表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/236

第十話「天空の貝殻」1/4

 =多々良 央介のお話=


「おはよー、の、ニュースっ!!」


 賑やかに声を上げながら、窓から教室に飛び込んできたのは、小さな飛行船。

 最初こそびっくりしていたけれど、流石に慣れてきた朝の日常。

 紅利さんと仲の良い、飛行船の女の子、高原さん。


 向こうの方で光本くんが渋い顔をしている。

 ごめん。本当に、ごめんなさい…。


「今日は何のニュースだよ? ハガネの中の人でも突き止めたか?」


 長尻尾の狭山さんが応対するのも、いつもの流れのような気がする。

 …流石に、ハガネをやってるのが僕だってバレてない、よね?

 佐介が、何かあったら飛び掛かろう、というような姿勢になってる。そういうのやめろ。


「あー、それも気になってるんだけどねー。でも今日はもっと重大な事!」


 そう言うと、高原さんは自分のフェイスモニターの画像を切り替えた。


 それは、メディアで流れていたコマーシャル映像。

 青い海から伸びて、青い空を貫く真っ白な柱。


《軌道エレベータ、アメノミハシラ。地球の青を眺めながら、漆黒の宇宙まで、快適の12時間》


 人間が作り出した最大の建造物、科学技術の結晶。

 赤道から宇宙に向けて三本伸びていて、その一本、アメノミハシラは日本を中心として太平洋の国々のもの。

 百年前は宇宙に行くのは命がけだったというけれど、今は地球側の駅から、縦に伸びる列車に乗り込むだけ。


《ステーション・ガイアは開業20周年へ、…キャンペーン開催中》


 昔から理論はあっても、構造とか強度とかがどうしても解決できなかったという。

 でも、それらを解決に導いた天才科学者が現れた。


 エルダース・クリスタル。


 どこの学校の図書室にも、偉人伝の棚に並んでいる一冊だ。

 科学分野において何をやらせても天才という彼は、やっぱり僕も憧れてしまう。

 100歳を超えてまだ存命だったはずだけど、今はどこで、どんな活躍をしているのだろう――


「で! だよ!」


 コマーシャルがループに入ったところで、高原さんの声がモニターから突き抜ける。

 あ、そういえばそういう話だった。


「このキャンペーン、無重力ステーション旅行なんだけどー。…みんなで応募して、当たったらわたしに頂戴っ!!」


「何だよ、その一方的にムシのいい話はよ!」


 高原さんの、確かに都合が良い話に、狭山さんがツッコミを入れる。

 ヘリウムガスのバルーンで浮かぶ高原さんはツッコミの一撃で教室の空中を漂って。


「…だって、その、宇宙船、憧れだもん…」


「なあ、これ情報確認したけどさ、当選者確認で、譲渡できないってあるぞ」


 いつの間にか携帯を弄っていた佐介が、非情なトドメ。

 そのまま、高原さんにその情報ページを見せつける。

 もう少し、柔らかい行動ができないものだろうか?


