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第二十六話「さらば巨人の島」8/9

 =多々良 央介のお話=


 朝9時。

 僕から少し向こうにはアトラスと接続された避難ボート。

 ボートには既にクラスの皆が乗り込んでいる。


《計画を聞いた時には驚いたが、それどころかこの短時間で完成させるとは……》


 時間が迫る中、大神一佐が通信の向こうから僕たちに語りかけてくる。

 続いて、父さん。


《子供の命懸かってるんです。何でもしますよ、俺は》


《多々良博士、多大なご尽力に感謝します。オペレートはこちらで行いますので――》


 大神一佐はそう言って、無理が見える父さんを収めようとするけれども。


《実際に動かす時に最終調整が必須です。ミスが許されませんから。げほっ》


 母さん――!

 熱を出したとは聞いていたけれど、声を聞くと本当に弱っているのを感じる。


《――わかりました。無理は、とは言えませんが医療班を傍に置かせます》


「母さん! 僕、こんな事件さっさと解決するから! だから――」


《おーくん、みんなが笑顔で帰るためだから、ちょっと無茶させてね。げ、げほっ……ごめんなさい、音声を切らせてください》


 それきり、母さんの声が聞こえなくなった。

 僕はさっさと解決するとは言ったけれど、実際には事件が始まってからもう一週間が経っている。

 その間ずっと父さん母さんはあんな状態だったんだ……!


《央介君、取り乱さないように。だが、引けない理由にもなっただろう。親の気持ちというものを無駄にするな》


 大神一佐のこれは――、焚きつけ!


「――! はい!!」


《では、保護脱出計画を開始する! 計器類の最終時間同期!》


 僕は、大神一佐の掛け声を受けて、手元の携帯の時計を、軍のアプリへ同期させる。

 この携帯は、僕のそれがアトラスへの接続に使われていて使えないと知ったクラスの木下さんが貸してくれたもの。

 サクラの花柄で飾られた女の子らしいデザインだけれど、合成繊維ストラップで服にしっかり固定でき、頑丈でラフに使っていいタイプだった。


《現地! 神奈津川小学6年A組、児童全員のボートへの搭乗は!?》


《夢さん、児童全員の点呼確認を》


 軍からの命令を受けて、ボート先頭に立ったむーちゃんがみんなに声をかける。


「みんな、最後の点呼するよ! これからはおトイレとか無し!」


 むーちゃんの、その号令が危機感を感じさせるものだったのか、ボート上のみんながざわつく。

 ごめん、みんなの命がかかってるって、言えないんだ……!

 もしパニックになったら、サメ巨人が安定するかどうかわからないって、口止めが辛い。


「――全員、います! 辻さんがまだ寝てるけど!」


《全員の搭乗を確認! 巨人のPSIエネルギー制御、実体化率を活動数値まで上昇!》


「やっておしまいなさい! ナガテ! アシダカ!」


「「ALL HAIL(やってやりますよ)SMALL SIR(お姫様)!!」」


 凸凹コンビの揃った掛け声が響き、ボートとアトラスを包むように半透明なサメ巨人が出現する。

 その大きさは、以前に戦い損ねた時よりずっと大きくて、ハガネでも上に立ち乗りできるほど。

 そして半透明だったサメ巨人の透過率はどんどん下がっていって、サメ巨人の向こうの景色が全く見えなくなった段階で、それは“地面の上で波に揺られ出す”。


《長手くん、数値は安定しているが、そちらでの感覚はどうだ!?》


「問題なし、ボートごと動いてますよっと。 お姫さん、泳ぎ制御はいつも通りにお願いしまっす!」


「ええ、よろしくってよ」


 ギガントトリオたちの制御を受けたサメ巨人は、不可思議に地面を泳ぎ始めた。

 そのまま広場や茂みの中を一周ぐるりと泳いで、僕たちの前に戻ってくる。

 ボートだけ置き去り、なんてことにはならないようだ。


《疑似土鮫王の稼働、問題はありません!》


《作戦にあたり、疑似土鮫王に対し友軍コードを発行します。アンダーグラウンド・シャークという形態より、コードは“UGシャーク”》


《良し! では第一次計画として巨人障壁までの避難を開始する! 央介君、ハガネによるUGシャークの直衛を!》


 大神一佐からの司令。

 僕は、いつも通りにDドライブを構え、精神を集中させる。

 やるべきことは、分かっている!


