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第三十二話「超音速の刃、大いなる翼」3/4

 =多々良 央介のお話=


 戦況は最悪だった。


 飛隼王。

 今まで戦った巨人の中で最高速をもって飛行する巨人。

 小鳥遊くんの巨人。


《投入済みの全Dボム無力化! 飛隼王の投射攻撃に駆逐されました!》

《轟音閃光弾、効力無し! 巨人融合中のスティーラーズにより対策済みと想定されます!》

《アグレッサー、スティーラーズに応戦中。飛隼王への対応は困難!》


 HQから聞こえる音声は対応の怒号で溢れている。

 そうやって都市の全力が注がれていても、巨人と取り巻きを止めることができていない。


《飛隼王の飛行角度変動! 攻撃範囲予測!》


《第12から第14防衛塔に飛来衝撃波、来ます!》


 飛隼王の武器は槍のように鋭く伸びた足爪と、翼から放たれる詳細不明の誘導投射。

 そして何よりも巨人という物理的負担がない事を利用しての、慣性を無視した極超音速飛行。

 あれだけの巨大物体が地上直近で巻き起こす衝撃波と巨大風圧は、人間大で戦うアグレッサーの戦闘行動を困難にするのに十分だった。


 地図映像上でアグレッサーの隊員を示す光点は、九式先任の一つを除いて衝撃波攻撃を受ける度に散り散りにされる。

 それでも生身の体で一瞬に何百メートルも吹き飛ばされて叩き付けられて、なお戦闘行動を継続しているのだから凄い。


《不甲斐なしッ! 爪牙で地に食らいついて耐えよ! ――司令部、開放許可は!》


 九式先任の鋭く怖い声が通信回線から響く。

 さっき、九式先任による「我、一矢報いるも、浅なり」という報告があった以外ではアグレッサーは飛隼王から一方的に被害を受けるばかり。


《アグレッサーは陸上自衛軍。相手が純粋な空戦となれば少し不得手。そもそもとして航空兵器ならば太刀打ちできる相手ともわからないが……》


 大神一佐による苦渋の滲む現状分析。

 それでもHQは少しでも状況を改善するための行動を続けている。


《Eエンハンス解放許可出ました! 隊員2名まで!》


《了解した! 九式一尉、選任はそちらで行え!》


 聞き慣れない特殊警報が響いて、それからすぐ都市の空へと小さな影が二つ飛び出した。

 遠目にも半人半鳥の姿をしているそれは、恐らくアグレッサー隊員の人が鳥のEエンハンサーとしての力を解放したのだろう。

 それらは早速に素晴らしい飛行能力を見せて飛隼王に追い縋った。


 けれど、有効打にはならなかった。

 獣人の延長上にあるはずのEエンハンサーが超音速飛行できるというのは驚きだったけれど、やはり飛隼王の方が大きく、速く、鋭い。


「もうあんなのUFOの飛行じゃん! 鳥の動きじゃねーよ!」


 佐介が相手の怪挙動に対する不平で唸る。

 今現在、僕たち巨人隊は都市に並ぶ防衛塔を盾にして隠れながら、相手への遠隔攻撃を狙っている。

 成果は……残念だけど出ていない。


「せっかく竜宮のおじさまにMRBSを改造してもらってスティーラーズなら破壊できるようになったはずなのに……!」


 むーちゃんのアゲハは、翅に装備された兵装を空に向けて飛隼王の迎撃を試みている。

 破壊に用いている磁力は光速で到達するのだから相手がどれだけ早くても当たらないということはないはずなのに、効き目が出ていない。

 すぐに通信からは、父さんによるフォローと指南。


《夢ちゃん、相手直衛のスティーラーズは撃墜出来ているんだ。ただ飛隼王は……補佐体形態と巨人コアになった時とで磁力防御に差があるのか、捕捉困難からくる照射時間不足か……。いずれにしても相手戦力を減らせてはいる。――玄主(くろす)、辰君のバイタルは?》


