表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
141/237

第二十八話「破れ!タイバンザン返し」4/4

 =多々良 央介のお話=


 引き返せない勢いだからって無理をしてはいけない。

 地面に叩き付けられての全身の痛みに僕は大きな反省をした。


 反省しながら敵前で体勢を立て直したところへ、装甲バイクで駆け付けた狭山一尉による届け物。

 バイク便の内容は生理現象で遅れたポンコツロボと戦闘用バイザー付きヘルメット。

 その佐介はやれやれ感を体で表しながらハガネとの融合に掛かった。


「……夢幻巨人ハガネ、敵対巨人を撃退します!」


 なんとかいつも通りに見栄を切ってみたけれど、ああ、カッコ悪い。

 僕はヘルメットを被りながら、さっき投げ飛ばされた姿がクラスの皆に見られていない事を祈る。


「自業自得だぜ。人を置いてきぼりにするから」


 相方の言葉が耳に痛く、幻肢痛はまだ全身に響く。


 その痛みの原因、ハガネを軽々と投げ飛ばし地面に叩き付けた相手巨人。

 戦闘コードは排土王。

 軍用の建設重機から人の上半身が生えたみたいな姿。


 中でも問題なのは――。


「あのクレーンアームがヤバい! 一瞬で搦め取られて――そこからの手順がタイバンザン返しだった!」


 排土王の腕になっているのはフレキシブルに曲がる作業用のクレーンアーム。

 その自在な動きに加えて、手首部分はどこまでも伸ばせるワイヤーになっていた。


「伸縮自在の腕で射程自在の投げ技とかインチキ臭いな! 丸のやつ、こんなサイボーグ柔術を企んでたのか!?」


 佐介が勝手な評価を飛ばす。

 実際問題なんでこんな巨人が生まれたかは本人に聞いてみないと、あるいは本人にもわからなかったりするのに。


「ダメ! 隙を探してるけど、アゲハの方にはあのブルドーザーのシャベルがぴったり対応してきて、バタフライ・キッスでも弾いてくる! アトラス無しなのにMRBSも何か効いてないし!」


 先ほどからむーちゃんのアゲハは挟み撃ち、もしくは十字砲火を狙ってハガネからは距離を取り、都市内を駆け回っていた。

 しかし排土王の下半身にあたる重機部分は履帯による高速旋回を繰り返し、アゲハに死角を見せない。

 その上で上半身部分は全くブレもなくハガネを狙い、投げ技を極めてきた。


 強い巨人、戦闘力のある巨人。

 これは投影者の丸くんの能力の反映? それとも――。


「対象巨人の挙動に既存巨人との差異を感知。当方らへの対応から相手は高度な戦術的意図を持つものと推定」


 アゲハの中からテフによる分析の声。

 僕も似たような感覚を覚えていた。

 この巨人、排土王は行動が的確過ぎる。


 その時、通信の向こうから父さんによる解析結果が告げられた。


《央介、夢ちゃん、聞いてくれ! エネルギー計測からすると、今の相手巨人の投影核になっているのは件の量産型補佐体だ! 本能的な反射で戦う巨人ではなく、佑介のクロガネや、アトラス接続巨人と同等の判断力があるかもしれない!》


《MRBS照射時に放電現象を確認。量産型補佐体は磁場防御機構も搭載していると推定されます》


 僕は、最悪の気分になった。


「――ギガント! あの手この手でっ!!」


 僕が思わず怒りを吐き出した瞬間、怒りの隙を狙ってか排土王が素早く動いた。

 上半身は僕、ハガネの方へ向けたまま、それと真逆を向いていた下半身の車両部分の向きでアゲハへの突進。

 それは相手の視線が攻撃の方向だと思い込んでいた僕らへの不意打ちだった。


 遠くでアゲハが両手と翅の四点でドーザーブレードを受け止め、辛うじて痛撃を受けなかったのが見えた。

 僕が救援のためにハガネを駆けださせた瞬間、既に排土王の上半身が動き出しているのに気付く。


「単体で時間差攻撃!? 佐介っ!!」


「アイアン・チェイン! ……ダメっぽいけど!」


 僕の指示を受けた佐介が、ハガネ頭部の主砲から制圧の鉄鎖を撃ち出す。

 けれど、排土王の大きな手は鎖を絡めたままハガネへと伸びてきた。

 ハガネの抵抗は無駄に終わって、そのまま引き寄せられて組み付かれる。


[15141599479925917485476415121792651478831793889389993883159478931942657]


