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第三十三話「燃えろ! 6500万年・原始の心!」2/4

 =多々良 央介のお話=


 夕暮れ時、僕は玄関先で待ち合わせ。

 心配していた巨人の妨害など何事もなく、無事にお祭りが始まっている。

 平和な事は良い事だけども怪訝に思っていた僕へ、あきらからの解説。


(きっとお祭りを望む集団的な心が、巨人を抑圧したんだろう。こういう時は町全体のPSIエネルギーがそういう方向に働いて、下手すりゃ天気とかまで好転する)


「はへー……」


 今の今まで気を張っていた部分が、安全である理由の説明で一気に気が抜けた。

 お陰で返事とも溜め息ともつかないものが口から洩れる。


「みんなの心が一つにまとまるってのは侮れないんだなあ」


「常時このパワーがありゃ巨人も出なくなるかな」


 佐介と辰が揃って腕組みをしながら状況の分析。

 気付いたんだけど、この二人は喋り方とか行動が似ている。

 ――ひょっとしたら僕は佐介に、不在だった辰の代行を望んでいたのかもしれない……。


 それはそれとして、僕は二人の話へ否定を返す。


「うーん……、そうなると今度はその力をギガントが悪用しだすような気がする」


 これは僕の真面目な危惧だったのに。

 ギガントは大抵そういう先回りをしてくるのに。


「お祭パワーを使う悪の軍団! えらいこっちゃ!えらいこっちゃ! ……しまらないなあ」


法被(はっぴ)に、ねじり鉢巻きした軍団が重武装お神輿で襲ってくるんだぜ、きっと」


 佐介は辰の補佐体だったかな、というぐらいに息の合った掛け合い。

 更に、あきらまでもがそれに乗って。


(そいやそいや! 神輿砲・ゴッドバズーカっ!! ……っと、待ち人も来たぜ)


「え? あっ……」


 あきらが示した通り、家を囲む塀の陰から二つの鮮やかな姿が現れた。

 それは、浴衣姿の紅利さんとむーちゃん。


 白地に赤い金魚が泳ぐ柄の紅利さん。

 黒地に青の蝶翅が舞う柄のむーちゃん。

 いつもと違う姿の二人は、その……とても魅力的だった!


「おまちどーさまー! これ、どうかな? 大神一佐の娘さん達のお古だって」


「大神さんの奥さんが尻尾穴塞いで丈をちょうどに直してくれて、その分遅くなっちゃった」


 ……ええと、こういう時はどう切り出せばいいんだろう。

 きれいだとか、かわいいとか、直接的な事を言った方がいいのかな?

 昔ならそういう事も平気で言えたはずなのに、今は難しい。


 固まった表情のままで一度頭を掻いて、何とか言えた言葉は――。


「二人とも、似合ってる」


 ――ひどい無難な一言。

 案の定、紅利さんもむーちゃんもスタンダード笑顔から変動なし。


「ハズレ選択肢」


(好感度上がりも下がりもしない奴)


