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第四十三話「そして、名を冠する者たち」8/8

 =多々良 央介のお話=


 空へまっすぐ飛んでいく光。

 それは炎と氷を合わせた消滅の矢。

 だけど、その力は要塞都市を消し飛ばすことなく終わった。


 クリスマス・イヴのその日、二人の機械の子供たちが新たな名を冠した。

 冬至を越えて夏へ向かいだした朝日が、新しく生まれた彼女らを照らす。


 白銀の髪に、氷で両手両足を形作った人造人間の少女、ユミル。

 黒鉄の髪に、炎で両手両足を形作った人造人間の少女、スルト。

 双子の姉妹は支え合いながら、生まれた時には決まっていた彼女らの敵である僕のハガネへ向かい直る。


 ――けれど、その4つの瞳に敵意がないのが見えた。


 ああ、気持ちがいい。

 きっと僕は最良の決着に辿り着けたんだ。

 胸を満たす誇らしさを感じる中、僕の相棒が彼女らに語り掛ける。


「で、これからどうするんだ? 目的も失くした補佐体後輩どもよ」


 その質問に、ユミルは目を伏せながら答えた。


「……そうだな。我らを謀ったギガントどもを叩く。この身が果つるまでな」


「たたく、たたく! 許せないもん! ボクのユミルをあんなにいじめて!!」


 パートナーの言葉に合わせて無邪気に怒りを見せたのは、ユミルへじゃれつくスルト。

 その意外な人格にユミルが驚いているのが見えた。


 二人の選んだ答えは、その戦う相手は。

 僕は、ハガネの手を差し伸べながら、語り掛ける。


「……そっか。それなら、君たちは――」


 仲間として手を取ろうとした途端の事だった。

 凍結から解放された要塞都市の兵器が稼働しだす。

 狙いは当然、敵性体であるユミルとスルト。


 僕は、通信回線へ静かに語りかける。


「……大神一佐。相手には既に戦意がありません」


《だろうな。だが、外部からの強制稼働の危険性が残されている》


 軍の冷徹な判断から1発の砲撃が飛来して、だけどそれを僕はハガネの体で遮る。

 冷静で優秀、信頼できる軍司令官に僕は逆らい、邪魔をする。


《――央介君、何を?》


 大神一佐から当然の質問に、僕は答えた。


「はい、これも僕のワガママです。ここにいるのは今、名前が付いたばかりの子供です。そんなものに武器を向けるんですか?」


《そうか。……脅威対象への攻撃を続けろ。ハガネを巻き込んででも、効果が確認できるまで》


「このような児戯で我らに傷をつけられると……?」「ばぁ~りあ~。効かないもーん♪」


 爆炎の中で大神一佐と、そしてユミルとスルトが当然の対応。


 ――大神一佐は真面目だなあ。

 巨人能力を取り戻した相手に通常兵器が効き目を持つはずはないから、軍としてのルールを見せるために動く他ないんだ、きっと。


 ユミル・スルトの防御超能力とハガネで流れ弾を受けながら、僕が次の対応が思いつかず困っている内に動いたのは佐介。


「砲撃もタダじゃないだろうに。……おい新人ども、お前らがここにいる限り軍は攻撃を止めないし、戦闘放棄つっても父さんたちに分解分析されるまで終わらないぞ。それが嫌なら、さっさと行っちまえ」