 今日、通算三回目のタイバンザン返しが僕を襲った。

 一瞬の無重力からの逆加速、そのままハガネは頭から地面に叩き付けられ――。


「オレが補佐ッ!! アイアン・スプリングっ!」


「ふえっ!?」


 ハガネの頭と地面の間に、巨大な鉄のバネが瞬間形成された。

 佐介の作ったそれは勢いよく撓んでハガネを受け止め、逆にとんでもない勢いでハガネを空へとバウンドさせる。

 それは排土王にとっても想定外の動きだったようでハガネへの捕縛に隙が生じた。


 僕は空中で相手の手を振りほどいて、そのまま相手の視線が通らないビルの谷間に着地する。

 とりあえず難は逃れた。


「ありがと、佐介。でも……あいつは攻防一体って感じで――量産型でも佑介だから、こっちの思考読んでくるのかな?」


「いや、それだったらこっちの攻撃も防御も外してくるし、何よりオレを狙ってくるはずだ。量産の時にその辺は削られたんじゃないか?」


 オリジナルである佐介からの見解。

 更にその直後。


「相手がどっちでも、むーがいるよー!」


 むーちゃんからの所在表明。

 どうやらアゲハは排土王による突進では被害を受けなかったらしい。

 少し、安心。


 しかし、そうもなればハガネ、アゲハで合計2体4人で立ち向かっていることになる。

 十分アンフェアなはずなのに、切り崩せない。


「――敵対巨人、排土王の特異行動を確認しました。対象は捕縛投げ、タイバンザン返しを行う際に作業固定脚――アウトリガーを展開し、都市の兵器固定構造に自身を固定。その際には機動や旋回を停止します」


 冷静なテフ。

 アウトリガー、聞き覚えがある単語。

 すぐに父さんが確認して答えてくる。


《そう……だな。巨人は物理法則は割と無視するのだが、イメージ上ではこの固定行動をとることで巨人としての強度を上げ、投げ技の威力を十二分に発揮できるのだろう》


 なるほど、重さの存在しない巨人が、より重く、より安定して固定されるためのアウトリガー。

 それはきっと丸くんの知識からくるものだ。


「じゃあ必殺技のタイバンザン返しの最中は動けないなら、ハガネ(こっち)が食らってる間にアゲハに刺してもらう、とか?」


「捕縛投げは不完全発動時であれ、ハガネは捕縛状態にあり行動困難と仮定。一方で排土王の戦闘機動への回復速度次第でアゲハへの即時反撃が可能である恐れがあります」


 父さんからの情報を貰って、補佐体達による議論が続く。

 その間もハガネとアゲハは市街地を走り回り、攻撃の機会をうかがっていた。


 相手の戦闘スタイル、柔術が苦手とするのは組み付きを不能にする尖り物と、重心――主に足を崩すこと。

 だけど、あの巨人は手堅く素早くドーザーブレードでアゲハのドリル槍を弾く。

 アイアン・スピナーを構えなんかしたら、真っ先に掴まれて投げ飛ばされるだろう。


 重心崩しを狙うにしても、下半身が重機型になっている排土王にはそもそも足が無い。

 常時、投げに繋がる溜めの姿勢で固まっていると言ってもいい。


 巨人という力で弱点は潰されて、投影側の時点で技の完成度が高い。

 どうすれば――!?


《……これで、繋がったと思う》


 携帯の通信回線から、小さく女の子の声。

 ――紅利さん?