《心配ない、ド安定だ。しかし本当に辰君の言う通りに機能するかは保証できんな》


 ――何か、父さんたちは別の作業も並行でしているみたいだ。

 一方でアゲハはアドバイスに頷いて、それに合わせて僕もハガネに持たせたMRBSを構え直す。

 その時だった。


《飛隼王の飛行角度変動、予測進路は旧99号線通り、第16防衛塔……! 巨人隊を狙っています!》


 飛行Eエンハンサーを往なした飛隼王は、今度は僕たちを狙ってきた。

 対する僕たちは相手の突入角に対して、防衛塔の影に退避。

 ここからアイアン・チェインによる絡め捕りを仕掛ければ――。


 ハガネの主砲は佐介によって既に動いていた。

 そして飛隼王が通過する経路に向けて、鉄鎖の網を撃ち出す。


 直後、その領域を押さえておいた鉄鎖に強い衝撃が加わり、目にも止まらない速度だった飛来物を捉えた。

 一瞬遅れて、飛隼王の巻き起こした轟音と爆風が通りを吹き荒らし、衝撃に砕けたガラスが舞い飛んでいく。

 恐るべき嵐の中でも、僕は相手が立て直す猶予を与えないために、即時の反撃に移ろうとした。


「――違うッ! 央介、やられた!!」


 佐介が叫ぶ。

 それを聞いた時には手遅れだった。

 鉄鎖に絡まっていたのは飛隼王ではなく、複数体の飛行形態スティーラーズを固めたもの。


 ――これは、囮だ。


 引っ掛かってから相手のフェイントに気付いた僕の視野の真横、防衛塔の影には飛隼王が潜んでいた。

 人間に視認不能な高速度のまま囮を投げ付けてから、物理的存在には不可能な急制動で物陰に留まり、逸った獲物が自身の前に飛び出るように仕向けて。

 罠にはまったハガネを見つめる巨大な鳥の顔は、酷く邪悪な笑みを浮かべている。


 まるでゆっくり伸びてくる捕食者の鉤爪。

 それにハガネの腕が掴まれ、次の瞬間には僕らは空高くに引き飛ばされた。


「う、うわあああぁぁぁぁっ!!」


 世界が猛スピードで吹き飛び、天地が回転していく。

 辛うじて認識できた。

 僕は、ハガネは要塞都市の上空で飛隼王に振り回されてしまっている。


 鉤爪に掴まれたハガネの腕からくる幻肢痛で、視界が暗くなる。

 でも、これは致命的な攻撃ではない。


 じゃあ相手が狙っている攻撃は?

 僕がなんとか思考しようとした瞬間だった。

 腕の痛みは止まって、代わりに全身に襲い掛かる無重力感。


 飛隼王は、ハガネを手放していた。

 空の遥か高くで。


「まず……いっ!!」


 逃げ場のない空中に、自由落下しかないハガネ。

 そこへ飛隼王は最大速度で突っ込んできた。

 咄嗟に構えたアイアン・ロッドで庇える限りを庇う。


 鉄棍で庇い切れない足や肩、背中が、ハガネを掠め飛ぶ猛禽の爪に嘴に切り刻まれていく。

 そんな中でも佐介が操る主砲は出来る限りの牽制射撃をかけてくれて、多少は相手の攻撃の機会を奪ってくれていた。


 耐えて耐えて、僕のいる高度が大分下がった所に飛隼王は両脚を揃えての襲撃。

 その鋭い爪で串刺しにしてトドメか、それとも再度高空に連れ戻して嬲り殺しのやりなおしか。

 いずれにしても打つ手が――。


 せめてハガネの消失を起こさないように僕が痛みに耐える覚悟をして、飛隼王の爪が突き刺さろうとした瞬間。

 突然、ハガネの体に下方向への強烈な加速がかかった。


 紙一重で目の前を通り過ぎていく飛隼王。

 それとハガネ全身に何かが絡み付いている感覚。

 これは――細い糸!


