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第十話「天空の貝殻」4/4

 =多々良 央介のお話=


「Dream Drive!ハガネ!」


 僕は、狭川隊長から返してもらったDドライブを手に、再度ハガネを作り出す。

 空の鳥船妃から目を離さないように。

 形を成していくハガネに佐介が飛び込んできて、合体する。


 通信先の司令室は、大騒ぎになっていて、まともな情報は上がってきそうもない。

 随分前から進めていた計画が、一瞬で台無しになったのだから、そうなって当然なのかもしれないけれど。

 あとは僕が、ハガネがいつも通りに解決するしかない。


「佐介、アイアンチェインを二本、片方は地面に打ち込んで、もう片方を相手に絡められる?」


「それで引き寄せる、か。やってみるしかないだろうな」


 ハガネの足元の地面に、銛付きのアイアンチェインを発射して打ち込む。

 さらに足で踏んづけて地面深くに差し込んで、固定完了。


「…逃げ場も無くなったな」


「さっきの叩きつけが無くなっただけ、マシだよ」


 丁度、鳥船妃もこちらを見つけたようで、旋回のコースを変えだした。

 また、こちらに突進してくるのだろう。


《央介君。相手の突進に合わせて、ハガネの背後に閃光弾を撃ち上げるわ。少しは相手も驚いて、行動にブレが出るはず》


 すぐ近くの指令車から狭川隊長の通信。

 見ると、物々しい大砲を担いで、こちらに手を振っている。


「ありがとうございます。でも、無理はしないで!」


《んー、不死身の私に無理はないかなあ。気にせず思う存分暴れて!》


 どうも、狭川隊長のジョークは返しに困る。

 巨人が誰かにケガをさせるだけで、申し訳ないのに…。


 それ以上を考える間もなく、鳥船妃の羽ばたきが鋭くなり、こちらに回頭して、勢いを増しながら突っ込んできた。

 フェイントで何度かアイアンチェインを撃ち出すと、相手は本物の鳥のように身軽に軌道を変えて避ける。

 でも、次の瞬間、周囲が真っ白に染まる。

 ――狭川隊長の閃光弾。


 僕は、閃光に驚き慌てた鳥船妃が回避しようとしたのを見過ごさなかった。

 回避の動きに合わせて、アイアンチェインの狙いをつけ、発射する。

 一本だけの鎖、その鉤が船体に引っ掛かった。


「今だ!思いっきり巻き取れ!」


 ハガネに地面に刺した鎖を掴ませて、固定する。

 あとは、佐介が上手くやれるか?


