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第三十八話「マホト、それは心の中の世界」8/10

 =珠川 紅利のお話=


 歪さを抱えたままでも、前に進み出した央介くん。

 巨人ハガネを作り出して戦う相手は11番目、海鳥の姿の巨人。


 小鳥遊くんの飛隼王のような鋭さはない、けれど空高くをゆっくりと飛ぶばかり。

 空を飛べないハガネは手元に形成した鋼鉄の鎖を投げ付けて捕縛を狙って、けれど捕まえきれない。

 携帯からはパパさん博士たちのしっちゃかめっちゃかアドバイス。

 おまけに、お巡りさんからの注意らしき『どこそこでは戦ってはいけない』といった注文まで飛んでくる。


 新東京島は戦いに向いていない。

 央介くんや佐介くんがいつか呟いていた気がするけれど、本当にその通りだった。


 人が逃げる先がない。壊してはいけない物が多い。ハガネが身を隠せる場所がない。敵を見つける機能がない。

 大神さんのような、オペレーターの人達のような、戦いの指示をしてくれる人がいない。

 ――ここは、戦える場所ではない。


 一人ぼっちの巨人ハガネが海鳥の巨人から攻撃を受けて、反撃はかなわなくて。

 それでも必死の応戦を続けていた。


「――来るよ!」


 ハガネくんが突然に声を上げる。

 次の瞬間、それは飛来して鳥の巨人に一撃を加えた!


「なに!?」


 それは、飛行機――戦闘機!

 要塞都市では何度か見かけたことのある、滑走路を使わず4本足で着陸する戦闘機。

 けれど、そうなると――。


「機械が……巨人を殴った!?」


 私の知っている巨人への対抗力の原則と違う攻撃。

 普通の機械や武器では巨人に攻撃は出来なくて、逆に巨人は一方的に機械を壊せる。

 それなのに、あの戦闘機は!?


「あの“人”は、特別なんだ。見てれば、わかるよ」


 ハガネくんの、不思議に相手を信頼する響きの言葉。

 それにつられて戦闘機をよく見れば、その“前足”には大きなハンマーが握られていた。

 唖然とする央介くんとハガネの上空を大きく巡って、再度の攻撃軌道に入った武器持ち戦闘機は、ついに鳥の巨人へ痛撃を加えて地面へと叩き落す。


《今だ! チビスケ!! 巨人とやらの力ぁ、見せてみろぃ!!》


 ちょっと乱暴な言葉遣いが通信から響いた。

 でも、それで我に返った央介くんは鳥の巨人を地面へと抑えつけ、ハガネの手刀を突き込んでとどめを刺す。


《上出来だ! だが色々となっとらん。保護者同伴で警察署前に待機しとれい!》


 それから30分ほどの後、言われた通りに警察署の前で央介くんとパパさん博士達が整列して待っていたところ。

 警察署のヘリポートへ先ほどの足付き戦闘機が轟音を立てて着陸してきた。

 けれど、パイロットの人は何時まで経っても降りてくる気配がない。


 戸惑う私と、それ以上に戸惑っていた央介くんの前に飛んできたのは、“2本の腕と、フェイスモニターの付いた小さな飛行船”。

 友人が似た物を用いているミニ飛行船は空中にぴったりと静止し、きびきびとした動きで腕を振るい敬礼をとって。


「小官は航空自衛軍二佐、沖ノ鳥航空団の副隊長を務める黒田(くろだ) 鉄城(てつじょう)だ! テロ行為への民間の対応協力を感謝すると共に、身体に僅か障碍ある身ゆえ、ここでは直接の顔合わせが不能であることを先に詫びさせていただく!」


