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第三十三話「燃えろ! 6500万年・原始の心!」3/4

 =多々良 央介のお話=


 僕らが行くように勧められたのは、お祭りの広場からは一番近い塔。

 辿り着いて見れば、お祭りの明るさ賑やかさは伝わってくる距離なのに夜の闇は普段より強く感じる。

 そして塔のゲート前に僕らが立った途端。


《……巨人隊の皆さんですね。どうぞ、中へ》


 いきなりスピーカーから声が響き、兵器用の大型ゲート傍の人間用のドアが開く。

 明るく照明された塔の中では軍制服の上から法被を羽織ったオペレーターさんが待っていた。

 この人の声は戦闘中にも聞き覚えがあるような――巨人の名前を宣言している人かな。


「こちらへ。横道は兵器の装填機構などで大穴が開いていて危険なので逸れないでくださいね」


 そこは流石に軍事基地、僕らは危うきに近寄らないように彼女に従ってついていく。

 行く手にはすぐにエレベーター、それは上へ向かう。

 エレベーターから降りると今度は照明がほとんどない通路へと招かれた。


 暗い通路でみんなの目が慣れるまで少し。

 そこから階段を上ったところで、屋上に出るにあたってオペレーターさんから警告。


「転落防止柵は配置されていますが、危ないことには変わりないので気を付けてください。兵員の戦闘活動は想定されていても流石に遊び場としては設計されていませんから」


 そう言って、オペレーターさんは外への扉を開いた。

 冷たい風が吹き込んでくる。


 僕らは、防衛塔の屋上階へと進み出た。

 ――戦闘中なら大砲やアンテナが生えている事もあるそこには、今は何も無い。

 また転落防止の柵は外と内の二重になっていて、お祭り広場を見下ろせない範囲までしかいけない。


 大神一佐は何を思って僕らをこんな殺風景な所へ招待したんだろうかと僕が、みんなが戸惑った所だった。

 覗き込んでいる携帯端末の光に照らされたヘッドセット装備のオペレーターさんが無感情に読み上げる。


「20……15……」


 ――何のカウントダウンだろう?

 それに、オペレーターさんは何時の間に戦闘用のヘッドセットを装備したんだろう?


「10、9、8、7……」


 ……なんでヘッドセットが必要になるんだろう?


「3、2、1……」


 カウントがゼロになった瞬間は、何も起こらなかった。

 起こらなかったように思えて――だけど空がいきなり明るくなった!

 僕らを取り囲む大空にたくさんの大きな光の華が咲く!!


 それらに呆気にとられた一秒から、遅れて弱々しい発射音と飛翔音。

 続いて、思わず全身を庇ってしまうほどの炸裂の轟音!


「うわああああああああああああっ!?!?!?」


 僕は悲鳴を上げながら咄嗟に頭を庇った。

 戦う時の癖で、辛うじて目はつぶらないまま。


 紅利さんやむーちゃんに至っては驚きと怖さでしゃがみこんでしまった。

 彼女たちを僕と佐介で庇おうとして、だけど続く炸裂音に体がすくむ。


 そこまで一度パニックになってから連続し続ける爆発に慣れが生まれて、ようやく顔を上げられるようになった。


 炸裂音と共に、全周囲に輝く光の弾幕。

 ――やっとわかった、これ打ち上げ花火だ。

 ただし、今まで生きてきた中で最も近い距離での観覧になるけれど。


 打ち上げ花火の最初の一陣が終わり、少しの静寂。

 その間に、僕と佐介で紅利さんとむーちゃんを助け起こす。


「……失礼しました。皆さんにも装備を付けてもらった方が良かったかもしれませんね」


 オペレーターさんからの謝罪。

 事情を示すためにヘッドセットをずらした彼女の横顔には猫の耳が生えていて、人より繊細なそれを守るためのものだとなんとか理解できた。


「ここを含む4基の防衛塔は会場直近なので、安全上の理由から花火の発射ができない箇所なのです。同時に安全圏でもあり、花火の接近限界観覧地点ということになります……迫力がありすぎますか?」


