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第二十六話「さらば巨人の島」2/9

 =多々良 央介のお話=


 ギガントの地下研究施設。

 並ぶ大きな機械仕掛けのシリンダーの中には、見知った子供たちのホログラフが投影されていた。

 僕は、最初にそれを見抜けなかった理由に気付く。


「そっか、ホログラフで陰影とかおかしいから、ぱっと見で別人に見えてたのか……」


 佐介がすぐに対応して、他のシリンダーの前に立つ。

 その中に浮かんでいるのは。


「まあ、鼻傷のオークだけならともかく、ウサギネコ獣人なんて珍獣はそう居な――」


「オイラ珍獣じゃないぞー!!」


 佐介の迂闊な発言に、ウサギネコ獣人の奈良くんによる猛抗議。

 彼が佐介へポカポカパンチをお見舞いするその向こう、少し見上げる高さにホログラフの奈良くんが表示されていた。

 こうしてみると、彼の全身のふわふわの毛並みまできちんと再現されているのがわかる。


「……あっ……!」


 急な紅利さんの小さな悲鳴。

 僕は慌てて彼女を探し、姿を見つけた。


「紅利さん、大丈夫?」


「だっ、大丈夫! な、ななな何でもないから! その、こっち見ないで!!」


「えっ――?」


 僕が振り向いた時、紅利さんはシリンダーの前に立ちはだかっていた。

 慌てる紅利さんの背後のシリンダーの中には、紅利さんと同じ、短い髪の裸の女の子――。


「あっ……、わーっ!? ごごご、ごめん!!」


「見ないでーっ!!」


 ――理解、してしまった!

 あれは紅利さんのホログラフだ!

 不可抗力とはいえ、なんてものを見てしまったんだろう。


 見えてしまったものを、頭から、頭から消さないと……!

 あ、あきら! なんとかできない!?


(これってラッキースケベに分類されるのかねー。あ、面白いから記憶操作は却下)


 殺生だよ!


「おーちゃん……、せくしゅある・はらすめんとだよ。しばらく目を閉じてて」


 更には後ろから、むーちゃんの恐るべき声。

 あとはもう縮み上がって、言われた通りにするしかなかった……。

 周りでも、僕以外の男の子が猛烈な注意を受けて、同じような目に遭う。


「まったく、医科学的視点なら裸なんて珍しいものでもないでしょうに」


「だからって人前で平気で着替えするのはどうかと思いますがね、お姫さん?」


「わたくしの筋肉の一本まで科学技術のたまもの。それは常時きちんとcheckされるべきものですわ」


 目を閉じた真っ暗闇の向こうで、ギガントのプリンセスと小男の方がどうでもいいやり取りをしている。

 僕は医科学的視点なんて持ってないし、持ってたとしても知り合いの女の子の裸なんて見ちゃいけないんだ。


「はーいー。みんなこっちに来てー。男の子は地面見ながらでお願いねー」


 恐怖のパニックから、エッチなパニックに切り替わっていた状況を収める、辻さんの声。

 僕は頭を下げたまま恐る恐る片目を開き、咎められる様子が無いのを確認してから、辻さんの声の方に向かった。

 途中、前が見えない他の男の子とぶつかりながら。


「はいはいー、ここはもう壁側だから頭上げても大丈夫よー」


「隣にまだ機械あるっぽいけど?」


「ここのは電源落ちてるみたいだから大丈夫」


 おっかなびっくりで、僕たち男子は顔を上げる。

 そこには確かに電源が入っていないシリンダー4つ。

 そして、辻さんが向かっていたのは、何かのコンソール。


「プリンセスさんー、これ触っても平気かしらー?」


「セキュリティ権限は部屋に入った時点でフリーにしてありますわ。でもギガントのシステムを扱いきれる自信がありまして?」


「なんなら俺がやるぜ。普段から使ってるのと系列が同じだろうからな」


 その発言で気付いたけれど、ギガントの小男の方はどっちかというと技術側の人間なのかもしれない。

 父さんの名前が出てくる程度には物事を知ってるみたいだったし。

 でも、僕はこいつ嫌いだ。


「とりあえずやってみないとねー、それに最初から悪者さんに任せるのはおっかないものー」


 辻さんがのんびりとした、だけど決然とした態度でコンソールの操作パネルへ手を延ばす。

 すぐに映った起動画面にはGの文字を飾ったロゴ。

 ――これがギガントのシンボルマークなのだろうか?