 あっちからの幼馴染と、こっちでの友人が揃って小声で刺してくる。

 たった一人理解してくれる佐介と無言で向き合って、他に選んでいい言葉は無かったよなと慰め合う。


 そこからは、女の子たちによるおめかしのアピールタイム。


「流石に浴衣とかは持ってこられなかったからねー。……持ってきてもサイズ合わなくなってたかもだけど」


 袖をふりふり、ここ一年二年でとても背が伸びたむーちゃん。

 僕からは見上げる形になっているのと、揚げた髪に黒地というのもあって大人びて見える。


「私は、その……足の分でこういうのとは縁遠くなってたから。夢さんから大神さんが手配してくれるって話を聞けて助かったー」


 巾着を下げた手で帯をさすりながら、義足ですらっと立つ紅利さん。

 短い髪と白地が清潔さを強調していて、そして何故か普段よりふっくらして可愛らしい。


 対して僕ら男子はいつも通りの恰好。

 ドレスコードとして釣り合ってはいなさそうだ。

 仕方ないじゃないか、この都市には遊びに来たんじゃないんだから。


 引け目を抱えた僕へ声を掛けたのは、むーちゃん。


「それじゃあ夢幻巨人ハガネの使い手さん、ミズチの使い手さん。女の子のエスコートをよろしく!」


「あ……。うん、任せて」


 ……そうやってむーちゃんに頼まれたものの、僕はこの都市のお祭りについて何も知らない。

 結局はエスコート相手であるはずの紅利さんに連れて行ってもらう事になった。


 僕たち5人は夕闇の中で学校横を通る旧街道の急坂を降りて、路地を抜ければ大勢の人でごった返すショッピングモールの駐車場。

 普段なら車が並ぶそこは、今日ばかりはお祭りのメイン広場になっていた。

 紅白提灯が連なり、色取り取りの出店が並び、中央には祭囃子を奏でる櫓。


 見知った顔の子供たち、見知らぬ顔の人たちの間を抜けていけば、広場の向こうには二つの立派なお神輿が台に載せられて停泊中。

 更にその奥には幔幕の降りた仮設の祭殿が組まれていた。

 そこへ僕らを連れてきたかったらしい紅利さんが振り向いて、声を上げる。


「三つ目のお神輿はまだ来てないね……、もうちょっとかかるかな?」


 そして紅利さんは携帯を取り出し、市のホームページからお祭りの行程のホログラフを表示しながら説明してくれた。

 この都市では三つのお神輿がそれぞれの分担地域を練り歩いてから、この広場に設置された祭殿で休憩という流れになるらしい。

 そして、どうせなら三つお神輿が揃っている時に参拝した方がいいとのこと。


 では、それまではみんなで楽しい出店巡り!


 たこ焼き、イカ焼き、焼きそば、わた飴。

 みんなでお祭りジャンクフードを揃えて食べ歩き。

 流石に涼しさを通り越して寒くなってきたから、かき氷だけは見送り。


 物を食べられない辰には気の毒かなと思ったけれど、なんと僕の味覚をあきらがリレーしてくれた。

 一年ぶりの味覚、でも他人の口の中という奇妙な感覚に悶絶し、一方で喜ぶ辰は見ていて楽しいし、嬉しい。


 お腹がいっぱいになったら、次は何?

 金魚掬い、風船ヨーヨー、スーパーボール、サメ釣りくじ。

 さあ、今日のお小遣いクレジットの限度額までチャレンジだ!


 ――成果はほどほど。


 僕と佐介で獲った赤と黒の金魚3匹は、獲れなかった紅利さんへ。

 色取り取りのヨーヨーは一人一つずつ。

 釣りくじは……当たりって入ってるんだろうか? 僕、佐介、むーちゃん揃ってハズレの残念賞。


 僕が狙って取った青透明の大きなスーパーボールを祭り提灯の明かりにかざせば、中で舞っているキラキラがDドライブみたいに光を反射していた。


 更に出店通りを進めば見つけたのは都市軍の直営店。

 そこに並んでいたものを見て、僕らは思わず驚きの声を上げた。


「えっ……!? ハガネのお面だ……!?」


「アゲハのもある! ……むーたち許可とか出してないよ?」


 嬉しくもあり恥ずかしくもありの、まさかの僕らがグッズ化。

 名立たる実在ヒーロー達のお面やビニール風船が並ぶ中から、ハガネのを選んで買っていく年下の子を危険なので良い子は真似しないでねと願って見送る。

 でも、どうしてこうなったのかが分からず戸惑っていたところで。


「あー、J.E.T.T.E.R所属になる加減で、色々権利が向こう持ちになるとか資料にあったぞ」


 冷静に対応する佐介へみんなで振り向いて、それからもう一回売られているお面を見る。

 色々思う所はあっても記念として買わない選択肢は、無い。

 ――店員の一等兵さんには僕らが権利者だとは言えなかったので、値引きとかは何にもなし。


 僕と佐介は当然ハガネ。


 むーちゃんも自然にアゲハ。

 二枚買ったのはテフ用のだろうか。


 そこで問題が生じる。

 ……紅利さんが、ハガネのお面を買った。

 露骨にしまったという顔をしたのは、すでに自分の分を買って軌道修正できなくなったむーちゃん。


 恐ろしい戦いが、また始まる。

 お面のように張り付いた笑顔のむーちゃんと、ハガネのお面をしっかり被った紅利さんのにらみ合い。

 何で揃うか揃わないかでそんな対立をはじめるの!?


