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第二十九話「名探偵アンノウン」4/4

 =多々良 央介のお話=


 ……あきら、なんか疲れてない?


 教室で起こった怪事件が片付いて、僕は友人の気にかかる様子について尋ねた。

 机に潰れたままの彼はテレパシスト。

 だから頭の中で考えれば十分伝わる。


(うーん……今の事件の気疲れもだけどさ。最近、同類か何かが都市や学校内に割り込んできてるんだよ……。それ追っかけてるんだけど……)


 同類? ESPってこと?


(ああ、俺と同じようにPSIの領域を延ばして探索する系の何か。少なくともESPとしての知人じゃあないな)


 知人――あきらはテレパシーを通じて意思を伝えられるのだから、似たような能力の仲間とかがいる感じかな。


(まーな。場所さえ分かってりゃ家族に友人、恋人とだっていつでも話せる。携帯と違ってバレる心配も無し)


 家族と――恋人?

 ちょっとだけ引っ掛かるキーワードを僕が意識した瞬間、妙なノイズが頭の中に混ざった。


(央介さん、こんにち――)


(――っ! アンナ! しーっ! しーっ!!)


 んん? えーっと、これは未知の誰かからのテレパシー。

 そしてそれを必死で制動するあきらのテレパシー。

 これはつまり?


(忘れろ! いいから忘れろ! そして黙ってて!)


 気になりはするけれど、どうもあきらにとって触ってほしくない部分らしい。

 なんにしてもそれはまた別のお話で、今の状況に関わることじゃないだろう。


(――さて。割り込んできてる奴を仮にアンノウンとするが、そいつは俺とは探索のルールが違う感じだ)


 探索の、ルール?

 テレパシーとは違うPSIで物を探りに来てるってこと?


(そうだ。他人の神経に入り込まないテレグノーシス(千里眼)か何かで……未熟か下手かでPSIを集束させる座標がブレブレなんだ。遠隔狙いを覚えたてのESPっぽくもある)


 ……うん、ESPにも色んな技術があるらしいことはわかった。


(まあ、それぐらいの認識で十分だ。んで最初はギガントが何か悪さしに来てるかと思って捕まえようとしてたんだ)


 ギガントにもESPがいるかもしれない――それはちょっと怖いかな。

 対策は、どうしたらいいんだろう。


(それにしちゃ下手くそだし危険性は低そうだけどな。ただ、このアンノウンが行動の昼夜を問わなくて、まるで人間的な生活してないみたいな……)


 昼夜問わず。

 ああ、それで最近のあきらは眠そうにしてたんだ。

 ごめん、負担ばっかりかける。


(なーに、俺だってヒーロー! ……の下支えをやりたいんだ。アンノウンに関しては俺で何とかしとくから、央介は気にせずいつも通りに戦ってくれ)


 うん、分かった。

 ヒーローってのはちょっと照れるけど。

 ありがとう。


(――それとポンコツに徹底的なお仕置きをな)


 うん、分かった。

 間違いなく。


 そうやって奇妙な出来事を幾つも含みながら、僕たちの普通の学校時間は過ぎていった。



 =どこかだれかのお話=


 神奈津川要塞都市、その地下基地の会議室。

 大神は事態解決を伝える央介からの通信を受け取り終わり、部下や協力者たちに向き直る。

 技術士官が通信の内容についての確認。


「何か、巨人が出現したみたいな話でしたか?」


「うむ……詳細はわからないが、央介君らによってスピード解決した、らしい。PSIエネルギーはどうか?」


「ええ、警報レベルに届かないすごく微量なのが短時間だけ発生して、すぐに崩壊反応を見せています。こういう楽なのばかりならいいんですけどね」


 確認を求められたオペレーターは報告と、願望ともぼやきともとれる一言。

 大神は頷き、しかし事態解決を知っても表情は硬い。

 その理由を彼は口にする。


「きわめて微弱ながら、だが巨人は実際に出現した……。やはり投影までのプロセスが変化している」


 大神らが会議室に集っていたのは、正にその問題についての検証をするためだった。

 技術士官は頷き、情報タブレットを片手に正規の報告を上げる。


「この間の巨人――排土王もそうでした。投影者の少年に確認を取って身近にDマテリアルが無いか検査して、結局一切発見できなかった。隊員子女で、しかも情報開示済みの相手だから手間かからなくて済みましたけどね」


