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第三十九話「魔法少女コノハナサクヤ 対決!? 夢幻巨人ハガネ」5/5

 =多々良 央介のお話=


 司令部の大混乱が収まったのは夜になってからだった。

 明らかに巨人じゃない“何か”が現れて、要塞都市の機能を邪魔する一方でハガネを支援し巨人相手に攻撃を行っていたのだから、混乱するのは当然の話。


 何が起こったかの詳細を知っている僕だけど、木下さんの事について語るわけにはいかない。

 それは決して犬やカエルにされることが怖いわけじゃない。

 ――友達になれそうな彼女との約束を破りたくないってだけ。


 大人たちが確認できていたのは、魔法による妨害の隙間に映っていた空を飛ぶ魔法少女の姿。

 後は僕たちで、なんとかボロが出ないように大人たちに対応した。


「確かに魔法少女がホウキで飛んでいた」

「相手は攻撃のタイミングなどを知らせてくれた」


 なるべく真実を混ぜながらの報告。


「でも、それ以外のコンタクトは取れなかった」

「正体なんかわかるはずもない」


 こういう嘘は得意な佐介任せ。


 大人たちは僕らの報告も含めて、街に魔法少女が出るという過去の事例と重ねながらの情報検証を続けていた。

 でも多分、魔女の母娘は軍ですら正解に辿り着かないような魔法を仕掛けているのだと思う。


 後の僕たちは、こっそりフェードアウトする感じで秘密を守ったまま帰宅に成功。

 何事もなかったかのように戻った自室で、一応周囲を警戒しながら手に取ったのは木下さんから貰ったお守り。


「ただの押し花入りの紙札にしか見えん……。これで何で通信と周囲からの認識妨害を起こせるんだ?」


 機械仕掛けの佐介が魔法のアイテムを見つめながら唸る。

 僕も詳細な中身が気になるけど分解して通信できなくなったら困るので、余計なことはせずに木下さんの指示通りに手に取って語り掛けた。

 その語り掛けの相手としてイメージしたのは、ホウキをサーフボードのようにして光の波に乗り空を飛んでいた勇ましい魔法少女コノハナサクヤの姿。


「ええと……もしもし、こちら多々良、多々良 央介です。……そちら、どうぞ」


 何か、こう……完全に通信機の通話作法になってしまった。

 魔法って、これでいいのだろうか?


{……ああ、はい。木下です。もうちょっと間のいい時にして欲しかったけど}


 良かった、通じた。

 でも、間のいい時というのはどういうことなんだろう。

 何かのお邪魔だったのかな。


{で、何かしら? 軍に情報聞き出されたとか?}


「そこは大丈夫。色々聞かれたけど突然現れた魔法少女に助けられた以上は、何が起こったのかさっぱりって言っておいた」


「何が起こったかさっぱりなのは事実だからな。魔法が無茶苦茶過ぎて」


 木下さんの警戒の質問に、僕と佐介で答えた。

 それに続けて――。


(ざっと軍相手に読心もかけたが、そこまで怪しんでる人も居ない感じだった。――その辺も何か怪しい術かけてるんじゃないだろうな?)


 ――あきらからのテレパシー。

 これはおそらく木下さんに向けても同じものが飛んでいる。


{……男子はデリカシーってものは何処に置いてきたの。根須クンは最初からそういう生き物だとしても……。んとね、魔女は“見落とし”の魔法で気付かれないようにしてる}


 木下さんからは何故か怒気混ざりの魔法通信と、魔法使いが行っている対策への説明。

 じゃあ、秘密は守られたと安心していいのかな。

 僕は事態が穏便に解決したと思って、だけど三者三様の秘密会話は続く。


「まったく、魔女の方が下手な巨人よりよっぽど怖い攻撃できるんじゃないか。なんだよ、あのブラックホール砲」


 佐介がぼやく。


 確かに、あの巨人すら消してしまう魔法は発動の傍にいて怖さを感じた。

 それ以外でも木下さんの魔法は都市全体をごまかしてしまうようなものもあった。

 あれらをたった一人で使いこなしているとなると、彼女は僕よりよっぽど強い戦士なのではないだろうか?


