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第三十六話「みんなのたたかい:前編」7/8

 =多々良 央介のお話=


 無垢の5つのDドライブ。

 それを利用して5体の巨人を作り出し、戦わせる。

 僕にとってはちょっと受け入れがたい、あきらの作戦。


「それは……!」


 僕は、無理だ、危険だと咎めようとした。

 その間に、さっさと動いてしまった子が一人。


「もーらいっ! アタシも巨人で戦ってやる!」


 テフが、机の上に並べていたDドライブが1つ掻っ攫らわれた。

 長尻尾の狭山さん。

 ――不死身体質の彼女には危険だとは言えないのだけれど、でも。


「あ……。えっと、その狭山さんには、無理だと思う」


「あん? なんだよ、エンハンサーとかそういうの引っ掛かんのか?」


 思いっきり反目してきた彼女に、以前あきらに聞かされた話をする。

 それは彼女が抱えているらしい性質。


「そうじゃなくて。えーと、狭山さんって自分が赤ちゃん産むって考えた事ある?」


 僕は言ってから、これは女の子にしていい話じゃないと気付く。

 狭山さんも狭山さんで顔を恥じらいに真っ赤にして、でも応じてくれた。


「ななな、なん、急になんだよ!? ……あー……うん……。まあ、あるけども」


 恥じらいの赤面から急に大人びた表情を見せ、そしてお腹の下の方に手を置いた狭山さんは語り出す。

 その様子は、狭山一尉にそっくりだった。


「――ひいばあちゃん、ばあちゃんと最強のエンハンサーで、かーちゃんもだ。そしたら、アタシがいつか産む娘だって、そうなる」


 ええと……娘とは限らないと思うのだけれど。

 まあ、それはともかく。


「それが、どうもダメみたいなんだ。そういう意識ができると、PSIは内臓に向いて巨人は難しくなる。……今まで狭山さんの巨人が出てこなかったのも、それじゃないかな」


 理屈を説明すれば、狭山さんは眉間に深く皺を刻んで唸りだした。

 ひとしきり唸ってから彼女はDドライブを元の場所に戻し、舌打ちに毒を吐く。


「チッ……なんだよ。シラケるなー……」


 ――PSIエネルギーは、本来なら生物が本能的に自分の身を救うために使う力。

 体内物質の巡りを少しでも良くし、お母さん達ならお腹の赤ちゃんを守る力。

 そして僕の父さんはその力を取り出して、人々をケガから遠ざけるために使おうとした。


 それを戦いに使うというのは、やっぱり受け入れたくない。

 けれど、あきらが残酷に現実を突き付けてくる。


「央介、さっきのスティーラーズみたいなのが大量に来たら助け切れるのか? しかも連中は床や天井、壁をぶち抜くぐらいは平気でやるんだぞ? それは、今すぐかもしれない」