「侵入してくるDマテリアルで言えばギガントの甲虫型工作機器は定期的にRBシステムで破壊駆除を行い、実際に確認されなくなってもいます」


 士官らはギガントによる従来の工作手段が封じられていることを重ねて主張した。

 それを受けた大神は専門家、上太郎へ視線を向ける。

 上太郎もすぐに応じて推論を述べた。


「例の島では、ギガントは巨人データの収録機器を完成させていました。となると既に収録されたデータを媒介として都市にたゆたうPSIエネルギーを集束誘導できるのかもしれない」


 科学者らしい概要の話。

 それが場にいる全員には伝わり切っていないのを察した上太郎は言い直す。


「ああ……簡単に言えば、相手側に巨人の鍵穴が割れているようなものです。もはや子供とDマテリアルの直接接触は必要なくなっていると見るべきでしょう」


「もっと早い段階で、あの潜伏拠点を発見できていれば……いや、無駄か。どうせ保険の別ラインも用意されてるでしょうしね」


 技術士官は一瞬だけ後悔を口にし、その無駄にも気付く。

 大神も対策しようもない話を受け入れて、しかし過程で気にかかった部分へ話を移す。


「――その潜伏拠点に関する話もしよう。島を覆っていた障壁。現地から掠め取った情報だと補佐体らしきものが中枢に利用されていたとのことだが――」


 大神は一度言葉を切り、手元の機器を操作して該当情報をスクリーンに大きく映す。


「事件中にも確認されていたことだが、融合炉直結による巨人障壁のエネルギー量は莫大で、子供たち全員の持つPSIエネルギーを単純合計しただけでは届かない数字だった」


 画面に並ぶ数字のいくつかを強調表示に切り替えた大神は、映像上の障壁に勢いよく拳を向けた。

 その操作を受けた映像の障壁は動画に切り替わって、その消滅の瞬間を映し出す。


「――しかしあの時、ハガネはそれを超えるエネルギーを生み出して障壁を破壊している」


「その時、都合よく不思議な事が起こった! ――で、済ませるには異常な状態でしたね」


 技術士官がいつも通りの、軽めの対応。

 そこへオペレーターが疑念をもった声を上げた。


「その際の事で気になる部分が出てきたんです。当時の通信記録を整理していた時に背後に聞こえていた部分なんですが――」


 オペレーターの操作によって、複数の視点からの音声・映像が同調再生され始める。

 それはハガネとUGシャークが巨人障壁を突破する瞬間のもの。

 少年少女達は、声を揃えて一つの言葉を叫んでいた。


「――ここです。ここで央介君とはあまり関わりを持っていなかった――当然にアイアン・スピナーという行動コードを知らないはずの子達までがアイアン・スピナーと叫んでいるんです」


「ふむ……。事前に央介君が教えていた等ではないのだな?」


「央介君自身に確認しましたが、していないとのことでした。それで多々良博士にも検証してもらったのですが――」


 オペレーターからの話を受けとった上太郎は席から立ち上がり、真剣な面持ちで解説を始める。


「相談を受けて、その現象についてできる限りの数字を検証しました。まず言えることは危険性があるものの、再現性がとても低いということです」


「危険性――あれだけのエネルギーが暴発すると?」


 前置きへの大神の危惧に、上太郎は首を横に振って否定し、説明を続ける。


「物理現象としての暴発というのとは少し違うんです。あの時はDマテリアルを持った――巨人を投影できる子供達が異常事態にあって恐怖や決意など精神的に追い詰められた状態でした。過剰な集団トランス状態ですね」


 上太郎はスクリーンに自説の概要図を表示し、面々による理解が進むのを確認してから話を再開した。

 その概要図では、簡素に表示されたUGシャークの中に並ぶ人型が、伝播するように同じ色に染まっていく。


「この際に、巨人内部というPSI現象そのものの中に居たことによる情報共有と精神共感……精神の共鳴が起こってしまったのでは、と仮定しています。そしてそこから連鎖的に未知の現象が発生したものと」


