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第三十六話「みんなのたたかい:前編」8/8

 =多々良 央介のお話=


「Dream Drive!! アゲハ!」


 まずは、むーちゃんとテフが教室の廊下側から校舎と校舎の間へ飛び出てアゲハになった。

 そのままありとあらゆる方面にバタフライ・シルクを展開して、樹木や校舎壁面にひっかけて輪を作り、侵入への警戒結界を作り出す。

 これは、もしも絹糸を引っ張り破る者がいれば――という単純明快なもの。


 アゲハは休みなく動き回って、一度二度は潜んでいたスティーラーズを叩き潰して。

 安全圏の結界を少しずつ拡大していき、やっと目的地までのコースが出来上がったという報告。


 今度は僕らの番。

 クラスメイト全員行動で、とにかく周囲に警戒警戒のじわじわ移動。

 でも結局それ以上にスティーラーズは現れず、拍子抜けの中で30余名を目的地まで連れ出せた。


 そこは体育館裏の広場。

 周囲が建物と立木に囲まれていて先ほどの結界で警戒しやすく、巨人複数体を出せる広さがある。


 アゲハが守護の神像のように見守る中で、クラスメイトの中から5人が進み出た。

 僕は佐介と紅利さんと共に、残ったクラスメイトを守りながら彼らに声を掛ける。

 それは巨人の出し方の僕なりのコツ。


「大丈夫! 出来るって考えて意識を集中させて――君たちの(Dream)を信じて、その名前を呼ぶんだ!」


 僕の声に、5人は振り返ったり振り返らなかったり。

 それぞれの手には輝くDドライブ。


「巨大建築には憧れていたけれど――。最初が巨人、次がみんなを守る城か。嫌いじゃあ、ないな――」


「うふふふぅ……今時の吸血鬼は夜まで待たないのです……!」


「氷の巨人だか何だか知らねぇが、金属も珪砂も溶かす炎に耐えられるわけがねぇだろっ!」


「♪貴女はひとりぼっちの、神無月の人魚姫! ♪千変万化のその力、三日月に輝いて~」


「あ、あばばばば……。これ、も、もう引けないやつだよな……。なんとか、なんとかなーれっ!!」


 彼らはそれぞれの願いを口にして――そうでもないのも少し混ざって。

 亜鈴さんはいつの間にか実の声で歌っていて。

 ――そして、5人の夢が動(Dream)き出す(Drive)