 言い返せない。

 次に声を上げたのは、紅利さん。


「今は、みんなで頑張った方がいいと思う。私のルビィにも手伝わさせるから」


 欲しいのは守る力だけなのに。

 戦わずに、守ってだけくれる巨人が――。


 ――守る力の巨人。

 補佐体が突破できない領域を作り出し、この教室へたどり着けない状態にする巨人。

 ……ああ、記憶の中に居る……居てしまう。


 巨人仕掛けの学校の異変。

 あの巨人は戦闘を嫌っていて、最後は佑介の攻撃指示にも従わなかった……。


 その手助けがあれば、少なくともクラスメイトが襲われる心配はなくなる。

 また巨人になってしまえば直接被害を受けることもない。

 父さんの作ってくれたDドライブが、利用者を最後まで守ってくれる。


 僕は奥歯を噛み締められるだけ噛み締めてから、妥協を決断した。


「……一人。一人だけ、お願いしていいかな。みんなを守れる力を持ってる巨人がいる……」


 彼は、こんな時でも生真面目に自分の席に座っていた。

 僕は彼に向き直って、頭を下げる。


「……加賀くん。君の巨人――構築王で、この学校を防衛向きの形にしてほしい。そうしたら僕らは安心して戦える」


 加賀くんは、声を掛けられた時は驚いていて。

 だけど彼は悩む様子も怖がる様子も見せずに頷き、無茶な依頼を受け入れた。


「俺か。わかった。やり方はよくわからないが、やってみよう」


 朴訥に答える加賀くん。

 きっと彼は、僕なんかよりもずっと勇気があるんだ。


 だけど無人島でもそうだったように、僕はまた巨人技術をみんなに使わせてしまう。

 僕の体の中が苦悩ばかりになった所へ、複数からの声がかかった。


「私も! 私も、多々良くんを手助けしたいのです!」


「♪今苦しんでる、人がいるなら。♪医術は仁術、それは傷つける者との、終わらない戦い~」


「義を見てせざるは勇無きなり。刑事の娘が犯罪者見て何もしないのは、ねえ」


 声を上げたのは三人の女の子。

 吸血鬼少女の有角さん、歌姫グリーン・ベリルの亜鈴さん、警察官の親を持つ軽子坂さんが、突然の立候補をしてきた。

 僕は慌てて断ろうとして、でも――。


「おい、多々良。今回はお前じゃなく、アタシらが狙われてるんだ。力とやる気がある奴

 には自衛ぐらいさせるべきだろ。それが自衛軍の理念だぜ」


 狭山さんからの正論。


「おーちゃん、これは巨人の悪用じゃないよ。……とーさまたちには叱られるとは思うけど。でも今、相手の好きなようにさせたら、とーさまも多々良のおじさまも、もっと苦しむから!」


 むーちゃんの選択と覚悟。


 続けて――。


「……きっと大神さんにも、さっきより大声で叱られるね。本当に怖かった」


 ――紅利さんは、僕の気持ちを汲み取ってくれた。

 だけど、彼女はそれを結論としなかった。


「だけど……大神さんを助ければ、生きてくれて、また叱ってくれるんだよ、央介くん。このままだと大神さんも、みんなも、いなくなっちゃう!」


 紅利さんの語る、僕が決断しなかった場合の悲しい未来。


 僕は、女の子に言われるばかり。

 流石に情けなくなってきた。


 大神一佐は緊急避難の話で僕らを叱った。

 一例には、船が難破した時に避難ボートを救うためには限界乗員以上を乗せない選択をしてよいという話。


 でも今、選択させられているのは、そんな残酷な話じゃない。

 頑張ってくれるという仲間と手を取って、助かるか助からないかの悪あがき。

 僕が余計な拘りを捨てて、後で増えた罪状に苦しめばいいという話。


 じゃあ、今の僕が選ぶべきなのは。


「……ごめん! みんなを、戦いに巻き込むことになるけれど、力を貸してほしい!」


 島の事件と同じように、頭を下げる。

 あの時のみんなは僕の行動に戸惑いと、そして反発も生んだ。

 だけど、今度は――。


「もう明らかに戦場のど真ん中だよなあ」

「多々良くん、その辺って今更悩むことなの?」

「やだなー、こわいなー。……でも逃げ場ないんだよなー」

「やってやろうじゃねえか以外に無いだろ」


 ――もう、反発は無かった。

 むしろ僕が優柔不断すぎるという話。


 情けなさの泣き笑いは、佐介を前に立たせて隠してもらった。



「――黒野 夢、The card is Just one chance!」


 むーちゃんが予備Dドライブの起動コードを唱える。

 これで、これらのDドライブは光子回路に命の光が流れ出す。


「使い方は、この間の島でのDマテリアルと同じ感覚で起動するの! するとエネルギーの流れがどばっとやってくるからちょっと踏ん張って。その向こうに扉とか光が見えたら、その中に飛び込めばいいからね!」


 更にむーちゃんは簡単な巨人の作り方をみんなに教えた。

 僕はテフに貰った衛生用ウェットティッシュで瞼を冷やしながら、そこへ注釈を付け加える。


「――出す前に巨人の名前を決めた方がいい、かな。……僕の巨人も最初は半端な出方しかしなかったんだけど、ハガネって名前を決めてからイメージしやすくなって、はっきり強くなったから……」


