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第三十四話「蒼の甲冑、ヴィート」5/6

今回は一挙二話投稿!……いや、次の話が短すぎるからなんですけどね。

 =多々良 央介のお話=


 ハガネの目の前で、最後の一合が起こった。


 最大の敵である九式先任を排除するべく残された腕にPSIエネルギーを集束させだしたヴィート。

 九式先任はそんなものは見逃さず、神速のDロッドが相手の腕を貫く。


「おのれ、エビル・ウェポンッ!」


 ヴィートはそこで止まらなかった。

 自分の腕を縫い留めた九式先任もろともに凍結させる。

 怨霊化も間に合わない刹那の時間凍結。


 でも、九式先任の攻撃だけが相手に届く、なんて状態ではなくなっている。

 傍では辰のミヅチが、駆け付けるアゲハが、アグレッサーの他の隊員も至近距離に構えている。


 そして僕のハガネは、既にアイアン・ロッドをヴィートに寸止めの状態で構えている。

 あと1.5m、巨人からすれば手のひら一つの距離を押しだせば、相手を地面に押し潰せる。


「終わりだ、ギガント!」


 僕は相手に最期の宣告。

 相手が、鎧の中から睨み返しているのがわかる。


 同時にアイアン・ロッドの先端部への、僅かな凍結での抵抗。

 僕は反撃される前に相手の兜を、頭を突き潰しにかかった。

 鉄棍の先端に砕け散る蒼の兜、勢いで千切れる九式先任ごと凍った腕。


 けれど――。


「ファ、ファ、ファ……。我が鎧に、これだけの手傷を負わせるとは、な」


 それでも響く相手の声。

 頭を潰してもまだ何かの偽装があったのか、それでもむーちゃんと辰がフォローしてくれて残った部位を攻撃にかかる。


「良かろう。他の雑魚どもと違い、我が真の力をもって戦うに足る相手だと知れた。なれば――」


 もう、ミヅチの切っ先も、アゲハの螺旋槍の先端も相手を突き刺す寸前だった。


「――Despair Drive! ベルゲルミル!」


 両腕と頭を失ったヴィートの鎧の胸部に輝くものが見えた。

 光を放つ、赤と青で半々の結晶――歪なDドライブ。

 そこから噴出した光の塊が、巨大な人型を形成しだす。


 同時に巻き起こる、猛烈な吹雪はすべてをホワイトアウトさせていく。

 時間凍結を含むそれをハガネに耐えさせながら、僕は叫んだ。


「こいつ……巨人を出せるのか!?」


 戦いの前、僕は巨躯のヴィートは巨人なのかどうかと疑ってはいた。

 けれどPSIエネルギーの集束などから生身の相手だと判断した。

 そして以前のギガント工作員プリンセスと同じように自身では巨人を出せず、PSI技術を操るだけの敵だと判断してしまっていた。


「クソっ! とんでもない切り札残してやがった!!」


「身長とか、声とか、大人だと思ったのに! 違うの!?」


 佐介が逆転の一手を打たれた事に、むーちゃんが誤認の原因に声を荒げる。


 やっとヴィートから放たれた吹雪が落ち着く。

 オペレーターさんが通信の向こうで悲鳴を上げている。

 巨人出現の余波だった吹雪は、要塞都市全域を吹き抜けて全域を凍結させてしまったらしい。


 そして吹雪の中心だった場所。

 そこに立っていたのは、まるでヴィートの鎧姿をスケールアップさせたかのような氷を纏った蒼白の巨人――。


「これが我が巨人。霜の巨人が祖の名を冠するベルゲルミルである」


 巨人の中からヴィートの声が響く。

 敵性巨人ベルゲルミルは、ゆっくりと腕をもたげて、そこから人差し指で空を撫でた。

 瞬間、その指先の延長線上に閃光が奔る。


 どこまでも伸びるその閃光は、触れるもの全てを凍てつかせていった。

 冷凍光線とでもいうべき光の筋が通った僕らの背後では、遥か遠くの山々までもが白く凍り付く。


「ファファファ!! 身一つの我とは比較にならぬのが分かろう。これがサイオニックによる真なる巨人だ!」


 力を誇示しきったベルゲルミルと、その主――サイオニックのヴィート。

 僕らが全員で襲い掛かれる状況なのに、まるで隙だらけで悠然と佇むだけ。

 攻撃なんて全部無力化できると、態度だけで威圧してくる。


 ――どう、立ち向かえばいいんだろう……?


 今、僕たちは九式先任と狭山一尉を失って、それにアグレッサー隊もさっきの吹雪の被害にあっている。

 要塞都市も広域に凍結して機能不全、支援の砲撃やセンサー類も機能しない。

 それら全部を投入して、生身のヴィートをギリギリ抑え込んだのに……!