「了解! Dream Drive!! ハガネ!」


 ハガネが、その巨体を陽光に輝かせると、佐介はすでにハガネに融合していた。

 僅かに左右非対称、頭部の左にだけ排気管のような主砲を備えた鋼鉄の巨人が島に立つ。


「夢幻巨人ハガネ! 6年A組の保護と脱出作戦を遂行します!」


 僕は計画内容を宣言してから、ハガネを跳躍させUGシャークの鼻先へ飛び乗らせる。

 揺れるUGシャークの上でバランスをとってから。


「アトラス! ハガネの接触で航行に支障は!?」


「今はない! これから長丁場だから保障もないがな!」


「動かして慣らすしかありませんの! むしろ今のうちに不調を出し切って補正をかけていくべきですわ!」


 プリンセスの受け答えは理に適っていた。

 ただ、同じ分だけ補正修正をかける父さん母さんへも負担が生じる。


 僕は、島を覆う薄虹色のバリアを睨みつけた。

 全部の元凶。

 それでも、今日で決着する。


「よし、UGシャーク出発するぞ! まずバリアへ接近まで!」




 UGシャークは地面を泳ぎ、島の坂を下り、港のコンクリートに潜ってから海に飛び出た。

 海底の地面に潜られたらどうしようかと思ったけれど、そんなことはなく海を普通に泳ぎ出す。

 ハガネの中で振り返れば島はどんどん遠ざかり、キャンプの見張り櫓が小さくなっていく。


「はやーい!」


「島に来る時の船よりずっと速い。巨人だから?」


「巨大ザメの中だよな。 外が見えるのどうなってるんだ」


「あれー、ここどこかしらー? ……もしかしてー、もう島から離れてるー?」


「あ、辻さん起きた。大丈夫? 具合悪くない?」


「ジンベイザメはね、体格と筋肉総量から計算すると時速数百㎞は出るっていう説があるんだ! それでこの巨人はジンベイザメの10倍近い大きさだから、本気の速度は――」


 興奮して説明を始めたのは、サメ好き少年の稲葉くん。

 その説明通りなのか、バリアまではあっという間。


 それで時間は10時を少し過ぎた頃。

 アナウンスは足高。


「正面にバリア。PSIエネルギーが高すぎてアナライザーの数字がおかしなことになってる」


「しばらくは休憩ですわね」


 UGシャークはバリア近くでいったん泳ぎを止めた。

 ここまで近くになると、そこに虹色の壁があるのがはっきりわかる。

 ハガネの手を延ばして触れてみると、硬い。


「UGシャーク、集束PSIエネルギー80%を維持。アトラス各所への負荷は平均16%、消耗はまだ発生せず。多々良博士、実動してのデータ上げてますが?」


《――調整も進行している。これならかなり無茶ができるはずだ》


 ハガネの全力を込めて、虹色のバリアを殴る。

 反動はハガネの拳と僕の手にだけ戻ってきて、何の成果も無し。


「央介、下見てみろ。ふざけてるぞ」


 佐介が何か言いだす。

 一体何が?


「このバリア、海面が途切れてない。水は通すんだ」


 佐介が怪現象について語り、更に足高が補足説明。


「こちらUGシャーク。水中から見ると水どころか魚もバリアを平気で通過してやがります、どーぞ」


 ――巨人らしいと言えば巨人らしい。

 人間や機械、巨人だけを通さないバリア。

 そんな不可思議な檻に、僕たちは囚われている。


《央介、アトラスのとりあえず最終調整ができた。数字上だが、とりあえずUGシャークを収納してのアイアン・スピナーによる退避時間は1分45秒まではいける》


 父さんからの状況説明。

 だけど。


「えっと、それって滅茶苦茶長くない? スピナーをそんな長く使った事なんてないよ!?」


「まあ必要なかったからな。央介だけでやるならともかく、オレが形成しつづければスピナーっぱなしもできるぞ」


 佐介の宣言で意外な事実が判明した。

 ハガネで一番強力な技は、そんな長持ちするものだったなんて。

 だけど、父さんからの注意が入る。


《そうなったらそうなったで、細く引き絞ったハガネを真横からポキっと折られるかもしれないがな》


「ああ、そっか。火炎王の時もだけど、結局アイアン・スピナーって全体が弱点化もするんだ」


「そんな気がしてたから、解除も早くしてた。今回は相手が現象だから気にしなくていいけどさ」


 いつもの事ながら、佐介には助けられてばっかりだ。

 しかしそうなると気になるのは――。


「父さん、ゼラス・デストロイヤーの効果時間って?」


《それがな、空間破砕は発動から僅か0.3秒間。アイアン・スピナーで回避状態になっていれば余裕も余裕だ。発射30秒前、アイアン・スピナー、そっから1分でハイ完了。どうだ央介! 助かるんだよ! お前たちは!!》


 通信の向こうから、父さんの、少し熱の入った説明。

 そうか、この計画で大丈夫なんだ。

 不安が一つ一つ解れていく。


 そして、作戦時間は一秒一秒近づいてくる。

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