 規律正しく挨拶をするフェイスモニターに映るのは、友人のそれとは違って厳めしい男性の顔。

 ――と、すると。


「黒田二佐はね、シェル・ポッド(外部拡張接続)・サイボーグなんだ。戦闘機は彼の体の一部だからPSIエネルギーが通ってて巨人を殴れた。ただ、まあ……」


 そこまでを語ったハガネくんは、ちょっとだけ語尾を濁す。

 一方で記憶の中の大人達も困惑気味に彼へ挨拶を返して、そこからパパさん博士が皆が思っていた疑問を投げかけた。


「こちらの引き起こしてしまった事態解決への軍の協力を感謝します! ただ……どうして、貴官は巨人を攻撃できたのですか!?」


 リモコン飛行船の黒田さんは不思議な事を聞かれた、というようにフェイスモニターをかしげて。


「……さっきのアレは、殴れないとかそういったシロモノだったのか? 敵性攻撃体と聞いていたので殴りつけたまでだが――ダメだったら前脚がモゲる。それだけだろう?」


 そこから黒田さんの、問題はなかったとばかりの大きな笑い声が響く。

 ――これは。


「うん……。何も根拠なしで、攻撃許可が出ている相手だから攻撃してみたってだけらしいんだよね」


 ハガネくんが、お面越しに頭を掻きながら黒田さんの蛮勇を語る。


 周囲のみんなは彼の無茶苦茶に引いて呆れてしまっていた。

 その中で、央介くんだけが素直な驚きと憧れをもって黒田さんを見つめていた。



 けれど、次の巨人との戦いでは黒田さんという戦力と余裕が生まれたからか、央介くんの心に友人たちである巨人を傷つけることに怯える心が戻ってきてしまった。

 いっそ黒田さんの戦闘機に全部押し付けてしまえば、そんな卑屈な心を央介くんが抱えていた。

 そこまでに事情をきちんと聴いて理解していた黒田さんは、部屋に戻り籠ってしまった央介くんをこう諭す。


「チビスケよ。それじゃあトモダチが町ぶっ壊すのを黙って放っておくってのか?」


 央介くんは黙って、何の応答も返せなかった。

 黒田さんは根気よく続ける。


「俺が聞いた所、巨人ってのは酔っぱらっちまったダチ公が武器構えちまったような状態だ。本人は何も知らないままの冗談でも、ほっときゃ怪我人に死人が出うる――」


 黒田さんのリモコン飛行船が、機械の腕で央介くんの肩をしっかりと掴んで、結論。


「――チビスケはトモダチにそんな事をさせたいか? ちっとは痛いかもだが武器だけでも叩き落として止めてやらなきゃ、トモダチは何が何だかわかんねぇ内に罪人になっちまうし……仲間に撃たれたともなれば、どっちにも傷がずっと残っちまうんだ」


 軍の人の辛くて正しい言葉。

 大神さんに叱られたのと同じ、出来る限り多くを救うための優先順位の話。

 また、その言葉には黒田さん自身が障碍を背負った大怪我の理由も少し含まれているような響き。


 黒田さんからの、説得は続く。

 それは央介くんのクラスメイトにも犠牲になってもらうという話なのだけれど。


「悲しいがよ、巨人相手は大人だけじゃ手が足りねぇ。チビスケの力頼みしかねぇ。それで、お前はそんな時に逃げ出すようなヤツか? 親父さん達の技術を、敵の罠にはめられた仲間を、裏切るヤツか?」