《多々良ぁーっ!! 何を“試合”やってんだぁ!》


 続いたのは、男の子の怒鳴り声。

 この声は――。


「……え、あれ、丸くん!?」


《おうよ! あんなチートに真っ向付き合う意味ねぇよ! どんな外道手段使ってでも潰してやれ!》


 排土王は恐らく丸くんから生じた巨人。

 その戦い方に関して、本人からチート(ずるっこ)だと糾弾が入るとは。


「なんか恨みが籠ってないか?」


「ひょっとしてこの巨人、丸くんにとってのトラウマでも混じってるのかも?」


 佐介とむーちゃんがそれぞれの見解を口にする。

 更に、通信からは大神一佐の声も。


《彼は?》


《ファイル照合――丸 鬼若、6年A組在籍、巨人情報開示対象。小学生柔道全国大会五年個人の部、決勝トーナメント・ベスト8まで進出と記載あり。父親は都市軍第2工兵隊所属――》


《工兵……巨人の下半分が88式都市作業車に似てるのはそのせいでしょうか》


 ああ、丸くんってそんな上まで行ってる子だったんだ。

 道理の強さだった。


 しかし……“試合”か。

 うん、僕はどこか、武術勝負を挑まれたから武術で返さなきゃいけないみたいな考えになっていたかもしれない。

 ギガントに悪用されている巨人相手に、ルールなんて必要なかったのに。


 確かに今の排土王は、技こそ強くなっているかもしれない。

 だけど、丸くんの精神からくる拘りが、巨人ならではの弱点が出来ているはず。


 例えば、巨人を都市に固定するという技の条件はそれがはっきり出た部分。

 その周囲に、この巨人に出来ないことが生じているはずだ。


「都市への固定が技の条件なら、都市の外に引っ張り出せれば戦闘力も下がる、か?」


 佐介が可能性の一つを口にする。


「通常の巨人ならそれでよかったかもだけど、量産型がくっ付いてる今は考え無しの行動しないと思うー」


 むーちゃんからの否定。

 多分そうだろう、機械に操られた排土王は自分有利の条件を崩さない。

 そこから連鎖的に感じた疑問を、言葉として口に出す。


「――条件を、崩す。排土王はなんで都市に固定するんだろう? わざわざ固定構造を使ってまでタイバンザン返しを使う意味は――」


 その瞬間、僕の思考に何かが引っ掛かった。

 タイバンザン返し――。


『親父直伝! タイバンザン返し』

『親父は軍の工兵。でっかい戦闘作業車で、この都市の軍設備をあちこち弄って直してが仕事だ』


 目の前の巨人の下半身は、都市と固定する機能を持つ車両型。

 それは、話からすれば丸くんのお父さんが乗っているものを元にしたもの。

 丸くんはお父さんから柔術を、その心構えを教わっている。


 じゃあ、この巨人は。

 お父さんが乗る車両型を混ぜた姿で、お父さんから教わったタイバンザン返しを放つ巨人は、丸くんにとって――。


「――ああ、いつもながら悪役みたいな考えしないといけないな。でもまあ本人から外道手段でいいって言われてるし、いいんじゃないか?」


 少し嫌な気分での躊躇いに、佐介が踏み込んで行動へ向ける後押し。

 それでも、せめて確認は取りたい。

 僕は携帯を手に取って、紅利さんの携帯越しに丸くんへ呼びかけた。


「丸くん……! これから街を、君のお父さんのした仕事を壊すけど、許して!」


 また彼をケンカ組に戻してしまうかもしれないという悔いを覚えながら、答えを待つ。

 少しだけ間があって、返事が戻った。


《――ああ、いいぜ。やっちまえ! 親父の顔に泥塗ってんのは、その巨人のほうだろうし……な!》


 ――最後の許可は、取れた。

 僕にも彼にも後悔は生まれるだろうけれど、今はこの巨人を撃破するしかない。


 あとは被害を受けてしまうことになる都市軍と作戦の相談。

 僕は通信回線でHQへ問いかける。


「大神一佐! 確かこの辺って野生王相手に落とし穴になってましたよね!? ああいうのを素早く開放できますか!?」


 戦闘中だから可能か不能かだけの確認。

 すぐに大神一佐からの答えが戻る。


《可能だが、相手を突き落とすのか!?》


「いえ、落ちるのはハガネです! 相手はこの都市の建物とか地形構造を頼りにしている巨人であるため、それらごと真下から貫きます!」


《――ッ!? いや、なるほど了解した! 都市構造への破壊許可確保!》


