ろす。

 紅利さんはそこで車椅子の向きを変えて。


「どうもありがとう! お……!」


 紅利さんは手を振りながら、危うく僕の名前を呼びそうになって、慌てて口を噤み、もう一度言い直す。


「ありがとう! 巨人のハガネ!」

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