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第三十七話「みんなのたたかい:後編」1/9

 =多々良 央介のお話=


「で、ドリーム・ドライバーズ出撃!ってまではいいけど、これからどうすんだよ?」


 要塞として組み上げられた学校のてっぺんから、僕たち巨人に変身ヒーローの狭山さんが問いかけてきた。

 それに景気良く答えたのは、Qきょくキメラ――ウサギネコ獣人の奈良くん。


「これだけ数がいるし、巨人軍団ドリーム・ドライバーズ突撃だー!ってすれば勝てるって!」


 極めて分かりやすい作戦。

 でも、本当にそれで上手くいくだろうか?

 そこで奈良くんの案を汲み入れるように語り始めて、でも危険性を指摘したのは辰。


「それもまあ余計な考えをしなくて済む分で悪くはないんだが、まとまってると敵のボス――ベルゲルミルに範囲凍結(MAP兵器)で一発されて全滅!……って可能性があるな」


「む、むぎゅう……」


 ずっこける奈良くんは、巨人になってもふわふわで愛嬌いっぱい。

 そこで僕は考えがあるらしい辰に、改めて話を振り直す。


「じゃあ、辰はどういう作戦で攻める? 相性とか配分とか、得意だろう?」


(作戦参謀はそっちに任せる。無能な司令官は連絡だけ請け負うよ)


 あきらからも委託が掛かった。

 そして辰からの概要説明。


「ああ。現在、相手を倒す・防ぐのにどれだけの戦力が必要か不明だ。だから戦力の最後の一押しを取り戻しに動く」


 辰のその話は皆にはピンとこないものだったようで、それぞれ巨人のままに顔を見合わせだす。

 でも僕は、さっき自分が言い出した話だと理解できた。


「つまり、Eエンハンサーの狭山一尉や九式先任率いるアグレッサー隊を救出して、助けてもらえる状態にするってことだね」


「そういうこと。戦闘のプロに復帰してもらうのが一番心強い」


 これにはみんなも納得できたようで賛同の声が上がっていく。

 でも、その際に生じる問題は――僕が言おうとしたところで代わりにアゲハのむーちゃん。


「みんな、ヴィートの凍結攻撃受けちゃって、氷漬けになってるはずだよね。それで助けられそうなのは――」


 アゲハの振り向きに、2体の巨人が応じる。


「氷を融かせそうな、炎の力を持ってる巨人。私のルビィと――」


「――俺のグラス・ソルジャーの出番だな! 氷なんか水をスキップして蒸発させてやるさ!」


 紅利さんと、勇ましく光本くん。

 ただしそこで最後の注意点が辰から告げられる。


「実際に巨人の氷を融かせるか、実験が必要になるけどな。……その辺にヴィートが散らかしていった氷があるから試してみよう」


 辰はそう語って、ミヅチのワイヤーアームで目標物の氷塊を示した。


 さて、それで実際にやってみての結果は上々。

 その際に分かった事だけれど、紅利さんのルビィの方が巨人としての熱量が上みたいだった。

 ――でもそれは紅利さんの持つ炎のイメージが、トラウマからくる悪夢王側の力だからかもしれない。


「良し。第一条件はクリアされた。で、こうなればルビィとグラス・ソルジャーは“目的違いの別の部隊”に振り分ける必要があるわけだ」


「目的違いの別部隊? まとまって行動したらまずいのはさっきわかったけど、狭山(ルッコ)の母ちゃん達を助ける以外って?」


 辰の提案に対し、奈良くんが疑問点を上げた。

 ミヅチは全身で頷いて、答えを返す。


「ああ、まずは前線に突っ込んでいって、派手に大暴れする第一部隊が必要なんだ」


「俺か!」


 威勢よく光本くんが立候補。

 だけど――。


「悪いな、そっちは巨人で戦い慣れてる連中の必要がある。切り込み隊長はおーすけのハガネ、むーちのアゲハ、そして凍結対策要員として珠川さんのルビィの3体だ」


 指名されたのは僕ら、普段の巨人隊に紅利さんを加えたもの。

 そこへついでにあきらからのテレパシー。


(夢さんは、央介とアカリーナが早まらないようにストッパーにもなってくれなー)


「おけー!」


 友人からの釘刺しと、幼馴染による元気な返事。

 ――でも、僕らは必要になったらあの力を使うよ。


 辰は僕らの考えを知ってか知らずか、話を続ける。


「よし、じゃあ次は第一部隊が目を引いてる間に、その陰を移動してEエンハンサー達を助け出す工作担当の第二部隊だ」


「うげー、工作員とか日陰者ー」


「ガラスの工作ならお手の物だろう? それに話からすればむしろ最重要目的を担当する部隊だ」


 光本くんが不平の声を上げ、Gガガッティの加賀くんから鋭く冗談と指摘が入った。

 言われて、光本くんのグラス・ソルジャーはしばらく考え込む姿勢。

 それを横目に、辰が話を進める。


「こっちの部隊は相手と戦闘遭遇するまでは巨人を一旦引っ込めておく。隠れたままで目的地まで移動して、そこで巨人を出して氷を融かしEエンハンサーをできる限り大勢救出するわけだ」