 それに渋めの反応を見せたのは、加賀くん。

 彼の持つDドライブは既に輝きを宿している。


「名前か……。佳い名前というのは、すぐに思い付くものじゃあないが……。鎌継、相欠継、河合継、追手門控柱継……」


 彼を思考の迷路に追い込んでしまったと危惧した所へ、彼とは幼馴染だという軽子坂さんがなかなか光らないDドライブを片手に助言。


「そんな難しく考えたら出る巨人も出なくなっちゃうでしょ。巨人のががっちなんだから、ジャイアントががっちでいいじゃない」


「――悪くない。それでいこう」


 ……いいんだ。


「うっふっふー……やってみたかったのです! 氷の王を討つ英雄。共に戦うは古城に棲まう吸血鬼(Vampire)の少女! ああロマンティックなのです……!」


 不気味に盛り上がっているのは、吸血鬼の有角さん。

 彼女の巨人は強力だったけれど後ろから噛みついてこないかが心配。


「♪力を託せる相手。♪名前ならもう、決まってる。♪海の底深く、永く眠る、翠玉色の髪は、私の愛しい、人魚姫~」


 亜鈴さんはDドライブを輝かせながら歌う。

 だけど、その声は僕が傷つけたままの合成音声。

 不安と悔いが残る。


 そして――。


「多々良くん。一つ聞いていい? これ、故障してるかしてないかってどこで判断するの?」


 どうにもDドライブが光り始めない軽子坂さんが尋ねに来た。

 僕は、彼女が持っていたDドライブを一度渡してもらう。


「こう、意識を集中させれば――」


 いつも通りにハガネを出す感覚で、そのDドライブは輝きだした。

 これは、つまり。


「――ええと、その、ごめん」


「……ううん。多々良くんが悪いんじゃないから……」


 軽子坂さんは、巨人の適性が無くなっているんだ。

 精神状態の変化とすると彼女が大人びた事以外には、僕が彼女の巨人を撃破したせいだろうか。


 僕は手元のDドライブのやり場に困って。

 だけど、それを横から伸びた手が掴み取る。


「女ばっか前に立たせて、ウェットブランケットの意気地なしとか言われたくねーからな!」


 Dドライブを手にして、苛立たしげな声を上げた彼はガラス工房の少年、光本くん。

 彼の手元でDドライブは輝きだし、そして彼は不敵に言い放つ。


「気に食わねえ多々良と加賀が揃って良い所持っていくのも、癪にグラインダーかけるようなもんだし」


 火炎王の主だった彼の協力。

 それは氷を武器とするヴィートの軍団相手に対すれば、ひょっとしたら――。

 僕の口から自然と言葉が漏れる。


「――ありがとう。君の力は、助かるよ!」


「うぇ、気持ち悪い! ……おい、多々良。オレの巨人の方がお前のより強いって所を見せてやる。それで、チビれよ?」


 返ってきたのは光本くんによる僕への雪辱を果たすという宣言。

 本当に、申し訳ない。


 これで、5つのDドライブのうち4つの持ち主が決まった。

 あと一つは――。


「無理にやってもらうものじゃないし、予備として置いておいていいんじゃないかな」


 僕からの穏当めの提案。

 でも、これは往生際の悪い逃げの言葉。

 対して、むーちゃん。


「ううん、ちょっと無理にでも戦闘力高めか、何か特殊な事が出来る巨人が必要だと思う」


 僕と佐介を除いた元々の巨人隊と、あきらに狭山さんまでがそれに頷く。

 そこへ提案を掛けてきたのは、ハヤブサ鳥人の小鳥遊くん。


「戦闘力ある巨人を作るのはもっともな話。だけど白兵の戦闘力をちょっと残しておいた方がいい」


 続けて、柔道少年の丸くん。


「同じ意見だぜぃ。さっきの戦闘ロボが学校内に居たら、巨人じゃ対応しきれない恐れがあっからな」


 それはあり得る話。

 そこへテフが声を掛けてきた。


「そういう事でしたら――」


 テフは背負っていた飛行機械を外し、その収納スペースを開く。

 取り出されたのはいくつかのDロッド。


「当装備を用いれば、補佐体に大きなダメージを与えられます。白兵能力に自信がある方は自衛のためとお持ちください」


 それで僕も気付いた事があった。


「――あ、そうだ。ハガネを使えるようになったんだから、これも渡した方がいいかな」


 大神一佐から受け取った2振りのDビームロッドを、テフと一緒に差し出す。

 僕からの2振りともを受け取ったのは――。


「じゃあ巨人使えないアタシが貰っとくか」


 ――長尻尾の狭山さん。

 早速Dビームロッドを二刀流に構える彼女の姿は勇ましい。


 その他のDロッドも、小鳥遊くん、丸くん、流くん、日々野くん、熊内さんと生身の身体能力に自信がある組に渡っていった。

 しかしこうなると、やっぱり戦闘能力のある子は残っていない。


 そんな中で、一人が手を挙げた。


「……あの、僕。巨人をやろうかな」


 ウサギ獣人の稲葉くん。


「その、島を出る時の……サメ巨人。また乗ってみたい、かなって……あはは」


 そう冗談めかしての立候補。

 だけど、彼は遠目にも酷く震えていた。

 勇気を振り絞ってくれて、でもこんな状態の彼に戦わせたくはないと思った。


 クラスのみんなが不安な目で見送る中で、稲葉くんは最後のDドライブを手に取る。

 彼の手も、やはり震えている。


 僕は、止めた方がいい頭数合わせじゃなくていいと声を掛けようとした。

 その瞬間だった。

 褐色の影が、野生の素早さで稲葉くんの手からDドライブを奪い取る。


 彼は――。


「い、いえーい!! オイラ、きゅーきょくのキメラ生物だからな! さいきょーの巨人を出してやるさ!」


 ――ウサギネコ獣人の奈良くん。

 輝きだしたDドライブを片手にVサインをしてみせる彼も彼で相当に震えていて、稲葉くんを見ていられなくなっての軽挙だったと分かる。


 そして彼の巨人と戦ったものとしては、あの能力は味方側にあって大丈夫なものかという不安。

 クラスの女子のみんなも似た見解に至っているらしく、しかめっ面で奈良くんを睨んでいる。

 だけど、やると言っているのを止められるような状況でもない。


 こうして5人の新たな巨人の投影者が決まり、状況が動き出す――。

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