第三十九話「魔法少女コノハナサクヤ 対決!? 夢幻巨人ハガネ」4/5
=木下 木花のお話=
魔法少女コノハナサクヤとしてホウキに立ち乗りして飛ぶ私。
隣には夢幻巨人ハガネが大地に立つ。
対峙しているのは、全身を茨蔦に縛られて動きを止めたニンジャ巨人。
けれど相手は不敵な睨みを私たちへと向けてから、体に力を込めた。
途端、背中に背負っていた手裏剣が鋭く回転して絡み付いていた蔦を斬り払う。
――拘束魔法ビオーラ・ロゼッテの蔦は刃物程度で切れるものじゃないのに!?
「うわっ、あれってニンジャらしさの飾りじゃないんだ! 魔法殺しの鉄……いや、木行に克つ金行の魔力かな!」
クシーが魔力干渉を見切って分析。それは敵が東洋側の魔法での五行概念を用いているというもの。
そういえば先ほどハガネにカエル魔法をかける際には“火”のお札を張り付けてからだった。
火行で焼き熔かすことで金行であるハガネの力を封じる――それは巨人だけで辿り着ける考えじゃない。
「ミスタルトが入れ知恵して、巨人が防御して……酷い組み合わせ!!」
私が目の前の巨人の厄介さを叫んだ瞬間だった。
多彩な技を備えるらしいニンジャ巨人は拘束魔法を自身にかけた私を狙いだす。
蔦を切り払った背中の手裏剣、それを分裂させて両手に構えると私へ向けて素早く投げ付けてきた。
「ちぇ、チェリブロッサ! 木の醜男、葉々の堅い盾を私に与えて! “メガマニエ・ウッディ”!!」
とっさの巨大緑葉の盾を作り上げる防御魔法――! でも基本が植物の力を借りている私は、相手が金行の力となれば弱くて――!
迫る二連手裏剣に、効き目が薄いだろう緑葉の大盾。
その盾が切り裂かれだした瞬間、剛い金属の腕がそれらを打ち払った!
「女の子に手裏剣投げ付けるなんて忍者の風上にも置けない!」
私を護ったのは巨人のハガネ、鉄の男の子――多々良クンの力。
「ありがとう! サクヤを守ってくれて!」
ちょっとの悔しさで声を上げられなかった私の代わりにクシーが感謝の言葉。
そんな中で、私は私たちがとるべき戦法を考える。
相手は金行の手裏剣で私の植物を切り裂いてくる。でも、さっきはハガネを封じるために火を使った。
最悪として五行の木・火・土・金・水の全てを扱えると考えた場合に、相克相生の軸は――。
魔法少女としての経験から私は結論に辿り着いて、その指示を頼りになる仲間へと飛ばす。
「ハガネ! もう一度、鎖で相手を攻撃して! 鉄を融かすための火は、だけど木っていう燃料を捻じ込まれれば相手の制御を外れた暴走へ導ける!」
「よく分からんが、承ったぁ!! アイアン・チェイン!」
ロボット佐介からの景気の良い答えと同時に、ハガネが鉄鎖を相手に向けて撃ち出した。
対するニンジャ巨人は三度目の拘束を嫌って口元手前で指印を結び、そして強烈な火炎を吐き出して迎え撃つ。
でも、それは私の狙い通り。
「チェリブロッサ! ビオーラ・ロゼッテ、身を焦がし相手に巻き付いて!」
私が命を下した巨大茨の精霊は蔦を相手の放つ火炎へと突き入れた。
そして茨蔦は炎を貫き、さらに相手の放った炎を纏って自滅覚悟のまま相手へ襲い掛かる!
炎上する蔦の突撃に慌てたらしいニンジャ巨人は大きく飛び退いて、そして逃げた先の地面へ新たな札を叩きつけた。
札に書かれている文字は、水。
次の瞬間、札の周囲から突然噴き出した水の柱が蔦の炎を消していく。
「火遁の次は水遁か!」
多々良クンが相手の術の多彩さに唸る。
だけど――。
「火から逃げようとして水を使うなんて、お見通し! そして植物に恵みの水をありがとう!!」
――そう、これは金行と木行に絡む火行と水行の、どちらを選んでもハズレの魔女の二択。
火に代わって水の魔力を得た茨蔦は勢いを増して、相手の両手両足を縛り上げた。
拘束されていくニンジャ巨人は前と同じく背負った巨大手裏剣を利用して蔦を切断しようと試みて――。
「させないよっ!!」
――多々良クンの叫びと共にハガネが踏み込んで組み付き、相手の巨大手裏剣を掌握した。
これで相手は縛られた四肢で足掻くばかり、行動は全て封じて完全な優勢。
あとは……えーと?
