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第四十二話「ヒーローのいない世界。そして――」8/8

 =珠川 紅利のお話=


 閉鎖環境を作っていた巨人カラミティを撃破して、巨人災害を解決したと思って。

 だけど今度は量産クロガネとアトラスの群れが私たちを襲う。


 ハガネは既に戦闘継続の構えをとり、ジュウナナ・ジュウハチは護るべき家族のためにと新しい戦いに身を投じる。

 だけど、これじゃあテディさんの救助は……!


 ――?

 聞こえるのは飛行機の、爆音?


 私とルビィが空を見上げた瞬間、空からは光の雨が降り注いだ。

 それらは量産クロガネを照らし、そして崩壊させていく。

 見覚えのある対巨人攻撃。


「――!! これって!」


「バタフライ・シャイン!? じゃあ……!」


 私と央介くんがその正体を理解すると、攻撃光に続いて声まで降ってきた。


「おーーーーちゃーーーーんっっっ!!!!」


 最後に実体が地響きを立てて雪の地面に着地。

 どういう事なのかアゲハ――夢さんがやってきた。

 更には、飛行機械アトラスを辰くんのミヅチが打ち破る。


「む、むーちゃん!? 辰!? 一体どういう!?」


「話は後で! そして広場を空けて!! ――バタフライ1、現場の制圧完了! 衛生兵の皆さーん!!」


 慌てるアゲハに押しやられて私たちの巨人4体は林にめり込んだ。

 一方で巨人達が退いたクリスマス・ツリー前の狭くなった広場へ、輸送機が滑り込んでくる。

 その着地過程も途中のままに扉が開いて、救命担架と共に医療装備の兵隊さんたちが飛び出した。


「重傷者は!?」


「――!! こっちです!!」


 救急兵隊さんの呼びかけに音亜さんが叫び応じて、兵隊さん達はキャンプ管理施設へと駆け込んでいった。

 あとはそれがテディさんの救命に届くと信じるしかない。

 唖然と見送った私たちは――。


「……間に合った、かな!?」


「わからない……。でも、むーちゃん、どうして!?」


 央介くんから夢さんへの問いかけ。

 それに答えたのは、理路整然とテフさん。


「はい、央介さん。説明いたします。現時点で、このキャンプ場近辺に巨人が出現してから34分15秒。巨人出現事件発生から20分の時点でJ.E.T.T.E.Rおよび軍の出動に十分な状況を満たしたため、ナガノ県警および消防署主導だった災害管理に割り込むことができた、となります」