 せめて、ハガネをベルゲルミルに向ける。

 回天のための、虚勢のアイアン・スピナーを構えて。


 むーちゃんのアゲハと、辰のミヅチも僕の傍で攻撃の態勢。

 通信の向こうで、大神一佐や父さんが逃げるようにと声を上げている。

 確かに勝ち目が見えないけれど、逃げ場所だってもう残ってない。


 その時だった。

 ベルゲルミルの傍の空中から、青色のアトラスが偽装を解いて現れた。


「ヴィート、相手方は戦力喪失が8割。このまま潰してしまっては対巨人戦闘、ベルゲルミルの力を確かめたいという貴方の望みは叶いませんわ。うふふ」


 もう一人のギガント工作員、レディ・ラフからの見逃しの呼びかけ。

 それは侮辱以外の何物でもなく、戦術的には彼らにとってマイナスでしかない話。

 だけど――。


「……そうだな。折角、遊びうる玩具が手に入ったならば、場が整えられてからでも悪くあるまい」


 ヴィートも、副官であるらしい彼女の話を聞き入れた。

 戦いは、僕らに恥まで塗りたくる完全敗北。

 その上で相手は、いずれ僕らを弄びに来ることまで決まった。


 ベルゲルミルが、僕らへと歩み寄ってくる。

 その足の一歩一歩から氷の巨大結晶が拡大し、巨人表面から引きずる凍結大気のダイアモンドダストは魔王の外套のよう。

 今までと違って、相手の全身が時間凍結で覆われているんだ。


 これじゃアイアン・スピナーを放ったとしても、接触した時点で全体が凍結してしまい無力化される。

 ……ダメだ、勝てない――!


 怖気づいた僕はハガネを動かせず、そのハガネの顔にベルゲルミルの手が伸びた。

 押し付けられた掌からは凍結と、その痛みが僕へ染み込んでくる。

 悪夢王と同じような、侵食するPSI。


「ファファファ……少しの猶予を与えよう。我がベルゲルミルに抗する力を揃えるがいい」


 僕は、ダメ元のアイアン・スピナーを打ち込む。

 それは目の前にいたベルゲルミルの胸元に突き立って――。


 ――次の瞬間にはベルゲルミルは消え、欠損だらけのヴィートがアトラスの上で嘲笑していて、僕はハガネを失ってアゲハの掌の上で守られていた。

 とんでもないスピードによる操作や催眠なんかでの意識の欠落……じゃあない。

 僕は、ハガネごとの時間凍結を受けたんだ。


「……ちくしょう……」


 口から洩れたのは、ただの負け犬の遠吠え。

 その向こうで青いアトラスは偽装を行って空中に消える。


「――ちくしょうっっ!!!!」


 僕の二度目の恨みの言葉は、何もない空に響くだけだった……。




 =どこかだれかのお話=


 戦闘状態から警戒状態に移行したHQは、重たい空気に包まれていた。


「おおよその被害報告が上がりました。敵対破壊工作員の撤退に伴って特異現象の凍結が解除され、現在の被害は……」


 辛うじて口を開いたオペレーターは、そこで言い淀む。

 ベルゲルミルの出現による要塞都市全体を襲った凍結。

 シェルター層こそ無事でも、地上部の兵員にどれだけの被害が出たのかなど聞きたい情報ではなかった。


 しかし――。


「被害は……酷く軽微なんです……! アグレッサー隊全員に狭山一尉も無事で、まるで何もなかったかのよう……! こんな、こんな無茶苦茶って、あって良いんですか!?」


 オペレーターは混乱に叫びだした。

 並ぶ報告では、凍結の重大被害を受けて外観や計測上は生命活動もしていなかった兵員ですら、それが解除された途端に時間経過を認識しないだけの無事復帰。

 いくらか凍結物体に触れての凍裂傷、最悪で凍結状態での四肢の折損はあっても、後者も直ちの縫合手術で回復が見込める程度だとあった。


 それは、軍における被害と呼べる程度のものではなかった。

 演習の方がよほど死傷者がでるのではないかという数字を突き付けられた大神は、指揮机に諸手を突き、怒りに唸る。


「あれだけ大規模に超常現象を受けて……我々は玩具でしかないとでもいうのか!!」


 同時に彼は思い至った事もあった。

 しかし、それを頭の中でまとめるより先に横やりが入る。


「なるほどねえ、どこの国も報告したがらないわけだ。被害が出なかったのに負けた、なんてね」


 通信回線の向こうで附子島が空気も読まずに声を上げた。

 無責任な彼に、大神は反抗心を隠さずに横目で画面を睨む。

 構わずに話は続く。


「狙った範囲の時間を凍結。戦力を丸ごと無力化しつつ、人命を奪わない。これは究極の軍のメンツ潰し攻撃だぁ。ハハハ!」


 附子島は茶化して語っているが事実、最大最悪の攻撃手段。

 そして、大神はそこからも思考を進める。


 今回の事は相手にとっては何処までも試験でしかない。

 人命を奪わないのが試験範囲だったとすれば、人命を狙うこともできる軍事運用をとなれば――。


「基地……都市……それ以上……!? それらの人命全てを掌握し人質とできる。奴は“人道的な戦略級兵器”だとでも!?」


「そうなるねえ! 是非、欲しいなあ! こっちの巨人たちが誰か同じの覚えてくれないかな!?」


 どこまでも馬鹿にした態度の附子島は、しかし大神が良く窺えば目が笑っていないのがわかった。

 そのまま、普段ほどの余裕を見せていない附子島少将が告げる。


「――さあ、巨人隊と関係者全員を呼び集めだ。こっちも少しは手立てを考えないとねえ……」

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