「サクヤ、これだとハガネの必殺ドリルとかのトドメが刺せないんじゃないかな? 僕らは巨人を正しく撃退できるわけじゃないんだから――」
クシーの助言。
つまり自由に動ける私が何らかの対処をしてハガネを自由にしないといけない。
「となると……相手の行動を封じればハガネの攻撃チャンスを作れる、かな」
このニンジャ巨人は格闘と忍術、そして魔法を操っていた。
その際に用いるのは手裏剣と術の札――。
――ああ、違う。そうじゃない。
根本的に対処すべきは、それらを振り回している自在に飛ばすことのできる両手両足!
そこの魔力を物理的に排除してしまえばいい!
「……多々良クン、今からその巨人の手足を消し飛ばして魔法を使えなくするから、その間に何とかして!!」
「消し飛ば――う、うん!?」
敵が新しく邪悪な解決手段を思いつく前に、私は最低限の連絡だけをハガネに伝えてホウキと共に空高くへと飛びあがった。
嗚呼、素晴らしき祝福の響き優しく――と、精霊を呼び集める歌を口ずさみながら。
そのまま風が作る魔力の波の天辺まで駆け上がってから全身とホウキの上下を切り返し、全ての飛行魔法を打ち切って自由落下。
「チェリブロッサ・チェリブロッサ……その強欲な魔の手は虚無すら奪う――」
自由落下しながら、私は取り出した大きめのクヴェルタルを分解して強大な魔力へ還元。
これから用いるのは私が使える中でも屈指の剣呑な大魔法。
狙いは、既に定まっていた。
「――三つ世に根を穿つ破滅の樹霊よ――」
ニンジャ巨人の両手両足を強く念じながら、詠唱の最後の行を告げる。
「――我が敵を時と空の狭間へ消し飛ばせ! エクス・ディス!!」
私が構えた手元に芽吹いた小さな小さな苗木。
それはあっという間に巨大な人面樹へと変じて、狂気の嘲笑を上げながら禁断の魔法を解き放つ。
瞬間、ハガネと棘蔦の二つの拘束から逃れたニンジャ巨人へ4つの闇の塊が飛んでいった。
闇――それは物体や魔法は愚か、光すら存在を許されない“何もない”。
それら闇はニンジャ巨人の両手両足を飲み込んで、“無”へと変えた。
そしてまた呪わしい樹霊も、自身の作り出した闇に飲まれて消える。
これで、私ができる仕事はした。
後は――!
「……魔法少女って怖ぇな……。――アイアン・チェイン!」
――ニンジャ巨人が手足を再生させようとするタイミングで相手を手放したハガネ。
そこから聞こえてきたのはロボット佐介の警戒する声と、一方で敵を縛り上げる鉄鎖の軋み。
同時にハガネは鉄の螺旋を構えて。
「二人の忍者は、二人の賢者と共に敵を討つ――アイアン・ダブル・スピナー……!」
鋼鉄一閃。
四肢を失ったままのニンジャ巨人は必殺技に撃ち抜かれた。
そのままいつも通りに光になって消えていく巨人の中から、普段と違って逃げ出すものがある。
「逃がさないからねっ!」
私の捕捉に従って茨乙女ビオーラ・ロゼッテの蔦が鋭く伸び、宿主を失った“それ”を捕らえた。
この期に及んでもまだ逃げようと悪あがきの暴走精霊ミスタルト。
私は杖を振り回してそれをゴツンと叩き、出現させた魔法の瓶詰に閉じ込める。
「……はー、手間取った……! 一件落着……」
「はい、ご苦労様。今日もコノハナサクヤの活躍で街は平穏無事っと」
私より強力な魔法使いのくせに何もしなかったクシーが労いの言葉。
異世界の住人である彼は、よっぽどの事でもなければ手を出してはいけないのはわかるけども……むかつく。
憂さ晴らしに瓶詰ミスタルトと一緒にクシーを空のポケットに放り込んで、それから多々良クンへ語りかける。
「それじゃ私はこれで。何か連絡があれば今まで通りに護符に語りかけて」
下手に接点を持てば都市軍に見咎められかねない。
それもあって私は早々に現場から離れることにした。
ホウキで飛んで戦闘区域から離れること1kmほど。
ふと振り返れば、多々良クンのハガネが私を視線だけで見送っていた。
――ま、今日はお互いお疲れ様ってトコね。