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第四十二話「ヒーローのいない世界。そして――」9/8

 =根須 あきらのお話=


「くっそー、偽物め……。今回は事情が事情だから許してやってるものを……!」


「それでも解決が見えそうな感じになってるんだから良いじゃないか?」


 主を、いわゆる寝取られた事に憤っているポンコツロボ(佐介)に、僕は軽口を投げつける。

 今さっき黒野さんと竜宮くんが現地へと急行するのを見送った僕らが居るのは、神奈津川市の旧街道沿い。

 古い町並みの更に狭い路地に、僕と佐介の二人で潜んでいる。


「……まあな。ハガネが出せるようになってるんだから、すぐに戻ってくるさ。それはそれとしてオレが引っ張り出された理由、まだ聞いてないからな?」


 佐介の言葉はフルフェイスの戦闘用ヘルメット内部から、僕の装備した同じもののインカムへ飛ぶ。

 どちらも軍用品で、これが子供の遊びでない事はポンコツでもわかるだろう。


「JETTER名義での荒事が必要ってことぐらいは察しろ」


「わからねえなぁ。お前と違ってテレパシーなんてものが搭載されてないから」


 僕と佐介のコンビは、あまり融通が利かない。

 ここに央介が居れば情報を流し込んでという連絡手順が取れるけれど、肝心の友人といえば50km向こうで自身の巨人を復活させたところだ。

 僕は、それを大神一佐の見る衛星映像越しに確認できるだけ。


 そうやって直接視線が通らない・リレーポイントになっている人間も居ない状態ではテレパシーを飛ばせない。

 だから、面倒でも言葉で説明しないといけない。

 こういう所で佐介はポンコツだ。


「これから始めるのは強襲確保の作戦だ。軍の情報部も動いてるが……相手が相手だけに機能するかわからん。だからオレみたいなJETTERちびっ子隊員にも声が掛かって、その用心棒としてお前を引っ張り込んだんだ」