「ええと、大丈夫です。慣れてきま――」


 山側の空に一際大きな花が開いて、巨大な炸裂音が僕の返答をかき消す。

 その頃には紅利さんとむーちゃんも状況を理解していて、おっかなびっくりでも花火を見上げられるようになっていた。


「――に、確かに特等席だけど、ずい――刺激の強いプレゼントだ――!」


 佐介による大神一佐への苦情半分な感謝の言葉も大分かき消されている。

 色とりどりのスターマインが駅の向こうの防衛塔から始まって、そこから僕らの両側を通り国道に並ぶ防衛塔から順番に大連発。


 鮮やかな星火は、やっと美しさを主に見ることができるようになって、でもやはり轟音はとんでもない。

 なんなら頭のどこかで戦闘状態のスイッチが入ったような感じ。

 そんな時に僕の汗ばんだ右手を、ひんやりとした誰かの手が握った。


 少しびっくりして、見れば紅利さん。

 炸裂音の度に彼女は僕の手を強く握って、怖さを紛らわせているようだった。

 僕も、紅利さんを守ろうとして、その手を握り返す。


 空に爆発する、大きな大きな枝垂れ花火。

 後を引く燃焼音は比較的、優しい。


 強く握った手からは、彼女の体温と、早くなっている鼓動が伝わってくる。

 そして――。


「綺麗はいいけど――怖いよ、これ――」


 ――花火の音混じりな、紅利さんからの正直な感想。

 それと、辛うじて頑張って作っているのが分かる彼女の笑顔を花火の光が照らした。

 僕も精一杯の苦笑で返す。


「大神一佐はこれ平気なのか――ああ一佐は戦場とか出ていたからかな……?」


 ありがた迷惑な特大プレゼントへの推論を口にして、大人達の過去の苦労を少しだけ察する。

 紅利さんも頷いて納得しているみたい。

 僕たちは、平和な時代に生まれたんだ。


 大きな花火は一度落ち着き、今度は国道側の防衛塔を繋いだ滝花火が静かに流れ落ちていく。

 戦いのための設備が、穏やかで幸せな火を操ってみんなへ幸せを運んでいる。


「ねえ――」


 花火の合間に、紅利さんが静かに語りかけてきた。

 僕は彼女に向き合って、続く言葉に耳を澄ます。


「――央介くんは、巨人との戦いが終わったら……島に帰っちゃうの?」


 その質問に、僕はすぐに答えられなかった。

 あまり考えたことがない話だったから。

 ここ一年は巨人とギガントに追いかけられて、先がどうなるなんてわからないままだったから。


 ふっと頭に浮かんだことを、まるで紅利さんへの答えのように口にする。


「……戦いが終わる事って、あるのかな」


 その口をついて出た言葉は、だけど丁度打ち上がった花火の音がかき消してくれた。

 消してくれて、助かった。

 これは――弱音だ。


 紅利さんは、やっぱり聞き取れなかったみたいで、首をかしげて。

 だけど彼女は聞き返さなかった。

 むしろ、恥ずかしそうに目を伏せてしまって。


 ……紅利さんが僕を気に入ってくれているのはわかってるつもり。

 彼女が言いたかったのは多分“傍にいて欲しい”って話だったのだろう。


 それに応えられるのか、戦いがどうなるのかもわからないまま。

 僕たちは空を彩る花火を見続ける。


 ――そのうち、僕と紅利さんの状態を見たむーちゃんが僕の左手を無暗に強く握りしめてきて。


 むーちゃんの左手には佐介、その向こうに辰。

 また紅利さんの隣には、いつの間にかブリキオーのお面の男の子――正体を隠したあきらの幻影、たぶん武力王と同じカラクリかな。

 ――これで巨人関係のみんなが勢ぞろい。


 みんなで花火大会の終わりまでを見届けて、それからはお祭り会場に戻っての盆踊り大会。

 そうやって僕らは要塞都市の少年少女たちとして、お祭りの二日間を過ごした。


 二日目の夜祭には父さん母さんたちも何とか顔を出しに来て、久しぶりに勢ぞろい+紅利さんの記念撮影。

 真夜中の最後には、お神輿が山の神社に収められるまでを見送って、静かになった街をみんなで帰って。



 明けた、翌日。


「また来年かー……遠いよー、進学しちゃってるよー……」


 朝原さんはこのあいだの元気はどこへやら、自分の机に突っ伏してぼやくばかりになっていた。

 そんな彼女だったけれど、今朝むーちゃんの所に届いたダイナソア・アイランドのキーホルダーを受け取ってぴょんぴょん。

 これにて一件落着、そう思ったところに。


「来年までこの都市が残ってりゃいいけどな。巨人大暴れで平らになってるかも!」


 わざわざ大声で嫌味を言ってきたのは、長尻尾の狭山さん。

 結局、狭山さんはこの調子なのだから、やっぱりお祭りでハガネのお面付けてたのは違う子だったのかな。


「お祭の前もそう言ってて何もなかったじゃん」


 大分、意固地になっている狭山さんに対してフワフワ獣人の奈良くんからのチクリと一言。

 それに朝原さんも続く。


狭山(ルッコ)ー……多々良くんが許せないってのを取り下げられないのはわかるけどー、最近それで嫌なキャラになってるよー?」


「……うるっさい! キーホルダー1つで買収されやがって!」


 狭山さんは腕組みをしながらそっぽを向いてしまった。

 対して朝原さんは買収も悪くないとばかりにキーホルダーをぶら下げた手を彼女の視界へ捻じ込む。

 ごめん……狭山さん。


 けれど朝原さんも流石にそれ以上はケンカになるという加減はわかっていたようで、一度二度の見せびらかしの後は素直にひっこめた。

 そして彼女はうっとりとしながら、キーホルダーを眺め出す。


「ふっふっふー。これであたしの恐竜帝国がまた大きく――」


 朝原さんの野望宣言を遮って、鳴り響く戦闘警報。

 ああ……。


「ほれみろ、ほーれみろ!!」


 途端に、そっぽから180度回転して煽り出した狭山さん。


「警報で喜んでんじゃないわよ! 本末転倒もいいところじゃない!」


 彼女の行動の矛盾を咎めたのは犬猿の軽子坂さん。

 狭山さんも一瞬は自分の失敗に気付いて一歩退き、だけどそこでターゲットを変える。

 ――元凶である僕に。


 狭山さんの刺々しい視線に追われて、僕ら巨人隊は慌てて出動した。

 そんな中で、あきらのテレパシーが届く。


(そりゃあ祭りっていう抑えが無くなったら出るわなあ……あ、恐竜だ)


 都市のあちこちから巨大な雷竜の首が突き出る。

 どうやら恐竜帝国が今日の敵みたいだ。

 朝原さんの、かな?

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