「巨人よ組み上がれ! Dream Drive!! Gガガッティ!」


「古城の吸血鬼(Vampire)少女……。Dream Drive!! キャッスル(Castle)ヴァリア(Varia)!」


「♪どうか私と一緒に歌って! Dream Drive!! エメラダ!」


「燃えろ、炎とガラスの巨人戦士ィ!! Dream Drive!! グラス・ソルジャー!」


「さいきょーで! なんかすごい感じの! どどどどDream Drive!! Qきょくキメラぁっ!」


 五つもの巨人出現の光が、視界を真っ白く変える。

 それでも僕はそれから目を反らさない。

 僕がしてしまったことの結果だから。


 そして光の中から彼らは姿を現す。


 それは、大工の七つ道具、中でも際立つ大槌を構えた巨人。


 それは、禍々しく蝙蝠翼を生やした可憐な吸血姫の巨人。


 それは、翠玉色の頭翼を備え、歌声響かせる無腕の巨人。


 それは、真っ赤な炎を噴き出すガラスの鎧の巨人。


 それは、ありとあらゆる獣の特徴を備え、頭には可愛らしいヒヨコを乗せた巨獣。


 五体の巨人が、五人の夢の姿が、みんなの前に立ち並んでいた。

 友人らの大いなる変貌に、クラスメイトのみんなは一斉に歓声をあげる。


「大丈夫!? 気分悪かったりしない!?」


 アゲハとして彼らを迎えたむーちゃんが心配の声を掛ける。

 五体の巨人はそれぞれに顔を見合わせたり、自身の手や体を気にしたり。


「大丈夫だ。――少々高くておっかないが」


 大工巨人Gガガッティから加賀くんの声が響く。

 それに合わせて、周囲の巨人らも頷く。


「こここ、この程度でおっかないとか、かかか加賀は……怖がりだな!? 高所恐怖びっくりショーか!?」


 明らかに震える声は、光本くん。

 その火炎巨人グラス・ソルジャーは腰が引けている。

 でも、笑ってはいけない。


 そして、そんな時だった。


「すげーな。みんなヒーローになっちまった……」


 長尻尾の狭山さんが、僕に声を掛けてきた。

 身長のある彼女は僕を見下ろして、真っすぐに訴える。


「多々良、頼みがある。……コレ、外してくれ」


 狭山さんは、そのすらりとした首に付けられたチョーカーを指差して言った。

 僕は、それが外れることの意味を知っている。

 だから彼女の華奢に細い首から目を離せないままで、真面目に聞き返す。


「……本当に、いいの? 多分、怒られるよ? 偉い人からも、狭山一尉からも――」


「テロとかの時に、人命救助したいなら外していいって法律にあるらしいぞ。……さっさとしろ、自分じゃできないようになってる」


 狭山さんは後戻りをしない宣言をしてから、目を瞑った。

 僕は――、彼女の首へ手を延ばす。

 その柔らかい肌に指を食いこませながら、チョーカーに力を込め、それを千切った。


《呪怨装強化歩兵の不正規解放が行われた事に深く哀傷を覚えます。事態不明なれど、是が力、正しく用いられることと貴方への請願を白します》


 千切られたチョーカー、軍に所属していないEエンハンサーの変身抑制リミッターが記録されていた音声を再生しだした。

 それはとても穏やかな、そしてまるで子供を心配するような声。


《――変身解放、善き人間たれ》


 それを聞いた狭山さんは、冗談を聞いたと笑いだした。


「これからバケモノになる時に良い人間で居ろ、だってさ。笑っちゃうな……」


 彼女は僕らから距離を取って、体に力を籠める。

 見たこともないような優しい瞳を僕に送ってから。


「エンハンサー、変身!」


 6体の巨人が見守る中で、その変化は起こった。

 長い髪を二つ結びにした長尻尾の少女の体が、彼女の全身の細胞に組み込まれた機械小胞体が宿す呪術の力を以って彼女の存在を変質させていく。

 その姿はあっという間に人の形から離れていった。


 その全身に獣毛を纏い、腕は身長ほどにも伸び、長い尻尾は更に長く剛く太く。

 纏っていた服の裾や袖は、膨れ上がった体に引き裂かれてしまって。

 体を震わす強い呼吸で口角から吹き出てしまった涎を、狭山さんは恥ずかしげに毛で覆われた手の甲で拭う。


 そこに居たのは僕のクラスメイトの、戦士の娘の戦士。

 狭山さんが封印されていた力を解放した姿。


 獣人と違って獰猛さを剥き出しにしたその姿に、クラスメイトの何人かは後退りを堪えられなかった。

 そんな中で僕は半人半獣の女戦士となった狭山さんと向かい合って、その衣服が変身に巻き込まれて幾分破損してしまったことが大丈夫なのか不安に思って。

 その事を伝える前に狭山さんからの問いかけ。


「どーだ、多々良。アタシはカッコいいだろ?」


「――うん。一尉よりかっこいいかも」


 質問へのお世辞は、だけど彼女に鼻で笑われた。


「ふん、かーちゃんのがカッコいいんだ。……ひいばーちゃんからだから、アタシは4番目にカッコいいし、強い!」


 そう決めた狭山さんは二振りのDビームロッドを構えた。

 現在は彼女が要塞都市最強のEエンハンサー。

 学校側の最大の戦力。



 そして――。


「分解して、組み替え、繋ぎ合わせる! ディバイド&ボルト!」


 加賀くんの掛け声に合わせてGガガッティは片手に(ノミ)、片手に大槌を構え、更にそこから墨壺の糸を延ばす。

 学校全体に複雑な構造計画が描かれてから、ある場所は切り出されて宙に浮き、ある場所は組み合わさって。

 複数棟あった校舎は、一つの要塞として組み上げられて形を変えていく。


 そんな中で更に一つの事件。


「さーて、今回の総司令は俺かな! 大神一佐みたいに策も見識もないが――」


 声を上げたのは、あきら。


(――今、それぞれの考えと状態を把握できて、連絡しきれるの俺だけだし!)


