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第三十七話「みんなのたたかい:後編」3/9

 =みんなのたたかいのお話=


 (たつみ)はミヅチを自動車大まで縮小してクラスメイト3人を乗せ、市街に隠れながら目的地に向けて進んでいた。

 しかし今、目の前には立ち塞がる量産クロガネ。

 更に周囲の建造物から複数のスティーラーズが現れるのを見れば、既に捕捉されて包囲されていたことは明らかだった。


「ここがどうやら潜伏の限界かな! 全員、巨人出して!」


 スマートな作戦達成を諦め、荒事へ移る判断をした辰の号令を受けて、3体の巨人が投影された。

 ミヅチを含めた中で真っ先に動いたのは、頭翼の巨人エメラダ。


 辰が、無理に前に出ない方がと声を掛ける間もなく、歌姫少女グリーン・ベリル――亜鈴は巨人を通じて周囲にその歌声を響かせた。


「♪私の力、あの時のままならば……」


 途端、異変が起こる。

 巨人エメラダを中心にして周囲の市街は何処かに消え、代わりに現れたのは緑の草原。

 建造物に立ち位置を依存していたスティーラーズは何もない空中へと放り出され、物陰に潜みながら量産クロガネへ変じかけていた個体までも炙り出された。


 亜鈴が志願したのは、自分の巨人の強大な力を理解していての事。

 彼女は、最大級の怪現象を引き起こした自身の巨人――歌唱妃の能力なら、きっと仲間を救えると信じて、経験などない戦いに身を投じた。


 そして、彼女の願いは思い通りの結果を生む。

 歌唱妃ほどの広範囲ではなくとも、周辺環境を亜鈴のイメージ空間に置き換える能力。

 亜鈴とエメラダは、それを自在に駆使する。


「噂には聞いてたけど……っ!」


「流石、翠子(リコ)ちゃんなのです!」


 エメラダによって引き起こされた状況の激変。

 それに隙を晒した敵を、辰のミヅチと有角のキャッスル・ヴァリアは見逃さない。


 ミヅチが狙ったのは、量産クロガネへの変化途中だったスティーラーズ。

 PSIエネルギー構造を変換して巨人に変っていくガラ空きの瞬間に、ミヅチはラム・アタックをかけて相手を串刺しとする。


 一方のキャッスル・ヴァリアは自身の体から大量のコウモリを放って周囲へ目暗まし。

 しかし、それはかく乱だけに終わらない。

 量産クロガネがコウモリを振り払う一瞬の間、キャッスル・ヴァリアは既にその背後に取り付いていた。


「いただきまぁすのでぇす!!」


 吸血鬼の生物本能を宿した巨人の牙が、量産クロガネの首を頸椎構造ごと食い千切る。

 そのままキャッスル・ヴァリアは千切れた首断面から吸血のごとくPSIエネルギードレインを行い機能停止にまで追い込んだ。

 攻撃を終えた吸血巨人は袖で口元を拭ってから――。


「う゛う゛ぇ゛ぇ゛ぇぇぇ……まずいのです!! 新品の電子機器齧ったみたいなのです……!!」


 ――えづきながら純機械巨人の味への絶望的な感想を述べた。


 呆気にとられたのは、周囲の同級生+1ら。

 普段は大人しいクラスメイトのスプラッターホラー極まる攻撃方法に、思わず後退り。


「……大丈夫なのですよ!? みんなからは吸血なんてしないのです!」


 有角も慌てての弁解。

 巨人の腕をばたばた振っての無害の主張も添えて。


 こうして第二部隊は初陣3人を含む初戦を2体撃破で飾った。

 しかし――。


「おい、俺の分は?」


 ――光本が操る火炎巨人グラス・ソルジャーは、両手に炎の塊を構えたまま手持ち無沙汰を訴えた。

 派手に活躍した側である女子の巨人らは顔を見合わせてから、戦場には似つかわしくない少女の笑い合い。

 辰は、そんな血気に逸る光本を諫めにかかる。


「なーに、すぐにおかわりがくる。今の戦いでこっちの戦力も算定されただろうから、4体5体で一気に襲ってくるかな」


「うっ、多いな? ……いや、やってやるさ!!」


 第二部隊を上回る数での襲来を予言されると光本も少々の危惧を覚え、それでも彼はへこたれない。

 辰は、負けず嫌いな親友を彼に重ねて見ながら、その戦闘力を買う。


「頼りにしてるよ。――っと」


 瞬間、ミヅチの視界はエメラダが構築している草原空間の外縁に影がちらつくのを捉えた。

 今は人間大、けれど。

 すぐに辰は警戒を叫んだ。


「5……いや、6体を想定で動いて! 敵がくる!!」


「さっき言ってたより増やすなよ!」


 悲鳴を上げるグラス・ソルジャーの正面遠くに、4体の量産クロガネが立ち上がる。

 その周囲には何時巨人化するかも不明な複数のスティーラーズ。

 敵は奇襲困難な地形を用意されたために、攻撃計画を数での圧倒へと切り替えていた。


 現れた量産クロガネのうち1体は肉弾突撃を始め、更に3体は後衛を受け持って腕部砲からアイアン・チェインの構え。


