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第九話「大いなるヒーロー」4/4

 =多々良 央介のお話=


《繰り返します! ゼラスから膨大なPSIエネルギーを検出!! 体温上昇、覚醒に向かっています!!》


 通信に絶叫のような警告が響く。


「ゼラスが…目覚める!?」


 慌てて、ゼラスの方を見る。

 先ほどまでは透明だった背びれに、青白い光が灯っていた。

 尻尾の先が、ぴくりと動く。


 それが、攻撃だと理解した時には、間に合わなかった。


 ゼラスの尻尾の薙ぎ払いで、基地の設備ごとハガネは弾き飛ばされていた。

 なんとか受け身を取って、すぐに立ち上がり、体勢を取り戻す。


「痛…! 痛い! どうして、ハガネにダメージが!?」


《央介! 大丈夫か!?》


 父さんからの通信――

 ――現状を、確認しないと!


「と、父さん。どう、どうなってるの!? 今のゼラスの尻尾、痛かった…!」


《PSIエネルギーだ! ゼラスも…構造がどうだかわからないがPSIエネルギーで体を守っている!!」


「こ、このサイズでオレみたいな巨人バリア状態なのかよ!?」


 ゼラスがこちらを睨んで、吼える。

 間違いなく、ハガネを敵と認識していた。


《これは…、ゼラスにPSIエネルギー感知能力があったのか? 巨人同士の戦いでエネルギーが高まったから…?》


《央介君、すまない! 少し、時間を稼いでくれ!》


「じ、時間!? こんな怪物相手に!?」


 大神一佐からの、いきなりの話。


《先ほどのゼラスの攻撃で冷却システムが機能停止した! 今、基地の砲台に特殊冷却弾を装填中だが、人員が退避していて少し時間がかかる!》


「U・メンシェからゼラスの連戦って、冗談きついな!!」


 その会話が終わるか終わらないかのタイミング。

 ゼラスが、回し蹴りならぬ回し尻尾を叩きつけてくる。

 それでも流石に二度目、距離さえ測れば、避けることはできる。


 ゼラスはそれほど手足が長いわけではないし、尻尾も距離さえあれば、そう思った。

 あとは――


「…央介、ゼラスって確か…」


 ――佐介が、“その可能性”に言及する。


 ゼラスの背びれ、そして鼻先の結晶角が強く発光しだす。

 巨獣は獰猛な顎を大きく開いた。

 口内に、光の環。


「…こいつも! こいつもビーム持ってた!」


 後方には基地施設。

 ハガネが避ければ、被害が――


「――盾で受け止める! 佐介!」


「えーっと!?」


 とっさの要求で、ハガネの手元に生じたのは、鉄の傘。

 慌ててそれを開いて、構える。


 ゼラスの口から放たれた青白く輝くエネルギーの奔流が、鉄の傘に直撃した。


 鉄の傘はそれを受け止めて、散らす。

 見た目はどうあれ、盾として機能したようだった。

 ハガネと基地施設に大きな被害は無し。

 だけど――


「ぐうぅぅ…これ、痛い、痛いぞ…」


「――!? 佐介、大丈夫!?」


「ゼラスのビーム…PSIエネルギーが混ざってる。何度もは、耐えられない…!」


 鉄の傘は、朽ち果てて崩れてしまった。

 これは…ヤバい感じ!?


