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第四十一話「少年少女だけの境界線」2/7

 =どこかだれかのお話=


「どういうことなんですか!? おーちゃんが家出して、それで連れ帰りに行っちゃいけないって!」


 巨人隊が巨人災害対応から帰って一日。

 挙動不審な大人達の口を割らせて幼馴染の家出情報に辿り着いた夢は、対策に当たっている大神を掴まえて尋ねた。

 そして、続く辰も。


「昨日までは上太郎博士たちによる呼びかけも行われていたと聞いています。それも中止になっていることについて話を聞きたいです」


 家出息子と娘の親、多々良夫妻と珠川夫妻は家出中の子供らへの遠隔説得を行っていたのだが、先ほどその中断が伝えられていた。

 大神は幾分悩みながら、事情についての説明を始める。


「すまないな……。まず命令として君達を央介君の対処に行かせると対巨人作戦が停滞し、同時に逆説得を受けてしまう恐れがあるという判断だ」


「それは――むぐぅ……」


 夢と辰は言い返そうとして、しかしやはり人生を共にしてきた幼馴染の言う事の肩を持たないことができるか不安を覚えた。

 更に大神は続ける。


「そして先ほど発生した状況なのだが、央介君達は隣県の巨人災害発生圏に入り込んでしまった。その際に事態を刺激するなという隣県の警察からの通達が掛かってしまったのだ」


「巨人災害!? どういうことです?」


 驚く夢らに対して、大神は機器を操作して情報画面を呼び出して説明を続ける。


「端的に言えば、巨人災害が発生したために子供たちが取り残されて、しかしそこが巨人災害発生中のために通常部隊での救助に行けない状態にある。同時に――」


 そこから大神が語りだしたのは、巨人というものが最初から抱えていた危険性の表出の話だった――。




 =多々良 央介のお話=


 イースターキャンプの管理施設。

 僕らがツッパリヘアーのお兄さん――テディさん達に連れられて、休むための場所と紹介されたのがここだった。

 そこで待っていたのは、30人からの小さな子供たち。


「だれー!? だれー!?」

「すてぃーらーず?」

「おねえちゃん、おっぱい……」


 僕らを包囲していた子供たちと合わせて40人ほどの子供たちからの突然の歓迎。

 暖かそうな毛皮パンツの猫獣人お姉さん、音亜さんの背中から降りた紅利さんなどは小さな男の子に抱き着かれて。


「ああ、待て待て。いったん落ち着け。部屋に戻ろうな!」


 テディさんと音亜さんは僕の頬の簡単な手当の後、手分けして子供たちを宥めて回り、施設の奥へと連れていく。

 子供たちの移動、施設内の扉の開閉に伴ってか温かな料理の匂いが漂ってきて、ここが見放されたような場所ではないことがわかった。

 ――それでもやっぱり、大人が居ない。


 テディさん、音亜さん、そして子供たちが奥へ行ってしまって、僕らは施設入り口に取り残されたまま。

 そんな時に僕の隣――何か一人二人分をあけた微妙な距離の所まで近づいてきた紅利さんが、周囲を確認してからひそひそ話で尋ねてきた。


「えっと、どういうこと? ソースケって?」


 答えるのは佑介。


「偽名、偽の名前だよ。オレたち家出中なんだから捜索願が出てるような名前は名乗らない方がいい。……紅利さんは央介が名前を呼んじゃったから――後で字をごまかしておいてね」