「だぁっ! 多いって!! ちくしょうっ!!」


 続けて悲鳴を上げる光本は、しかしグラス・ソルジャーの火力を高めていた。

 火炎巨人はそのまま向かってくる相手へ両手を突き出し、そこから巨人の身の丈ほどもある大火球を放つ。

 巨大にも素早い攻撃は敵巨人の回避を許さず、爆炎は飛来するアイアン・チェインと1体の量産クロガネを呑み込んだ。


 一瞬の後に炎が晴れて、残されていたのは黒焦げになった量産クロガネ。

 アイアン・チェインに至っては焼き融かされ消え果てていた。


「――うぅぅぅぅ。……うっしゃあ! やれるじゃん、俺!!」


 戸惑いから一転して快哉を口にした光本。

 しかし次の瞬間、彼は気のゆるみを後悔した。


 黒焦げの量産クロガネが倒れると、その背後から飛び出したスティーラーズが2体の量産クロガネへと大きく姿を変えて攻撃を続行してきた。

 グラス・ソルジャーには、それらへの迎撃の備えはない。

 量産クロガネ2体がグラス・ソルジャーへと掴みかかり――。


「6来るのを想定してくれって、僕は言ったよな!?」


 ――その片割れの顔面をミヅチの衝角が迎え討つ。


「光本くんは作ってくるガラス細工にしても詰めが甘いのです!」


 もう片割れの腹をキャッスル・ヴァリアの爪が切り裂く。


「ふひぇ……」


 敵の猛襲と仲間の支援に呆けたグラス・ソルジャーへ、後衛を続けていた量産クロガネのアイアン・チェインが飛ぶ。

 けれども、それらは突然現れた“森の木々”に阻まれた。

 周囲に響く歌声は、曲調を変えている。


「♪森は秘密を、隠していくの。砂漠の過去も、鉄の木こりの、想いまで……」


 エメラダの歌声によって新しく生み出された地形は、巨人でも木陰に隠れられる樹齢幾百の巨木からなる大森林。

 投射攻撃を遮る環境は量産クロガネによるフォーメーションを一瞬で無力化した。

 想定以上に手厚すぎる支援に、辰は歓声を上げる。


「うっは! ここまで能力使いこなせるんだ! ……グリーン・ベリル、後でサイン貰っていいかな!?」


 思わぬ場所、思わぬ状況での憧れの少女との四重奏に、辰は少し欲張った要求もしてみた。

 亜鈴は少し考えてから――。


「♪多々良くんに、頼まれたもの。届いていなかった?」


「ああ、新東京島の病室の枕元にね。ありがとう! ……でも、この通り戦えるのに“元気になってね”というのは、ね?」


 辰の返答を受けて納得した亜鈴は巨人を頷かせて応える。


「♪フライト-17のディスクに、サインして贈るわ。♪空飛ぶ、戦士さん」


「っ最高! ――ところで、この森って火を放っても良いものかな?」


 突然の会話の路線変更。

 亜鈴は戸惑わずに答えた。


「♪ええ、今は失われても、鉄の木こりは働き続け、きっと緑の夢に至るから」


「よぉし! それなら――スネーク・マーカー!」


 答えを得た辰は即時ミヅチに光弾を放たせる。

 それらは森の中を飛び交い、木々の影に潜む量産クロガネやスティーラーズへと辿り着いて、取り付いていく。

 敵に取り付いた光弾は発光する多角結晶へと変わり、しかしそれは何かの破壊を起こすことはなかった。


 けれど――。


「光本くん、見えるだろう? 歌姫からのお許しも出てるから、木ごと敵を焼き払って!」


 それは辰が普段行っている巨人体の遠隔投影の応用によるもの。

 咄嗟に森林に隠れた敵達は、派手な発光体をくっつけられて隠蔽を無駄とされていった。

 攻撃の目標が分かりやすく示され、光本は狙いを定めながら辰の言葉に応じる。


「それじゃ手柄は貰っちまうぜ! この俺の真っ赤な孤高の魂の炎レッド・ロンリー・ソウル・ファイアーで、燃え尽きやがれハガネ!――モドキども!!」


 光本のグラス・ソルジャーは構えた手から火炎弾を放った。

 巨人の火炎攻撃は木々を焼いて貫き、逃げ惑うスティーラーズを、そして大樹にカバーした量産クロガネを捉えた。


「光本くんは火力だけは間違いなくあるのです」


 燃え上がる森林と倒れていく敵を眺めながら、吸血少女の有角が頷きながら感想を述べる。


「火力だけってなんだ! 火力だけって!」


 光本から抗議があがる頃、亜鈴の巨人は唄い終えていた。

 同時に幻影の風景は消え去り、戻ってきた市街地に残されていたのは撃退されたスティーラーズの残骸ばかり。


 辰は周囲の警戒を続けながら、これまでの戦闘評価とこれからの作戦計画を告げる。


「――良し、このチームは最高だ。このまま、目標まで進もう」


「ああ!」

「なのです」

「♪るる、ららら」


 新人巨人たちからは、思い思いの返事が返った。




(――って、感じだ。みんなアドレナリンに酔っぱらってる感はあるけど、幸い攻め過ぎにはなってないな。そのへん竜宮くんの采配が巧い)