 そこから、見たこともない雰囲気のスタートアップ画面。

 だけど、辻さんは事も無げに操作パネルのホロキーボードを操作してデータフォルダへアクセスしだす。


「へぇ、ホーンブレインのお嬢ちゃんは行けるクチじゃん。いくらかコマンドも使いこなしてるし――気付いたか?」


「――こっそり開いてみたティーチャーガイアの内部データ構造に似てるわー。……基礎部分が同じ系列で作られてるみたいねー」


 ティーチャーガイア、僕が使っている教育ソフト。

 辻さんの表情も、少しだけ悩みを感じさせるもの。

 そうか、ガイア財団とギガントが繋がっているっていうなら、使われている技術も同じものなんだ。


 僕はそんなことも知らずに、毎日ティーチャーガイアで勉強していた。

 それでギガントと戦ってたなんて、馬鹿みたいだ。


 傍で、辻さんが呟く。


「稼働ログはー、古いので一年前ねー。日付は8月のー……」


 その時、むーちゃんが答えを先に口にした。


「15日……。司くんが転校してきた日……」


 僕にとってそれは、聞きたくない日付と、聞きたくない名前だった。

 その日付が、この地下施設にあるということは。


「えー? これがこの施設の設置日だと思うのだけどー」


「……あのね、おーちゃんやむーたち――ううん、とーさまたちにギガントが接触してきた日、ってことになると思うの」


 思い出したくない記憶。

 新しい友人になれると思った相手。

 父さんの研究室――。


《では、その潜伏施設は新東京島への工作施設として始まった、となるな。それも極めて初期の段階から》


 通信から、大神一佐の声。

 そう、初期の初期、この世界に巨人が生まれた日から一月も経っていない時には、ギガントはもう巨人を奪う計画を始めていた。


 それから僕は、罪もない子供たちの巨人を壊して来た。

 この部屋で表示されるのは、その犠牲の――。


 ――あれ……?

 どうしてギガントが、犠牲になった子供たちのホログラフなんて集めているんだろう?

