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第三十六話「みんなのたたかい:前編」2/8

 =多々良 央介のお話=


「――大神だ。侵入警報とは、何が起こった?」


 鳴り響く警報の中で迷いなく通信を受け取った大神一佐は、僕らに状況を知らせるためか音声を外部へも流す。

 一方の僕は敵が来た事への怒りを持ちつつも、一佐からの辛い話が中断された事に安心もしてしまった。


《スティーラーズの新型です! 多数が地中から装甲壁を突破して侵入し、ヴィート同様の凍結攻撃を行いながら侵攻を進めています! 一佐はHQでの対応指揮を!》


(ヴィート)が設定していたタイムリミットが来た、というわけか……。わかった、すぐに行く!」


 そこまで応対した大神一佐が携帯端末を胸へ戻そうとした時、通信の相手からの続く言葉。


《ああ、一佐には面会の予約が――いえ、こちらで処理しておきます……》


 大神一佐は、その話に一瞬考える素振りを見せて。

 しかし心当たりが無いようで、次は僕らへの対応を始めた。


「――央介君、紅利君。今回は逃げるんだ。この基地からは緊急路線を使うことで直接リニア幹線まで乗り込める。そのまま首都圏まで逃げ込めば君等を守る戦力ぐらいは揃う」


 僕は「でも」と――多分、紅利さんも同じことを言おうとして。

 だけど、さっきの話の繰り返しになると気付いて、二人で俯く。

 僕らの辛い理解に、一佐は優しい表情で話を続けた。


「安心したまえ、敵が用いる凍結は敵が去れば解除されて被害はないものだ。……だが君達は違う。現在のギガント、ヴィートらは君達を巨人技術の最先端の要素だとして収奪しにきている」


 一佐は最後に僕らの肩へ手を置いて、その力強さで説得を終える。

 僕らは、黙って従うしかなかった。


「……よし、HQは途中まで一緒だ。ついてきたまえ」


 紅利さんの車椅子を押す僕を背後に、大勢の兵士が警戒状態に行きかう通路に出た大神一佐は軍用の携帯端末をひっくり返して何かを取り出した。

 その取り出した物――電子鍵を使って通路に備えられた頑丈そうな収納を開く。

 中に並んでいたのは、要塞として供えられた沢山の銃器と――なんだろう? 懐中電灯のようなもの。


「――こちらは央介君でも使えるか。護身用に持っていくといい。米軍技術を取り込んで、つい先日配備されだした最新型だ」


 そう言って大神一佐は、よくわからない方の物を二つ、僕に渡してくれた。

 手に取ってみれば、そのグリップ部分には見覚えがあった。


「これ……Dロッドですか? でも、刀身部分がなくて……」


「刀身構造部がヴィートの凍結を受けないように改良された。柄部分から――うむ、ホログラフとPSIエネルギーを放射する機構だったか。いわゆるビーム・ソード風にしたものだ」


 ところどころの技術的な部分は少し引っ掛かりながらの説明。

 グリップに仕掛けられたスイッチを入れてみれば、空中に伸びる半透明の刀身。


「兵達は中々適応できていなかったが、央介君ならば使いこなせるだろう。こういうのは、若い方が飲み込みが早いからな」


 そう言って大神一佐は自分の分のDビームロッドを展開して、それを壁に向かって幾度か素振り。

 ――だけどホログラフの刀身は壁をすり抜けるばかりで、どうにも機能している気配はなかった。

 一佐は顔をしかめながら刀身の長さを調整して、それが最初に展開された1/3ほどの長さになった時の素振りで、やっと壁に大きく傷がつく。


「おっと、これが巨人の破壊力か……うむ、使い慣れた長さが精一杯か。小銃は――目潰し程度だが、“持っている分”にはなるな」


 大型ナイフ程度の刀身になったDビームロッドと大きな軍用銃を構えた大神一佐は、とても――“様になっていた”。

 それは軍人をしている人に対しては失礼な感想だったかもしれない。

 けれど、普段は司令官をしている彼が武器を構えて、使いこなしているのは少し不思議な感覚だった。


「さあ、行こう。巨人相手には君達より弱いが、白兵でなら戦えなくはない」


 大神一佐は、そう言いながら僕らを避難経路の方へと手招きした。



 僕らが移動する間も、状況は悪化していった。

 大神一佐の携帯端末からは危機を知らせる連絡ばかりが響く。


《現在、11機のアトラスが都市上空に侵入し、スティーラーズを投下。双方の数は尚も増大!》


《EEアグレッサー及びL1の狭山からL3の登坂まで、Eエンハンサー総員はエンハンス許可の上で、地上部各方面のスティーラーズへの対応中――》


《地下部の被侵入及び凍結範囲拡大! スティーラーズは高度な電子クラック能力も備えている模様! 各兵員は後退と、隔壁閉鎖時には手動ロックを!》


《地上部のスティーラーズ複数体がスティール1・クロガネに酷似する巨人形態を展開! 巨人隊のアゲハ、ミヅチに出てもらっていますが補佐体テフは現在調整中!》


 ――スティーラーズが、クロガネになった。

 それも複数で……。

 思い悩んでいた最悪の未来が、一部現実になってしまっている。


 僕は――。


「――ハガネを出して戦おう、などと今は考えない事だ。夢君も、辰君も、君らの親達も、追って脱出させる」


 大神一佐は僕の考えを見通して、先にそれを断つ。

 そして更に言い聞かせてくる。


「戦いは前に進むものだけでなく、戦力を温存して後退する撤退戦というのも存在する。この機会に経験しておくといい。無駄に死なない兵士こそが優秀な兵士、生きてさえいれば必殺の銃弾一発を撃てるのだからな」


《前回同様、アグレッサー全隊員の所在地データを基地ネットワークで共有します。九式先任一尉の所在は、いつか反撃の基点になるかもしれませんから》


 ――大人達は、今が勝てない戦いだと理解している。

 理解した上で次へ繋げる動き。

 でも、これだけ戦える要塞都市が、僕たち程度を逃がす意味は――。


「央介君。――ここで、お別れだ」


 大神一佐の急な言葉に、僕は慌てて紅利さんの車椅子にブレーキを掛けた。

 二人で背の高い一佐の顔を見上げると、いつもの優しい笑顔を見せてから。


「ここがHQへの分岐の大隔壁ゲートだ。物理的防御が何時まで保つか分からないが、無いに越したことはない。私が隔壁を閉じた後に横の赤いロックレバーを倒すんだ。そうすれば電子面で不正操作されても開かなくなる」


 そう言った大神一佐は、一人歩き進んだ。

 進んでいく大きな背中の後ろで巨大な機械扉が閉まっていく。


「大神一佐!!」


「大神さん!!」


《――安心したまえ。君等の避難完了まで通信は続ける。さあ、きちんとロックをかけてくれよ?》


 声は、僕らの後ろ側から。

 基地の壁面に備えられた情報画面から、大神一佐が通信回線越しに声を掛けてきた。

 僕は怖さと寂しさを抱えながら言われた通りに隔壁のレバーを倒し、閉鎖を完了させる。


《良し。今、そこへ避難用の自動輸送車両を送る。基地内が戦闘状態のため少し遅れると思うが、待っていてくれ》


「わかり、ました……」


 僕らは、大神一佐の声が聞こえる情報画面のある壁に近づく。

 そこで紅利さんの車椅子を停めて、僕は壁にもたれかかり、座り込んだ。


 要塞都市の空調は、まだ暖かい……。

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