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第二十六話「さらば巨人の島」9/9

 =多々良 央介のお話=


 11時が近くなった頃、それは姿を現した。


 海の向こうから、複数の船を従えた黒い影。

 あれが――。


「かいじゅ……あれ、おっきな機械……?」


「メガゼラスだ!? 海上自衛軍オキナワ基地所属、対ゼラスの切り札が、どうして!?」


 ざわつくクラスメイトのなかで叫んだのは、ゼラス絡みで縁のある面矢場くん。

 あれが、ギガントのつくったバリア、そして島を破壊しにきた危険な兵器。


「助けに来てくれたってこと?」


「あれ、こっち向いて……は居ない。どっちかというと島の方向いてるのか?」


 ここが黙っている限界だろう。

 本当の事を言わないと、むしろ不安が蔓延してしまう。


「――メガゼラスは、島を攻撃しにきたんだ。バリアの発生装置を破壊するために」


 僕はみんなに打ち明ける。

 今が危険な状態だということを。


「その攻撃が、僕たちを巻き込んでしまうから、こうやって避難することになった。大丈夫、ハガネでみんなを守るから」


 そこまで説明すると、当然みんなからの反応も大きいものだった。


「このサメ巨人で外に出るんじゃないの!?」


「避難って、大丈夫なの? 恐い……」


 反応は当然ネガティブなものが大半。

 みんなの、よくわからないものへの恐怖が広がっていく。


 そしてアトラスから非公開の連絡がくる。

 口うるさい長手と、こんな時にもマイページな足高。


「おい! 黙ってた方がよかったんじゃねえのか、ちびすけ!! 一気にPSIの数字が怪しくなったぞ!」


「アナライザーのゲージが上がったり下がったり……。あれ、上がったりしてる?? 数字が変だ」


 正しい選択肢だったのかは僕にはわからない。

 でも、実際にメガゼラスが攻撃してきた時に、パニックからの大崩壊で巨人を失ってしまう事の方が危険に思えた。


 だけど、少しずつ悲鳴が増えていく。

 僕だって恐さを拭いきれない。

 そんな中で――。


「メガゼラスが胸部砲門を開いた! ゼラス・デストロイヤーの発射態勢だ!」


 面矢場くんは、その攻撃の存在も知っていたみたいだ。

 ついに最終兵器のカウントダウンが始まる。

 僕は耐えきれなくなって状況を確認。


「父さん、PSIエネルギーは大丈夫かな!?」


《問題は……ない! 確かに不安定化はしているが、時間制限には影響を及ぼさない範囲だ!》


 父さんの答えは、安心できるものだった。

 それなら、僕がすることは決まってる。


「わかった。僕は、やり切るよ」


「オレもついてる。最後の最後まで」


 みんなの泣き声が聞こえる。

 僕がこんなことに付き合わせて、不要な苦しさを与えてしまった。

 だからせめて、助けてみせる。


《央介君、確認だ。ゼラス・デストロイヤー発射の20秒前に、アイアン・スピナーを発動、巨人障壁に突き立てる。それによる極限の回避を行う。そちらに問題はないな?》


「こちらハガネ。問題ありません!」


「こちらアトラス……。多分まあ、おそらく問題ないと思いたいです……」


 あとは――。


「クラスのみんな、聞いて! これからハガネの力で、ゼラス・デストロイヤーから逃げ切る! デストロイヤーの発動は丁度12時だから、その直前!」