 僕は手出しできない状況におろおろするしかなく、佐介はお面を被って知らん顔。

 安全圏の辰は……買ってもいないアゲハのお面を自分で作り出して斜に被ってる。この野郎。


 不動の女の子二人。

 僕のお腹で巨人戦闘での幻肢痛に似た痛みが暴れ出した頃に、それが聞こえた。

 駐車場広場から中央通りを跨いだ向こうから、神輿担ぎの掛け声。


 佐介と辰が声の方へ振り向き、続いて紅利さんとむーちゃんも。

 二人の緊張状態が解けたのを確認して安堵の息をついてから、僕もやっとそちらへ向く。


 更に環境を切り替えるために、僕から提案。


「お神輿、見に行こうか!」


 4人とも素直にうなずいてくれた。

 ああ、助かった。



 天辺に鳳凰を飾った大きな大きなお神輿は、大勢の人を引き連れて中央通りをゆっくり進んできた。

 軽自動車ほどもあるだろう質量が揺れる度、飾り金具をしゃらしゃらと慣らしながら勇壮に、要塞都市の戦闘用エレベーターの巨大ハッチの上を渡る。


 近づいてやっと聞き取れた神輿担ぎの掛け声は聞き慣れない言葉だった。

 紅利さんによれば由来はわからないけれど『確かにその通り』という意味の言葉らしい。


 担ぎ装束姿の勇ましい20人以上の担ぎ手は獣人や女性も含んでいて、そして総じて体格が良い。

 それもそのはずで、この三つ目のお神輿は都市軍の人達の担当。

 最も馬力がある分、最も長い行程を練り歩くのだとか。


 更によく見れば見覚えのある担ぎ手もいた。

 担ぎ装束姿の狭山一尉、隣は確か旦那さんの狭山曹長。


 その狭山一尉が、広場の入り口に差し掛かった頃に急に群衆へ向けて手を振った。

 一瞬驚いて、でもそれは僕らに向けてではなかった。

 気になって振られた方向を見れば、黄色い浴衣姿に長い尻尾でハガネのお面を横被りした子。


 あれっと思ったけれど、その子は狭山一尉ら――都市軍の人たちに見つかった事か何かが具合が悪かったのか、すぐに群衆の中に潜り込んでいってしまった。

 まさか……いや、彼女だったらハガネのお面を選ぶ理由が分からない。

 多分きっと見間違え。


 そうやってお神輿が僕らの前を通り過ぎていくと、その後に続いたのは宵闇に目立つ淡い色の狩衣に烏帽子の人達。

 内の何人かは都市自衛軍と書かれた大きな提灯を手に持っていた。


 中でもとにかく目立つのは、服装は同じでも唯一獣人の大神一佐。

 そこから察するに、これはどうやら都市軍の偉い人達のお仕事らしい。

 事情を知らないちいさな子供たちは、一人特異な姿の大神一佐を取り巻いてじゃれつき、大神一佐もそれを優しくあしらっている。


 僕らは声には出せないものの一佐にお疲れ様ですと念を向ける。

 そしてお神輿を追う彼らの、更に後ろの列に加わることにした。


 お神輿は広場を進んでから、停泊場所の少し前で一度立ち止まった。

 どうしたのかなと戸惑っているうちに、法被姿に赤色誘導棒を持った人達がお神輿から離れるようにと僕らを押し戻す。

 お神輿の周りに十分な距離の輪が出来上がったところで、担ぎ手の人たちから大きな掛け声がかかった。


「せぇーーーのっ!!!」


 次の瞬間、お神輿は斜め45度に傾いた!

 片側の担ぎ手が伸びあがって押し上げ、逆側の担ぎ手は屈んでお神輿の全重量を引き受けて。

 そして一瞬遅れてお神輿にぶら下がっていた飾り金具が盛大な音を立てる。


「わっっっ……しょいぃ!!!」


 次の掛け声で、お神輿の傾きは勢いよく押し返され、今度は逆向きに傾く!

