第四十三話「そして、名を冠する者たち」4/8
=多々良 央介のお話=
ピックアップした光本くんの遠隔式グラス・ソルジャーがハガネと共にミヅチの甲板上。
彼の火炎が襲い来る吹雪を切り裂き、僕らは氷の城塞へ飛び込む。
そして夜吹雪の奥で待ち構えていた“奴”が僕らを認め、まるで喜ぶかのような声をあげた。
「来るか! 多々良 央介ェ!! Despair Drive!! ベルゲルミル!!」
投影される蒼白の巨人、ベルゲルミル。
その中枢は――。
「ヴィート……お前は……っ!!」
――僕は、彼の正体を知ってしまった。
あまりにも無惨で滑稽で、だけどそれを哀しいと手を止めるわけにはいかない。
知った正体からすれば、こいつを打ち破ってもまだ止まれるかわからないのだから……!
「帝王フリーザー野郎! てめぇに借りを返しに来てやったぞォ!!」
光本くんが吼えてグラス・ソルジャーが極大の火炎攻撃。
それをベルゲルミルは薄氷の盾で受け止めての反撃。
「機械仕掛けで弱まった巨人に何とできるぅッ!! 噛み砕け、ヴァナル・ガンド!!」
ベルゲルミルは時間凍結を利用して空中に氷の足場を創りあげ、一瞬で空まで駆け上がって僕らへと襲い掛かってきた。
敵の禍々しい黒い氷の腕がグラス・ソルジャーを狙う、その瞬間に僕はハガネを前に割り込ませる。
そしてありとあらゆるもの時間凍結へと追い込む――戦闘不能が確定となる攻撃を、ハガネの背甲で弾く。
「――ッ!?」
「……効かないっ!! 全くというわけじゃないけれど、時間凍結は通らない!!」
僕はベルゲルミルの攻撃を弾き返した。
それでも残った凍結の氷を、気合を込めて焼き溶かしていく。
味方2人が僕の無茶に驚く以上に、驚愕を見せるものがいた。
「――あり得ぬ!! 珠川 紅利の補助も融合も無しに、我が凍てつきを打ち破っただと!?」
自慢の凍結を無力化されたヴィートが狼狽を見せ、構えを防御へと移す。
僕は、敵には辿り着けないだろうハガネが受けた奇跡を、その正体を教えてやる。
「僕は……紅利さんの心を少しだけ知った。だから、彼女の炎は僕にも燃え移って、そして守ってくれている! だから誰も信頼なんてできない、そんな物が居るはずもないお前には……!!」
二度の暴走巨人ステインレス・ハガネの中にあって、僕と紅利さんは交わり合った。
溶け合った心、接続された神経、互いに転写してしまった記憶。
それが精神力の投影体ハガネにも、ルビィの炎を与えてくれていた。
だから、今のハガネはベルゲルミルの凍結を相手に戦える!
「……おい! 俺の専売特許の火炎を持っていくんじゃねえよ! この版権パイレーツ時代!!」
光本くんの独特な不平を横に聞きながら、ミヅチから飛び降りたハガネとグラス・ソルジャーでベルゲルミルへと攻めにかかる。
残念だけどグラス・ソルジャーには、やっぱり経験不足だし格闘技術があるでもない。
それでも僕の攻め込みを氷の策で受け止めるベルゲルミルへ火炎を吹き付けることで、敵の一手一手に障害を引き起こさせていた。
一合、二合とハガネとベルゲルミルで全力に衝突し合う。
その不意を狙うミヅチの突撃、ハガネごとを焼くグラス・ソルジャーの火炎。
何より一度戦った相手であるという僕の経験がベルゲルミルを制圧していく。
「ぐ……!! うぬれぇ……!!」
ヴィートの執念での食い下がりが、だけどそれで引き時を誤るのが見えた。
僕は支援攻撃に飛ぶ火炎のガラス弾の一つを掴んで、手のひらの焦熱も構わずにベルゲルミルの胸甲へと叩きつける。
痛撃が敵巨人の装甲を砕いて、その動きを縫い留めた。
「――が、はぁっ……!?」
「今か! アイアン・チェイン!!」
怯むベルゲルミルに、一瞬で鉄鎖が絡みつく。それは佐介の放った鎖の螺旋。
僕はハガネに鋼鉄螺旋を構えさせ、更に空いている手で背後の光本くんにハンドサイン。
彼は、するべき事を理解してくれて直ちに火炎を燃やし高めた。
「僕らは、鉄と炎で氷河を切り開く! ――アイアン・ダブル・スピナー!」
「うおおぉぉ! 火炎エナジー・マックスっ!! 斑鳩之翼ァ!!」
ハガネの必殺貫通突撃はベルゲルミルの永久凍結骨格に達して、その時間凍結を受けた。
紅利さんから炎の力を借り受けても凍り付くハガネの螺旋を、だけど背中から押し温めるグラス・ソルジャーが姿を変えた火炎鳥の体当たり。
火の鳥攻撃……見覚えのある技の支援を受けて、ついにハガネはベルゲルミルを打ち貫いた――。
余剰エネルギーの爆炎が氷の城塞を焼く中、僕らは敵を背後に揃い立つ。
「やったか!!」
「そういうの良くないやつだぞ」
佐介と辰が軽口を叩く一方で。
「光本くん。火の鳥って……」
「あん!? ……この間のお前らの、ちょっと格好良かったから……真似たんだよ! 悪いか!!」
僕が感じた疑問を尋ねると、炎のライバルは参考元を語る。
まあ……ハガネだって好きなヒーローの寄せ集めだし、いいかな。
――そうやって僕らは強敵ヴィートを倒した。
それも、まだ余裕のあるぐらいで。
……だけど、そうじゃなきゃいけない。
だって本当に怖いのは、この後から来る!!
《多々良少年! わかっているだろう!? 間違いなく、何か仕掛けてくるよォ!!》
通信回線から附子島少将の厳。
偉い人だけに、どこからか情報を仕入れたのかな。
そして唯一警戒を向けていた残り火の中から人影が立ち上がる。
巨人を失った、鎧姿のヴィート。
まだ戦えるというように、破損部品を引きずりながら僕らへと向かってくる。
その時だった。
「精神同士の共鳴からの能力移植……素晴らしいですわ。うふふ!」
ヴィートの傍に、陽炎の様に揺らぐ青色アトラスが現れた。
楽し気に響く声は微笑の女性副官!
「ヴィート。残念ながら、今の貴方では成長したハガネに太刀打ちできなくなっているようです。うふふ」
――コイツだ。
僕は、今まで戦っていた敵の飼い主を理解した。
そこへヴィートは不退転を吠える。
「我は……、戦える……! 負けぬ!!」
「それでも勝ちたいのですね、ヴィート。では、貴方にかけられているリミッターを解除しますわ。うふふ」
レディ・ラフの宣言と同時に、ヴィートの機械鎧が部品を切り離しだす。
唐突に弱点を晒すそれに動じたのは僕ら以上にヴィートだった。
「……ラフ!? うぬれ、何の手管を!?」
ヴィートの機械鎧は両手に続いて装甲も剥がれ落ち、ついにガラス・シリンダーに包まれたヴィート自身を剥き出しにした。
だけど、それはそこで止まるものではなかった。
立ち尽くすままの機械鎧からは、ついに四肢のない少年ヴィートが繋ぎ止めを失って地面へと吐き出された――。