「うーん……もっとこう敵巨人を焼き払って最強火力の巨人グラス・ソルジャー!ってのを見せつけたかったんだがなぁ……」


 光本くんの不満は収まっていないらしく巨人のまま腕組みに唸る。

 でも、すかさずそこへ辰が声を掛けた。


「そりゃあ心強いな! おーすけのハガネもなんだかんだ火力不足だし、この戦いの後で巨人隊へのリクルートは僕に任せてくれ」


 思わぬ提案を受けたグラス・ソルジャーは顔を上げて――。


「おう! へっへー、任せとけ!」


 ――光本くんが上機嫌に応じた。

 幼馴染のコミュニティ達者には舌を巻くものがある。


「そういうわけで、最重要戦力の光本君を護衛するチーム構成になる。移動中は僕のミヅチでみんなを運ぶわけだけど、敵と回避不能な遭遇をした場合には巨人を出して戦うことになる。大丈夫かな?」


「その為にDドライブを貰ったのです!」


「♪今は戦いの時。巨人の肩の上で~」


 二人の女の子が揃って頷いた。

 辰も同じく返してから、説明を続ける。


「うん、今返事をしてくれた二人に参加してもらう。中央にグラス・ソルジャーを置き、その前衛は比較的に戦い慣れてる僕がやる。両隣をグリーン・ベリルのエメラダ、有角さんのキャッスル・ヴァリアが固める。これが第二部隊だ」


 なるほど、グラス・ソルジャーを守るための陣形。

 だけど――あれ?


「オイラだけ余ったぞー!」


 仲間はずれにされた奈良くんが抗議の声をあげた。

 ――実際には加賀くんもどっちの部隊にも組み込まれていないのだけど。


「光本君の後ろに立たせて十字防御陣形!ってのもいいんだけどね。でも奈良君にはやってもらうことがある。それが第三部隊だ」


 突然出てきた新しい概念に、みんなが驚く。

 だけど説明されればそれは当然の話だった。


「第三部隊として、奈良君は狭山さんと一緒にこの学校の番人だ。今回はみんなを守らなきゃいけない戦いだからね」


 皆が納得する中で、辰はミヅチの向きを変えて敵陣を指差す。

 その先には待機したままの、いずれ襲い掛かってくるだろう無数のクロガネ。


「あの辺のデカブツはおーすけ――第一部隊がやる。奈良君には学校に寄ってきた小さいスティーラーズをQきょくキメラで踏みつぶす役目をお願いする」


「おおう! そういうのなら怖くないぞ! やるやる!」


 奈良くんは負担が小さく見える任務を受けて、元気いっぱいに答えた。

 周囲の全員が首を傾げ気味なのは、それが朝三暮四の類だと気付いているからだろう。

 ただ、彼は騙されたままに孤独な戦いをするというわけではなかった。


「それで加賀君は奈良君の手助けもだけど、学校要塞の最適化を続けてくれ。最悪Gガガッティが凍結を受けても、教室のみんなが学校からは脱出可能な、しかし侵入は難しい。そんな感じに」


「……難しい注文だな。しかし城の籠城構造に脱出路設計はやってみたい話だ」


 ――男の子としてはわからなくもない話。


「いい趣味してるな。そのうち築城シムのCoopプレイをやってみないか?」


「ああ、楽しみだ」


 辰も同調して、いずれの約束を加賀くんに取り付けた。

 この戦いで二人を救わなければいけない理由が増える。


 そこから辰は部隊分けに続いて全体の戦術についての説明を始めた。


「一番重要なのは、第一部隊と第二部隊は互いに駆け付けられる範囲で行動するってことだ。各個撃破されないため、もしくは突発的にベルゲルミルが殴り込んで来た場合に備えるためにね」


 これには僕らも、みんなも納得。

 納得した所に辰からは更なる付け加え。


「ただし、これは第三部隊――学校防衛にも同じ事が掛かってくる。だから第一部隊は敵陣深くに潜り込む第二部隊を気にしながら、背後の学校も気にしてくれ、となる」


 そこまでを話したミヅチが僕を真っすぐ見つめてくる。

 対して、最も長く戦い続けてきた最大戦力の僕、ハガネが示すべきは――。


「任せて。簡単な事さ」


「そのための補佐体。いつでも冷静で全方位の高速処理が売りだ!」


 ――空元気でも虚勢でも、不安を見せない事。

 相棒、佐介がそれに続く。


 辰が大きく頷いて、そして紅利さんとむーちゃんも揃えて頷く。


「流石は決戦兵器幼馴染に、親父らが作った相棒ロボ。それじゃあ、これで配置を確定とするよ。いいね?」


 今度は、その場の全員から了承の声があがる。

 最後に辰からの釘刺し。


「よぉし。――覚えておいてほしいのは、今回は相手が全力の舐めプをしているからギリギリ成り立ってる。そうやって相手がウサギを狩りに来てるつもりの内に、隠れてた毒蛇や猛獣による致命傷を入れてやる以外に勝ち目がない」


 毒蛇や猛獣による致命傷――今回で言えば、凍結を打ち消せるルビィとグラス・ソルジャーによってヴィートの作った環境を覆すこと。

 僕は、その小さな可能性とクラスのみんなを全力で守って、そしてこの要塞都市を助けてみせる。

 だから、その作戦開始の宣言は僕自身で。


「それじゃあ、相手が僕らの危険性に気付く前に。各自、行動を開始しよう!」


 そして僕ら、三つに分けられた部隊が動き出す。

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