《対巨獣特殊冷却弾、測距最低限で発射します!》


 急な通信とほぼ同時に、ゼラスの横面に飛来物が直撃する。

 次の瞬間には、ゼラスの半身が霜で真っ白く染まっていた。

 巨獣が狼狽えているのは見てわかる。


「冷却弾! 間に合った!?」


《駄目だ! 一発じゃ足りていない! 次弾急げ!》


 冷却弾で凍結近くまで持っていかれて動きが鈍ったゼラス。

 しかし、鈍ったなりに冷却弾が飛び来た方向に振り向き、睨む。

 結晶の背びれに再び青い炎が宿っていく。


《砲台を狙っている!? 別の砲は!?》


《今動かせてるのはあの砲台だけです! 特殊冷却弾は規格外なんで、エンハンサー3人の決死隊で無理やり動かしてます! 次弾まで約80秒!》


「僕が、行きます!」


 僕は、ハガネを走らせ、砲台とゼラスの間に割り込ませた。


「…佐介、どこまで頑張れる?」


「あと、50秒…かな」


「じゃあ、残りは僕だ」


 もう一度鉄の傘を出してもらって、ゼラスに向かって構える。

 さっき焼かれた影響で形成が不十分なのか、穴だらけになっているけれど。


 ゼラスの角が輝き、熱線がハガネに降り注いだ。


 ハガネの傘は、熱線を防いで、しかし耐えきれずに少しずつ破れていく。

 ついに傘が骨だけになり、あとはハガネを大の字にして、砲台の盾にする。

 痛みに耐えて、もう少しで時間、そう思ったとき――


《…駄目です! この状態では発射できません! 砲弾が熱線に飲まれてしまう!》


 体を焼く激痛の中、通信からは残酷な言葉が響いた。


「…限界まで頑張ったのに、しくじったかよ…」


「どうにも…ならない…の…!?」


 熱線が、ハガネを灼いていく。




 急に、視界が、真っ白く、なった。


《ごめんなさい。試しにしても無理をさせ過ぎたね》


 通信から、何処かで聞いたことのある声が聞こえる。

 全身の痛みはもう無く、目の前に見えていた白い光は、熱線を阻む壁だと気づく。


《年若い君の精一杯を見せてもらった。後は、任せてくれ》


 ボロボロになったハガネの傍に立つ、大きな大きな姿。

 巨人のハガネより、ずっと大きくて。


「…本物だぁ…!」


 佐介が、聞いたこともないような声を漏らす。

 それは、人型を満たす炎に、銀の輪を纏った巨神。

 ――U・メンシェ。


《ゼラスの子。未知の相手に怯えるのはわかるが、少しやりすぎだ。君の居場所、深い海に帰りたまえ》


 ゼラスも、突然の事に熱線を吐くのを止める。

 ああ…助かった、のかな。


 光に包まれた巨神の顔、表情なんてわかるはずもないけれど、何故か優しい笑顔をしているような気がした。


《地球の人たち、冷却弾をもらうよー》


《ああっ!? ちょ、ちょっと…。き、緊急! 何者かが侵入してきて、冷却弾が、冷却弾と消えました! 侵入者が!》


 通信回線は混乱し続けている。


 巨大な影に戸惑い、動きを止めていたゼラスの傍に、新たなU・メンシェが現れる。

 こうしてみると、このゼラスって小さい。


《さあ、ゼラスさん。お薬ですよ》


 二人目のU・メンシェは、小さなゼラスを抱きとめて、手に持っていた何かを口に含ませる。

 それは、何かの砲弾。多分、持っていかれた冷却弾。

 冷却弾はそこで砕け、真っ白い霜が噴き出して、ゼラスの角からは青白い光が失われていく。


《ゼ、ゼラスのPSIエネルギー、熱エネルギー共に低下…。休眠状態に移行していきます》


 眠りに落ちていくゼラスが、宙に浮いていく。

 次々に起こる異常現象に、もう何も考えが追い付かない。


 通信に、再び声が響く。

 …そもそもこれ、通信なのかな?


《少年。よく戦い、よく護ったね》


《でも、君は少し気を張り詰めすぎー》


 二人のU・メンシェは寄り添って、ハガネに大きな手を差し伸べる。


《もうすこし経験を積み、心の天秤に余裕を作るようにしよう。今は、見えなくなってるものがあるかもしれないよ?》


《君が、私達と肩を並べて、大勢の人を救う日が来ればいいねー》


 U・メンシェに手を引かれて、ハガネは立ち上がる。

 彼らと、ゼラスは、ゆっくりと空高く昇っていく。


 そして、彼らは南の空へ消えていった。

 広い海に、巨獣の子供を帰すために。




 僕も佐介も、これは夢の中にでもいるのではないか、という気持ちのまま、父さんと合流した。

 父さんもポカンとした感じで、それでも僕たちの無事を喜んでくれた。


「あ、多々良兄弟! 良かった…シェルターに居ないから心配したよ」


 いきなり声をかけてきたのは、面矢場くん。

 原因となったのは彼なんだろうけど、怒る気持ちにもなれない。

 これも、U・メンシェの不思議な力だろうか?


「にしても、ゼラスにハガネ、本物と偽物のU・メンシェをまとめて見られるとはなー、今日は一生の記念だよ」


 まあ…僕もヒーローに、U・メンシェに手を引いてもらえたのが、一生の記念かな。

 その代わり酷い目にあったけども…。

 ああ、疲れた――



 ――男の子は、ヒーローの去っていった空を眺めて、ぽつりと呟く。


「…僕は、あんな立派なヒーローになれるかな」


 See you next episode!

 人の夢は空を飛ぶこと

 少女の夢は宙を飛ぶこと

 しかし、ハガネは大地に縛られて、空を飛ぶ敵に翻弄される!

 次回、『天空の貝殻』

 君も、夢の力を信じて、Dream Drive!