「ええと、何だっけ……偽名は聞いた瞬間で反応できるように、元の音と母音を合わせた近い響きの名前が良い、とかだったかな」


 紅利さんに説明したのは以前に見たスパイ・フィクションで得た知識。

 タタラ オウスケに母音を合わせ、どこかにありそうな名前にすればサガラ ソウスケ。

 紅利さんも考えながら首をかしげて、それでも納得してくれたみたい。


「その名前じゃ不満か? ソリッド・スネール(不愛想カタツムリ)とか九尾(キュウビ)切狐(キリコ)とかカッコいい名前がよかったか?」


 佑介からの誘いには肩をすくめるだけで応えて。

 そんな家出少年少女の身分偽装の打ち合わせが終わったところで、やっと戻ってきたテディさんを出迎える。


「不用心じゃない? スティーラーズかもしれないのにさ」


「ある意味、ちびっ子たちに泣きだされるほうがスティーラーズよりおっかねえからな。さて、どっから話したもんやら……」


 佑介の提案に対して、状況説明に悩みだしたテディさん。

 僕は何となくに原因を察しながら最後の確認として問いただす。


「このキャンプ……大人を全然見かけないけど、どこへ行ったんです?」


「おっと、気付いたかよ。そうだな、オトナどもは全員が避難していった。だから居ない」


 ――ああ、やっぱりだ。

 これは巨人が起こしてしまっている最悪の事態だ。

 巨人技術の根源に関わっているという気持ちを必死に隠して、次の話をテディさんから聞く。


「ここ、イースター・キャンプ場では秋の終わりに、大規模な親子キャンプフェスを開催したんだ。大勢の親子を集めて、ついで俺みたいな若年ボランティアを作業員に置いてな」


 そう言いながら、テディさんは首元に嵌ったチョーカーを指さす。

 ――? 狭山さんのEEリミッターに似ているけれど、テディさんは獣人という感じはしない。

 そういえば音亜さんも同じものを付けていたかな。


「んで、フェスが始まったその日に、国内全体に例の戒厳令が敷かれて。そのまま全員退避してればよかったんだが……ここは県の端の一本道ってこともあって、まとまった護衛移動の手配が間に合わなかった。――その翌日だ」


 テディさんが喋りながら取り出した携帯。

 それは彼の操作で、事件が起こった瞬間の映像を呼び出した。

 まず映っていたのは広場に降り立つ輸送ヘリ。


「救助部隊のヘリがやってきて避難するぞ、っていう時に――コイツだ。今、日本中で騒動になってる巨人が出やがった」


 輸送ヘリの向こう側、コテージが並ぶ林の中に立っていたのは赤く大きな影。

 その巨人は林を突き破って飛び出し、輸送ヘリを蹴り飛ばして広場の中央に陣取ってしまった。

 映像は、このまま大きな事件に拡大するのかと思って――だけど巨人は煙のように姿を消す。


「コイツを俺たちは“ジュウハチ”って呼んでる」


 更にテディさんは携帯を操作、次に起こった事件の映像へ切り替える。

 今度やってきたのはヘリでない救助、大型のバスが山道の向こうからやってくる様子。

 だけど、それも赤黒くぼやけた巨人ジュウハチによって妨害がかかり、バスは来た道を後退して巨人と睨み合い。


「こんなグダグダ救助失敗を繰り返して分かった事が2つあってな。それがジュウハチは“キャンプから子供を連れ出そうとすると出てくる”……後からは悪化して“キャンプにオトナが近づこうとしても出てくる”ってことだったんだ」


「――それで、大人達は避難出来て、子供たちが取り残された……?」


「そうだ。オトナどもはこっそり抜け出してって、でも子供を大勢連れて行こうとするとアウトだった」


 要塞都市から50㎞も離れていない場所で、こんな巨人災害が起こっていた。

 だけど、それなら僕たち巨人隊が呼ばれるはずなのに?


 すると映像中の巨人ジュウハチはPSIエネルギーの収束が途絶えたのか、またしても掻き消えた。


「ああ、これだ。ジュウハチは出てきたかと思ったら幽霊みたいに消えちまうってのが厄介でよ。どっかに対巨人部隊が居るって話なんだが、少人数――全国相手に手一杯だそうで。それで巨人が居ないような所へ呼ぶわけにもいかないってオトナの基準だぁな」


 ――なるほど、そうか。

 これは多分、二つほどの巨人に関する条件が絡んだ結果の問題。


 まずは軍や警察、JETTERの判定基準。

 巨人隊が出動してきたのは大きな市街地に、ハッキリと活動状態の巨人が出現している場所。

 逆に言えば巨人が不確定で撃退に時間がかかる場所、そして人口が少ない場所なんかには人を差し向ける余裕がなくて後回し。


 けれど避難対応程度なら普通の部隊でも、ある程度の対応が可能なはず。

 そこで、もう一つ問題となっている部分が絡まってくる。


 巨人に関する大前提――“巨人は子供の心から生まれる”。


 現在ギガントが日本中にばらまいているDマテリアルが傍にある状態で、子供の精神に負荷がかかればPSIエネルギーが収束投影されて、制御されない巨人が出現する。

 今ここで起こっている事件で大人達が恐れているのは、救助しようとする子供たちが救助中の緊張や興奮で“更なる巨人群”を発生させてしまう事だ。


 確かに、このキャンプを襲っている子供連れ出し禁止の巨人は脅威だ。

 でもそれだけでない災害――例えば怯える子供を救助車両に乗せた瞬間に、その子から新しい巨人が生えてしまったら?