 僕はコンソールを操作し続ける辻さんに尋ねる。


「――辻さん。そのコンピュータ内で、この部屋のホログラフって何として扱われているの?」


「うんー、今探してるのだけれどー。外部モジュールでー、ものすごく大きなデータ量だからー、これかしらー」


 辻さんが操作すると、画面上に何か複雑な制御システムが表示され始める。

 ウィンドウに表示されたシステムの名前は。


「ぴー……ぷしゅきおんねるぶ……system。専門用語はわかりませんわ!」


「サイキオン・ナーヴィック・サイキカル・エミュレーション・システムー。PSI神経波の再現装置、ってところかしらー」


 ギガント側のくせに自分達の技術に疎いらしいプリンセスと、それをしっかり修正する辻さん。

 PSI、神経、再現、それじゃあ――。


「あのさ多分だけど、このホログラフ、ただ子供たちの姿を再現してるんじゃなくって、体に走る神経のデータまで保存されてたりしない?」


「――! そうねー、これは恐らくー……」


 辻さんは僕の言葉にうなずいた後、システムへコマンドを書き込んだ。

 途端に部屋中のシリンダーから子供たちの姿が消えて、代わりに別の物を映し出す。


 それは、シリンダーに収まる程に小さくなっていたけれど、巨人。

 僕が倒してきた巨人の姿が、ずらりと並んでいた。


「これが、島で、巨人を作っている装置……!」


 紅利さんが、彼女の辿り着いた答えを口にする。

 だけど――。


「いや、これだけじゃ無理だな。これはあくまで神経波の流れを機械上で再現するだけのデータベース。アトラスに積んであるアナライザーと同じようなもんだ」


「ああ、あの巨人予測装置か。見た目とかパワーとか範囲とか表示されて、ハガネより数字上なの使って勝てないんだもんよー」


 ギガントの凸凹が内情を吐く。

 アトラスにはそんなのが積んであったのか。

 そして、ハガネも数値化されて比較されているなんて。


 ただ、凹の方は更に踏み込んだ話を続けた。


「……どっかで別に人間がPSIエネルギーを作り出して、Dマテリアルを通じて投影してやる必要がある、な」


 その話に食いついたのは、むーちゃん。


「自分でもない脳波を機械的に接続して、PSIエネルギーが出るぐらいに神経エミュレートして巨人にする?……そんなの脳が限界超えて脳死しちゃいそうなものだけど……」


「そもそもこの施設は現在無人ですわ」


 プリンセスが、むーちゃんの推論を否定する。

 だけど、無人というキーワードを僕は覚えていた。


「――ギガントが、無人で巨人を作ってきた事、あるよね」


《スティール1――クロガネや、それに随伴していたシルバーデビルがそうではないかと多々良博士が言っていたな。その島はその発展形ということか……》


 大神一佐も同じ考えに至ったみたい。

 じゃあ、この部屋か、でなくとも近くにその心臓部があるはず。

 その事を更に尋ねる。


「辻さん、そのシステムデータ内に、PSIエネルギーの発生源については書いてない?」


 辻さんは操作を進めて、システムのアクセス先を見つけ出した。


「ええとー、この表示がシリンダー類だとするとー……別の部屋ねー、ラボ03ってあるわー」


「わかった。辻さんは……ここでむーちゃんと情報収集をお願い。軍も、父さんもここの情報があれば何かと助かるはずだから」


 辻さんとむーちゃん、テフは揃って頷く。

 シリンダーの部屋にみんなを残して、僕と佐介はギガントの三人を引っ張って通路に出る。

 何故か狭山さんもついてきたけれど。


「ギガントどもはARでなんか見えるって言ってたよね。ラボ03がどっちかわかるだろ?」


「このちびっこ人使いが荒いなあ……」


「今の部屋がラボ01。奥だ、奥」


 凸凹コンビのその言葉が嘘か真実か、地下施設の一番奥まった場所に、またしても扉。

 前と同じくプリンセスに鍵を開けさせる。

 ただ扉を開く際に小男が渋めの顔をしたのが少し気になった。


「いよいよボス部屋ってか?」


「何だ、ビビったのか。多々良のロボの方」


 佐介の警戒に、狭山さんの挑発。

 でも佐介はそこから意外な提案を始めた。


「央介、なんかあったら狭山の首のチョーカー外せ」


「――! おい、意味わかって言ってんのか? これオモチャじゃないからな?」


 狭山さんも驚いた様子で首元を庇う。

 彼女の首のそれはEエンハンサーの子供に施される封印。

 気軽に外していいものではないはずだけど。


「大神一佐から提案受けてる。でもオレは人間じゃないからやっていいか分からない」


「……わかった。狭山さん、その時は失礼するから」


「チッ、クラスの連中守るためには使わなくちゃって思ってたけども、お前に外されんのかよ」


 狭山さんは口ではそう言いながらも、チョーカーからは手を離して、承諾はしてくれたみたい。

 それで僕たちは最悪の事態に備えた態勢を整えたと思った。

 だけど、ギガントの小男から声がかかる。


「ちびども。そんな物騒なもん使わない方がいいぞ。むしろこの部屋ん中では暴れない事を推奨だ……」


「――どういう意味?」


 小男への質問の答えが返る前に、ラボ03の扉が開く。

 中には――部屋を丸々制圧している大きな機械と、その手前に置かれた小さなカプセル。


「PSIエネルギーを作ってるの、これか」


「手前の小さな方がそうですわ」


 僕のつぶやきに、プリンセスが答える。

 僕はてっきり後方の大きな機械の方だと思ったのだけれど。


「表示されている更新日からすれば、つい先日設置されたようですわね」


 僕と佐介、狭山さんはカプセルに近づく。

 多くの、そして太いケーブルが繋がっているそれは金属の殻で覆われていて、中身が何なのか知る手段はなかった。

 表面に書かれている文字を、僕は読み上げる。


「Type-blank 02……これが、島の巨人の元凶」

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