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第七話「鎮めよ、炎!」2/4

 =多々良 央介のお話=


 ハガネの前に立つのは、人型の燃え盛る炎の塊。

 大通りの真ん中に、火炎の巨人。


 世界の最後の神さまの戦いに、全てを焼き払う炎の巨人たちがやってくる、というのがあった。

 世界の最初の女神さまが、火の神さまを生んだときの火傷で死んでしまう、というのがあった。

 火は、それだけ多くの物を奪ってきたのだと思う。


 でも、女神さまが死ぬときに生まれたのが、火で金属を溶かして形作る神さま。


 たたらという名前が示す通り、金属を扱っていた僕のご先祖さまは、その金属の神さまを親として慕う一族だったという。


 火の子孫の僕を、火を怖がる紅利さんはどう思うのだろうか?

 父さんが作った火の巨人を、これ以上暴れさせないようにできるだろうか?


《――戦闘コードを発行します。現対象のコードは“火炎王”です。繰り返します…》


「間が悪いというか…紅利ちゃん、大丈夫かな?」


 佐介が珍しく他人の心配をする。

 僕は、少しの強がりを口にして返す。


「彼女の目に触れる前に、さっさとやっつけちゃうさ」


 ハガネが身構え、しかし炎の見た目もあって、どう手を付けるか迷ってしまった。

 その間に、火炎王の周囲にあった街路樹に、火が燃え移る。


「…その街路樹だって、好きな人がいるかもしれないのに。佐介っ!」


「了解、アイアン・スピナー、行けるぜ!」


 相手への苛立ちに、適当な理由を作って、攻撃の備え。

 無駄に時間をかけず、最初から最大の攻撃をぶつけてしまおう。


《あ、アイアン・スピナー、確認しました。対象方向に友軍なし、どうぞ!》


《…いや、ちょっと、どうだろう? …央介、スピナーは…!》


 父さんから、制止の通信が割り込む。

 でも、敵を一撃で倒した技を過信していた僕は、それが警告だとは気づかなかった。


 作り出された鉄の螺旋は、限界まで集束して、ハガネが火炎王を貫く。

 貫いて――


「っ! うわあああああぁぁぁあああ!!」


 佐介の絶叫がハガネの中に響く。

 同時に、僕の全身にも猛烈な焦熱が襲い掛かってきて、思わず倒れて、転げまわる。


「ぐっ、あっ…!!」


 視界にわずかに映ったハガネの体は、真っ赤になって火を噴いていた。


《央介ぇっ!!》


 父さんの声で、何とか我に返る。

 並大抵の攻撃では、ここまで影響を受けないはずなのに、どうして。


「…くっ! …だ、大丈夫! 僕は大丈夫!」


 落ち着け。これは、ハガネの負ったダメージで、僕の体のダメージじゃない!

 ――でも、佐介は!?