「ぐ、ぎぎ…!ば、馬力あるな。こいつ!」


 鳥船妃は、鎖の呪縛から逃れるべく、飛び回りはじめた。

 最大のスピードで、固定地点を軸にして、円を描くように。

 鳥船妃に絡めた鎖に引っ張られたハガネは浮き上がり、地側の鎖にぶら下がるような状態になる。


 それでも、鳥船妃は少しずつ引き寄せられていた。


「やれる…やれるぞぉっ!!」


「引っ張れぇ!!」


 今まで以上に鎖を握る手に力が籠る。

 これで、この巨人を止められる。


 そう思った時、目の前に尖ったものが飛んできた。


「うわっ!?」


 二本の鎖に固定されたハガネは身動きもとれず、鳥船妃から放たれた飛来物の直撃を受ける。

 それが当たった場所は、ハガネ頭部の主砲。


「ぐあっ!!」


「佐介!? 大丈夫!?」


 直撃を受けたのに、ハガネを攻撃された時の痛みがなかった。

 佐介が庇ってくれたおかげだというのを、何となく感じた。

 しかし、佐介がダメージを受けたせいか、鳥船妃を繋ぎ止めていたアイアンチェインが千切れ飛び、消えていく。


「お、オレは大丈夫…。一体何が…?」


 飛来物は、じゃらじゃらと音を立てる“鎖”を引き摺り、鳥船妃に引き上げられていく。

 その形は――


「あ、アイアンチェイン!?」


 自分たちがよく使う武器そのものを、相手が使ってきたことに驚いて、思わず叫んでしまった。

 先端の銛の形も、鎖の感じも、完全にハガネが使うアイアンチェインそのものだった。


「くそっ! ものまねしやがって!」


 さっき攻撃されたことも含めて、佐介が怒りを爆発させた。

 それを知ってか知らずか、鳥船妃は頭上を飛び回った。

 その甲板で、何かが反射光を放つ。


「まただ!」


 慌ててハガネを飛び退かせる。

 目の前の空間に、相手のアイアンチェインの銛が飛んできた。

 このままでは空の敵からは一方的な狙い撃ち、慌てて市街に展開されている隔壁の陰に隠れる。


《学習…、されたということか? アイアンチェインを丸ごと?》


 やっと、通信に父さんが戻ってきた。


《ああ、すまない…央介。戦闘中に余計な事を考えていたよ…》


「…大丈夫!こっちはちゃんと戦えてるから!」


「船の錨…じゃないな。完全にオレのアイアンチェインそのものだ」


 佐介が妙に拘る。


《それだけ相手にとっては脅威で、それで即時学習した…あるいは…》


 父さんも、何か引っかかった様子だった。


《…いや、今は考えている暇はない! ええと…大神一佐、近くにハガネと鳥船妃が入る大きさのトンネルは!?》


《トンネル!? あるにはあるが、巨人が暴れた場合の崩落が…》


《いいえ! 大丈夫です! 崩落は起こりません!》


 父さんが、勢いもって説明を続ける。


《先ほどハガネが地面に叩きつけられましたね? その場所の映像、出せますか?》


《は、はい。ええと中学校の校庭…これです!》


《確認しますが、今現在の映像、ですね?》


 父さんとオペレーターさんの声がするけれど、こちらからはどうなっているのか全く分からない。

 鳥船妃の様子をうかがいながら、ハガネは身を隠し続ける。


《…どうにかなっているようではないが…?》


《そうです、どうにもなっていないんです。ハガネが叩きつけられたのに、です》


《む…? つまり巨人は…地形に影響を及ぼさない、とでも?》


 地形に、影響がない?