 声じゃない声を響かせたのは、あきら。

 その異変に、クラスのみんなが戸惑って。


「あたっ、頭の中に声が聞こえたぞ!?」

「声じゃないって! あああ、テレパシー!!」

「え!? 今のって耳からじゃなくて!?」


(いや、さっき言っただろ。サイオニックだってさぁ……。とりま、加賀の考えた大要塞の天守まで誘導するから、非巨人組はこっちこーい)


 あきらはそう言って――言ったわけじゃないと思うけれど、クラスのみんなを学校要塞の新しい入口へと誘導しだす。

 みんなは大分混乱を起こして、でもとりあえずあきらの指示には従って、校舎の中へ向かっていった。


 その場に残されたのは巨人と、それ以外では僕と佐介、紅利さんに変身狭山さん。

 やれやれというように身振りをとった狭山さんは、僕に語りかけてきた。


「……これだけ巨大ロボットが居りゃ合体してゴッドだとかキングだとかグレートだとかになるんじゃないか? 男子向けのヒーローってそんなんだろ?」


 周囲の巨人の内、男子が出現させたものも、その話に頷きを返す。

 ……そういうので育ってきた男子として分からなくはない話なんだけれども。


「この間は、多々良のと珠川のが合体してたもんなあ」


 Qきょくキメラからは奈良くんが声を掛けてくる。

 だけど、僕はそれに釘を刺す。


「巨人は……出現させている人間の精神そのものだから、合体とかは本来やっちゃダメなんだ」


(ああ、精神が混ざり合って、僕の名前は根須良 あき介です~とかになって、最悪そのまま二度と元には戻らなくなる――やるなよ?)


 あきらからの少し誇張した表現。

 でも、それは分かりやすくみんなに伝わったみたいで。


「げっ、そりゃヤダな……」

「加賀とは絶対御免被る! 触るんじゃねえぞ!?」

「わかった。しっかり距離の規格を作っておくとしよう」


 5体の新巨人はそれぞれに後退り。

 そんなに簡単に起こるものでもないんだけど。


 その時、横から声がかかった。


「……もし、誰かを助けるのに必要になったらどうするんだ?」


 それはワイルドスタイルな変身ヒーローの狭山さんから。

 対する答えは僕からじゃなく、あきら。


(央介とアカリーナは、他に手がなくなったらやるつもりさ。――馬鹿だよなあ)


 狭山さんは、僕と紅利さんの顔を覗き込んできた。

 僕らはそれに頷き返す。


「……かーちゃん悲しませるような事、すんなよ?」


 そう心配の言葉をくれた狭山さんは、踵を返して学校要塞へと向かう。

 これから学校の防衛主力は彼女に任せることになる。

 僕は彼女に、学校へ襲い掛かる敵を出来る限り減らすことを心に誓って、Dドライブを構えた。


 隣では紅利さんも揃えて。

 二人で、はじめる。


「Dream Drive!! ハガネ!」


「Dream Drive!! ルビィ!」


 僕らは、僕らの巨人の発動コードを叫ぶ。

 Dドライブは光を放ち、僕らはそこから流れ出たエネルギーの流れに飲まれた。

 そして、僕らはいつも通りにエネルギーの流れを越えて、その向こうにある扉を開く。


 開けた視界の中には大勢の巨人。

 そして隣にはもう1体の巨人。


 夢幻巨人ハガネ、アゲハ。

 巨人ルビィ、Gガガッティ、キャッスル・ヴァリア、エメラダ、グラス・ソルジャー、Qきょくキメラ。

 更にそこへ辰が姿を変えてミヅチも現れた。


 立ち並ぶ9体の巨人。

 決意を胸に、それぞれの目的に向けて――。


「――巨人隊、出げ……」


《ちょっと待ったぁ!!》


 ……僕の掛け声はハウリング気味の拡声音声に遮られてしまった。

 振り返ってみれば、声の出元は学校要塞の天守閣――中にはどうやら6年A組の教室。

 そこでメガホンを構えていたのはジャージ組の遥さん。


《巨人隊ってさ! ちょっとカッコ悪いと思うんだ!》


 ボーイッシュな彼女から、バッサリと切り捨てる言葉が飛んできた。

 僕は少しうろたえながら答えを返す。


「カッコ悪いと言われても、軍からはずっとそう呼ばれてたんだけど……」


《でも、いまは軍じゃないでしょー?》


 メガホンは隣の瞬くんへ渡り、今現在は名称を変更すべき理由も投げ付けられた。

 言われててみればそうだけど――さて、どうしよう?

