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第三十五話『紅蓮の鬼神』4/4

 =根須 あきらのお話=


 ダメだ! 央介! アカリーナ!

 それは人間に耐えられる力じゃない!!


 僕はシェルターのトイレに隠れ潜みながら、声ではない呼びかけを“二人の一つ”にぶつけた。

 だけど、反応がない。

 あの巨人は、アカリーナの願いで外部からの干渉を強く跳ね返している。


 全身を灼熱の赤に染めた、一回り膨れ上がったハガネ。

 その無敵の殻の中で起こってしまうだろう異変を、僕は知っている。


 未熟なESPが陥ってしまう精神の融合。

 互いの神経系が拡張と補完を求めてどんどん情報を交換しだして、元が誰だかわからなくなっていく。

 臓器制御の神経系まで混線したら肉体が二つある事に対応できなくなって、全ての終わり。


 そんなのはイヤだ!

 二人とも、折角できた全部を話せる友達なんだ!!


 紅靴妃の能力が乗り移っているのか、触れるだけでPSIが焼け付く真っ赤なハガネ。

 僕はそれに出来る限りのアクセスをかける。

 二人へ、呼びかけを続ける。


 二人が二人だったことを忘れさせないために!


 学校の皆から隠れている以上、出来るだけ声を出さずに静かにしているつもりだった。

 だけど遠くの二人に向けての激しくなりすぎた気持ちは、思わず言葉に変わる。


「願いが一つになれるとしても、どんな力を得られるとしても、人間としての命や姿を捨てちゃ駄目だぁっ!!」




 =木下 木花のお話=


 私は、ホウキに腰掛けて状況を見守っていた。

 場所は要塞都市の空高く。

 十分な距離を取っているにもかかわらず、二人が交わったハガネから溢れ出る力が空飛ぶホウキを脅かして震わせ続ける。


「傷だらけで、互いの欠けを補い合おうとするアニマとアニムス。オリュンポス流派が言う所の、生物がセコーレ(分割)を受ける前の源神アンドロギュノスへの回帰の願い……。錬金術師ならウロボロスだ!って言うのかな」


 今、考え付く魔法理論はそんなところ。

 多々良クンと紅利は無我夢中のままに、世界に潜んでいる自然な魔法の根源に辿り着いてしまった。


「……そして比翼の天使様は男女で支え合って神様の許へ至る。単独の完成生命だから、このままだと人の話は聞かないワガママな力――人食い巨人(ネフィリム)になっちゃうだろうけど」