《全く、というわけではないと思います。ですが、巨人は基本的に子供達の心から生まれたもの、自分たちの住む街を壊したいというのは稀のはずです》


 そういえば、悪夢王以外の巨人が、街の設備を壊した記憶はない。

 今、ハガネが隠れている隔壁だって、巨人がその気になれば簡単に壊せるはず。


《…賭けてみるだけの価値は…あるか! 央介君、ドローン部隊がトンネルまで先導する!》


《トンネルに相手を誘導して、壁面に繋いだアイアンチェインを相手に絡めるんだ!》


「りょ、了解!行きます!」


 命令を受けて、僕はハガネを走らせた。

 信号を明滅させたドローンが道を示してくれる。

 途中、鳥船妃に姿を晒して、追いかけさせよう、そう思って建物の影から飛び出した。


 その瞬間、またアイアンチェインの銛が飛んできた。


「ひっ!?」


 目の前で火花が散った。

 相手のアイアンチェインを迎え撃ったのは、こちらのアイアンチェイン。


「こちらの動きが見えてるみたいに…!」


「あ、ありがとう、佐介…」


 危機から救われて、佐介に感謝を伝えると、鼻息一つ、それから――


「任せろって! しかし…さっきからオレの主砲ばっか狙ってきやがる!」


《今まで二度、同じように鎖をかけた。その分、脅威の場所として認識されたのだろう。また補佐体は口が悪い。日頃から恨みを買いやすいのではないかな?》


 大神一佐からの、見解と冗談。

 …大神一佐って、冗談、言うんだ…。

 ハガネを再度物陰に隠し、また走り始める。


「ハガネになってる時にまで恨みを持ち込んでくる相手は居ないつもりだけどなぁ!」


《次の交差点のすぐ右手にトンネルだ! 央介、準備は良いか!?》


 父さんの通信通り、交差点で向き直ったハガネの前に開いたトンネル。

 そのトンネルの高さは、ハガネだと少し屈む必要があった。

 流石に走れないけれど、追いつかれるまでに――


「あのアホードリも入ってこれるサイズだ。ここに鉄の蜘蛛の巣を張ってやるさ!」


 ハガネの主砲が勝手に動き回り、トンネルの壁に天井にアイアンチェインを打ち込んで、網を作っていく。


 ――何か、今回は佐介に頼ってばかりだ。

 僕は、何もできていないような気がする。


「…なーに。この後のトドメは央介任せさ。よし、網は完成だ」


 またこいつは勝手に僕の心を読む。

 …でも、少し気が楽になった。


 そうだ、相手が絡めとられ続けるとは限らない。

 一瞬で、アイアンスピナーを直撃させないと――


 トンネルに影がさす。

 入ってきた側に鳥船妃が浮かんで、西日を遮っていた。

 ごくりと唾を飲み込み、タイミングを見計らう。


 鳥船妃の、突進。


「スライディングで躱せ!」


 佐介が言うより早く、ハガネは突っ込んでくる鳥船妃と地面との間に滑り込む。

 丁度すれ違うかたちになった鳥船妃は、アイアンチェインの網に飛び込んだ。


 鎖のぶつかり合う音がトンネルに轟音として響く。

 鳥船妃は、その先頭を鎖網に突っ込み、一方で船の長い胴体のおかげで、トンネル内では回頭できなくなっていた。


「それじゃ、アイアン・スピナー、いっとくか?」


「…うん」


 藻掻く鳥船妃の後方、少し狭いトンネルの中で鋼鉄の螺旋を作り、その回転速度を限界まで上げる。

 鳥船妃の影が、蜘蛛の巣にかかった蝶のように見えた。

 それを更に傷つけるのはためらわれたけれど。


「僕は…蜘蛛の巣に囚われた夢を、解放する…!」


 アイアンスピナーは鳥船妃を貫いて、そのままトンネルの外にまで飛び出した。

 残心、気を抜かず、きちんと相手の崩壊を見届ける。


《…鳥船妃の撃破を確認。央介君、お疲れ様でした…》


 そういうオペレーターさんの声が、むしろ疲れているように聞こえた。


《今回は…我々もぐったりだ》


 通信に続いたのは大神一佐の声。

 やっぱり元気がない。


「あの、大丈夫、ですか?」


《いくら軍人でも、目の前に見えていたゴールが無かったことにされれば、な》


《RBシステム…第二計画へ移行ですかね…》


 Dマテリアルを一度は砕いたRBシステム。

 その失敗は、大人たちにとっては結構大きな事件だったのかもしれない。


 ゴール。


 目指すべき決着。

 辿り着きたい夢。

 鳥船妃の、夢。


「――そうだ、父さん。今回の巨人なんだけど、クラスメイトに…」


 こんな時だけれど、僕は父さんにお願い事をした。

 落ち込んでいた父さんに、何か別のゴールを用意できないかと思って…。



 その傍で、佐介が呟いた。


「…なんで、鳥船妃は最後に偽チェインを撃ってこなかったんだ? 逃げ場がないから突進で十分? それとも…」


 鳥船妃が消え去って何も居なくなったトンネルの出口に、ハガネの主砲――佐介は照準を合わせたままだった。






 =どこかだれかのお話=


 誰も居ない場所で、誰かが呟いた。


「…なるほどね。父さんなら対策してくる、か。今回はエルダースのジジイが一枚上手だったみたいだけど」


 鳥船妃が消え去って何も居なくなったトンネルの入口で、ハガネの主砲――佐介を睨むのは、ギガント製のステルスマントに小柄な身を隠した者。


「こっちの攻撃タイミングを察して、オレが撃ったアイアンチェインを相殺…同じ思考回路だからか。…気に食わないな」


 独り言は、彼にとって癖だった。

 本来“傍にいる主”に情報を伝えるための、大事な癖。

 しかし、今となっては何の意味もない行動。


 自身の無駄な行動に気付いて苦笑した彼は、その場所から離れるために、踵を返した。

 軍や警察の現場検証となれば、身にまとっている様々な隠蔽機器にも限界は来る。


「…もう一度、偽物の弱さを確認すれば十分。ああ…、楽しみだなぁ…」


 人造人間の少年は、勝利を確信して、笑みを浮かべた。


 See you next episode!!

 佐介と紅利は、狂った空間に閉じ込められてしまった!

 ハガネが戦う力を取り戻すため、パズルのラビリンスで車椅子の少女と人造人間の少年が奔走する!

 次回『空間湾曲!分かたれた二人』

 君も、夢の力を信じて、Dream Drive!


 ##機密ファイル##

 『貝殻体』シェル・ポッド・サイボーグ

 機械義体を用いない形の拡張型サイボーグ。


 自走型医療ポッドの中に被改造者の肉体が収められている姿が貝のように見える事。

 先見あるSF作品に似た概念からなるサイボーグが登場したことから、この名がある。


 この時代、義体技術は人間を構築する全ての部品をサイズ・構造的負担無しの代替可能までに至っている。

 しかし、内臓、筋肉の作り出すストレス反応は神経系に大きく影響を及ぼしており、これら全てを機械・プログラムに置き換え、人体サイズに収め、かつ個人差などの調整もするともなると、流石にコストやリハビリが尋常なものではなくなる。

 そのため、生まれ持った人体全てをストレス反応器官として残したまま、そこに神経系接続機器を被せ、個人に合わせた生命維持全般の装置をワンセットで備え、神経共鳴量子コンピュータ拡張脳「バーチャルブレイン」による人機同調など、最低限の身体処置を施すことで、負担の少ない形で外部拡張接続をしやすくした姿。

 それがこのシェルポッドサイボーグであり、生物的な柔軟かつ繊細さと、人体の制約に囚われない機械支配能力を両立させた、新しい生き方の一つ。


 ただ、前時代においては戦闘不能に陥った重傷兵士や、生まれつきの身体障碍者を、生体制御装置とするための改造処置として発展した技術のため、忌避する動きも。

 一方で、重度の身体障碍を持つ人でも、この改造を受けることにより一切の介護が不要となり、高度な社会参加が可能となるため、当事者と社会での評価が食い違うという状況となっている。

 身体を呪術補助により健康化する獣人化改造こそ解決手段だとする声も一部からは上がっているが、これはあくまでも一部の、特定の団体のみからの主張。


 なお、高原 美宇は、心臓こそ人工のものに置き換えているが、シェルポッド化の改造処置を受けておらず、家族の介護を受けながら、簡易的な神経読み取り被服でリモコン飛行船を操縦している状態である。

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