第二十六話「さらば巨人の島」3/9
=多々良 央介のお話=
「空白型の二号。どこかに一号もあるのかな」
「前に出てきたか、この後で出てくるか。碌なもんじゃないだろうな」
巨人を発生させているらしい機械中枢。
僕と佐介はその表面の型番を気にしながら、その操作系を探す。
だけど、それらしいものは見つからない。
「自発的に動いてるコンピュータユニット、あるいは随分と歪でも、これで補佐体か」
佐介が分析を続ける。
人型をしていない補佐体なんて、不気味だな。
「これが動力源だっていうなら、さっさとぶっ壊しちまえばいいんじゃねえか」
後ろで見ていた狭山さんが呆れたように声を上げた。
だけど、すぐに佐介からその危険性に指摘が入る。
「だから自爆装置とかあったらどうするんだ」
そして、佐介だけではなく。
「不正処理での自爆は間違いなくあるが、そもそもこの部屋の入口の表示がな」
ギガントの小男の方も、心底嫌そうに口を挟んできた。
大男の方がその話を追いかける。
「いや長手、入口の表示つってもギガントのAR無きゃ見えないだろ。で、なんかあったっけ?」
「足高よぉ、やばい表示ぐらい覚えとけよ。……後ろのデカブツは、核融合炉だ」
――!?
僕と佐介、流石に狭山さんも、部屋を制圧している大きな機械、核融合炉に対して身構えた。
それに対して何ができるはずもなかったけれども、巨大すぎる力を生み出すそれから目を離せない。
「壊れりゃ冷めて止まるタイプだったらともかく、こいつは出力がある代わりに超高圧プラズマを安定させてるコイルが歪みでもしたら大爆発するタイプ。だから部屋の中で暴れるなって言ったんだぜ?」
小男――長手の説明は続く。
「んで、このカプセル周りの機器が、その大電力をPSIエネルギーに転換してこの島のバリア作ってるってことになるんだろうな。人間の神経系で発生させられるPSIエネルギーじゃびくともしない納得の強度ってわけだ」
つまり、カプセルにおかしなことをしても、電力を止めようとしても核融合爆発。
これじゃあ――。
《ギガント工作員に確認する。操作による停止は不能なのか?》
動けなくなった僕たちに変わって、通信の大神一佐が問い質した。
プリンセスは諦めたような仕草を見せて応じる。
「難しいですわね。このType-blankの制御clearanceは高位のギガントのもの。それこそお父様が関わっているかもしれませんわ」
《そう、か……。内部からの解決ができれば事態は終了だったのだが。――となれば央介君、緊急事態だ》
大神一佐の、普段になく深刻な声が部屋に響く。
でも緊急事態と言われても、一体何が起こったのだろう?
島の中に何かが起こった、それなら僕たちが動く他はないけれど、異変に島の外の大神一佐が先に気付くのは変だ。
じゃあ島の外で何かが起こった、そうなると島のバリアがそれを遮ってしまっている。
どちらも、あんまりピンとこない。
《……落ち着いて聞いてほしい。JETTER OKが、その島――その障壁発生施設への破壊的な攻撃計画を進めている》
「攻撃計画って、この巨人バリアに覆われた状態でどうやってここを攻撃するんだ? 巨人に物理的な攻撃は効かないことぐらいわかってるだろ?」
佐介が映像の大神一佐に質問をぶつける。
でも大神一佐が緊急事態だって言い出すってことは、行われる作戦には何か効果があるはず。
《巨人の対物理防御はある種の時空間異常が起こす現象だ、と多々良博士は言っているな。だが時空間異常には時空間兵器。空間破砕兵器――ゼラス・デストロイヤーというものがあるのだ》
「はあっ!!? ゼラス・デストロイヤー!? おおおおい、ちょっと待て!! あんなものがこっちに向いてるってのか!?」