「ありがとう、あきら」


 ESP司令官からの報告を受け取った央介は、ハガネのアイアン・ロッドで量産クロガネの顔面から胸郭までを串刺しにして抉り、トドメを刺す。

 その攻撃で武器を囚われたハガネの隙を狙った量産クロガネには、横からアゲハのバタフライ・キッス上下二段攻撃。

 更にいつの間からか、紅利のルビィも灼熱接触による控えめながら攻撃を行うようになっていた。


 ――みんな、戦闘に慣れてきている。


 央介はそう思いながら、しかしそれは好ましいことではないと自分に言い聞かせた。

 けれど央介も、自身が今の対量産型の戦闘に最適化されてきていて、撃破の効率が戦い始めたときとは比べ物にならないのを感じていた。


 既に敵の撃破数は数えるのを諦めて、佐介任せ。

 それでも量産クロガネだけで30は倒してきた。

 ――奇妙に、戦い易さを覚えるほどに。


 ハガネは、飛び込んで来た量産クロガネに横薙ぎのアイアン・ロッドを叩き付ける。

 その攻撃を受け止め、動きを止めた相手には至近から頭部主砲のアイアン・カッターで敵の首を斬り飛ばす。


「……敵が、弱すぎないか?」


 ついに佐介が違和感への警鐘を口にした。

 主たる央介も、何か全体で共有すべき情報を見落としていると考え始めていた。


 その思考の間も隙を縫ったスティーラーズがハガネに取り付き、両腕に備えられた刃を突き立てて、しかし巨人の叩き潰しに粉砕される。

 ――それが、央介に答えを与えた。


「スティーラーズ……。こいつら、凍結攻撃の頻度が下がってない? 基地を侵略してきた時は全体を凍結させてきたぐらいなのに」


 挙げられた疑問に、推論を一つ返すのはあきら。


(多分だけど、凍結ってそいつら自身に追加された攻撃機能ってわけじゃなくて、ヴィートの能力をリレーションしてるんじゃないかな?)


「リレーション――伝達されたものを使ってるってこと? なんでわざわざ?」


 両側から迫る量産クロガネの頭蓋を両手のバタフライ・キッスで迎え撃って仕留めた夢が、あきらからの情報の不明な部分を聞き直す。

 その思考を見通していたあきらは即時の返答。


(サイオニックのあるあるで、探知ESP以外の能力は“視界頼み”が多いんだ。前の戦いからあいつ(ヴィート)の能力も、主に視界範囲からを凍らせるもので、地中深くなんかは狙えていなかった)


 それは、あきら自身も抱えている能力の弱点。

 サイオニックが神経の力でPSIの波を届かせる際、その狙った座標が不明となるとPSI能力は発揮できない。

 これは、PSI効果の導体たる粒子サイキオンが時間と空間を超えてしまう所在不安定な性質を持つために生じる自然な作用だった。


 あきらが飛ばして来た概要情報から、央介は先ほど目の当たりにした状況への理解を進めた。


「――それで地下要塞にはスティーラーズを送り込む必要があって、それでも隔壁なんかは物理的に越えていかないと、その先は攻撃できなかったんだ……」


 央介と紅利の目の前で起こった、大人達による全力の抵抗。

 結果的には時間稼ぎ止まりに終わったものは、それでも子供達に立ち上がる機会を与えた。


 そして機械の頭脳を持つ佐介は、一連の話に潜んでいた危機へとたどり着く。


「――っ!? まずいぞ! 凍結攻撃してこないスティーラーズって自動で戦ってるだけで、ヴィートの直接意思が働いてないタイプってことになる! “ヴィートが狙っている場所でだけ凍結が起こる”とすれば!!」


「あっ!?」


 教室のあきらは思わず声をあげ、冷や汗が流れるのを感じながら全力をもって戦場全域を見渡す。

 その瞬間、一人の少年の恐怖と一人の少女の悲鳴があきらの超感覚に届いた。


 狭山 瑠香子の思念の波が、途絶える。


「――ッッッ!!!! 央介、狭山(ルッコ)がぁっ!!」


 教室で叫ぶあきらの激しいテレパシーを受け取った央介は即時の判断を下す。

 その号令を、咆える。


「第一部隊、学校まで後退する!! 第二部隊も一時退避して!!」


 ――ドリーム・ドライバーズ第一部隊は、既に全力での疾走を始めていた。

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