第三十四話「蒼の甲冑、ヴィート」6/6
=多々良 央介のお話=
戦いの後、僕は地下要塞の医務室に運ばれてきた。
今は、体のどこもどうにもなってないのに相手の時間凍結がどう影響を残しているかわからないから、と沢山の検査機材を向けられている。
(無事で良かったぜ)
あきら。
そっちこそ、ああいうとんでもない攻撃範囲のは危なかっただろうに。
(巨人出した時の全方位攻撃はちょっとヤバかったかな。奴は視界範囲で攻撃してたから、その範囲外の地下に居ればね……例によってこっちのPSIは遮断されてて相手に介入はできそうにない。ごめん……)
そんな都合良く勝ちたいなんて思わないさ――と、言いたいところだけど。
……今日のは勝つためにどんな反則でも欲しいって思ったよ。
それぐらいに、力に差があり過ぎた……。
(まあな。――ありゃ、今の世界でも最強クラスのサイオニックの馬力に近い。こっちの業界もザワついてる)
業界――サイオニックの、ってこと?
(そういうこった。まず、あんな強烈なのがサイオニック側でも気づかれなかったのが妙だってな)
気付かれなかった……そっか、サイオニックはいろんな感知力を持ってるから。
――痛てて、採血針。
(痛てて……。感知というよりは単純な噂さ。サイオニックだって人間の子供として生まれる。親も大抵サイオニックだから、仲間内で子供の自慢や不安で話題になる)
ああ……家族、か。
ごめん、なんかサイオニックはそういうの無いみたいな考えしちゃってたかも。
(……まあな。実際に親から拒絶されるサイオニックもいる。突然変異で子供だけサイオニックってのもあったりする。ただ――)
ああ……ごめん、あきら。
君は、確かお父さんに……。
(いや、そこはどうでもいい。もう一つ気にかかったことが、あいつの能力が少し妙だった。あいつ、九式先任ごと腕を凍らせて防御しただろ?)
うん――九式先任が無事だったら、あの後も少しは――。
(可能性はあったな。んで問題は、あいつは自分の体ごと――場合によっちゃ延長部品ごと攻撃するのに躊躇いがないって部分だ)
自傷に躊躇いが、ない?
あれ、前に同じことあった、ような……。
(ああ。まず少なくともサイオニックが最初に覚えるのは自分自身に自分の能力が害を及ぼさない、ってことからだ。でないと自滅して死ぬ)
それは前にも似たような話してたよね。
ESPの感覚が他人とカフェオレになっちゃう、とかの。
(そうだ。だから、ヴィートって名乗ってたあいつの正体は二つに絞れる)
なんとなく……僕も片方は分かる気がする。
でも、もう片方は?
(片方は単純にギガントが秘蔵してたか改造して最近出来た超強力なサイオニックさ。そうじゃなければ――)
――あいつが、補佐体。
佑介と一緒に襲ってきた、シルバーデビルと同じ。
(ってことだな。まあそれが分かっても戦いの手段にはならないんだけども……)
ううん、少しだけ戦いやすくなったかも――。
――ああ、うるさいのがやってきた。
「役立たずだな!」
(うるせえポンコツ!)
検査室に入ってきた佐介の茶々。
どうやら、佐介にも故障は無かったみたいだ。
夢幻巨人ハガネは健在で、まだ戦える。
むーちゃんに、辰も続いて。
これで僕たち巨人隊のフルメンバー。
白雪のヴィート。
そして時間凍結の巨人ベルゲルミル。
いずれ襲ってくるだろうあいつの正体が何であれ、僕が何としてでも倒さないと。
今回は、巨人隊とアグレッサーと要塞都市全部の力を集めても届かなかった。
それでも相手が余計な時間をこっちに渡した分がある。
相手の武器が分かっているのだから、弱点を探して、体勢を整えて――。
(それなんだがな……。ちょっと大人達が嫌な話を始めてる。央介、ひょっとしたらお前たち巨人隊は――)
=珠川 紅利のお話=
今日の戦いは、いつもより警報が激しかった。
雰囲気の違う悪い人、雪と氷に覆われた都市。
央介くんたちが相手を追い詰めたところで、地上の映像は途切れてしまって。
でも、その後で避難は解除された。
きっと央介くんたちがいつも通りに巨人を倒したのだ。
だけど央介くんたちはいつまでたっても学校に戻ってこなかった。
戦いが終わった後、あきらくんを見た限り難しそうな顔をしていて。
でも深刻そうな表情にまではなっていなかったから、央介くんの身に何かが起こったという感じではないと思う。
それなら、ちょっとだけ都合が良い。
今の私は央介くんの前ではできない秘密計画を進行中なのだから。
私は、央介くんの帰りを待ちながら、黙々と指先の作業を続けた。
See you next episode!!!
突然に告げられた別れに、紅利は慟哭する。
その時、都市には強大な敵が襲い掛かった。
戦力全てが失われる中で、あるいは二つの心が一つになれば。
次回『紅蓮の鬼神』
君は夢を信じられる?Dream drive!!!
