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第八話「ハダカのハガネ!?」4/4  

=どこかだれかのお話=


「ギガントの…Dr.エルダース!」


 “佐介”は、拘束されている手足を引きちぎるような勢いで、身を振る。

 なんとか、この敵を排除しなければ。


 しかし、佐介には一つ引っ掛かっている言葉があった。

 補佐体の、コピー体。

 この老人、Dr.エルダースは、佐介をそう呼んだ。


「ああ、無理をするものではない。その拘束は君と同質のD投影体、つまり巨人なのだ。外れんよ」


 何も問題がないと言わんばかりにエルダースは語って聞かせる。


「君の前に、幾体かのコピー体を作り、そちらで実験したからね…」


「…コピーだぁ? さっきまで、オレは央介と一緒にいた! 一緒の部屋で寝て…!」


 エルダースはそれを聞いて満足気に頷く。


「ならば君の複製率は100%ということだ。記憶、能力も含めてな」


 そう言うと、エルダースは指でこめかみのあたりをなぞる。


「…このような機械を使ったのだよ」


 その言葉に合わせて、周囲の空間に立体映像が現れる。

 それは甲虫のような姿を大きく表示していた。


「Dマテリアルを搭載した、虫に擬装したスパイドローンだ。これは子供に接触して巨人を出現させると同時に――」


 映像の虫の一部分が拡大され、青色の素材が強調表示される。


「微少に含むDドライブ光子回路の共振で、君のオリジナル…補佐体のデータを写し取っていた、というわけだ」


 いつの間にかエルダースの手元には、そのスパイ虫が握られていた。


「まあ、もうこれは使えなくなるだろうがね。多々良博士は優秀だ。きちんと対策をしてくる…」


 エルダースはそう言って、指先の力一つでスパイ虫を圧し潰した。

 赤色と青色の部品が、床に散らばる。


 しかし、手段などは佐介にとって、どうでもいい事だった。

 佐介は、怒りを言葉として目の前の老人へぶつける。


「てめぇがギガントのトップだっていうなら、ぶち殺せば全部終わりだ。違うか?」


「ふむ、組織に大きな影響が出ることは、間違いないだろうな。だが…君のその怒りは、君の物ではない」


「…ああ、そうだ。これは央介の怒りだ。オレは全部が全部央介の物だからな!」


 佐介の怒りの勢いが、堅い拘束に歪みを発生させた。

 厳重な構造の機械が音をあげて軋む。


「だからお前らを全部ぶっ殺せば! 央介は幸せになるんだ!!」


「ほう…! これは想定外だ。Dドライブ光子脳しかない君が独自にPSI出力を発生させうるのか…」


 佐介は、拘束が完全でないものと察して、全身全霊でその拘束を壊しにかかる。

 しかしエルダースが気を留めたのは、解き放たれようとする殺意よりも、そこで起こった現象の方だったようだ。


「使用されている有機素材からすれば数値を8ポイントほど加算すれば…いやいや足りないかもしれないな。うむ」


「…ぐうっ!?」


 エルダースが端末を指先一つで操作する。

 途端、佐介の体に更なる圧力が加わった。

 拘束は、もう動かせない。


「ああ…これで良いようだな。だが素晴らしい。不動博士もこの結果を見ることができればなあ…」


 エルダースはインジケーターを眺めながら独り言を繰り返し、数字を確認し続け――

 ――と、我に返って、再び佐介に向かう。


「いかんいかん…、別の問題に関わっている暇はないのだった」


「殺す…! 殺す…! 殺す…! 殺す…!」


 怒りの塊となった佐介には、エルダースの行動一つ一つが、苛立たしかった。


「…さて、先ほど君は、自身は央介の所有物だと言っていた。だが、それは、違う」


 エルダースが杖で地面を突くと、佐介の前に大きな映像が表示された。

 それは、央介と、その傍にいる佐介の姿だ。


 最近、少しずつ笑顔を取り戻しつつある央介と、それを内心で喜ぶ佐介。

 だが――


「央介君の傍にいて、所有物であるのはオリジナルの補佐体…佐介と呼ばれる個体だけだ」


 映像で残ったのは、佐介の姿。

 ここにいる佐介ではない、佐介の姿。


「君は、ギガントによる複製品でしかない。本物と同じ完成度だがね」


 佐介の怒りは、少しぐらつきだしていた。

 何処かの歯車が狂いだす。

 そこにエルダースの言葉が重なる。


「君が、仮にここを出て行ったとして、君の行きたい場所には、オリジナルの佐介が既に居る」


「…お前をぶち殺すことには変わらない…!」


「そうか、孤立無援で、彼らに立ち向かうか?」


 佐介は、その言葉の意味をとりかねた。