《……できました! 央介君、破壊許可の出たエリアに拡張現実での強調表示を重ねるから、それで攻撃の場所を選んで!》


 本当に、戦うための都市は機敏だ。

 あっという間に無茶な作戦の準備が整う。


 僕のハガネと、むーちゃんのアゲハで排土王の誘導を始める。

 目標はハガネが降りるためのエレベーターシャフトと、破壊していい地面が並ぶ場所。


 逃げ回るのだって、戦い方の一つ。

 こっちには安全な場所、相手には危険な場所を選ぶ手段。

 最適な場所まで相手を寄せるのは、そんなに難しいことじゃなかった。


「――ここでやります! むーちゃん、相手の空に跳んで陽動、お願い!」


「了解! おーちゃん、やっちゃえ!」


《了解! エレベーターシャフトを緊急開放、同時に排土王周囲にかく乱目的の都市隔壁を展開します!》


 ハガネの足元で大掛かりな機械の動作振動が響く。

 僕はすぐに開き始めた地下への扉の隙間へと、ハガネを跳び込ませた。


[1965486136163861458276974917411738656285646593159262322434234443224]


「これで条件はすべてクリアだ! 盤面ごとひっくり返してやる!」


 佐介が不敵な勝利宣言。

 狙いは、地面越しに見上げる形になった排土王。

 限界まで重心を下げた理想的な柔術の使い手を、その更に下の地底から――。


「――アイアン・スピナー、僕は、大山をひっくり返す……!」


 ハガネの生成した鋼鉄の螺旋は、そのまま都市の装甲地盤を裏側から貫く。


 そして、その先にいた巨人も。




 ――携帯の向こうから、クラスのみんなの歓声が聞こえる。

 それはハガネとアゲハの、僕らの勝利を喜んでくれる声だった。

 そして――。


《いや、スッキリしたぜ。あんな汚点ぶっ壊してくれて何よりだ》


 丸くんの声。

 僕は、自身の巨人が壊されたのに、どこか晴れやかな彼の言葉が気になった。


「汚点って……? 強い巨人だったのに」


《そりゃ強いだろうさ。……去年の柔道大会がな。勝ち進んで勝ち進んで、最後のトーナメントで立ち塞がったのどんなだと思う?》


 丸くんからの答えのない謎かけのあと、かなり強めのため息が回線越しに聞こえた。

 それは少しの怒気と、それ以外が複雑に混ざった感じ。


《――ゾウだぜ? ゾウ獣人の女子!》


 衝撃の話。

 でも、想像で理解できる話。

 僕は想像から問題点について聞き返す。


「……ゾウって、鼻!?」


《鼻だよ! 無茶苦茶な間合いで絡むだけでなく掴みまで入れてくる! ……首技扱いだったけど、あんなチートありかよって…!! 獣人差別って言われるかもだけどさ……!》


 伸びる、掴み。

 それによる規格外の間合い。

 丸くん自身から受けたタイバンザン返しと、排土王から受けたタイバンザン返しの差。


「巨人には、排土王には、それが混ざっちゃってた……?」


 巨人は、投影した子供の心。

 辛い気持ちなんかも反映されはするけど、それ以上に――。


《それが許せねぇ! 反則だろって思ったのに、どっかで憧れちまってたんだ!》


 ――ああ、丸くんは自分を分析できていたんだ。


 巨人は夢や願い、好きな物が中心になる。

 あの規格外の投げは丸くんが抱えていた反則だと思っていたもの、反則だと思っても望んでしまったもの。

 だから、巨人を倒すことにもすぐに応じてくれた。


 今回は彼の巨人を倒してしまったけれど。

 彼のお父さんのお仕事をますます増やすような事をしてしまったけれど。


 でも、それが彼にとって悪影響だけでないなら――。


《おい、多々良!》


 ――ん?

 どうしてここで僕が呼び出されるんだろう?

 やっぱり都市の施設を壊したことを咎められるのだろうか。


「えと、丸くん。どうか、したの?」


《鍛え直しだ。畜生めぇ! 今年、奴に勝つための特訓に付き合え!!》


「……ええーっ!?」


 そういう方向でくるんだ……。

 これは、しばらく何度も何度も投げ飛ばされることになるのかもしれない。


 でも、いいか。

 その方が悔まずに済むんだから。

 これも、この都市で手に入れた戦いやすさだから。


 See you next episode!!!