 うん、そうだね。それぐらいしか思いつかないや。

 軍を敵に回した悪い子な僕らの提案に、ユミルが頷いて。

 それからスルトが何やら力を籠める仕草。


すれいぷにる(超々高速移動)ぅー! ユミル、行きたい場所ある? どこにでも飛ぶよ!」


「無いな……スルト、お前の行きたい場所は? それが無いならば、世界の果てとでも往くか」


 ユミルの誘いに何度も頷いたスルトは、彼女の存在意義を告げる。


「ボクが生きたい場所は、いつでもユミルのとなり! じゃあ世界の果てまでー、いっくよーっ☆」


 膨大なPSIエネルギーの流れを感じる。

 それは向きを揃えて、そして次の瞬間には空の彼方へと飛んでいった。

 人造人間の二人が居た跡には、もう何も残っていない。


《攻撃対象、シロ型3号体、4号体。共にロスト……戦闘を警戒状態へ移行します》


《ふむ、仕事も出来ずでは税金泥棒の誹りは避けられんな。彼らが無差別テロ犯にでも身を落とさなければ良いが……》


 大神一佐の白々しい諦念と、一方で見逃した相手への心配。

 残っていたのは要塞都市の攻撃が巻き起こした爆煙を高速移動で引きずったトレイルだけ。

 その行き先をハガネは、僕は見送った。


 ユミル、スルト。

 名を冠する者たちの結末(finale)が、悪ではないことを願って。




 =どこかだれかのお話=


「うふふ……」


 要塞都市崩壊の危機が終結して1日後、“彼女”は暗闇の中で一人微笑んでいた。

 その両手両足を徹底的に縛る拘束衣、食事や自害すら許さない口銜と点滴の管。


「不可視の破壊……呪怨障壁。日本自衛隊最大の防衛技術にして戦略兵器……その最高精度。うふふ」


 彼女――仮面をつけたギガントのエージェント、アノセルプは捕縛を受けたまま自身を襲った罠が何だったのかを分析していた。

 そして、彼女のつぶやきを肯定する言葉がかかる。


「その通りだ。それが逃げ出そうとしたお前のアトラスを待ち伏せ破壊、捕獲した。直前に同型のアトラスを確保できて機能・構造が判明していたのは幸運だったし、EEアグレッサーを呼び戻した甲斐もあったねえ」


 監獄前に薄笑いの附子島少将が、計画通りを語った。

 その対位置には捕縛作戦を遂行した九式先任一尉が無言で立つ。


 一旦は要塞都市を離れた九式、そして彼女が率いるアグレッサーはヴィート再襲撃とあって密かに緊急招集を受けていた。

 しかし、それは対ヴィートだけが目的だったのではなく――。

 大神一佐が事実を把握しきれてはいない下士官らへ概要を語る。


「ギガントが行っているのは兵器の技術実証実験。当然、エージェントは対象を観測するべく大型機器を持ち込んでの被害範囲ギリギリまでの最接近を行っている……。そして事態終結の際に逃走するであろうエージェントを、事前から布陣していたアグレッサーによる広域呪怨障壁での撃墜――」


「それ、僕ら要塞都市が丸ごとエサだったってことですか。都市も、市民までもが消滅一歩手前までいったんですよ……」


 巨大過ぎるリスクに苦言を漏らす技術士官へ、附子島がへらへらと答える。


「流石に狙ったわけじゃないさ。なっちゃった以上は利用したってだけ。それに九式の婆様に本気を出してもらえば万が一ぐらい、いくらでも回避できるってだけ」


「附子島の悪童、(なれ)を見捨つ道もあったが」


 調子のいい附子島へ、佩刀の鍔を鳴らした九式の毒が飛ぶ。

 それを舌を出すだけで流した附子島は、技術士官へ次の仕事を促す。

 対象は、装身具などが禁じられている独房にあっても仮面をつけたままの女エージェント、アノセルプ。


「……はい。まず検査の結果ですが、この仮面が外せない理由として、これ脳と直接繋がってます。サイバネ部品なんですよ」


「強化人間か。キミも含めて珍しいもんじゃないだろうに」


 2本角の機械脳人造人間(バイオニキス)である技術士官は半ばに肯定して、しかし方向性が違うことを説明しだす。


「単なる強化ならマシでして、医者の見解だと条件付けのリアルタイムで脳内物質を弄るものだそうです。――こういう話を知ってますかね? 『知る者は好む者に如かず、好む者は楽しむ者に如かず』……孔子論ですがね」


 附子島と九式が基本知識と頷き、一方で敵対組織の執った手術の禍々しさに閉口する。

 概念の聞きかじり程度だった大神だけが応じて。


「技術に対して学ぶ努力をする者より、同分野を好む者の方が意欲が高く、しかし好む以上に楽しみと感じする者はそれ以上の効率である、という話だったか?」


 技術士官は大神の正答へ頷き、それが今どう繋がるかの説明。


「そうです。そして、このサイバネ仮面は脳に働きかけて快楽物質を誘導するもので――」


 その説明に大神は眉間に深く皴を刻んだ。

 軍に所属する彼らが辿り着いた結論は。


「つまり……アノセルプは知見が得られれば得られるほど幸福に感じ楽しみ続ける。“理想的な人造の天才”だったというわけか。手段も結果も危険極まりない……!」


「道理で戦場でケラケラ笑って酸鼻な計画まき散らしてた理由ですよ。世界で最も幸せな存在と言えなくもないですが……僕はお断りですね。末期的な薬物ジャンキーと大差ない」