 見方によってはパパさん博士たちや、夢さん辰くんを人質に取ったずるい話。

 央介くんは目を泳がせて、だけど二人を裏切る事だけはできなくて、応える。


「……お、おれ……。あ……“僕”は……。うん……」


 それは、まともな意味を含まないような言葉。

 一方で央介くんがまた一つ、自身を作り変えた瞬間。

 大人っぽくあろうとして言っていた“オレ”を捨てて、自分は下でしかないという考えからの“僕”。


 黒田さんは飛行船の体で頷いて、央介くんを機械の両腕で抱き締める。


「――良し。巻き込んじまった人の痛みを考えられるお前は、いい大人になれるぞ。今は辛くてもな」


 黒田さんは、そのまま央介くんの体を引き上げて立たせる。

 そして機械の手で、央介くんの胸元に下がるDドライブをぐいっと押して、最後の確認。

 央介くんはすぐにそれを手に取って応じ、辛さを胸に仕舞い込んで、また戦いに身を投じた。



 そこからの戦いは央介くんのハガネと、黒田さんの戦闘機による共同作戦となった。


 黒田さんは空から巨人がどう動くかを把握して伝え、時に戦闘機に構えた大きなハンマーで相手を殴りつける。

 央介くんはハガネを操る術を磨きながら、街へ人へ――そして黒田さんへ巨人の攻撃が向かないように体を張って守る。


 13番目の巨人は、群れの魚の巨人。

 童話にあるように多くの魚で一つの形を作って襲い掛かってくる。

 それなら内側に中心となる魚がいるはず。


 考え自体は間違いではなかった。

 だけど煌めく魚群の中から一匹を捕まえることはどれだけ大変だろうか?


 そんな時に、黒田さんの戦闘機が閃光弾を巨人の目前に放った。

 それは魚群の巨人全体を怯ませ、中心だった色違いの一匹の動きも止めてハガネの勝機を作るに至る。

 けれども――。


《ああぁん!? 『市街地で射撃するな』だぁ!? 閃光弾一発の燃えカスで何がどうぶっ壊れるか言ってみやがれ、てめぇ!!》


 広く流れる通信から、黒田さんの怒鳴り声が響いた。

 どうも先ほどの閃光弾に関して街の人達、もしくは警察の人達からクレームが来てしまったらしい。

 突然の事におろおろするハガネと央介くん。


 戦闘が終わってからの警察さんを交えたブリーフィングは、その行動の是非を大人同士があーでもないこーでもないと議論が続いた。

 それが終わってから、大人達の長い言い合いに疲れていた央介くんの傍で黒田さんがぼやきをあげる。


「この通り、この都市は火器にも飛行にも制限だ。鉄砲は効かないからともかく、面倒なもんさ」


 央介くんはただ理解の相槌を返していた。



 続く14番目、夜闇に紛れた巨人との戦い。

 相手はハガネの視界で捉えにくい、黒田さんのレーダーにも映らない。

 そんな不利な状況にあっても黒田さんは調子を崩さない。


《夜戦はカミさんとだけにしときたいもんだがなあ!》


 ――えっと。

 ちょっとエッチな冗談だと思うのだけれど。


「まあ、おじさんだから……。時々ノンデリ気味だったから……」


 私と、ハガネくんがお面の下で赤面する一方で、ようやく動いた警察の人達が街中を強力なサーチライトで照らす。

 それであっさり見つかった巨人は、いつも通りハガネによる始末。


 科学都市が戦闘に不向きだと感じる事がところどころある一方で、戦いは楽になってきていた。

 央介くんの戦闘技術は実戦向きに磨かれて、私が要塞都市で見てきた巨人退治のエキスパートだ!と感じる動きとほぼ同じ。

 それが哀しい事が根っこにあるとしても、前に進む力には違いなかった。


 けれどもパパさん博士たちはそれでも満足できない、もっと子供たちを守る力を――と、毎日のように開発に没頭していた。

 15番目の巨人が現れた時などは、央介くんのアシストができないという本末転倒の状態になっても、作業を優先していた。


 それでも結果から言えば15番目の巨人とは大した戦いをしたわけでもなかった。

 記憶の中の央介くんも、パパさん博士たちに苦労を掛けない、こういう戦いが続けばという楽観をする。

 ただ、ハガネくんだけが哀しそうな沈黙でそれを見守っていた。



 そして現れた16番目の巨人。

 だけど、それは――


《こいつぁ……大した(Great)デカブツ(- Thing)だな……!!》


 空の上の影の中で黒田さんが呻く、その更に上空から影を落としてきたのは、鯨。


 16番目の巨人は、全長300m以上はあろうかという巨大極まる鯨の巨人――巨鯨王。

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