 それをエルダースが解説する。


「言っただろう、君は我々ギガント製だ。何か余計な装置があるかもしれんな」


「余計なっ…!? 何をした!」


「そうだな。例えば本物のふりをして近づいての自爆だの情報収集だの…。何にせよ君は…元の場所に辿り着いても、排除の対象にしかならないのだよ」


 佐介の心臓が、重く響く。

 それは、彼の有機体を維持するための擬装の一つでしかないのだけれど。

 エルダースはそれらに構わず、話を続ける。


「君は間違いなく排除される。央介君と、その傍にいる“佐介”にな」


 佐介は、目の前の映像の、佐介に目が奪われる。

 “この佐介”は…きっと、幸せなのだろう。

 開発目的通りに、央介を護れて。


 なのに、どうして、自分は、こんなところにいる…?


 おかしな疑念が、怒りに混ざる。

 そこへ、エルダースの言葉が、響く。


「君は、央介君のためだけに造られた。だから、それ以外に価値を感じず、自分も、世界も、央介君を幸せにするための物と考えている」


 周囲を、央介と佐介の映像が埋め尽くしていく。

 どうして、自分は、こんなところにいるのか、佐介の混乱は激しくなる。


「生物は、生きられる場所を奪い合い、同種と争う。そういう意味では君も生物と言えるだろう」


 悪魔が、囁く。


「我々は君に協力しよう。君が居場所を得るまでの間だけ。…それからは、好きにするがいい」


 エルダースの言葉に、佐介だった少年型人造人間は、手に入れた目標を呟く。


「佐介を…破壊するまでの間…」


 その人造人間の目の前に、赤く、美しい結晶が現れた。


「ダミーDドライブ…外部からPSIエネルギーを集め、疑似夢幻巨人を形成するものだ。持っていきたまえ」


 人造人間は、それに手を差し伸べて、掴む。

 もう、彼は拘束されていなかった。


「佐はジャパニーズでLeft、だったかな。違ったかもしれないが…」


 エルダースはコンソールを操作し、何らかの記述を行いながら、人造人間に語りかける。


「であれば、君はその逆。Right、佑介とでも呼ぶべきかな?」


「…名前なんてどうでもいい。オレは…」


 武器を与えられて、裸足で地面に降り立った人造人間は、既に狂気を宿していた。


「――オレの居場所を取り戻す!」


 See you next episode!


 巨大な獣が現れた。

 しかしそれは巨人ではない。

 いつもと異なる事件に組み込まれた央介は、世界を守る力を見る!

 次回、『大いなるヒーロー』

 君も夢の力を信じて、Dream Drive!


##機密情報##

 獣人

 エビル・エンハンサーの技術を民生用に転換したもの。

 軽獣人体、重獣人体で変身できるエンハンサーに対し、常時獣人の姿のまま。

 エンハンサーが“怪人”とすれば、獣人は“戦闘員”にあたり、呪術効果は弱く、更にその全てが治癒などの身体強化に向かうため、怨霊体攻撃はできない。


 獣人は、動物の遺伝情報、肉体構造、頭脳情報などの生体情報全てを保有する機械小胞体を投与し、それが全身の細胞に定着したところで、外部から呪詛を受けさせることによって人間から変質させて製造される。

 Eエンハンサー同様に細胞内の機械小胞体の継承、及び子宮内での呪術感染のため、男系では遺伝せず、母系で確実に遺伝する。

 外見は耳・尻尾を付けた人間程度のものから、完全に動物の姿にまで変質させたものまで幅広い。

 ただし、呪術的変質なのでDNAなどの面では人間から何か変わっているわけではない。


 前時代においては、人権剥奪者の労働力強化目的で、体質改良のために大勢の人々が強制的に獣人へと改造されていった。

 当然、獣人の姿は身に付けられた電撃枷と合わせて実質的な烙印となる。

 しかし、第四次大戦末期、日本一月内戦の終結で、軍事・科学団体による旧政府の体制が崩壊。

 戦後に他の人権剥奪者や機械人種含めて、人間としての権利・名誉が回復された。


 それに際して、獣人体を解除していくべきだ、という議題も持ち上がったのだが、解除にはそれなりにコストがかかる。ちょっと家が建つぐらいに。

 一方で獣人は身体能力において単純に動物と人間の加算で、更に人間の感染症にも動物の感染症にも耐性があり、負傷の回復速度は相互作用によって四倍ほどにもなる。


 結果、政府が責任もって人間としての姿も回復させるべきだという派閥と、むしろ獣人体のが優秀であり推奨すべきだという派閥が長年議論を重ねており、本来の議題だった獣人体解除の法案整備は滞ったままである。

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