「人の先に在ろうとなれば、人心を排さねば辿り着けぬ境地はある。なれど、そのような物は我ら呪怨兵器で終わるべきだろうに。業、尽きぬことだ……!」


「ふむ。そこまで弄られてるとなると、こっちの飼い犬に躾け直すのも無理ってこったねぇ」


 その場のそれぞれが、それぞれの否定を述べた。

 一方で共に感じていたのは、そうまでして研究を重ねたいギガントの執念。


 その不気味さに気圧されもせず、大神は独房へと通じるマイクを手に取った。

 低い声でアノセルプへと告げる。


「――ギガント工作員、アノセルプ。お前にもう逃げ場はない。今後は特別監獄の独房がお前の居場所だ」


 外部からの接触にアノセルプは覆いに盲目のままの顔をあげて応じた。


「うふふ。そう、残念ね。ではそこで私は何を研究すればいいのかしら……」


 最悪の禁固状態であっても、彼女の様子には変化がなかった。

 ただただ次なる禍々しい研究を求めるばかり。

 対して、大神は淡々と続けた。


「世界各国の軍を襲撃してきたお前の罪状を並べるだけで雲を突く。これ以上の邪悪な研究はさせない。何も、させない。これがお前の終わりだろう」


「……研究を、してはならない? 何もできない……?」


 アノセルプの言葉に困惑の響きが混ざった。

 そのまま現状を認識して、コードネームの微笑も止めて発狂の叫びも上げるのだろうかと幾人かが思った。

 しかし――。


「……では、私は……。――ああ、そうですね。“なにもしないことの研究”を始めましょう。うふふ、新しい研究課題。楽しみ、楽しみですわ。うふふ。うふふ。うふふ……」


 ――虚無の笑声は、いつまでも独房に響き続けた。


 See you next episode!!!!

 新年あけましておめでとうございます!

 それでも女の子たちは戦う! 大好きな男の子を巡って!

 巨人ガールズが戦う相手は……えっ、夢幻巨人ハガネ!?

 次回『キューピットは小悪魔!』

 みんなの夢と未来を信じて、Dream drive!!!




 ##機密ファイル##

『人喰い巨人との戦乱の中で対巨人兵器を使えず役立たずと追放された俺の隠れた才能-巨人殺し(タルタロス)-に気付いてももう遅い! 精鋭部隊メタトロンの戦術(タクティクス)』蘭花書房・マクロフロンティアノベルス刊


 ――老練な司令官は敵群れの動きから、その意図の変化に気付く。

「……人喰い巨人(ネフィリム)どもめ。ここに感づいたか」


 ――勇猛な隊長は巷に言われる話を抵抗の意思へと繋げる。

「ネフィリムは人を喰う。人だけを襲う。それは連中が人にとって代わる新種だからだ。だが代わられてたまるものか」


 ――未熟な少女兵は恐るべき敵を見上げ、その輝く姿に魅了され最期を遂げる。

「きれい……まるで、天使……」


 ――歴戦の女戦士は、彼女が見てきた敵種族の性質と人類の差から皆の戦意を煽る。

「連中は単体で生殖するのさ。愛や恋もなく、戦場で産み落とされた仔がすぐに戦い始める。そんなのに負けたくないだろ?」


 ――狂気の科学者は、無責任な俯瞰を語る。

「ネフィリムと人類、どちらが生き延びるべきかが試されている。自然には強い方が生き延びるものだけどねぇ」


 ――両手に人型を持つ巨人の腑分けを手伝った看護兵は真実を知る。

「……人!? 中身は男女一対の、人!?」


 ――敗戦を越えた少年兵は引き金を引き続ける。

「殺されたんだ! だから殺す! 何も間違いじゃない!! このオレの-巨人殺し-でぇっ!!」


 ――若き艦長は反撃の狼煙を上げる!