大神一佐の発した単語に、長手が悲鳴を上げた。
名前は確かに恐ろしそうだけれど、一体どんな兵器なんだろう。
同じ疑問を持ったらしい狭山さんがまだ余裕をもって尋ねる。
「それってどうヤバいんだ? まさか島が吹っ飛ぶとでも?」
「冗談じゃなく吹っ飛ぶ! 空換弾を弾薬にぶっ放すイカレ兵器で、ここから周囲10㎞……だからバリア内部のほぼ全体が巻き添えになる!!?」
長手は完全にパニックになって、縛られたままで地面に転がった。
その話を聞いた僕の思考も一瞬飽和して、それから話の最後の部分“バリア内部全体が巻き添え”という部分が頭の中で繰り返される。
その時に、何か、何か僕たちにできる事って――。
「ハガネやアゲハでみんなを守って……あ、あれ? ダメなんですか!?」
《ゼラス・デストロイヤーは時空間兵器だ。巨人で防御を行っても空間へのダメージで死傷者が生じうる。有効なの防御手段は発動地点からの距離確保だけとなる》
大神一佐が絶望的な話が告げられた。
そして、更に僕たちへの命令が下る。
《作戦の実行は暫定で明日の正午。その際に少しでも被害を減らすため、発動前に障壁直近まで全員を連れて退避するんだ。それで被害は出来る限り抑えられる》
「抑えられる……? 抑えられるってどのくらいに!? 怪我人が出ない程度に、ですか!?」
僕は、無意味に大声をあげて大神一佐に聞いた。
だって、被害を“抑えられる”ってことは、被害が残るってことじゃないか!
《央介君、落ち着いて……! 私達もできる限りサポートして、一番安全な場所へ誘導するから! 誰も、誰も欠かさずに帰す計画で動くから!!》
オペレーターさんの声が辛そうだった。
やっぱり、これは誰かが怪我を負う程度じゃ済まない話なんだ。
何とか、何とかしなきゃ――。
「それまでにこのシステムを止めるか、あるいはバリアのもっと外に出れば、どうなんだ?」
突然、声を上げたのは佐介。
通信の向こうの大神一佐は、あまりいい表情はせず、それでも応じてくれる。
《可能ならば、それらが望ましい。システムの停止は事態の解決として作戦も停止となるだろう。そして障壁範囲からの脱出も被害を大きく軽減、ゼロにも出来るかもしれない》
大神一佐は一度唸るようなため息を吐いてから、冷静な判断を続けた。
《だが、かもしれないを軸に行動して、被害を出すわけにはいかない。……時間制限を設けよう。避難の時間を考えて明朝9時までは解決のための活動を許可する》
許可は、出た。
僕は、許可なんて無くてもギリギリまでは何かしていたと思うけど、気が楽だ。
「――! ありがとうございます、大神一佐!」
《だが引き時を見誤らないように。私もなるべく向こうの作戦の停止や抑制を試みてみる。――無理はしないようにな》
そう言って、大神一佐は通信の先から引いていった。
大人たちも頑張る。
じゃあ僕たちもできる限りでやる。
まずは――確認だ。
「さっきシステムの停止は難しいとは言っていた。だけど出来ないとは言ってなかったよね、ギガント姫」
「この場にお父様を連れてくれば停止は可能。それ以外は無理。だから難しいと申しましたわ」
プリンセスは自分の命が危ないというのに、いつもの調子で喋るばかり。
その一方で、自分の娘が事件に巻き込まれても何の反応も見せないというあたり、親もどこかおかしいのかもしれない。
偉人、エルダース博士がそんな人物だとは思いたくない。
「――わかった、じゃあその本物だかわからないエルダース博士を超えればいいんだ」
自分で言っておいて、かなりの無茶振りだと思う。
だけど佐介もそれに調子を合わせて、不敵に返してきた。
「そうだ可能性はゼロじゃない。ここには子供だけど35人、ついでに通信回線で要塞都市1つが繋がってるからな」