 僕が悩む間、クラスのみんなはメガホンを奪い合いながら口々に提案を始める。


《公募でいこう、公募で! 僭越ながらアース・ディフェンス・クラスルーム!》

《長い! そして地球守るわけじゃねーだろ!》

《シンプルなのがいいのよ。頑張るチーム!》

《これが犬委員長のセンス。読書数じゃ改善されないんだなあ……》

《強くて温かい! キョーリューズ!》

《そりゃ英羅だけの趣味だろ》


《ディンドン・ベル!》

《ブレードナイツ!》

《マルチ・ウィンド!》

《スーパーロボット大・戦隊!!》


 ――まずい、収拾がつかなくなってきた。


「多々良が決めろ、多々良が。騒動の中心なんだから」


 それは、いつの間にか天守の天辺に座り込んでいた変身狭山さんからの言葉。

 途端に皆の視線がハガネに、僕に集まった。

 いきなりの無茶振りに僕は無い知恵を絞って、なんとか良さそうなチーム名を考える。


「ええと……ドリーム……。ドリーム・ドライバーズ、どうかな?」


「巨人出す時の掛け声じゃねえか。……まあいいや。時間もないし、それで」


 狭山さんからは大分、呆れられながらもGOサインが出た。

 そして掛け声をかけたのは司令官を務めるあきら。


「よぉし! それじゃあ、出撃! ドリーム・ドライバーズ!!」


 あきらの指差す先には、ゆっくり向かってくる敵の量産巨人。

 その向こうには破滅を願う魔人、ヴィート。


 ――これから始まるのは、ドリーム・(夢を持)ドライバーズ(つ者たち)、みんなのたたかい。


 See you next episode!!!

 ドリーム・ドライバーズ出撃!

 少年少女達の戦いは邪悪な巨人たちを打ち払う!

 そして、央介と紅利に託された勝利の鍵は――。

 次回『みんなのたたかい・後編』

 君たちも、夢を信じて! Dream Drive!!!



 ##機密ファイル##

『僵尸兵器』

 旧時代、大陸連邦が開発していた呪怨兵器。

 人間や動物の死体、場合によっては生体をも結合させた兵器体を呪詛と怨霊で制御する、当時のE兵器――Eエンハンサー同様の不滅性を持つ兵器。


 第3次大戦期において、日本自衛隊がEエンハンサーをユーラシア大陸の戦線に投入。

 その圧倒的戦闘力に恐怖した連邦側は、未完成であった僵尸兵器で対応することとなった。

 これにより、ある程度はEエンハンサーによる破滅的侵攻を押し留めることに成功する。


 しかし僵尸兵器の大きな欠陥として傍に制御術者を置かない場合、制御系として用いられている怨霊が暴走を起こす危険性が潜んでいた。

 中でも戦闘兵器として完成度が高かったZZ8号体は最大規模の暴走事件を起こしている。


 ZZ8号体は投入当初こそ術者の制御の元でEエンハンサー部隊との戦闘を行っていたが、功を焦った作戦判断から術者が死亡。

 暴走を開始した同兵器は戦場にいた日本自衛隊や大陸連邦軍の兵員や、その死骸を融合吸収、更には近隣の都市の住民までも襲い始めた。

 事態がそこに至って、日本・大陸連邦双方は局所的な停戦とZZ8号体への対応共同戦線の構築を余儀なくされる。


 この戦いにおいて日本自衛隊のEエンハンサー・九式RsがZZ8号体の吸収攻撃によって失われるも、戦闘中に異常形態「赤眼化」へと変異した九式Rbの活躍もあってZZ8号体の撃破に成功。事態は解決を見た。

 ただし、これはEエンハンサーが戦場でロストした唯一の記録ともなっている。


 その後、第3次大戦の終焉期には僵尸兵器の製造技術は失われ、後の第4次大戦期には同兵器は用いられることもなくなった。

 しかし大陸連邦後継国の一つ、専制国家“翠”で用いられる呪術を含む総合超科学・仙道術には類似の技術があると言われ、国際社会はその利用に警鐘を鳴らしている。

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