「間に合った! おーちゃん大丈夫!?」


 むーちゃんの掛け声。

 アゲハのバタフライ・シルクによる牽引救助。

 その勢いのままハガネは地面に叩き付けられて、だけどそれは大したダメージにはならない。


「ありがとう、むーちゃん! 問題ない!」


 僕は大の字で道路に倒れたハガネの体勢をすぐに立て直した。

 それから都市の隔壁の影で、飛隼王によって穴だらけ傷だらけにされた巨人体の回復に専念する。


 空を見れば僕を逃がしたことで回避行動に移った飛隼王と、それを追いかけるアグレッサーの二人。

 更にはアゲハの照準光線が飛び交う。

 だけど追い付けない、効き目がない。


 ――手詰まり。


 相手には飛行という攻撃と防御両面の優位がありすぎる。

 この間の対衛星ミサイルで飛ばしてもらう?

 ダメだ、速度はともかく飛隼王の機動性には追い付けない。


「何とか、相手に追い付ける飛行手段でもあれば……」


 僕は、ありもしない手段について弱音を呟く。


 その時、不意に声が聞こえた。

 通信回線からではなく、巨人同士の声。

 それは、むーちゃんではなくて――。


「じゃあ、僕も戦う時が来たんだよ」


 ――幼馴染、辰の声だった。


《あああああ……、なんでこうなるかなあ……!》


《辰ちゃん、本当に大丈夫なの? 危ないのよ……?》


「親父、お袋。ここで日和らないで欲しいかな!」


 通信の向こうで竜宮のおじさんとおばさんが苦しく辛そうな声を上げている。

 でも、辰が戦うってどういうことだろう。

 今のあいつは起き上がれない体と、そこから分離した精神力の幻影になっているのに。


《おい青東(あおと)! 彩虹(あやこ)さん! 子供がやるって言ってるんだからやってもらうしかないだろう! それにうちの()と央介君よりは安全な環境だろうが!》


《PSI波の逆流に対する措置は取れるだけ取った。それに私が脳波をモニタリングし続けるから、いざとなればいつでもシャットダウンできる》


 黒野のおじさんの追い立てる大声と、黒野のおばさんによる竜宮夫妻への説得。

 ここ一週間で僕らの親たちは、一体何を進めていたのだろう?


 考えられるのは辰の巨人の投入。

 でも今、巨人一体が仲間に増えたからって相手に対抗できるだろうか。


《システムは――八割五分グリーン、残りはとりあえずレッドランプは無し。試験できなかったのが悔やまれるけど……》


《動かしながら調整しよう。大神一佐、彼を援護で出します。事前の説明通りによろしくお願いします》


 母さんと父さんが、何かの計測数字とそれへの対応をしながら訴える。


《――本当にいいのだな? ……了承した。試作Dランチャードライブをスタンバイ! 起動と同時に中央通り2番ハッチを全開放!》


 大人たちの、少し悲しみを感じる会話。

 それと何か大きな機械が動作する響きと警報。

 僕たち巨人隊から少し向こう、大通りの地面ゲートが開かれていく。


 ――そして、大きな何かが空へと射出された。


「ぃぃぃいいやぁっほおおおぉぉぉうッッッ!!!!」


 辰の歓声と共に、それは空高くを巡った。

 そして太陽を背負った大きな黒い影は、一度の錐揉み回転をしながら僕らへと急降下。


「おーすけ! むーち! 手を延ばせ!!」


 咄嗟の掛け声。

 反射的に、言われた通りハガネの手を高く掲げた。

 次の瞬間、その手は力強く握り返され、そしてそのまま引っ張り上げられる。


 ハガネは、そしてすぐ隣ではアゲハは片手でぶら下がって空中をスライドしていく。

 一瞬、再度飛隼王に捕まったのかとも思う。

 けれどハガネと繋いだワイヤーアンカー型の奇妙な手には敵意を感じない。


 そう思った直後、その手は僕たち2体の巨人を高く放り投げた。

 僕らは急に上下左右が分からなくなって慌てて、でもすぐに“立つべき足場が迎えに来る”。


 唖然としたハガネとアゲハを載せて要塞都市の上空を飛ぶ巨大なそれは、まるで異形の戦闘機。

 けれど、その装甲からは間違いなく命ある巨人の温かさを感じる。


 そしてそれは幼馴染の声で勇ましく告げた。


「夢幻巨人ミヅチ! 敵性飛行巨人を追撃する!」

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