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第二十七話「夏休みの終わりに」3/4

 =珠川 紅利のお話=


 私たちが大神さんのお宅で談話中。

 お茶を運んできたのは夢さんと、見知らぬ犬獣人の女性。


 でも、彼女の外見は大神さん夫妻の中間ぐらいだから、つまり――。


「こんにちわ、央介君と……珠川さんだっけ? 父がお世話になってますー。大神の娘の風香(ふうか)と申します」


 うん、やっぱりこの人がお孫さんを連れて帰ってきているという娘さん。

 夢さんと一緒に、私たちの前へお茶とお茶菓子を並べていく。

 夢さんはそのまま私の隣に座った一方で、風香さんは立ったまま。


 ――子供が居るっていう事は、今の風香さんは大神さんじゃなくなっているのかな?

 私がそんなことを考える中で、央介くんの応対。


「とんでもありません。僕たちの方が大神一佐にいつも助けてもらってばかりです!」


「あらー、ご丁寧にどうも。いやー、父ったら物心付いた頃から戦場だったとか言っちゃう筋金堅物だから、今の子にとっては面倒じゃないかと思ってたんだけどね」


 風香さんは隣に大神さん本人を置きながら、割と言いたいことをはっきり言っている。

 言われた大神さんは微妙な表情だけれど、怒りはしていないみたい。

 そこへ央介くんの更なる感想。


「そうですか? 大神一佐は、いつでも格好良い軍人さんだなあって思いますけれど」


「私もそう思います」


 央介くんの話に頷きながら、私も短く同意を示す。

 一方で。


「補佐体使いは荒いな。人造人間を労わってくれ」


 佐介くんの余計なちゃちゃ。

 すると当然に――。


「そういうこと言うから叱られてるだけだろ」


「テフはきちんと丁寧に運用されてるよー」


 ――央介くんと夢さんから釘を刺される。

 まあ、いつものやり取り。

 大神さんは――あ、ちょっと苦笑いしてる。


 その一連を受けての風香さん。


「そっかー。父さん格好いいかー。……あっはっはー」


 彼女は笑顔は抑え目だけれど尻尾をすごい勢いで振っている。

 私たちからの大神さん評価に関して、照れているのがよくわかってしまう。


「はい、(ふう)。そこまで、よ」


 その場に割り込んできたのは、ハナさん。

 風香さんの両肩をしっかり押さえて、彼女の尻尾を含めた動きをそこで止める。

 風香さんは恐ろしいものに捕まったかのように固まってしまっている。


「うちの子、みんな、ファザコン気味、でね。ハチくんの事、褒められると、自分のこと、みたいに、喜んじゃって」


 そういうハナさんは尻尾は振らず、クールに長く流したまま。

 だけど、優しい笑顔で娘さんの行動を咎めるつもりがないというのがわかる。


「風。ハチくんと、央介君達は、お仕事の話。だから、お邪魔は、ダメよ?」


「はい。理解しております!」


 ハナさんから窘められた風香さんは、姿勢を正してからのきびきびとした動きでの敬礼。

 その様子は軍人の大神さんに向けての冗談というだけでなく、その作法をきちんと習った人のような感じがしたけれど。

 そして風香さんはハナさんが見張る中で回れ右をして部屋から出ていった。


 大神さんが小さく咳払いをして、話題が切り替わる。

 その視線は、私の方に向いていた。


「さて。それが紅利君のDドライブか。多々良博士からの説明だとセットとなる義足への巨人出力機器として機能させるという話だったが」


 切り出された話は私の新しい足について。

 言われた通り、この足は巨人を取り出して使っているのだから、大神さんとしても思う所がありそう。

 私はパパさん博士から教わった何となくの概要で答える。


「あ、はい。このDドライブで力を持ってきて、義足の方のDマテリアルの神経へ流して小さな巨人を作る――」


 私は、はしたないのを承知でスカートを膝まで持ち上げて、見せても恥ずかしくない程度までの足を大神さんに示す。


「――だから今のこの足は生きてる足みたいに自由に動かせて、触った感じまであるんです」


「むーのとーさまかーさまもDマテリアル疑似神経系の構築で手伝ったんですよー」


 私の話の後で、夢さんが私が知らなかった情報を告げる。