「難しいことはしなくていい。手元のDマテリアルをしっかり握っててくれ。状態が落ち着くまでは、たった1分半だ」


 僕と佐介で、最後の説明をする。

 軍の人に任せてしまえば楽だったけれど、自分で背負うべきだと思って。


 反応は――あんまり良くない。

 不安の声、悲観の声、そういったものばかり。

 仕方ない、そう思いかけた時。


「おい、ハガネの中身がやる、って言ってるだろうが。街でハガネが負けた事ってあったか!? ないだろ!! じゃあ任せとけばいいんだよ!」


 声を上げたのは、狭山さんだった。

 その声には、不本意の響きがあったけれど、それでも協力してくれるんだ。

 クラスの子たちの動揺が、少しだけ収まったようにも感じる。


《正午まであと、5分です。これよりカウントダウンはアイアン・スピナーを基準とします》


 オペレーターさんが時間を告げる。

 無機質な時報音と、続くクラスの子たちのざわめき。

 余計な事は、考えない。


《3分前。1分前よりアイアン・スピナーの発動目安のカウントダウンを行います》


「佐介、やろう」


「OKだ。アイアン・スピナー、出す!」


 ハガネの目の前に、巨大な鋼鉄の螺旋が現れる。

 そういえば、最初にアイアン・スピナーを使った時も、カウントダウンからだったっけ。


《1分前。40秒――35――30、29、28、27……》


 最後の、深呼吸。


《5、4、3、2、1――》


「いけぇっ!! アイアン・スピナー!!」


 僕は、普段とは全然違う意識でアイアン・スピナーを放った。

 だけど、全身に感じる加速度はいつも通り。

 ――状況は!?


《アイアン・スピナー発動、およびUシャークの内部格納を確認! 第一段階成功です!》


《ゼラス・デストロイヤー発射、来ます!!》


 巨人すら貫通する破壊がやってくる――。


《――え……発射されない!? ゼラス・デストロイヤーの発射シークエンス停止!!》


《馬鹿な!! こちらの計画は既に進行しているのだぞ!?》


《メガゼラスの制御システムに複数のエラー発生と報告。リブートまでの所要時間2分》


 ――どうして。

 司令部の怒号と、アイアン・スピナーの起こす衝撃、それを怖がるクラスの皆の悲鳴。

 それと。


「熱っ! う、うわっ!?」


 僕の胸元のDドライブは、火傷しそうな熱を放ち始めていた。

 それは100か99かのワンチャンス、その時間制限を知らせる物だった。


「やべえやべえやべえやべえ!! こちらアトラス! 負荷が爆上がりしてやべえ!!」


《アイアン・スピナーの解除は!?》


《一度発動したら……もう、結果が変わらないんです! アトラスやDドライブが消耗してしまう……!》


 父さんの悲鳴。

 ワンチャンスの失敗。

 ――99。


 失われる、1。


 目の前に立ちはだかる壁。

 これのせいで、100じゃなくなる――。


 それは、クラスの誰か。

 刑事さんの娘軽子坂さん、虫好きの大寒くん、喘息マスクの夏木くん、グリーン・ベリルの亜鈴さん、ガラス細工の光本くん、大工の家の加賀くん、飛行船の体の高原さん、怪獣と軍に詳しい面矢場くん、料理勝負の甘粕くんと辛さん、サッカー好きの流くん、サメ好き兎の稲葉くん