 そこまでを聞いた技術士官は腕を組んで唸り、しかし軽い語り自体は崩さない。


「多々良博士でも未知の領域ですか……。あの力を何度でも利用できれば魅力的なんですけどねえ。ギガントが何を持ち込んできても一撃粉砕。そこまでやれば連中も音を上げるでしょうし」


「確かに魅力は魅力だが――多々良博士、危険性についてはまだ説明されていませんね?」


 大神は部下の半ば冗談の、しかし戦術として価値のある話を傍らに置き、質問を再開した。

 上太郎は今まで以上に深刻な表情で続きを語る。


「はい、ここで大きな懸念が生まれました。あれは子供達の精神を無理やり統合するような危険な現象だったかもしれない。――テレパシストの失調ってご存知でしょうか」


 上太郎が話を振ったのは、情報通であろう技術士官。

 彼はすぐに応じた。


「肉体神経自体でPSI波による通信を行っている彼らが、他人と脳神経情報が混線してしまって自我を保てなくなる、っていう話ですね。……サイオニックに生まれてしまった幼児がこれで死亡すらあると」


「そうです。莫大な力や完全勝利と引き換えに子供達の心や命を犠牲にしうる。そういう手段は……私は取りたくない」


 士官が語った危険な概要と上太郎のまとめに、会議室の全員が頷く。

 その総意を受けた大神が声を上げる。


「うむ。では、ハガネが子供らを弾薬にする狂った特攻兵器になる事を防ぐ手立ては?」


 危機感を際立てるために事例を最も凶悪に切り出してみせた話に、上太郎は辛い苦笑いを返して答えた。


「推定される過剰発動の発生条件は、Dマテリアルを利用している投影者同士が、共通の巨人内にいる上での協調するトランス状態。これが再現性が低いという救いです」


 上太郎による条件の指定。

 技術士官は思い当たる事例を挙げる。


「あー……央介君がこの町に来てすぐ、珠川さんを巨人内部に匿ったことがありましたね。あれは危なかったかな?」


 それに応えたのはオペレーターの一人。


「あの時の紅利ちゃんはDマテリアルを持っていなかったので……あれ、今は所持しているんでしたっけ」


 ここ数カ月で子供達の周りに起きた微細な変化。

 上太郎は戻ってきた話に答える。


「義足補助システムとして贈りました。それでもリミッターをかけ、更にあの子の場合は身体の事もあって自分から戦いに出るとはとても……」


「……前線に居るハガネ・アゲハのどちらかの内部に障碍ある紅利君が入り込み、強い意志と協調を見せる……。確かに考えにくい、しかし全く無いとは言い切れないレベルか」


 上太郎の説に、それでも最大限の警戒を重ねた大神は思案を始めた。

 その合間、技術士官が思い当たった他の可能性について上太郎に尋ねる。


「央介君のDドライブの破損もあったんで、テフに巨人隊向けのスペア用ドライブを持たせるようにしてますけど、あれは大丈夫ですかね?」


「テフから取り出して起動コードを入力しなければ機能もしないガラス玉ですのでね。コードは私と大神一佐から上の秘匿情報ですし」


 答えを受けた情報士官は、それなら問題ないかと頷き大神の最終判断を待つ。

 そして情報が出切ったのを確認した大神が決断を下す。


「ふむ……。今後、紅利君を含めた子供等がそういう事態に至った場合には、暴発が起こる前に救助と撤退をさせるようにするべきだな。今の状況であれば夢幻巨人どちらかの短期不在はそこまでの負担ではない」


「D武装装備のアグレッサーに自前のエンハンサー。アゲハかハガネのどちらかが残ることになりますからね。時間稼ぎの偽装かく乱は我々の十八番ですし」


 技術士官が楽観的に答えた。

 しかし、オペレーターは深刻な現状も語る。


「ただ……現在アグレッサーの負担が大きいですね。量産型補佐体――対象コードはスティーラーズと決定しましたが――今までの工作員と違い、実戦に持ち込んでくる上で数が多いので」