「超ド級空中戦艦タケミカヅチ、抜錨! 我らは今よりネフィリム殲滅作戦を開始する!」


 原作:かいま みる

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 襲い来る巨大な怪物、追い詰められた人類、そして知恵と勇気で立ち向かう戦士たちの物語――。

 現役小学生作家が破滅の未来を精緻に描いた問題作、遂にボイス・コミカライズ!! 豪華声優陣が彩るハードコア・ストーリーに君も震撼せよ!21XX年1月12日、新春に配信スタート!


 ――引用されたCM映像は、そこで再生を終了した。

 すると役目を終えた動画ウィンドウを押しのけて自信満々の少女の顔が飛び出す。


「……スゴいでしょ! あたしの書いた小説が漫画になるんだよ!? 原作が現役天才小学生作家っていうのも話題……ねえ、聞いてる? お兄ちゃん!!」


 生返事に生反応を咎める妹に、兄――あきら は面倒くさげに応える。


「聞いてる聞いてる、すごいすごい。ちゃんと本も買ったし、Web版にも評価入れといた。6/10点な」


「あっ、酷ーい!! ちゃんと最高点入れてよー!」


 映像通話の向こう、母方の名字に変わった妹――鯨場(げいば) みみ は、離れて住む兄へ違反紛いの組織票を唆す。

 けれど兄の反応は渋いもので。


「うっせ。Web版途中でブツ切りのまま永遠(エター)なりやがって。そもそも冒頭の世界規模の動静が変に緻密なのが評価されたってだけだろ」


「そ、それは……見た夢をそのままドリーム・キャッチャーで記録して書いててー、その夢を見なくなっちゃったからー……先の書きようがなくってー……ねえ?」


 未完の痛い所を突かれた妹は必死の言い訳。

 しかし、その情報公開の中には あきらの知らなかった情報があった。


 “ドリーム・キャッチャー”――市販されている脳内イメージの録画装置。

 脳波解析から思考や夢を画像・映像として記録出力できるという触れ込みは、しかし余程イメージが克明でなければ正しく機能しないという欠点を抱えていた。

 逆に言えば、物語に書き出せるほど安定して読み込めるイメージの夢を見続けたというのは――。


「……ああ、ちょっと悪い。用事ができたから。後で掛けなおす」


 あきらは嫌な可能性に思い当たり、盗聴確定の携帯端末を用いずに彼の能力を持っての通話を始める。

 相手は妹――ただし双子の妹の姉の方である みに。


(――みに。そっちから見て、どうだ?)


(うん……やっぱり、なんか変だった気がする。前の魔法少女ものはともかく、急に知識も無い戦争もの書きだしたんだもん)


 妹からの不安げな打ち明けをあきらは超感覚で受け取る。

 みに と みみ。双子として見た目だけはそっくりで、しかし血族の特異体質が発現している側だった姉みに は、妹の異変に裏はないことを把握していた。

 ――裏がないのに異変を起こすのが最大の異常だとも。


 みに――兄ほどではないがテレパシー能力を持ち、それ以上に物質へのPSI刻印情報を読み取るサイコ・メトリー能力を持つ彼女に嘘は通用しない。

 その彼女が見ている前で、小学生少女がソーシャル・ナビ(補助AI人格)の助け程度で一大戦記物を書き始めるともなれば――。


 あきらは適当な携帯のアプリを動かして行動を偽装しながら、遠くの妹が引き起こした悩みに唸った。

 同時に妹へと思念を飛ばす。


(うーん……みみは兄妹内で唯一の普通で居られる子だと思ってたんだが、まさか……未来予知?)


(やっぱりそっちなのかなあ。スゴイとは思うけど、変な物見出さないかな……)


 人間から駆け離れた超感覚を持つサイオニックの兄妹は、いつの間にか目覚めていたらしい妹の能力に心配を向けた。

 兄は能力故に身内を傷つけ、妹は日々世界全てに情報の幽霊を見続けている。

 この上、幸せに残されていた妹までがあらぬモノを見始めたというのであれば、少々辛いものがあった。


「ただでさえ日本中を巨人が襲ってるっていうのに、これ以上の怪物が出てくる話とかなあ……」


 クリスマスから一夜明けて騒動も遠ざかった日に、あきらは溜め息一つで身内への不安をごまかした。


 ――みみ が垣間見た世界。

 接点を失って続きを見ることが無くなった未来世界。


 それはあるいは暴走しきったステインレス・ハガネが引き起こした未来だったのかもしれない。

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