 吸血鬼少女の有角さん、力持ちの熊内さんとその友達の木下さん、双子になりたかった伊豆くん、ふわふわな獣人奈良くん。

 脱出計画を手伝ってくれた辻さん。

 お母さんが心配で涙を流していた狭山さん。


 ESPで励ましてくれたあきら。


 幼馴染のむーちゃん。


 車椅子の、紅利さん。



「――嫌だぁっ!!」


 僕は、叫んだ。


「な、なんだよ!? もう無理だろぉっ……!? 失敗なんだよ……どうにもなんねえんだよ……!」


 年上の長手が、泣き言。

 そんなの、聞きたくない。


「僕は! みんなを、誰一人欠けさせずに、要塞都市の家に帰す!!」


 僕は、ハガネの中で、灼けるDドライブを構えた。

 全身全霊と神経を、アイアン・スピナーの維持に回す。


「ああ、次のゼラス・デストロイヤーの時間を超えれば。――いや、Dr.エルダースを超えればいいだけだな」


 佐介も、それに乗ってくれるみたいだ。

 時々、僕だけでも逃がそうとするくせに。

 そして。


「――そうだ! 家に帰るんだ、みんな!!」


 叫んだのは、あきら。

 テレパシーも使わずに。


「お家に、帰る――。央介くんと! ハガネと!!」


 紅利さんも。


「きっと、なんとかできるよ! おーちゃん!!」


 むーちゃんも。


「ああああわわわアナライザーの数字がぶっ壊れれれれっ……!!」


 足高の悲鳴。

 でも、機械で調べた巨人の数字が、どうだっていうんだ。


《何だ!? Dマテリアルの光が……!?》


 青と赤の光が、ハガネの中に流れ込んできた。

 DマテリアルとDドライブの輝きの色。


 何がどうなってるかなんてわからない。

 でも、これは99じゃなくて100――いや、違う。

 101のチャンス、そんな気がする。


 じゃあ、簡単だ。

 力を螺旋で束ねて。


「――僕は、みんなを家に帰す……!」


 そして、僕が掛け声を口にしようとした、その時。

 どうしてか、みんなも一緒に叫んだ。

 みんなも、一緒にやってくれた。


「「「「「アイアンっ・スピナぁぁぁぁぁああああああっ!!!」」」」」


 今までとは比較にならないような加速度が、体に掛かった。

 虹色の壁に突き立っているアイアン・スピナーは、飛んでいこうとしている。


 クラス全員の力を得て。


 壁なんて、突き破って。


 それは、そんなに難しいことじゃなかった――。




 ……通信から、声が聞こえる。


《あ、アトラスの現在位置、巨人障壁の外部です……! ハガネは……? Uシャークは!?》


《Uシャーク、ハガネ消失……確認できるのはアトラスと連結されたボートのみです……!》


《巨人障壁のPSIエネルギー、急速に霧散! 島内部の高エネルギー、検出できません!!》


《メガゼラス、依然リブート作業中。ただ……作戦目標が喪失。障壁中枢破壊作戦は中止されました》


 虹色の幕のない、夏の空色。

 僕と佐介はそれを見上げながら海に浮かんでいた。

 胸元には、頑張り過ぎて砕け散ったDドライブの欠片。


「――火事場の馬鹿力かなー」


「みんなから分けてもらった元気の玉ってやつかも。で、どうしようか、今度はハガネ無しの遭難だぞ」


 サメに食べられるのは嫌だなあと思いながら、こういう時はとにかく安定して浮かぶのが大事という海の子の知識。

 思い出して、ウィンドブレーカーに紐づけされた木下さんの携帯を取り出す。

 安心の完全防水仕様のそれを操作して、“ALIVE(生存)”のサインを送ると。


《央介ぇぇぇぇぇっ!!!!!》


 父さんの絶叫が耳を裂いた。

 大騒動になってるらしい軍司令部の騒音を全部覆い隠すほどの大声。


《央介!央介!央介!無事か!央介ぇぇぇぇっっ!!》


「無事だよ、無事。ちょっと声小さくして!」


《あ。ああ。あああああああっ!!》


 ダメっぽいや。

 音量、下げておこう。


《あっ、アトラス逃そ…………》


 ん? なんかオペレーターさんが言った???