{まあ、魔女は手広くできないと仕事にならないし、今回は貯金の大盤振る舞いしたし。まず相手――ミスタルトが本気で暴れたら日本列島がひっくり返っちゃうようなことだって起こりうるんだから出来るだけの事はしないとね}


 また、とんでもない規模の話が木下さんから提示された。

 そして妙に実感が籠っていることからすると……。

 質問は僕の代わりに佐介から。


「それを何とかしたことがあるような口ぶりだな?」


 木下さんは、あっさりと答えた。


{へっへぇ、あるよー。男の子がサッカーだゲームだ虫取りだって言ってる間に、女の子はずっと先を歩いてるの}


 それは、ちょっとの優越感を持ったような語り口。

 ……女の子の方が成長が早いとは言うけれど、そんなに差が生じるものだろうか?

 僕が幼馴染との間に生じた身長差という実例を気にしているうちに、木下さんは更に一言。


{つまり多々良クンたちは私の後追い……この都市のヒーロー後輩ってとこね}


(多少、先行してる分の経験があるからって――……! ……ああ、いや、そういうことか……)


{だからさあ……ノンデリにも加減して欲しいんだけど}


 あきらのテレパシーは途中で酷く勢いを落とした。

 そして恐らく、あきらの読心に対しての木下さんからの苦言。

 あきらの溜息が感じられてから、更なる思念の一言。


(……どいつもこいつも傷だらけ、か。大いなる力には叔父さんの死が伴うってやつかな……)


{何よ、その限定的な呪いは……。まあ……考えなしで行動するとろくでもない見落としがあるのは確かだけど}


 傷だらけ……僕の傷、あきらの傷。

 そして、この場合には木下さんも――?

 でも無暗に他人の傷へ踏み込むべきじゃあ――と僕がためらった所で、空気を読まなかったのは佐介。


「おい、サイオニックと魔女。自分たちだけで分かりあってないで説明しろ。こっちは普通の人間なんだ」


(ロボが何か言ってら)


 あきらの至極真っ当なツッコミに、ややあってから木下さんが口を開く。


{そーねえ……これは多々良クンにも関わりがあるような話だから言っておくとするけども――}


 木下さんは少し勿体ぶって、だけど多分それは僕に覚悟を促すための時間。

 そして彼女は静かに語り始めた。


{――魔法少女で、人助けをやってるとね。正しいと思って行動した先、選択の先に正解の答え――みんな助かる答えがあるとは限らないの}


 それは重々しく実感を伴った話。

 僕にも思い当たりがある話。


{魔法って、何でもできるみたいに見えて万能じゃあない。少なくともそこまでの力を私や、お母さんでも持ってない}


 そして、木下さんは話の核心へ進む。


{未熟だった頃、占いで街を襲う悲劇が来るって言うから止めるために頑張った。でも、そのために見逃していいって考えた事が別の悲劇になっちゃった}


 そこまでは抽象的な話。

 だけど――。


{それでダンスが好きで、ちょっとワガママ気味だけど悪い子じゃない。そんな女の子が、両足を失った}


「――っ!!」


 僕は思わず息を吞んだ。

 それが誰の事かなんて考えるまでもない。

 僕の動揺には気づいているだろう木下さんの淡々とした話は続く。


{自分の責任の大きさに打ちのめされて、それでも次の事件が押しかけてきて……多々良クンも、きっと似たような感じでしょ?}


 木下さんからの問いかけに僕は頷く。

 彼女がこっちを見ているわけではないと思うけど、伝わると信じて。


{――大事にしてあげてね。最近は私の介護とか要らなくなって、多々良クンにべったりだし……}


 なんとなく木下さんが僕に当たりが強めな理由が分かった。

 彼女が紅利さんに対する後悔を背負ってきたところへ僕がいきなり割り込んでしまったからなんだ。

 だけどこれは……どう答えるべきだろう。あんまり強い言葉を使えるほど自信がない。


 僕が返答に困ってしまった所に口を挟んだのは、あきら。


(大丈夫だって。今更、第三者が心配するところじゃない。それともアカリーナを取られて悔しいって言っとくか?)