##機密ファイル##

 『U・メンシェ』ウニウェルズム・メンシェ、宇宙人種の意味だが、ユーベル・メンシェ、超越人種という言われ方もする。

 言うまでもなくアレがモチーフ。


 太陽表面に宇宙船を停泊させて住み着いている人型種族。

 通常形態の身長は人間と大差ないが、活動形態として数十メートルまで巨大化する能力を持つ。


 それを可能にしているのは体を構成している高次物質で、次元方向に折り畳んだ莫大なエネルギーに通常物質の形態を持たせてあるもの。

 本質がエネルギーであるために見掛け上の物質を自由に切り替えることが可能で、外部からの物質補給が不必要。

 更に、エネルギーを折り畳む回数を増やすことで、無尽蔵にエネルギーを蓄積できる次元電池とでもいうべき効果をも持つ。

 恒星表面に住み着いているのも、有事に備えてエネルギーを十二分に蓄積しておくためだ。


 彼らと接触した人物によると、彼らの母星は恒星系規模の災害、真空相転移断層が差し迫る中で、いくつかの陣営に分かれての最終戦争を起こし、滅亡。

 僅か生き延びた人々は同災害からの生存手段として、体の構築物質を上記の高次物質への転換を行う。

 それは、その時点では真空相転移空間内での崩壊耐性を持たせるためだけの処置だった。

 しかし、副産物としてエネルギーの超蓄積、自在なサイズの変換、そして強い精神共感という能力を得てしまったという。


 母星を滅ぼしたことを大罪として心に刻んだ彼らは、罪を償い、他種族に同じ悲しみを背負わせまいとして銀河各地へと渡っていった。

 そして知性体同士の緩衝・調停、文明規模的に対応が困難な災害からの救助を旨として、銀河のお節介焼き種族というポジションとなる。

 そういった事情あってかU・メンシェという言われ方も「優れた種族なら星を失うような愚は犯さない」として本人たちは否定している、とのこと。


 なお、物質こそ高次物質に置き換わっているが、地球人とのDNA適合率は 99.9%に及び、すなわち遺伝子分類上では、彼らは地球人に該当する。



 『ゼラス』 XE・RA・TH ゼノクリーチャー・ラジオアクティブセル・シング

 言うまでもなくアレがモチーフ。

 エリマキは付いてないが角がある。


 海底に棲む巨大異種生命。

 活性物質をエネルギーとして転換する、炭素ケイ素入り混じった細胞からなるRA生命体の一種。

 古代、岩盤状のアメーバとでも形容すべき生物だったRA生命体が、いかなる経緯によってか地上生命と接触。

 RA生命体は地上生命の生体、死骸を取り込んで変質していき、中でも爬虫類の影響を強く受けて、立ち上がったトカゲのような姿・生態を獲得したものがゼラス。


 21世紀には隆起・崩壊を繰り返す活発な海底火山脈と誤認されていたが、それらは海底熱水鉱床から排出される活性物質を求めて彷徨するRA生命体だったようだ。

 そういった海底や地底、場合によっては溶岩脈などの本来の生息地に居るうちは“食料”も豊富で安定していた。

 しかし、人類文明が発展するにあたって活性物質を作り出してしまい、“ご馳走”の強い匂いを嗅ぎつけてRA生命体群は地上に現れるようになってしまった。

 人類にとって厄介な障害となったRA生命体だが、それぞれ元々が海底熱水鉱床を奪い合う間柄だったせいか、縄張り意識が非常に強い。

 そのため別種のRA生命体や、ある程度比肩する大きさの生物が目の前に現れると、とにかくそちらの排除に向かう、という習性がある。


 その中で、ゼラスは初めて確認されたRA生命体であることと、太平洋の日本近海に住み着いていること。

 さらに活性物質を求めて日本に上陸したり、日本に現れた他のRA生命体との縄張りをかけた決闘を行うなどするので認知度が高い。


 ゼラスは脳と呼ぶべき器官を複数持ち、強い神経系を持つため、強力なPSIエネルギーを持っている。

 それ自体を表立った攻撃に使う事はないのだが、彼らの身体の防御や膂力の補助として効力を発揮している。

 また、いわゆるサイコキネシスを用いることで、吐息として吐き出した活性物質の粒子加速サーキットを形成、重粒子ビームとして放射する攻撃手段を本能的に得ている。


 本編に出てきたのはかなり小型の個体で、幼生にあたる。

 そして、普段ゼラス自身が上陸してくるのは前述のとおり人類が原因なのだが、今回の事件はゼラスの幼生を助けるべくして最中に起こった事故。

 だから珍しくゼラス関係でU・メンシェが介入してきたのだ。

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