 そこまでを喋れば佐介も十分に理解したようだった。


「――強襲。ターゲットは?」


「そこの和菓子屋に3人。オレのアイ・トラッキング(視線誘導)を、お前のゴーグルに送ってるだろ。機械の反射神経で飛び出次第にアイアン・チェインで束縛しろ」


「了解。……情報部の人ら、気の毒だなあ。偽物に縛り上げられて、今度はオレに獲物横取りか……」


 ――子供相手に躊躇なくスタン付き銃火器を向けられる大人達が、その子供らに返り討ちにあったのが気の毒かどうかは判断の分かれるところだけども。

 そんな感想を持つ間も、僕は壁向こうのターゲット達が作り出す不自然な“PSIの空白”と、読心状態としている菓子屋店員視点での一挙手一投足を見張る。

 ついに3人が外への注意を止める瞬間がやってきて。


「カウント3から。――3、2……」


「――1っ!!」


 僕と佐介は同時に表通りへ飛び出し、そして菓子屋入り口へ折り返してターゲットを見逃さない。

 遠目には子供の背丈の僕らが急な行動を取っても、ターゲットは警戒を払わなかった。

 その油断の内に、和菓子屋正面の和風ガラス戸をアイアン・チェインが突き破り、騒音でやっと驚いた連中の身体を鎖が縛りあげる。


「ぐえっ……!? What happened!? 何が起こりましてっ!?!?」


「なん!? なんの!? なにがぁ!?」


「鎖ぃ!! 鎖だ!! 絡みついて……なんか懐かしいな!?」


 佐介の鎖に縛り上げられた3人。

 それは僕らとは因縁深い、ギガントのプリンセス&凸凹のトリオ。


「――あいよ、附子島のダンナ。ミッション・コンプリートだ」


《いやー、子供の姿を活用した良い手際だねえ。これなら、もう一人ぐらい補佐体の手駒が欲しいところだ。サイコ(あきら)くんの補佐体でも作ってもらうかな?》


 目的達成を通信に伝えれば、向こうから返る今回の作戦指揮官の声。

 周囲からは同じ対象を狙っていた情報部の大人達が心底嫌そうな顔をしながら遠くから駆け付けてきて、そのまま菓子屋の店員相手に事情の説明に移る。


「アイアン・チェインが使える補佐体はオレみたいな央介由来のだけだけどな……。で、何でコイツらがここにいる?」


 無人島ぶりの鎖縛りに不平不満たらたらの3人組は、佐介の疑問に答えた。


「今日はただのオフの日で、お菓子を買いに来ていただけですわ!」


「やめた方がって進言はしたんですがねえ。今は巨人隊が空けがちって情報は抜いたけど、他の連中はいるかもって……聞いてます、お姫さん?」


「お姫さんが、ここの栗きんとんお気に入りになっててー。その地元愛割引で見逃してもらえたりは?」


 プリンセスは行動の理由を、長手は事前に諫めたというアリバイを補強し、足高は間の抜けた無理筋の交渉を口にする。

 しかし――。


《割り引いての支払いはキミらが乗ってきているだろう工作機アトラスと、そのセキュリティ解除だ。それ以上はビタ一文も負からんよ》


 通信回線越しの附子島が強制的なシャーク・トレードをもちかける。

 逃げ場もないギガント・トリオは縛られたまま、半年ほどの付き合いの愛機を売るかどうかの相談を始めた。


「ったく、暢気なもんだぜ。ギガントと戦争してる都市に栗きんとん買い付けとか……」


 佐介が工作員たちの愚かを指摘しながら、彼らの装備品を剝いでいく。

 その途中でPSIを阻害する何かが外れたらしく、ようやく不自然なPSI空白が消えて僕の読心も通るようになった。


「戦争て。大袈裟な……」


 足高が肩を竦めながら過剰対応だと訴える。

 ――こいつは嘘を言っていない。

 自分達の立場と所属する組織に関する自覚もない連中だという事に呆れながら、僕は読心を進める。


 そんな中で噛みついたのは佐介。


「大袈裟だぁ!? お前らが来なくなったと思ったら今度は戦闘部隊差し向けてきやがって!! 戦争以外の何だって言うんだ!?」


 佐介の言葉が投げつけられた瞬間、プリンセスの思考に反発が掛かるのを感じた。

 そして彼女は、それをごまかすでもなく尋ね返してくる。


「……What? ギガントに戦闘部隊なんて存在しませんわ。何かの間違いではなくて?」


 ――彼女も嘘を言っていない。


 僕は、プリンセスが思考の表層に出した部分を手繰って、更なる情報を読み取りにかかった。

 けれども読み取れるのは“彼女が所属している思想集団ギガントは、あくまでも組織が求める科学的研究を実地で行っているだけである”という身勝手で狂信的なものだけ。

 その情報は僕が以前、彼女の読心を行った時から変わっていない。


 だけど、状況が進んで変わったものがある。


「はぁ!? 思いっきりギガント戦闘実行隊だって名乗る連中が襲い掛かってきたんだぞ!!」


 佐介が、その追加された情報について怒鳴り返した。

 だけどギガントのトリオは3人とも困惑するばかりで、答えを持っていなかった。

 組織の分割構造故に把握していないだけなのか、それとも――?


「どう考えるんです? ちなみにコイツ等は嘘を言ってないと信じてますが」


《ふーむ、縦割り組織の弊害と見るべきか。嘘が残りうる部分は――おや、もう一方のヒントが投げ込まれたがクイズの回答者が到着していないぞ。こりゃ、困ったなあ……》


 附子島が持って回った比喩を口にした。

 その次の瞬間、夕暮れ迫る要塞都市に戦闘警報が鳴り響く。


 そして――。


「我、再臨せり……」


 都市全体へ、宣戦布告の拡張音声が轟いた。

 僕が空を見上げれば、そこには2機の青色アトラスが姿を現す。


「巨人隊、何処(いずこ)なるか! この白雪のヴィートが逆襲の刃を受けるがよい!!」


 巨人隊不在の都市に、最悪の敵の再襲来。

 そして僕らのヒーローは復活し、今まさに要塞都市に向けて飛び立つところだった――。


 See you next episode!!!!