{あーっ、もう! まったく、これだから超能力者なんて!}


(人を気軽に鳥類に変えようかと企む魔女に言われたくなーい)


 魔法と超能力の異種口喧嘩。

 多分じゃれ合いの範囲なのだと思いたいけれど。


 でも、その間に答えが決まった。

 それを木下さんとあきらに伝える。


「――紅利さんが望む限りは、それと僕に出来る限りは努力する」


 聞こえたのは、木下さんの鼻息。

 溜息なのか鼻で笑ったのかはわからなかったけど。


{まあ、良しとしましょう。バカ男子に付き合ってるとこっちまでバカになりそうだし、何より――}


 OKは貰えたみたいだ。

 それにしても、やっぱりなんというか今の木下さんは普段よりトゲトゲした雰囲気がある。

 僕は彼女の言いかけの部分も気になって、尋ねておく。


「何より? その、僕は紅利さんや木下さんに何かマズい事をしてしまっている?」


{――ふやけちゃう! お風呂の途中で話しかけてこないでよ、もう!}


 ……ああ、これは。

 そこでやっと僕はとても失礼な事をしていたことに気づいた。

 慌てて謝る。


「っ! ごめん!!」


 ――だけど、それにはもう木下さんからの返答はなかった。


 どうしよう、明日の朝に目が覚めたら犬になっていたりしないだろうか。

 木下さんのお守りを強く握って、聞き逃しがないかと集中する。

 すると――。


{やっほ。代わるね}


 聞こえてきたのは木下さんの声ではなく、これは確か妖精のクシーくん。

 木下さんの様子を尋ねようとして、でも先んじて彼が答えた。


{木花はトゲトゲした言い方するけど、乱暴なことはしない子だから大丈夫。――それはさておき、罪人(エルフ)から君へ伝えるべきことがあるんだけどね}


 彼の声は、言い聞かせるような響き。

 木下さんよりも強力な魔法使いだったというエルフから僕へとは、一体なんだろう?


{君たちの使う巨人の力、制御されている内は問題ないんだけどね――この間の男女陰陽融合は割と危険な状態だったんだ。単体生殖能力を持った神代の力の暴走なんて、それこそ魔法がやってしまった世界を滅ぼす力に届きうる……}


 告げられたのは自分たちがしてしまった事故への釘差し。

 それが僕らの想定以上の危機だったことに総毛が逆立つ。

 だけどクシーくんは厳しくなるでもなく優しく話をつづけた。


{……深刻にならなくていいよ。実際にそうはならなかったんだし、君はアレを悪用しよう多用しようとは思ってない。だから、君に任せる}


 不思議な魔法の存在からの、不思議な信頼が僕へ向けられていた。


{そもそも何かあったら魔法使いも、それ以外のヒーロー?とかも食い止めにかかるだろうから、もっと気楽に考えていいんだ。――じゃあね、鋼の英雄くん! また明日、学校で!}


 魔法の通話は、それで終わった。

 以降、お守りには呼びかけても何の反応もない。

 この魔法のお守り、通信機器と違って機能してるのかどうなのかすらわからない。


「魔法って、魔法使い以外には不便だな……」


 佐介のぼやきを横に聞きながら、僕はお守りを大事に勉強机の引き出しにしまった。


 でも、ちょっとだけ気が軽くなったことがある。


 この世界には僕の他にも人を助けようと動いているヒーローがいる。

 それこそ30人ちょっとの1クラスに僕と木下さんがいるぐらいの割合で。

 おいそれと助けてもらうわけにはいかないけれど、僕がいなくなっても皆を助ける人はいるんだ。


 同時に――うん、僕だって頑張らなくちゃ。



 =木下 木花のお話=


 ――完全に、のぼせてしまった。

 湯船の中で長時間通話なんてするものではないと肝に銘じて。


 私は頭を冷やすべく、ふわふわふらふらの足取りで店の厨房へ踏み込んで手近な湯呑みに冷たい水をそそぐ。

 その時、目に留まったのは平皿に乗りっぱなしのフォーチュンクッキー。

 うちの店で出し残しなんて珍しいと記憶を探って、それで思い至った事が口を突いて出た。


「……ああ。あの後すぐに巨人対応で動いたから、多々良クンは手を付けなかったんだ」


 見るうちに、ふとイタズラな興味が生まれて私はそのクッキーを開封しにかかった。

 多々良クンには、どんな占いの結果が出ていたのだろうか。


「ええと……“根源の”……ええ……“思い違い”?」


 籤紙には不穏なような、一方で冗談でも済みそうな単語が並んでいた。


 ――この結果は彼に知らせなければならない。

 占いというのは大きな事件の前に、予めの覚悟を与えることができるのだから――。


 See you next episode!!!!

 思わぬ相手から告げられた真実。

 それは央介の心を壊すのに十分なものだった。

 紅利は、ただ彼の事だけを想って、そして世界を裏切る。

 次回『逃走。雪の中へ』

 みんなの夢と未来を信じて、Dream drive!!!