 続く掛け声は担ぎ手からだけでなく、周囲の観衆からもあがった。


「わっ、しょい!!!」


 掛け声ごとにお神輿は力強く揺さぶられた。

 決して軽くはないだろう巨大なお神輿が、壊れるんじゃないかと思うほどに激しく動き続ける。

 人力だけで、どれだけの力がかかっているのだろう!?


「……わっ、しょい!」


 続く掛け声に、僕も思わずつられて声を揃えた。

 この大仕事を、少しでも手助けがしたくて。


「わっしょいっ!!」


 佐介も、紅利さんも、むーちゃんも、辰も、みんなで掛け声を挙げる。


「わっしょいっ!!」


「わぁっしょい!!」


「わっしょいっっ!」


「ぅわぁっしょい!!」


 お神輿の大揺振りはそれからも何度も続いて、担ぎ手の人たちが心配になるぐらい続いて。

 やっと平衡を取り戻して。

 そして広場全体から大歓声が上がった!


 響く、町全体を揺るがすんじゃないかというほどの熱狂の歓声と拍手――!!


 僕も子供っぽく飛び跳ねて、その燃え上がった興奮を吐き出す。

 吐き出し終えて、弾む息を何とか抑えながら納得できた。


 ああ、あきらのいう通りだ。

 これなら巨人なんて出てこられないや。

 みんなの心が一致団結しているんだもの。


 僕が放心しながら見つめる中で、大仕事に呼吸を荒げる担ぎ手の人たちによってお神輿は最後の行程を進んで、差し込まれた台の上に降ろされた。

 重たいはずのお神輿なのに置き台とぶつかる音もなく丁寧に安置され、先にあったお神輿二つと並ぶ。


 担ぎ手の人たちは互いに健闘苦労を讃え合いながら休憩所に向かう。

 残されたお神輿の方は静かになるかと思えば、そんな事もなく大勢のカメラが撮影のために取り巻く。

 そして――。


「央介くん、こっちこっち!」


 紅利さんがお神輿の方へ僕らを呼ぶ。

 記念撮影か何かかな、と思って傍まで近寄れば“先客”が居た。

 それはどこかのお母さんと、抱えられた赤ちゃん。


 おや、と思って見ていると赤ちゃんは狩衣の男の人に預けられた。

 お母さんから離されてびっくりした赤ちゃんが泣きだしても狩衣の人は慣れたもので、赤ちゃんを抱えてお神輿の傍で屈む。

 そのまま赤ちゃんはお神輿の下を潜って、反対側で待つ別の狩衣の……大神一佐が受け取り、無事に笑顔のお母さんの元へ返された。


 見れば、他のお神輿でも同じように“潜し”が行われていて、自分で潜っている子供もいる。


「ええと、わかるような、わからないような……」


 僕が感想を述べると、紅利さんが応じる。


「うん、縁起がいいってぐらいしか私もわからないんだけど。みんなも、どうぞ!」


「それじゃ、まあ。祝福、貰っとくかね」


「祝福! 応援! 感応! 激励! 献身! 友情!」


 さっさと動いたのは佐介、続いて景気良く呪文か何かを唱えながらのむーちゃん。

 辰と僕もその後を追って神輿の下、台と台の間をしゃがみ歩き。

 楽し気に笑う大神一佐に出迎えられて、最後になった紅利さんの手を引いて、立ち上がりを手伝う。


「どうだね、この都市の祭りは。なかなかのものだろう?」


 大神一佐が今日の都市軍の仕事について尋ねてきた。

 僕らはみんなでお辞儀して。


「いつもありがとうございます!」


 今日の分と、普段からのお礼を返す。

 笑顔で頷いた大神一佐は何か思いついた様子で、服の懐から無骨な軍用携帯端末を取り出した。

 そのまま通信回線を開いて何事かを指示する様子、それから。


「この都市防衛を担当する私から、この街を守ってくれた君達にちょっとしたプレゼントだ。興味があれば第16防衛塔に向かうといい」


 大神一佐は、何かを取り計らってくれたらしい。

 僕らは何だろうと思いながらもう一度お辞儀をして、言われた通りにその防衛塔へ向かった。

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