 起こった惨劇、教室の中に犯人はいる。

 いくつもの秘密のベールに覆われた真実を嗅ぎ当てる名探偵、その名は!

 次回「名探偵アンノウン」

 君は夢を信じられる?Dream drive!!!



 ##機密ファイル##

 22XX年度・全日本小学柔道大会 個人-5年生の部、最終結果


 準々決勝

 ○鐘井 沙耶

 ●丸 鬼若


 ○円 和

 ●日立  寅治郎


 ○上居 極星

 ●斎郷 剛次


 ○男鹿 F034-R853 桐太

 ●荒川 エダルダ


 準決勝

 ○鐘井 沙耶

 ●円 和


 ○上居 極星

 ●男鹿 F034-R853 桐太


 三位決

 ○円 和

 ●男鹿 F034-R853 桐太


 決勝

 ○鐘井 沙耶

 ●上居 極星


 優勝:鐘井 沙耶

 二位:上居 極星

 三位:円 和



 出場選手プロフィール


・鐘井 沙耶  かねい さや

「お姉ちゃんだからね!」「それで止まると思ったのかぁぁぁぁっ!!」

 ゾウ獣人の女の子。九州在住。長女で弟が3人。

 才能十分、闘志最強、眼光鋭く実直にして豪胆。お寺の娘。

 もともと驕りなく鍛錬に余念を持たない少女だったのだが、前年大会で円に負けて以来ますますの特訓の鬼と化した。

 円相手の準決勝試合では技のかかった右腕を無理に動かしたための肘肩2か所の脱臼を負ってなおの勝利から、勢いのままトーナメント優勝に至る。

 反則呼ばわりの鼻だが、彼女が自分より強いと思った相手にしか使わない文字通りの奥の手。

 事実、大会中で鼻を使ったのは丸と円相手のみ。

 また獣人フィジカルを考慮しても、それ以外は純粋に技術による勝利だった。



・円 和  まどか のどか

「はっ! しょぉ! ……ああ、恐かった……」「本気の出し方って、よくわからないけれど……」

 シード枠、成分無調整な人間の女の子。首都圏在住。兄が1人。

 常勝無敗、最強の天才、小柄な体格。柔道道場の家の生まれ。

 普段はほんわかとしていて怖がりなぐらい、まるで戦いには向かないような女の子。

 クソ強い。

 小学生になった頃、ジュニア柔道のホープと言われ天才の名を欲しいままにしていた兄を苦労なく投げ飛ばした。

 その時点では兄の油断は多少あったものの、現在も彼は「和の方が才能で上だ」と断言している。

 事実その才能は異能に割り込んでおり、彼女の五感は相手の骨格・筋肉・神経・血流・内臓の動作・重心を読み取れてしまうほど。

 5年生大会の準決勝では鐘井に相手に終始優勢、しかし鐘井が技極まって動かしてはいけない腕一本を犠牲にしてまで戦うというのは想定外だった。

 これは天才ではあっても戦士としての激情からは遠い性格ゆえの敗北といえる。



・上居 極星  かむい きょくせい

「ボクはのどかのオマケで十分だよ」「ぼふぁーっ!!」

 シロクマ獣人の男の子。首都圏在住。姉1人妹1人

 フィジカルでは8人中最強なのだが、才能は言っても凡で、おだやかで優しい男の子。

 円とは別の柔道道場の産まれで、家同士の付き合いもあって幼馴染で仲が良い。

 円から催促される形で彼女を抱っこしていたり肩車していたり技の実験台にされたり、常時密着距離でいる。

 傍目には可愛い少女と可愛い動物でマスコットコンビなのだが……。

 道場主である父親は陸上最強生物とも言われるシロクマの獣人に柔道を覚えさせたら一体どうなるか、という願望を実現してしまった。



・男鹿 F034-R853 桐太  おが きりた

「男鹿のオーガだ、いい冗談だろ?」「悪ぃ子、泣ぐ子は居ねがぁ!」

 バイオニキスの男の子。東北在住。設計の親、製造の親、系列の兄弟姉妹、里親の老夫婦

 少子化対策法案の一環で生産されたバイオニキス。

 現在バイオニキスは出生率が2.0を割った地域で生産・配分され、地名が苗字になる。

 彼らは五輪選手などのDNAを用いたジーンエリート体を持つ上で、生体結晶光子脳は学習効率が高く怠けを知らない生真面目さも併せ持つのでどうやっても強い。

 こうやってデータと環境だけ並べれば非人間無感情型っぽく思われそうだが、よく笑うしよく怒るしよく泣くし冗談も言うし人付き合いも上手。むしろいたずらっ子寄りですらある。