《は、ハガネ体表に異常を確認! 炎上、赤熱化だけでなく、発光線が消失しています!》


《…佐介がダウンしたか!? 央介、一旦引け! 今のハガネは夢幻巨人じゃなくなってる!》


「う、うん!」


 ゆっくりと振り向く火炎王から、慌てて飛び退る。

 道路地面から、いくつかの隔壁が競り上がって、ハガネと火炎王の間を遮っていく。


《煙幕弾! ハガネが再機能するまで時間を稼げ! それと…》


 ハガネの全身は、まだ赤熱していて、焼け付く温度になっているのを感じる。

 我慢してるけれど、僕も体が焼け付きそう。

 ――佐介は、これを諸に受けてしまった。


《央介、国道に消防車が集結している。そこで水を浴びせてもらえ。多分効くはずだ。》


 巨人に、そんな直接的なことが効くだろうか? と思ったけれど――

 ――それでも、さっきの失敗は父さんの言うことを聞かなかった結果だ。


「うん…はい! 今すぐ。…それと、父さん、佐介は…?」


《過負荷で気絶、と言ったところだろう。その程度で壊れるようには作ってないから安心するんだ》




《…央介、聞いてくれ。思うにアイアンスピナーは、ハガネ自体を限界まで細く引き絞っての攻撃なのだと思う》


 父さんの話を聞きながら、ハガネは焼けた全身を引きずるようにして、国道までの坂を上る。


《金属というのは、熱を受けると表面からあっという間に化合を起こす。つまり燃えるんだ》


 坂を上り切ったところで、真っ赤な消防車が大勢で出迎えてくれて、すぐに放水が始まった。

 猛烈な放水は、ハガネの熱を受けて蒸発し、大量の水蒸気に変わる。


《…どうだ? 効き目はありそうか?》


 放水を受けたところから、徐々にハガネの赤熱化は収まっていく。


「うん…ちゃんと冷えてるみたい」


 水を掛ければ、冷める。

 物質じゃないハガネでもちゃんとそうなるんだ。


《まあ…、イメージの問題だな。今回、ハガネが燃えたのもそれだ》


「どういうこと?」


《スチールウールが燃える、というのを見たことがあるか? 今回の場合、相手の巨人側はそれを知ってたんだろう》


 理科の実験で見た覚えが…、と考えた所で――


「ぶあーっ! あちちあちあち!! …あ?」


《修理の必要はあるか? 佐介》


 ――佐介は無事だったようだ。

 同時に、ハガネの体表面に青い発光線が波打ちはじめる。

 よかった、何とか戦いは続けられそうだ。


 安心する僕とは別に、父さんと佐介が受け答えをして、故障がないかの確認。

 問題はないことが分かって、今度は今後の戦い方についての相談。


「えーと…、じゃあアイツにはアイアンスピナーが効かない?」


《細い金属になってしまうと、表面積率が増える、熱を加えやすい、燃やせる、溶かせると認識されるとすれば、そうだな》


「格闘したい相手じゃないけどなぁ…」


 酷い目にあったせいか、佐介が及び腰になっている。

 焦って攻撃を仕掛けて、悪いことしたかな…。


《まあ、そう悲観するな。今、ハガネはどうやって立ち直った?》


 ええと…、消防車の水を被って、火を――。


「――あっ、そうか。相手の火を消しちゃえば!」


《そういうことだ。シンプルなイメージほど巨人には効き目がある!》


 父さんと僕たちの作戦会議が終わったところで、通信が騒がしくなり始める。

 どうやら、火炎王に動きがあったらしい。


《火炎王、ハガネに向けて移動を開始しました。都市防衛隊は、残された火災の対処を》


《…なんだ? ナパームみたいな燃焼物でもばらまいてるのか? コンクリの隔壁にまで火が回って…》


《防衛塔、ミサイルへ化学消火弾頭の装填が完了しました》


《よし、消火弾頭ミサイルをリニア射出。火災、及び火炎王に直撃させる。推進燃料が抜かれているか確認!》


 大神一佐の指揮が通信に流れる。

 消火弾頭ミサイル…都市軍には、火災への対応手段もあるということだろうか?


《全防衛塔、最終確認完了!》


《測距次第、撃てェ!》


 そのミサイル達は、防衛塔から伸びたリニアレールから発射音も推進炎もなく飛び立った。


 火炎王はギリギリで反応し、一発のミサイルを両腕で受け止めた。

 だけど、二発、三発と連続したミサイルは火炎王や、その周囲に着弾。

 そこから噴き出したのは、爆発の炎でなく、化学薬品の真っ白い泡。


「あれって、工場の爆発とかに使う…とかいうのだったかな」


「火が消えちゃえばアイアンスピナーでソッコー…、ん?」


 佐介が先に気付いた。

 様子がおかしい。

 火炎王の居た場所を覆う泡が、炎に照らされ、オレンジに染まる。


 それは火炎王の残り火かと思った。

 でも、違う。


 “消火剤の泡が、燃えている”。


 その向こうに、火炎王自身が居て、平然と全身の炎を揺らめかせていた。

 通信をどよめきが埋め尽くす。


《か、火炎王、状態に変化なし! それに…化学消火剤が燃焼しています!?》


《弾頭を間違えでもしたか!?》


《…っ!! …知らないんです。多分!》


 父さんの苦しそうな声が、通信に入る。

 大神一佐が、慌てて聞き返す。


《知らない!? 一体どういう事だ、多々良博士》


《巨人の元になった子供が、あの消火剤が火という化学反応の連鎖を止めるということを知らない。だから…》


「消火剤が消火剤だってわからないから、燃やせる!?」


「そんなのアリかよ!?」


 僕と佐介は非常識な現実に不平を叫ぶ。

 つまり、火炎王は自分の金属は燃えるという常識を押し通し、一方で良く知らない消火剤は燃やす非常識を押し付けてくることになる。 


《火炎王の炎は、炎に見えて巨人です。確認してください。周囲に燃え移った本物の炎は…消えていると思いますが》


 確かに、火炎王から離れた場所の火災は、消火剤の泡に覆われて収まっていた。

 一方、火炎王の周囲では何もない地面や、消火剤が燃え続ける。


《…消火剤が火に効くものだ、と相手が学習するまで撃ち続けますか?》


《いえ。逆に、巨人であれば消火剤も燃やせると学習される可能性があります。…大丈夫ですか? 大神一佐》


《…う、うむ、駄々っ子に細かい理屈は…、通じないとみるべきだろうな…》


 何か、とても疲れたような大神一佐の声が、携帯から聞こえる。

 やっぱり、ここはハガネが頑張るしかない。


「じゃあ、もっと簡単な理屈にするさ!」


 威勢のいい佐介の声と同時に、ハガネの主砲が角度を変えて、指示通りのものを吐き出す。

 想定より大きかったそれを、慌ててハガネに受け止めさせる。


 それは、近くにいる消防車ほどもある巨大なバケツ。


「僕は、火遊びの夢に水ぶっかけます!」

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