「央介くーん!!」


「おーちゃーん!!」


 通信の音量を戻そうとしたとき、声がかかった。

 海を泳いでくるのは夢幻巨人アゲハ、むーちゃん。

 それとその頭の上に腰かけた紅利さん。


 その向こうには、2隻の避難ボート。

 みんなで手を振っている。


 ああ、僕は、できたんだ。

 クラスのみんな、無事のまま。


「いや、家に連れ帰らないと、だろ?」


「ああ、そうだった。もうひと頑張り、しなきゃ」


 ――僕と佐介は、まずアゲハに拾ってもらうことにした。




 =どこかだれかのお話=


「気の毒だけど、示しもあるから懲戒は受けてもらうよ」


「勿論です。判断が甘かったことから、危うく巨人隊の全喪失もありえましたので」


 機密通信室。

 大神は上司の附子島少将から、事後処理に関する通達を受け取っていた。


「しかし、すごい結果だったね。ハガネくん、軍が大騒ぎしてた案件をなんとかしちゃったんだもの」


「は――。ただ……結果的には島に被害も出なかった一方で、状況としては完全に事故といって良い状態でしたが」


 大神のその答えを受けて、張り付けた笑いの附子島は更に薄気味悪い笑みを浮かべる。


「探り入れたんだけどさあ、動かなかったゼラス・デストロイヤー。ありゃバックドアでも仕掛けられてたみたいだねえ。メガゼラス自体、旧体制の旧隊が建造したもんだから」


 大神は驚愕に目を見開いて戦慄の事実の、その先の話を口にする。


「まさか……メガゼラスの不調は、ギガントに操作されていた、と……!?」


 附子島は雑な身振りでそれを肯定する。


「まあ、当然だよね。現場での即席とはいえ新型巨人と自慢の巨人障壁の接触なんて、私でも結果が気になるよ」


 更に、附子島は座席の上で大きく伸びをして、何か疲れを払うような仕草。

 やはり、大神にとっては好感を持てない人物だった。


「そんな難しい顔をされてもね。軍人には珍しい夏休み、楽しみたまえ」


 そして、大神には2週間の停職と自宅謹慎処分が下される。



 See you next season!!!

 央介と紅利は、二人で歩く時間を過ごしていた。

 そして、彼らはある人物を訪ねる。

 次回『夏休みの終わりに』

 君達は夢を信じられる? Dream Drive!!!


 ##機密ファイル##

 対ゼラス全領域機動格闘艦『Mobile Earth Guardian-01 Anti-XERATH ふそう』 通称メガゼラス

 海上自衛軍のオキナワ基地に所属する超ド級兵器、水陸両用歩行戦艦。

 太平洋に生息するゼラス類への対抗策として建造された対ゼラス兵器の一基であり、一方でオキナワへ配備されることで大陸側への威圧を目的ともしている。


 外見はまさしく機械製のゼラス。

 そのデザインはゼラスの縄張り意識を喚起するためでありつつ、格闘戦を可能とすることによってゼラスの生体粒子砲の射線を遮るためでもある。

 戦闘艦ではあるがオートメーション化により乗員は艦長、格闘操舵、機器オペレートの最小5名で戦闘稼働が可能。


 ゼラスの背びれの如く並んだ耐衝撃装甲殻の中には艦砲類が格納されており、これらの利用時には脚部アウトリガーを展開、恐竜状の姿勢となって背部を水平としての一斉砲撃を行う。

 なお、フレキシブル砲座である頭部の二連主砲は装甲強度を優先させた結果、鼻の穴に見える部分からの発射というデザインとなっており、通称が鼻ク……あまり評判が良くない。


 一方で、同艦の代名詞となっている特殊兵装、破滅の兵器「ゼラス・デストロイヤー」がある。

 これは空換弾の発展兵器で、偏向化・空間元素交換転移振動波を照射し、波動干渉範囲内の酸素原子を空換共鳴状態に持ちこみ、そこを起点に転送崩壊を起こさせるというもの。

 理論上、酸素原子が含まれるものであれば全ての物を土塊が如く粉砕する。

 同兵器は、通常時はメガゼラスの胸部装甲内部に格納されており、運用時には胸部装甲を開放、そこから延展した三軸砲身から発射される。

 この時、射線上の空気中では酸素原子が空間転移を起こし続けるために射線は七色に輝く。

 この兵器は発動弾薬として小型空換弾を用い、しかし同砲弾は安定性の問題から砲弾を接近させてはならないため、単発という欠点を抱えている。


 過去の戦績としては、大型ゼラスとオキナワの離島山中で休眠状態にあったRA生命体ローダウンの衝突暴走が危惧されたために出動。

 ローダウンの鎮圧には成功するも、その戦闘の際にゼラス・デストロイヤー砲身に歪曲破損が発生。

 集束率の落ちたゼラス・デストロイヤーでゼラスに立ち向かい、一度はゼラスの内臓組織破壊までに追い込むも、二匹目のローダウン出現と、そのローダウンの不明現象によるゼラスの回復により、最終的なゼラスとの格闘戦に敗北。メガゼラスは頭部腕部の大破と全体の機能不全。

 一方でローダウンらとゼラスは共存関係を構築し、双方が撤退潜伏。

 最終的に痛み分けという形に終わっている。

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