 続けたのは大神。


「アグレッサーには既に1名の死者……正確には死亡相当の被害が出ている。不死身の前線兵の幸いだが――九式一尉?」


 大神が話を向けたのは、今までの談義には一言も加わっていなかった九式。

 彼女は後方の壁際、休めの姿勢で直立したままの参加だった。


「問題は無し。死ある血戦にあらば我等、呪怨強化歩兵教導隊を磨くに足りぬ。……だが、木偶どもの骸より電撃端子が回収されたと聞き及んでいる」


 九式の挙げた懸念に大神は頷き、場にいる全員への情報共有のため、あえて言葉に出す。

 それは非戦闘員の上太郎、そして経験の浅い兵員には実感のない条件だった。


「スティーラーズは既に対Eエンハンサーを想定している設計なのだろう。死すらを武器とするエンハンサー唯一の弱点は生きたままの行動不能。電撃拘束はその最たるものだ」


 会議室がわずかにざわつく。

 不滅無敵の戦士、Eエンハンサーが押されうるというのはそれだけの衝撃を持っていた。

 しかし。


「その為の装いと部隊である。電撃拘束など既に訓練が内。問題は無し」


 九式は動じもせず答えた。

 その圧倒的存在感は、先の話で狼狽えた若い兵員らを鎮めるのに十分だった。

 オペレーターらも後押しするように情報を加える。


「多々良博士による抗巨人兵装。盾型のDシールドも配備が進んでいますからね。一般兵士でも補佐体相手に格闘戦だけならできるようになりました」


「科学の粋を集めた要塞都市の兵士がやるのが古代ローマのファランクス陣形になりますけどねえ。でもまあ手の打ちようがない状態ではない」


 大神は、そこまでの流れを予期して始めた話が狙い通りに進んだことに満足し、結ぶ。


「頼もしい限りだ。アグレッサーの特務滞在期間はあと2ヶ月、そこまでで我等が要塞兵員への教導が十分となるように願おう」



 それで、一旦の閉場となった。

 通常任務に戻る者、次の別隊向けの会議へ情報を纏める者、今日の仕事を終える者と別々に動き出す。


 その中で多々良 上太郎は廊下に飛び出、ある人物を追いかけた。

 大柄な上太郎の早足で、しかし小柄ながら不思議に機敏な彼女の歩きに追い付くのに少しかかった。

 先を急ぐらしい彼女へ、上太郎は早足のまま語り掛ける。


「すみません、九式先任一尉。あまり話せる機会がなくて、息子らを守って戦っていただいてありがとうございます。それもかなりの負担を……」


「構わぬ。そも戦は我等が治むるもの。民を巻き込む不様こそ我が不備である」


 礼と謝罪を告げに来たのに、軍規範が形になったような話が返って上太郎は対応に戸惑う。

 しかし、次の九式の言葉はそれとは向きを別にするものだった。


「――何より戦場(いくさば)の子等を心に病む親は哀しいものだ」


 上太郎はサングラスが覆う九式の表情を窺いきることはできなかった。

 けれど、その言葉だけで彼女が軍規のみの戦鬼ではないと知るには十分だった。


 上太郎は立ち止まって深く礼をし、しかし歩き続ける九式に取り残され、再び追いかけ始める。

 二人の歩調が再び揃った時、九式は剣呑な話を始めた。


「なれば気に置け。我がギガントならば近く、束ねた大なる戦力を注ぎ、()を潰す。附子島の小倅が賢しい企みをせぬように」


 九式はそこで一度、言葉を切った。

 切って、しかしそこから傍の上太郎へと顔を向け、続きを語る。


「或いは――ハガネの子ら、多々良 央介を中心とした力に覚した子らが、化ける前に」


「ば、化ける……?」


 予想外の話が始まって戸惑う上太郎に、九式は自説を述べた。


「戦場に身を置くものは、死なずば化ける。(たま)見詰る内に、力と技の次を識る。――その体、幾分戦いの術を学んだ姿。なれば其は肌で分かろう」


 それは上太郎の鍛えが残る姿、あるいは武術のために血を集めた一族の体と見抜いての言葉。

 けれど上太郎の返す言葉は濁したもの。


「――あまり、真面目にはやってこなかったので……」


 真実には、九式の言葉は上太郎にも理解できるものだった。

 戦いの技は追い込まれきった時にこそ、生命への渇望を感じた瞬間にこそ辿り着く領域があると知っていた。


 しかしそれを認めれば、彼は息子らを死地に投じることも肯定してしまうことになる。

