第三十七話「みんなのたたかい:後編」10/9
=根須 あきらのお話=
ががっちが力の限りを尽くして自走型に再構築した学校要塞で現場に駆け付けると、そこでは多々良 上太郎博士がへたり込んだまま、二人の子供を抱きかかえていた。
大きく声を上げて慟哭する博士の姿は、とても声を掛けられるようなものではなかった。
傍では夢さんとテフ、辰が倒れたままの佐介を揺さぶりながら泣きじゃくる。
せめて状態を教えてあげられればと思うけれど、僕にできるのは生身の人間の神経観察だけ。
機械の佐介がどうなってしまったかなんて、無力にもわからない。
それを取り巻く級友、光本と有角。そして二人に支えられて辛うじて立つ翠子。
三人がベスト以上を尽くしたことは誰もがわかっている。
けれど三人の、まだやれたのでは、もっとうまくできたのではという後悔をどう取り去ればいいのだろう。
仲間たちの痛ましい姿を見ていられなくて目を反らせば、九式一尉が地面に落ちていた刀を拾い上げて鞘に封じる。
――僕は彼女の思考を読んだ事を後悔している。
目の前で敵軍によって家族を奪われて半死半生で生き延び、自ら願って人間を捨てて化け物となって。
戦いだして後も、愛して夫と選んだ人を救うために彼を喰らって、苦しみ戦い抜いた長い年月前半分の悲しみ。
そして後半分の、大勢の人を救う新たな芽を育て見守ってきた慈しみ。
それでも、央介と紅利を試すために、呪われた刀を持たせて前線へ送ったこの人が憎い。
憎くて、許せなくて、でも重たすぎる積み上げを見てしまったために、否定ができなかった。
次にやってきたのは、大神一佐。
時間凍結から解き放たれて、情報を確認してすぐ駆けつけて。
だけど自分が警告して禁じた通りの結末になってしまった事で、彼も崩れ落ちる。
毛皮に包まれたその手が流血するまで地面を殴り付けても悲しみの激情は収まらなかった。
それらを見て薄笑いを浮かべている少将の附子島。
九式一尉よりよっぽど怪物だと思えるこいつは、現状にあってもただひたすら戦力の損失と新たな獲得だけを考えている。
――ただ、その考えの端に、あの呪われた刀を振るっての害がどう及ぶかの記憶があった。
それは、十分な精神性をもっての抜刀であれば、あの太刀はそこまで所有者への暴食を行わないというもの。
央介と紅利は、確かに未熟だった。
剣士だとか、戦士だとか、そういったものとして鍛え上げられていたわけではないんだから。
だから太刀のお眼鏡には叶っていないかもしれない。
それでも可能性は残っているんだ。
ステインレス・ハガネと呪われた太刀、二つの強すぎる力でボロボロにされた二人を取り戻すチャンスが。
僕は二人の体に顔をうずめる上太郎博士と、立ち上がって救護の手続きを行う大神一佐の方へと歩みを進める。
僕の全てを打ち明けて、友達を救う助力になるために。
どうせ自分で父親を廃した何もない自分。
今更、何かを失うことにおびえる必要もないんだから――!
=どこかだれかのお話=
要塞都市からほど近く、太盤山の森の中。
自然を小さく切り裂いた墜落クレーターから地面を腕で掻き、のろのろと這い出るのは殆どの機能を失った機械仕掛けの鎧。
「は…………は…………! 仕留め……損なった……な。多々良 央介……!」
それは、逃げ延びたヴィートの姿だった。
二度も不明な助けを受け、しかしその事を疑いもしない。
「我は……始まりも……この如くに這い回り、生き延びた……!! それを……繰り返すだけだ……! は…………は…………は…………。……こほっ…………」
過去の成功に執着し、再起が当然と信じる惨めな姿。
しかし、その呼吸は末期のもので、次第に弱まっていく。
そして野心と憎しみに満ちたヴィートの目は、ついに光を失った。
それから時間がたち、その場に飛行機械が偽装を解いて現れた。
青いアトラスは生命活動のない残骸を見下ろし、回収活動を始める。
「ヴィート、どうぞしばしの休養を。うふふ……」
声を掛けたのは、まるで顛末全てを観察していたかのようなレディ・ラフ。
彼女が操るアトラスはヴィートの亡骸を回収し、何処かへと消えていった……。
See you next season!!!
あきらは査問の場に立ち、自らの運命を売り渡す。
紅利は何処とも知れない過去の世界を彷徨い、そして目覚めを目指す。
次回「マホト、それは心の世界」
みんなの夢と未来を信じて、Dream drive!!!
##機密ファイル##
『刻呪人造神魂刀:太刀・渦巻く朱鳥の杖』 こくじゅじんぞうしんこんとう たち うずまくあけどりのつえ
九式アルエが帯びていた太刀。
雪月花の三剣、花鳥風月の四刀と呼ばれる七振りの刻呪人造神魂刀・初期ロットのうちの一振り。
それらの共通する構造として鍔飾りには大きく瑪瑙玉がはめ込まれており、刀剣を抜刀した際には玉の表面に刀ごとの表象の文字、あるいは断つべき敵を表す文字が浮かぶという。
製造方法は国の最高機密となっているが、Eエンハンスと同系技術が用いられているという事だけが判明している。
これらの刀剣は意思を持つとも言われ、そのためか真に用いるべき時以外は抜刀すら不能。
しかし、ひとたび鞘から抜かれたが最後、その斬撃は山を裂き、海を断つ。
これは誇張表現ではなく、実際にその程度の破壊が発生する――生身の剣士が振って、である。
また刻呪刀は互いに共鳴し合って力を高めるため、複数が同時に用いられた場合は更に強大な破壊力を生む。
特に雪月花と花鳥風月の内、花・月を冠する刀剣はセット運用される設計となっており、花の剣「脇差・咲羅太閃」と、花の刀「太刀・吹雪く淡花の太刀」を揃え振るう剣士は、日本国首都・東京防衛の最大戦力の一つとして数えられている。
一方で月の剣「直剣・覇王風雷」と、月の刀「直剣・魔王が玄月の剣」は月面日本基地に配備されているが、現在適合者が不在。
もしも仮に全ての刻呪刀を揃え、団結する意思の元に振るったとなれば、太陽系規模かそれ以上の攻撃力を発揮するのではないかとも言われている(要出典・誰によって?)。
なお「朱鳥の杖」は、かつて一月内戦の首都城砦最終決戦において、旧自衛隊側として強権科学者政権の独裁体制護持に戦っていた、最強の戦士の一角である九式を串刺しとして縫い留めた過去をもつ。
その後は旧体制の敗戦を受け入れた九式に渡され、自衛軍所属となった彼女の刀として長く所持が認められている。
本来はルーキーの更に見習い程度の央介・紅利が手にしていいような武器ではないのだが、しかし若輩ながらこれが回ってくる程度には運命的な力があったということにもなる。