 えっと……私たちが県境を越えた事が事件を複雑化させていたのかもしれない。

 家出としては狙い通りでも、酷い迷惑になっていたのではと申し訳なくも思う。


「おーちゃんがここに居たからね! いつでも出られるようにって都市軍の人たちも準備を構えてたんだよ! あ、それと……――」


 更なる輸送機が、ますます狭い広場に垂直降下。

 そっちの扉が開いた途端に、声が響いた。


「芽理愛ぁぁぁーーー!!!」

「芽理愛は何処っ!?」


 今度、飛び出してきたのは特に装備をしているでもない普通の男の人と女の人。

 でも呼びかけからすれば――。


「――救助用輸送機の2番がこの付近に無理やり侵入してきてた2人を国道でピックアップしたって。キャンプに残ってた子のご親族?」


 夢さんが、さらっと2人の問題行動と対して軍の柔軟な対応を語る。

 音亜さんや芽理愛ちゃん本人から聞き出した話からすれば、パパさんが芽理愛ちゃんとの約束すっぽかしから始まった夫婦ゲンカからの別居状態だったようだけど……。


 ジュウナナとジュウハチが芽理愛ちゃんミュミュちゃんを丁寧に地面に下ろして、そして満足げに姿を消す。

 残された芽理愛ちゃんを、夫婦はぎゅうぎゅうに抱きしめて再会を喜んでいた。

 ――きっと、これで彼女のハッピーエンド。


 そんな中でも増える輸送機は更に狭い場所へ狭い場所へと着陸していく。

 これなら、ここにいる子供たち全員を避難させられるはず。


 また最初の1機には、担架に乗せられたテディさんが運び込まれて、付き添いの音亜さんも。

 彼は沢山の管を繋げられているのが見えて、でもそれならまだ命があることの証明で。

 私が彼の幸いを祈っていた、その時。


「……むーちゃん。大神一佐と通信……できる?」


 央介くんが口を開いて、きっと辛くなる話をはじめた。

 同時にハガネが解除されて央介くんが地面に降り立つ。


 私がそれに続いてルビィから降りて、央介くんの傍に駆け寄った。

 すると、いつの間にかアゲハの手のひらに立っていた夢さんから何か2つが連続して投げ込まれる。

 キャッチして受け取ったそれは、私たちが家出した時に置いてきた私たちの携帯だった。


 慣れ親しんだそれを握りしめて、央介くんと頷きあって決心して、電源を入れる。

 起動のラグから、すぐに通信画面が開いて。


《ああ、央介君に紅利君か。事件の渦中、無事で何よりだ》


 大神さんの映像が映った。

 彼は、いつも通りに丁寧な応対で。

 でも――。


「大神一佐、ごめんなさい! どんな罰でも受けます!」


「ごめんなさい!! ご迷惑、おかけしました……!」


 央介くんと私で携帯相手に頭を下げて全力の謝罪。

 多分きっと、それぐらいじゃ収まらないような話で――。


《……ふむ。知り合いの子供が、法にも触れる騒動を起こした。その事に対して怒りたい気持ちが全くないでもないが、それは軍の仕事ではない。また君たちは現在JETTERの協力員ではなくなっている。当然、軍指揮官の私には罰を与える権限もない》


「――えっ……?」


 大神さんは私たちが話を理解できずに戸惑う中で、何も深刻な様子も見せずに話を続けた。


《上司の判断は、軍が子供の家出などに関わる必要も法律もない、というものだ。そして私は巨人災害の指定通りに作戦行動をした。そうしたら偶然そこに君たちが居て、災害中だから救助対象としただけでしかない――》


 ……どうして大神さんは、いつもいつでも私たちを優しく受け止めてくれるのだろう!?

 巨人という災害を起こしてしまって、彼の仕事を増やさせるようなことばかりしてきて、そして今度の家出――。


《――君たちが家出のことで謝るなら、心配をかけ悲しませたご両親にではないかね? ……無論、反省が見られないようであれば私が近所の雷親父になる事も必要だろうが》


 ――っ!!


「……ごめんなさい!!! ごめんなさい!! ご、ごめんなさいっっ!!」

「ごめんなさい……! 大神さん、ごめんな……さっ!! ごぇ……なざいっ!!」


 優しさを受けることが、下手に怒られるより悲しくて辛い。

 その事を私と央介くんは理解して、涙と嗚咽の謝罪を繰り返した……。


 雪の地面に崩れ落ちて携帯へ向けて声の続く限りの謝罪と、あとは子供っぽく泣き喚くばかりで何分経っただろう。

 通信先はいつの間にかパパとママに切り替わっていて、でもパパママも私と一緒に泣いていた。

 そしてそれは央介くんの方も同じだったのだと思う。


 気持ちが落ち着くころには輸送機がキャンプの子供たちを乗せて飛び立ち始めて、そこで気付く。

 ――まだ夢さんのアゲハが居る。

 夢幻巨人アゲハは、戦闘状態のまま。


 もうジュウナナやジュウハチは居ない。

 スティーラーズも居なくなった。


 敵なんて、どこにも居ないのに――?


 アゲハが見つめる私たち。

 私、央介くん、それと――。


 ――佑介くん!?


 そうだった。彼はギガント側の存在で、本来は敵なんだった!!

 だからアゲハの磁石ビームが向けられている中で――佑介くんは喋り出した。


「まあ、潮時ってヤツかな。央介の行きたい先が要塞都市なら、オレが行くべき場所じゃない。そろそろ決着をつけなきゃいけないけど……」


 寂しそうに語った彼は、私たちの街――神奈津川がある南西を睨みつけた。


「この反応……ふん、王様気取りの操り人形か。央介、伝え損ねてた――央介が取り違えてた話がある」


 そう言って佑介くんは央介くんの耳元へ顔を寄せて、本当に小声で何かを伝えていた。

 聞き取れないそれを聞いた央介くんの涙残しの表情は怖くて、だけど同時に戸惑いも感じた。


「それじゃ、またね。央介」


 佑介くんは優しくさよならの言葉を口にして、文字通りに姿を消した。

 いつも通りにギガント製の高性能な機械の力を使ったのだと思う。

 それを見逃すことになった夢さんも、アゲハごとしょんぼりしていた。


「……仕方ないか。おーちゃんを助けてくれたのを、むーは撃てないもん……」


 それからアゲハは武装を専用のコンテナに収納して、それは最後に残っていた輸送機とドッキングが施される。

 ようやくアゲハを解除できた夢さんが私たちの傍にやってきて、央介くんへとハンカチを渡した。

 その際、彼女が私に向かってはハンカチなど渡すはずもなく、更に何とも言えない笑顔を見せてきたので恋のライバル継続を理解。


 夢さんのハンカチで顔を拭き清めた央介くんが、私の贈った青いマフラーを整えてから声を上げた。


「帰ろう。僕らの要塞都市へ! 父さんと大神一佐にゲンコツを貰わなきゃ!」


 勇ましい感じの決着を望む彼の差し出した手に、私は立ち上がらせてもらった。

 そして私たちを乗せた輸送機の一団は要塞都市へと飛び立つ。

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