 だから、理解したくない話だった。


 九式もその程度は見透かして、若い父親の怯えを否定はしない。

 否定せず、それでも必ずやってくる未来への警鐘だけは告げる。


「件が時、襲い掛かるはギガントが(すぐ)り。返せば、潰し返した後こそ我等が攻め入る時。其は彼の子らも逃れられぬ戦いとなる。心せよ」


 歴戦の軍人の実感からくる推論。

 上太郎は、それを受け止めきることはできなかった。


 心苦しさに立ち止まった上太郎。

 彼をその場に残し、九式は通路の先へと消えていった……。


 See you next episode!!!

 内燃機関が咆哮を上げ、狂気の動輪が街を裂く!

 力が速度を生み、速き者だけが価値を持つ世界でマシンが駆ける!追跡する!

 次回『MUSTANG MAXIMUM』

 君は夢を信じられる? Dream drive!!!




 ##機密ファイル##

 この時代の探偵という職業


 どれだけ技術が補助する時代になっても、人の世では人の手を借りてでも調べたい、または借りなければ調べられない真実が残っている。

 様々な観測機器や情報機器が身近になっても、AIが人と機械との間を取り持ってくれるようになっても、それらを使いこなして隠れた情報を纏める能力は万人が持つわけではないからだ。

 だからこそ、探偵という職業は残り続けている。


 彼等の業務内容は、古典的な迷いペットの探索や人物調査等といった基礎的なものが一般的だが、近年においてはとても儲かる業務が加わった。

 それはブックメーカー(公営ノミ屋、元は宝くじや公的競技、獣人闘技場での賭博を主力商品にしていたもの)が、小口大口を問わないキャンペーンとして行っている『真実懸賞』の懸賞金の獲得だ。


 事の始まりは、民間個人がブックメーカー相手に「メディアA社の明日のニュースに誤記・誤報がないか」といった題目の賭けを申し込むようになったところから。

 それは類似案件が同時多発で少額から始まり、ブックメーカーのオンライン掲示欄に現れては消える泡沫案件だった。

 しかしブックメーカーとして案外に儲かる賭けであったために徐々に宣伝され人気が集まり、ある時に零細メディア企業が自らに懸賞を賭けた事が切欠となって大きくブレイクスルーを起こす。

 結果、『真実懸賞』は大々的に成立し、その認定証が付いているニュースと付いていないニュースでは信用・価値・拡散等あらゆる面での格差が生じるようになった。


『真実懸賞』は、ある種の保険となっていて有力メディアはブックメーカーに高額の保険金を払い、この認定が不動のものであるという真実の保証を売りにするようになっている。

 それはメディアとして真実事実の証明宣伝となり、また保険であるために満期まで通れば保険金が利子付きで戻ってくる財テクともなった。

 一方で満期を終えた『真実懸賞』は遡って請求されない――逃げ切る虚実もまた存在するのだが。


 そして、これら真実懸賞の期間や企業単位などの連番賭けともなると、その金額は雲を突くほどの額となる。

 それは誰から見ても魅力的な財宝。

 あわよくば自身の小さな解明の行動で手に入るかもしれない財宝。

 オッズが低くとも捨てるコストも安い、そういう賭けとして成立した。


 そこで登場するのが探偵となる。

 その行動目的は大きく分けて三つ。


 ・自発か要請かの差はあれメディアが報じた真実を検証し、嘘や不正確を見つけて懸賞金をもぎ取る者

 ・逆に事前にメディアから報酬を受け取って真実の確証を取りに行く者

 ・そしてブックメーカー側による懸賞倍率の決定に関わる、メディアなどへの調査員になる者


 こうした真実懸賞を巡る探偵らの情報精査は、競合メディア同士の切った張ったの争いにもなっており、その報道は大きな娯楽ともなっている。


 嘘を暴けば金になる。真実に賭ければ金になる。真実こそが金になる。

 労働が薄れて通貨を得る仕事が少なくなったこの時代の人間だからこその金稼ぎ。

 札束という餌を巡って殴り合う、ある種の暴力と言っていいそれはメディア――情報を恣意管理できてしまう第三の権力を監視する第四の権力となった。

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