 そういえば夢さんのお父さんお母さんはお医者様なんだっけ。


 そこまでを聞いた大神さんは頷く。


「それは喜ばしいことだな。また、多々良博士としても民生用の機器を作れたことは嬉しく思っているだろう」


 更に大神さんは央介くんの方へ向き直って、話を続けた。


「これが多々良博士達が本来目指していた方向。人を救うためのDドライブの第一号というわけだ」


 大神さんの力強い笑みと、言われたことの意味を掴み損ねた私たちは一瞬考えて。

 それを先に飲み込めたのは央介くん。

 央介くんは、驚きと同時の喜びの声を上げた。


「あ……ああ! うん!」


 その時の央介くんは普段の礼儀正しさを忘れるほどに喜んでいた。


 そこでやっと私も理解できた。

 ギガントと戦わない巨人、ギガントと関係ない巨人。

 それが本当の巨人の形だったんだ。


 央介くんと夢さんは私を取り囲んで、改めて私の足とDドライブを見つめる。

 ああ、ひょっとしたら央介くんたちですら巨人やDマテリアルの“正しい使われ方”を忘れかかっていたのかもしれない。


 ――それぐらいに、ギガントは巨人を悪く、恐ろしく使ってきていた。


 でも、今は部屋にいるみんなが笑顔。

 巨人という力を、幸せのために使った場合の笑顔。


 それがしばらく続いた後で、少し離れた所に居た佐介くんが注意を口にした。


「それはそれとして、そいつ(Dドライブ)の基本構造は央介のと変わらない。だから紅利さんの巨人も出せちまう。リミッターはかけてあるけどさ」


 佐介くんの話は空気を悪くするような酷いものだったかもしれない。

 だけど、それも本当の事だった。

 私たちは互いに顔を突き合わせて気持ちを引き締めた。


 すぐに私は佐介くんが言っていたリミッターについて大神さんへ説明する。


「央介くんのパパさん博士に言われました。もしもの時の自衛に使えるかもしれないからって、パスワードを口にすれば危ない巨人の力を表に出せるって」


 私の話を聞いて頷く大神さんは、どうもその事は知っていたみたいで慌てたりする様子もない。

 少し、安心。


「そのような事態が起きないように軍は努力を尽くさせてもらう。……紅利君の巨人はなんと言えばいいか、狭山から二度と相対したくないと言われていてね。私も足を取られるのは流石に恐い」


 大神さんは話の最後だけ大きな身振りをつけ、冗談めかして語った。

 それは私たちの緊張をほぐすためのものだとわかるけれど、流石にちょっと笑えないかもしれない。


「さて次だ。島での一連の騒動だが、央介君自身の意見報告を聞きたい。報告書は読んだのだが……やはり自分が関わらない仕事だと、痒い所に手が届かなくてね」


「あっ、はい。……ええと、どの辺りから?」


「ギガント技術との接触――つまり最初に船を破壊した障壁発生から。央介君と佐介双方の観点でよろしく頼む」


 これは、難しい話が始まりそう。

 私も何か言うべきかと考えて、でも何もできなさそうなのが正直なところ。

 そう思い始めた時、横から声がかかった。


「大神一佐! 紅利っちをお借りします!」


 夢さんが学校の授業でのように手を上げての発言。

 えーと?


「あれ? むーちゃんも報告したほうがいいんじゃ?」


 央介くんが疑問を夢さんにぶつけるけど。


「むーは、このお家で暮らしてるから十分報告したもん」


 それもそうだった。

 央介くん佐介くんも同じく理解したところで、借りられる理由もわからないまま私は椅子から立ち上がって夢さんに付き添う。


「それじゃ、とっても可愛いのを見てきます!」


 夢さんは、大神さんへそう伝えて、部屋から外に出ていく。

 私も大神さんにお辞儀して、夢さんの後を追う。


 ――追うのはいいけれど、可愛いのってなんだろう?


 私が疑問を持ちながら廊下に出て、結構な距離を進んだところで先を歩いていた夢さんが180度のターン。

 夢さんは、急な動きに驚く私の胸元を見つめて、というより睨んでいた。

 そして――。


「……紅利っち。正直に言うね! むーはジェラシーかも!」


 夢さんはいきなり、私に刺々しい言葉をぶつけてきた。

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