 そこには虚しかなかった。

 要塞都市へと帰還した央介は、絶望する虚無の中のたった一つの真実を目指す。

 次回「その日、名を冠する者たち」



 国立遺伝子記録局『メモリー・センター』&人工子宮管理施設『バース・センター』。

 21世紀ごろに日本国で制定された厚生法案からなる、国民全員の遺伝子を登録し医療などに用いるための施設を運営する、いわゆる遺伝子バンクを含む機関・国立遺伝子記録局。通称メモリー・センター。

 これは全国の市以上の行政区画ごとに配置されており、担当区画の住民の遺伝子情報ほぼ全てを記録保存している。

 同施設で記録された遺伝子情報は第一に癌などといった遺伝子性の疾病への対策や、四肢や皮膚、臓器といった体組織復元の再生医療へと用いられ、そして第二の目的として併設されている人工子宮管理施設、バース・センターへの生殖細胞の供給も行っている。


 同機関の基本業務となる遺伝子情報の収集だが、これは国民全員の出生登録時と以降10歳ごとに更新検査を受けさせ、全身30か所ほどへの微細注射で収集した細胞のDNA平均データを記録するというもの。

 その情報量が莫大かつ法的にも繊細なものという事もあって、一般の病院では扱いきれないことから専用の情報保存施設を持つ機関が必要となったという経緯がある。

 もちろん思想その他の理由で情報登録を拒否することも可能ではあるが、将来的な遺伝子細胞治療や再生医療に用いるための基礎ともなるため拒否は推奨されておらず、実際に拒否する人も稀である。


 この機関の起点は国民の健康管理を名目としつつ、実際には人造人種バイオニキスの生産ラインとして始まった。

 それと前後して人工子宮の一般への情報公開があり、更に直後の第3次大戦期では戦没者が相次いだ際に死別した配偶者との子孫を望む声が多く、国としても国民数の減少は好ましくないという判断もあって一般社会での人工子宮や遺伝子バンクの利用が拡大していった。


 しかし両配偶者の年齢はおろか、男女や生死すら問わない状態で子供を作れるというのは社会に対して様々な問題を引き起こした。

 まず当時の法制上での人権剥奪者を含めた大型のベビーブームによる国民の急激な増加を皮切りにした社会構造の急激な変化。

 そして特に問題となったのは、相続権に関して“勝手に生産した子孫”を盾に取るなどの詐欺や脅迫が相次いだために急遽として法案群が制定されていった。

 主だったものでは配偶者の同意や婚姻関係の確認、死没して一定期間内までの利用制限などがあり、それらが認められない場合には人工卵・精子などの生殖細胞の提供は行われないこととなっている。


 メモリー・センターは一般的なビルディングとして地上に建設され外見も様々となっている(記録用の結晶保存媒体保管庫とスーパーコンピューター、医療衛生環境を配置するために大型施設なのは共通だが)。

 一方でバース・センターは全国共通規格であり、それは健康局の地底100mほどに超硬度耐圧耐震装甲殻の楕円体に包まれる形の高度な防御が施された施設として建造されている。

 その形状は地中とあって直接人目に触れるものではないのだが、模型図が施設ロゴにデザインされることで広く認識されている。

 これは元々が軍事システムのバイオニキス生産ラインとしての防御機能の名残でもあるのだが、現在にあっては形状から「みんなのたまご」と呼ばれ、特に人工子宮でしか子供を授かれない親たちからは大きな愛着と信頼を向けられ続ける施設となっている。

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