 地域の奇祭でナマハゲを演じるのが夢。



・丸 鬼若  まる おにわか

「親父直伝、タイバンザン返しだ!「鼻は……反則だろ……」

 本編を参照の事。

 成分無調整の人間の少年。中部在住。弟1人

 四年の大会で負けた円が気になる。

 そのため、いつもイチャイチャしている(ように見える)上居を恋敵と見ている。



・日立 寅治郎  ひたち とらじろう

「受け身取っていいって誰か言うたかな」「耳潰れる努力してもワイのが強いなぁ!」

 シード枠、トラ獣人の男の子。関西在住。母1人、それぞれ父親の違う姉2人

 ガラが悪い。チャラくてゲスい。ナンバーズと呼ばれる量子電脳適応化体質。

 勝つためには手段選ばない系なのだが、真っ当に戦っても滅茶苦茶強い。ガラが悪い。

 口も悪く、他人の努力や苦労を嘲笑って憚らないが、しかし本人は並大抵でない努力と苦労を重ねている。

 ガラの悪さに反して才能も肉体も十分で、鐘井に鼻を出させても勝ちうるだけの強さを持っている。

 そして何より相手の弱い所を責めることに躊躇が無いえげつなさこそが最大の武器。

 しかし大会その他で円に毎度負けている。性格ねじれに加速がかかった原因の一つ。

 それ以外にも荒れた地域(関西経済特区・下層)出身で、同地域では成功者以外がどのような扱いを受けるかという悪習が身についてしまっての部分も大きい。



・斎郷 剛次  さいごう こうじ

「今の俺は復讐に燃える活火山だ!」「九州に熊いないから珍しくて」

 成分無調整の人間の男の子。九州在住。一人っ子

 生真面目を形にしたような少年で、体格は最も柔道向き。

 地域遠征でも鐘井に何度も辛酸を舐めさせられ、それでも決勝トーナメント進出まで至って逆襲を志していた。

 しかし辿り着けずに負ける。無念。

 彼の名誉のために言っておくが、獣人などの強化あり大会で普通の人間がここまで来るだけでおかしいぐらいに強い。



・荒川 エダルダ  あらかわ Edwarda

「ピアノ……子牛ちゃんより軽いですわ」「普段からの労働量が足りてませんわね」

 ウシ獣人の女の子、北海道在住。姉兄弟妹弟妹の大家族

 大牧場育ちで手伝いに働き者のお嬢様、文武両道、恵体怪力。

 本人は芸術家志望なのだが運動部に助っ人を求められる内にここまで来てしまった。

 同じ理由で、柔道に限らない様々な競技大会で上位に絡んでくるため、あだ名は「大会荒らしのエダルダ」




 22XX年度小学柔道大会6年の部、最終結果

 優勝:円 二位:鐘井 三位:丸 四位:上居

 残ベスト8:男鹿、荒川、斎郷、バルジャン

 素行不良による参加資格喪失:日立


 備考:中学からのジュニア柔道では獣人・バイオニキスは参加資格を失うため、一部の参加者はこれが最後の公式戦となる。

 これはあくまでも反ドーピングという観点からくるもの。


 一方、獣人などを含めたサイバネティクス強化選手達によるパラスポーツ(Parasports:平行の競技、の意。元来はパラリンピックからの転用からくる合成語だったが、現在は『肉体鍛錬の延長線上ではない』の意味で使われている)は、その圧倒的迫力からメディア配信で大人気コンテンツとなっており、特に花形とも言われる格闘分野では高収入が確定している。


 栄誉か実利か、精神性を問われる問題とも言える。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