「あの二人、魔力制御なんてできないだろうに! 存在を代償に神格級の力を引っ張り出してる! このままじゃ紅利ちゃんに渡した御守りが焼けきれちゃうよ!」


 長年の相方エルフ、クシーが悲鳴を上げている。

 いくつもの巨大な魔力経路を開いて、紅利に渡した御守りに“無事帰る”の魔法を流し込みながら。

 ――それでもまだぬいぐるみバッグを着込んでいる余裕はあるようだけど。


「あー、もう! 何でよりによって彼が選んだのが“鉄”のシンボルかなあ!? イメージだけのはずなのに魔法阻害が酷く働いてて、効率が悪い!!」


 相方が頭を抱えながら言うそれは、厄介ごと解決の後輩であるハガネを、その先輩である私があまり助けられなかった理由の一つ。

 神話の昔から、魔法と鉄は相性が悪い。

 だから出来た事と言えば、クラスの皆が事件に巻き込まれて怪我しないような保護程度。


 運命の流れの力を借りる者――魔法使いをやっていればいるほど、運命というのは最悪の組み合わせを用意してくることが身に染みてわかる。

 相性が悪い、間が悪い、都合の悪い事ばかり重なる。


 特に紅利に関しては、私の時を考えればこれで二度目。

 あの子は多くの人の運命を狂わす才能でもあるのかもしれない。


 後は、多々良クンもとんでもなく大きな運命の流れを持っている人間だからかな――。


「聞いてるの、サクヤ!? ボクだけじゃ魔力が足りないって話なんだけど!!」


 さて、いい加減に腐れ縁の相方がうるさい。


「占い結果知ってるでしょ、今回ぐらいは大丈夫よ。根須くんが引き留めてるのもあるしね」


 空の上から、地の底で四苦八苦している同級生のESP少年の様子をうかがう。

 私の正体を隠すために、長年にわたって彼の“心反らし”と“物忘れ”に多大な魔法のコストを割いている分の恨み辛みは少しある。

 それでも、今日は協力協調していかないと。


 私はホウキの上に立ちあがって手にした山桜の枝杖を振るう。

 杖の軌道で空中に祝詞と魔法陣を描き重ねて多々良クンと紅利、二人の運命が溶け混ざるまでいかないように保護の流れを籠める。


 その魔法陣の向こうに、紅く輝くハガネが見えた。

 普段のハガネが使っているのは超能力とかサイコキネシスとからしいけど、今のあれはありとあらゆる凄まじい力の集積体になってしまっている。

 自分がそこそこ名の知れた魔法使いとしても、一度は日本が地球上から消えるかどうかの騒動の真ん中に居た事があったとしても、怖いほどの力。


 ――けれど、美しい紅色。


「……恋の力って、暴力的だけど綺麗ね。でも――」


 これは、普通の女の子としての、クラスメイトへの意見。


「――二人に戻らないと恋だって楽しめなくなっちゃうよ、紅利!!」




 =多々良 央介 ・ 珠川 紅利のお話=


 時間が、酷くゆっくり流れている。

 このステインレス・ハガネの力によるものだろうか?


 そのスローモーションの世界で、外典1式は行動を再開していた。

 状況は変化していても巨人3体分の攻撃力で打開するつもりだったのかもしれない。

 再びの必殺シュートが、こちらに向けられる。


 でも、遅いし、弱い。


 のろまに飛来してくる太陽球。

 ステインレス・ハガネに蹴り斬らせる。

 それを真っ二つにするのに、何の負荷も生じない。


 破壊した際に飛び散ったエネルギー塊が周囲の建物を吹き飛ばす。

 ――まあ、いいや。


 必殺技を打ち砕いて残っているのは外典公。

 出来損ないで、まがい物のそれを睨みつけた。


「機械で無理矢理束ねた巨人。ばらばらの三つの心なんて」


「二つでも心が一つになれば、こわくもないね」


 ()は、必要なだけハガネを前に進める。

 200mぐらいをゆっくりと一歩で進めば、もう外典公の目の前。

 かかった時間は0がいくつも並んでの小数秒。


 いきなり移動してきたハガネに、機械のはずの相手が驚き怯えているのが見て取れた。

 巨人を、子供の心を冒涜している機械のくせに。


 ()は苛立ちから無造作にハガネの手を振るった。

 それだけで、外典公の腕は千切れ飛ぶ。

 ちょっと町の建物も壊しちゃったけど。


 ――わあ、紅利さん(央介くん)のくれた力って、すごいな。


 《ダメだあああああっっ!!!! 央介、それは暴走だ!! 二人ともの精神が融合崩壊してしまう!!》


 《ハガネの異常攻撃の余波甚大! 地上の市街が600mに渡って粉砕されています!!》


 通信回線から聞こえる叫び声。


パパさん博士(父さん)、うるさいな……」


「戦いが終わるまでの事なのにね」


 ()は騒々しい通信をオフにしようとして胸ポケットの携帯端末を手に取ろうとして、でも手は空を切った。

 あれ、僕の服に胸ポケットなんてついてなくて――携帯はポーチの中だったっけ。

 操作できないおかげで通信はうるさいまま。


 そうだ、さっさと戦いを終わらせちゃえばいいんだ。

 悪い混ぜ混ぜ巨人、外典公を倒しちゃえばいい。


 その相手は、不利を悟ったのか2式に切り替わって逃げ出そうとするところ。

 空高くへ飛び上がっていく外典公。

 あれで逃げたつもりなんだろうか?


 私は、いつもどおりに慣れた手順で鋼鉄の螺旋を作り出す。

 それは力の加減が変わっているのか普段とは色も形も違っていた。


 でも、どうしてそうなったかはわかる。


「――これは、紅利さん(央介くん)央介くん(紅利さん)の、二重螺旋」


「ステインレス・スピナー。逃げられるなんて思うな――」


 外典2式は空の向こう。

 普段のハガネだったら届くはずも無い距離。

 だけど、真っ赤な螺旋はそれを一瞬で簡単に射止めた。


 空高く雲までを突き抜けて万が一を考えて振り向けば、そこにはもう何もない。

 ちょっと力が強すぎたのか、壊すどころか何もかもを消してしまったみたい。


「やったね、紅利さん(央介くん)


「うん、大好き。央介くん(紅利さん)


 やっと素直に言えた告白。

 高空から、風も気持ちよく自由落下するステインレス・ハガネ。

 その中で()は向かい合って、笑顔を向け合う。


 だけど向き合って、気付いた――。


「あ、あれ? これ……おかしい、よね?」


 ――どっちが、どっちだっけ。


 目の前にいるのは、央介くん。

 目の前にいるのは、紅利さん。


 どっちが、どっち!?