 ##機密ファイル##

『これから魔法世界へ立ち入る人達へ ~魔法少女の実態~』地球公転第2ラグランジュポイント 魔界入国審査待合室・無料配布リーフレットより。


 ここ、魔界の入り口に立っているあなたは既に知っているはずの事となるが、万象世界にたゆたう魔法の力を扱える体質の者を“魔法使い”と呼ぶ。


 魔法力とは人や物に宿る運命、宿命、幸運、悪運といったものを象徴する力。

 これらは世界や物体が宿す感情などとも言われ、時にその大きな集まりは知性すら持つ“精霊”として結晶を起こす。

 そして精霊や魔法の力を見、蓄え、育て、導き、操ることで、魔法と呼ばれるような奇跡を起こす手段が、いわゆる魔法となる。


 魔法使いとしての才能は女性の方が発現しやすく、男性は特定の遺伝形質による特異体質か長年の修行によって魔法使いとなる。

 男女での資質の差は子宮の有無から来ているとされていて、生命を宿し育て産み出す、運命の起点を造り狂わせる器官が精霊を憑依させるという能力に大きな影響を与えているとされる。


 これら魔法は古代までは科学技術とも共有されていて、特に精霊の意思を感知することによって“運命がどう動くのか”を理解できることから、魔法使いらは“物品や事象の性質を識る”事が可能という側面があった。

 結果的に魔法使いは薬学医学や動物学、天候天文に通じることになり、それらを生業として社会で大きな権限を持つようにもなる。


 しかし最終的に世界を支配できるほどの力を持っていた魔法使い――更にその上位存在エルフ達は、ある時期から天然世界とは距離を置いて被創造世界である魔界へと移住していき、現代の地球上においては一つの都市に一人二人の魔法使いが隠れているかいないかほどの少数となっている。


 さて、魔法力は人間の運命に影響を与える以上、反作用とも言える双方向性がある。

 辛苦、悪意、敵意などの人間の悪感情の過剰集合が精霊力に淀みを作り、時にそれは結晶化を経て負の精霊となり危険な暴走現象を引き起こす。

 それを歪な姿という意味の“ミス・ゲシュタルト”、また略してミスタルトと呼ぶ。


 そして魔法使いの中でも活動担当である見習い魔法使い達は、暴走精霊ミスタルトが大事件を起こさないように日々世界の影を飛び回って解決してまわっている。

 ただしミスタルトは害ばかりでなく高純度な魔法力の塊でもあり、これを捕獲して分解することにより魔法使いにとってのエネルギー資源である魔法力結晶“クヴェル・クリスタル”、俗にクヴェルタルを得られる面もあって、ただの慈善行為とやっているだけでもない。


 ミスタルトの発生原因から、単純に人間の多い土地、街道の辻にあたる街、戦乱多い場所などの人々の感情が多く集まって激しく起こる場所には魔法使いの一家が住み着く。

 彼らは大抵、表向きには動植物を扱う職業についており、その陰で魔女・魔法使い・魔法少女として精霊力と世界のバランスを保ち続けている。


 彼らは大きな力・奇跡の力を扱うことの危険性を理解しており、それらの悪用濫用を嫌う。

 そのため魔法の中で“縁切り”“人避け”“見落とし”“よそ見”“物忘れ”“壊れ物”などと呼ばれる多種多様な運命誘導魔法によって、自身らが魔法使いであることの露呈を防ぎ、また記憶記録が残りにくいような体制をとって自己防衛を行っている。

 それでも隠蔽は完全完璧とはいかず、特に強大なミスタルト騒動周りでは事態の巨大化もあって、魔法関係者以外への影響も残してしまう。

 その表出部分が都市伝説にある魔法少女などとして語られているのだ。


 余談として、魔法使いの苦手なものとして鉄元素がある。

 これはプラトンが定義した神話における黄金・白銀・青銅・黒鉄の時代という神秘の喪失段階を証明するものとも、あるいは重力核融合現象における鉄原子の生成が新星爆発でのどん詰まりで、まだ未知数たる軽い元素や、超新星爆発由来の強い未来を持つ重い元素と比較すると中途半端な精霊力の物質であるためとも言われている。

 よって魔界に行く際のお守りとして鉄製の身飾りを一品持つことをお勧めしよう。

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