「あー…えぇー…、これ自力で当てなきゃダメなのぉ…? 折角、宇宙行けると思ったのになー…」


「宇宙だから、色々審査厳しいんだろう」


 落ち込んで落下しだした高原さんを、紅利さんが捕まえて、車椅子の膝に抱き留める。

 少し興味が湧いたので、話を聞いてみたくなって。


「高原さんって、宇宙に興味あるの? その…体の具合とか、大丈夫?」


 高原さんが使っている小さな飛行船。

 この類の“遠隔操縦の体”は、本当の体が深刻な状態の人が使う物だったはずだ。


「あー、そういえば多々良くんは知らないっけ? 具合は…悪くないんだよね。“うんどーニューロンしょーがい”で、ベッドに寝てる体だけどもー」


 多分、運動ニューロン障碍。

 …ええと。


「体中の筋肉がほとんど動かない、ってやつ。産まれてからずっとだから、具合は悪くないかなー。風邪ひいてるわけじゃないし」


 そこで高原さんは、プロペラを回して見せる。


「んで、こっちのが動く側の体っていう、分担?そんな感じー」


「一度、高原(みう)ちゃんのお家で、寝てる方の体見せてもらったけど、ほっそりしてて可愛かったよ?」


 紅利さんが相槌をうつ。


「ほっそりというか、筋肉がないというかなんだけどね。んで、機械仕掛けの全身タイツで神経とやり取りして――」


 ふわりと、高原さんの飛行船の体は、空中に浮き上がる。

 そのまま機械の腕で、ポーズをとって、


「こっちの体を動かしてるわけ。飛べるんだよ? 便利でしょ」


「強風の時、校庭一番の高い木に引っ掛かって大騒ぎになったけどな!」


「あはは…あの時は、狭川っちに外してもらって、ありがとね。お猿さん」


 狭川さんは自慢げなガッツポーズの後で、何か引っ掛かったらしく、少し首を傾げる。


「…でさ、こういう体の場合、大人になるまでお薬で治していって、そこそこ動ける体にするか――」


「――貝殻体(シェル・ポッド)のサイボーグになるか…」


 思い当たったことを、口に出してしまった。


 貝殻体は、体自体を機械と繋げて、大きな機械を制御できる状態にする、少し珍しい方法のサイボーグ。

 新東京島でお世話になった、軍の汎用戦闘機の兵隊さんがそういう体だった。


「なーんだ知ってるじゃん! で、わたしはそのまま宇宙船長になりたいの! シェル・ポッドの船長さんの船って人気なんだよ!?」


 高原さんは、手をびっと伸ばして、空を指さす。

 …かっこいい。


 何か、僕も、協力してあげたくなって、ええと…そうだ。


「あの、うちの父さんは科学者で、何度も仕事で宇宙にも行ってるから、こういう子が学校にいるよって言ってみる」


「ひょっとしたら、それで一気に宇宙まで行けちゃうかもな」


 僕と佐介で、少し無責任な話をしたかな、と思った。

 と、いきなり高原さんは僕の手を取って、


「期待しちゃっていい!?」


「あ、あはは。…あんまり、そんな、うまくいかないかもしれないけど…」


「じゅーぶん、じゅーぶん! ニュース、最速の宇宙船…うっふっふー!」


 よっぽど気分が高ぶったのか、飛行船の高原さんは高く飛び上がっていって――


「あいたっ」


 教室の天井に頭?をぶつけた。

 丁度その時、教室に入ってきた、ふわふわの耳。


「あー、高原だ。やっと追いついたよ…」


 ウサギネコの奈良くん。

 彼は、ランドセルを棚にしまいながら、高原さんに呼びかける。


「空飛べる奴は良いよな、まっすぐこられるからさー」


「時間的に奈良(ナナ)が寝坊しただけだろ?」


「弟がぐずったんだよ…一人っ子の狭川(ルッコ)にはわかんないだろーけどさ」


 ふかふかの毛並みの彼は、少しだけぼやいた後、何故かこっちに向き直って、首を傾げる。

 そして、妙な事を言い出した。


「あれぇ…? 多々良兄弟、二人ともいるな。オイラより遅刻組が居ると思って安心したのに」


「え?」


「早めに登校してたつもりだったけどな」


 佐介と僕で、顔を見合わせる。

 全く、心当たりがない。

 奈良くんは怪訝な顔。


「見間違えだったかなあ? 高原が飛んでいったのを見た後、駅近くのトンネル前」


「そっちは…家と逆の方向だし、登校中には行かないよ」


「二人ともずっとここにいたわ」


 僕の説明に続けて、紅利さんも証言してくれた。

 別の子を見間違えたのだと思うけれど。


「うーん…、多々良って実は三つ子だったりしないよな? 三人で交代して、一人は学校サボってるとかさー」


「…そんなに似てたの?」


 流石に気になって、問い質してみる。


「いやー、そう言われると…、背格好はよく似てたと思うんだけどなー。すぐにトンネルに入っていって、見えなくなっちゃったし」


奈良(ナナ)の記憶容量はあんまり当てにならないからな。この耳ばかり大きくて、のーみそ詰まってないんだ」


 狭山さんが、奈良くんの後ろに立って、長くて大きな耳を引っ張る。

 …触ってみたいな。

 流石に奈良くんがあんまりな扱いに憤慨しだして、話は流れていった。



 佐介が、呟いた。


「…央介に似てるのか、オレに似てるのか、どっちだったんだろうな?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