##機密ファイル##
Eエンハンサー開発系譜
神楽の力を人に降ろすエビル・エンハンスは、初期は機能や発展から一式から九式までの番号で分類されていた。
なお、これは陸軍などで見られる開発年式分類ではなく、能力路線を分かりやすく分類するためのもの。
・一式 : 試作型であり、ここから全ての路線が始まったために機能的には様々な形式を含んでいる。つまり一式に属しているものは雑多で統一性が無い。初号機となったのはEE研究の技術主任本人で、彼は生物特性や安全性を考えた末、自身を飛蝗のEエンハンサーへと改造し検証を行った。
・二式 : 変身能力や呪怨不死化には未だ信頼性が無かったため、既存兵器を運用する強化兵士としての方向で模索が行われた。耐久・膂力強化のために大型草食獣系が多い。
・三式 : 二式での実績から、呪怨破壊を利用した白兵戦を主力とする形式へ段階が進んだ。シンプルな破壊力もあってエンハンサーとして大きな戦果を挙げた形式。肉食獣系が多い。
・四式 : 二・三式は戦力として優秀となることが予想できる状態となったが、エンハンサーの欠点として肉体損壊時には当然装備品も破損全損してしまう。この際には情報面で孤立を起こしてしまうことから、音波や電磁波などを生身のままで知覚・認識・解読可能な支援能力に特化した形式として開発された。利用された形式は戦闘力は要求されず感覚能力に優れたウサギやコウモリなど。
ここまでは形式順に開発されたが、以降は同時並行で開発される。
・五式 : これまでの形式で技術として安定化したことで、超極限環境への対応を求められた。すなわち宇宙対応型エンハンサーである。真空環境で装備品全損に至ると皮膚・呼吸器損傷からの活動困難(不能ではないが)を起こすために宿す生命体は外骨格生物、つまり節足動物が用いられた。
・六式 : 五式同様の発想からなる海戦目的の水中対応型エンハンサー。こちらは海生哺乳類・魚類・蛇などの爬虫類など様々な生物を宿している。海にある限り逃れることのできない不滅の魚雷と恐れられた。
・七式 : 対Eエンハンサーを想定されて開発された呪怨排除の呪術的特性を持つ形式。真っ先に開発されたのが鶏のエンハンサーで、「鬨の声」による闇や呪いを祓う事により敵対者のエンハンサーとしての機能を停止させることを可能とした。この形式への改造者は非常に多い。しかしここで“鶏”を用いたことが後の新種別で順序混乱を呼ぶのだが。
・八式 : 機動力・輸送力に特化したエンハンサー。他のエンハンサーを機動運用させる場合の移動支援を行うもの。主に飛行能力を持つ鳥類、次いで馬などの速度と積載量に優れたエンハンサー。
・九式 : ここまでの形式の機能を汎的利用が可能な統合形式。もちろん採用できなかった機能も幾分あるが、知覚力・機動力・破壊力・環境適応を一通り持っている。EEアグレッサーの前身である呪怨殲滅強化歩兵小隊、通称「九戦鬼隊」の所属兵器、九式Rbが完成形と言われる。
戦後になってだが、これらの形式表記が「兵器としての形式番号」ということもあり、人権が復帰されたエンハンサーに対して用いるのは忌避されたために新種別名が用いられだした。
これには縁起の良さや親しみやすさから十二支で分類され、
一式:子 二式:丑 三式:寅 四式:卯 五式:辰 六式:巳
八式:午 九式:申 七式:酉
という分類に改編された。
ご覧の通り、鶏をシンボルにしてしまった七式が妙な位置に来ているのである。
残る未・戌は「文字的な縁起(未=いまだ)、イメージの悪さ(戌=いぬ呼ばわり)」から用いられず、最後の亥は「欠陥を抱えたエンハンサー開発・研究計画の全体の被害者ら」を追悼する目的の区分で、実態はないとされている。
なお現在も旧型式を名乗っているEエンハンサーも一定数残存しており、彼らはそれを誇りとするものも居れば、逆に人の業と歴史を刻んで名乗り続ける事を選んだものなど個々に理由が異なる。
国外での同技術の発展だが、Eユナイター・エンハンサー双方の技術は三次大戦において日本と共に大陸連邦と対立していた国、バーラタ共和国にも供与された。
しかし宗教統治制を強めていた同国において「神話と獣の力を人の身に宿す」技術は日本とは別の受けとめ方をされる。
それらの技術は当時の日本では強権的団体によって「人間以下の社会部品・戦闘兵器」を用意する目的で利用されていたのに対し、バ国では国家宗教に裏打ちされて「神話時代への回帰」だと考えられたのだ。
結果、支配層にあたる宗教指導者や、その近衛階級ほど強力な改造が施され、それは強力な軍事力を作り出す一方で、元々強い影響力のあった先天階級制度の助長、支配体制の独占化と有力者諸侯・派閥同士の対立を招くこととなる。
エンハンス技術により強大な軍事力を手に入れ、大陸連邦からの侵攻こそ排除できた。
しかしバーラタ共和国は次第に国としては崩壊していき、支配者である超人君主すなわち『マハ・ラジャ』達の相互の睨み合いや協定が結ばれて行った末、現在は不安定な連合国「バーラタ・マハラジャ同盟」として再編成されている。