 大好きな男の子は。

 大切な女の子は。


 これは、思ったより危ない状態になってしまっている!?

 さっきの父さん(パパさん博士)は、このことを注意していたんだ!!


「どうすれば……()は、()たちに……?」


 その困惑で、ハガネの形成が緩んだみたいだった。

 地面に降り立った異常巨人内部に、何か別の意思が滑り込む。

 ――あきらからの声!


(二人で、手を繋げぇっ!!)


「――ッ!!」


 ……それはヒトの本能を刺激する手段だった。


 何かで聞いた話。

 ヒトの手は物を握るために進化して神経系数が膨大になり、外部を認識する力が強い。


 二人で指をしっかり絡めて、相手の手を強く掴む。


 その瞬間、紅利さんのポーチから花吹雪が溢れた。

 何が起こったのかはわからない。

 だけどそれは僕たちを優しく分かち、包んでいく――。







 =多々良 央介のお話=


 気が付くと“僕たち”は、二人で街角に立っていた。

 おかしくなっていたハガネの解除には成功したみたいだった。


 それでも僕の手は紅利さんと繋がれたまま。

 紅利さんの顔を覗き込めば、普段通りの可愛らしい彼女の顔。

 さっきみたいに目の前に僕が居るような状態じゃなくなっている。


 ――ああ、よかった。


 安堵した僕の傍に、よろよろと歩み寄ってきたのは心配そうな表情の佐介。


 ごめん、また辛い気持ちにさせちゃって。


 紅利さんと佐介の二人で身を寄せ合っていると、都市軍のアクセス用車両が猛スピードで駆け付けた。

 そこから飛び降りて現れたのは、酷く悲しそうな表情をした大神一佐。


 壊れた町と、彼の表情。

 僕は状況を理解する。


 僕たちは、やってはいけないことをしてしまった――。


 See you next episode!!!

 要塞都市が静止する時、ヴィートは真の姿を明らかにし央介達を招く。

 既に大人達は倒れた。

 戦えるのは――。

 次回「みんなのたたかい:前編」

 君は夢を信じられる?Dream drive!!!



 ##機密ファイル##

 生物考古学:絶滅人類種エルフ(ホモ・サピエンス・アルヴァンシス)

 先進科学により北極海底から同種族のごく初期の遺骸が発見された「北極環境に完全適応したと考えられる人類の亜種」

 遺骸の検証結果から、食物や居住環境がほぼ存在しない極限地域において「未知のエネルギー摂取で活動を可能としていた人種」だと推定されている。

 東洋の伝承に言われる「霞を食う仙人」が近い概念とも。

 その超生物的性質、および北欧部への分布も見られることから神話に語られる“エルフ”の名を分類名とされた。

 生物的な面だけでなく文化的にも、後の伝承に現れるエルフの原型となった可能性も高い。


 彼らが用いていた“未知のエネルギー”は、その補給代謝を賄うのみならず外部への影響も及ぼしていた痕跡が発見されている。

 この事に加え、彼等と接触があったであろう地域の遺物から、古代において彼等は「魔法使い」「妖精」「亜人」「神族」などと認識されていたことが推定できる。

 時代と共にその活動範囲も拡大していった事が見て取れ、欧州全域やシベリア・日本など一部アジアでもそれらしき痕跡が発見された。


 しかし、彼等の活動は古代ごろに唐突な終わりを迎えている。

 人間を超え、生物を超えた能力を誇った彼らが淘汰絶滅に陥るとは考えにくく、種族全体で人類文明圏からの離脱を図ったのでは、という説が現在は主流。

 ただし、その選択に至った原因は未だに不明であり、当然に離脱していった行先も不明である。


 遺骸による復元像から現代人類との明確な差を挙げれば「体毛がホッキョクグマなど同様の透明白」「虹彩色は金」「寒気から耳を護る体毛の発達から、獣耳に似る」「体格は大きめながら華奢」など。

 なお現生人類にも彼らの遺伝形質が僅かながら受け継がれており、独自進化を起こしたと言えど生物学的な亜種の範囲からは離れていなかったことになる。

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