 ……何が起こるかは言うまでもない。


 今このキャンプが陥っているのは大人達が最初から警鐘を鳴らしていた問題。

 それは僕が要塞都市を訪れてすぐの頃、紅利さんを巨人事件に巻き込んでしまったときに大神一佐が警告していた話。


『すべての子供が、テロリストの武器になる、あるいは災害になる』


 全日本の戒厳令は冗談やポーズじゃない。

 巨人の暴走は最悪の段階に踏み込んでいる。

 それは僕が直接の原因じゃないと分かった今でも、それでも父さんが作り上げて僕らが完成まで協力した技術が起こした事件……。


 ――胸が苦しい。

 それでも無力になってしまった僕は、無関係な子供のフリ以外どうしたらいいんだろう……。


「――そんなこんなで、もう3週間だ。ったくオトナどもってのは、いつもいつも役立たず……」


 僕が立場を偽る決意を重ねた一方で、テディさんは抱えている不満を表に出した。

 彼は見た目からしても、なんというかその――ヤンチャに反発していそうな外見だし、大人に不信感があるのかもしれない。

 そして彼の話は続く。


「……まあ元々がキャンプ場ってのと、対策委員会とやらから空輸で物資とベビーシッターロボが送り付けられてきたから食う寝るには困らねえが……親との通話は毎日出来てても、ちびっ子たちの精神がヤバくなってきてるな。幼児返りっていうのか?」


 テディさんが現状までの説明を締めくくって、そして彼が気になっている部分を最後に語った。

 そういえば施設に入ってくるなり紅利さんに抱き着いた男の子が、赤ちゃんみたいに母親を求めるような一言を上げていた。

 彼の見た目は小学も2~3年ぐらいの姿だったので何か悪ふざけなのかと思ったけれど、違うんだ。


 3週間――僕らが無人島に閉じ込められたより長い期間で、子供の心が弱るには十分な時間。

 そして救出に入ろうとすれば事件が拡大するということから、大人達の警察、軍、JETTERがこの事件に触るに触れなくなっている時間……。


「そこまでは分かったが、山道で山賊してるのは何だったんだ? 巨人ぶん殴れる武器まで構えてさ」


 僕が悩んでいた一方で、佑介が先ほど襲い掛かった事件の方を尋ねた。

 するとテディさんは頭を掻きながら申し訳なそうに答える。


「あー、周囲の森にはニュースで話題のスティーラーズが出るんでよ。悪さしにくるかもしれないって怖がるちびっ子が増えて、平気だぞってポーズのために体力ある連中揃えて自警チーム始めたんだ」


 そこまでを語った彼は腰に差していた得物、Dロッドを抜き放って見せた。

 どうやらきちんと機能している。


「コレ。支援物資にも巨人を足止めできるって武器が入ってたし。……ただ、こんなところを歩いてる子供が他に居るとは思わなくて……巻き添えで悪かったな」


 テディさんが僕の頬の絆創膏を見ながら謝ってきた。

 ――僕らは巨人事件の中央にいた人間だし、佑介はスティーラーズの一種だからあながち間違いだとは言い切れないのだけど。


 ただ事件が全国に拡大してからは、スティーラーズも巨人出現と同時に目撃されるようになった一方、連中が一般人に直接害を加えたというニュースは無い。

 それはギガントがやりたいのが、あくまでも巨人がどういう兵器になるかを確かめたいからだろうか?

 でも、その事情をみんなが知ってるわけじゃないのだから怯えて対策するのは仕方のない事。


 しかし、あの場所にいたのは小さくて不慣れな白兵だけじゃなくて。


「あの巨人は? 芽理愛って子がジュウナナって呼んでた――」


「芽理愛はね、巨人を出して操れるのよ」


 答えてくれたのはテディさんではなくて、やっと戻ってきた音亜さん。

 そして彼女に従うように当の本人の芽理愛さん、更に白ウサギネコ獣人のミュミュさん。

 音亜さんの言葉に芽理愛さんがおずおずと応じて、自身のポーチからあるものを取り出した。


 ――それは真っ赤な結晶、Dマテリアルだった。

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