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第二十六話「さらば巨人の島」1/9

 =どこかだれかのお話=


 ――JETTER オキナワ(OK)

 それは名前どおり、官民特殊活動組織JETTERのオキナワ区分。

 しかし、その思想的傾向はオキナワ県全体が抱えたものの影響を強く受けたものとなっている。


 すなわち、先の戦争で旧大陸連邦による攻撃被害を被って以来の、強い排外思想、先制攻撃論の姿勢。

 国会においてもオキナワ出身議員のタカ派の度合いは周囲を鼻白ませるほどだ。


 その意向に沿ったわけではないが、オキナワ県自体がユーラシア大陸・環太平洋における海路要衝であるために、日本政府は同方面軍およびJETTER OKに大きな戦力を与えていた。

 配備されている数々の超ド級兵器群。

 その筆頭としても挙げられる『対ゼラス全領域機動格闘艦・メガゼラス』。


 メガゼラスは、ゼラスを討つために人間が造り上げた機械のゼラス。

 それが搭載する最大の兵器こそ、空間破砕兵器ゼラス・デストロイヤーだった――。



「そちらから送られたPSIエネルギーセンサーで我々が観測を重ねた限り、球体状の巨人障壁のちょうど中枢に最大のエネルギーが検出されている。そこへの直接攻撃による破壊を行う」


 JETTER OKの准将は、淡々と計画の目的を告げた。

 大神は強く反駁する。


「ゼラス・デストロイヤーの威力範囲ぐらい把握している! 子供たちを島ごと消し飛ばす気か!?」


「現地にはそちらのエージェントが居るのだろう。それらに防御させればいい。その想定値では8%程度しか被害は出んよ」


 被害は8%――人命が数字で扱われる。

 軍事の上では当然の話で、大神もそれに従い従わせてきた側だった。

 しかし、拙速な作戦の結果にそれが生じることにまで応じるつもりはなかった。


「現在内部の探査が進行している。それを待ってからでも遅くないはずだ。過剰戦力まで用いての対処理由は一体どこにある?」


「なぜ急ぐか、か。ギガントは兵器技術を取引する死の商人だ。その施設が稼働しているというならば新技術のテストに他ならない」


 大神の投げかけた質疑へ、相手は教本通りの答えを返す。

 その態度も横槍を受け入れるつもりはないことを示していた。

 更には、大神へ釘を刺し返す。


「解決が少しでも遅れて、その技術がギガントに回収されようものなら――次にあの島の障壁と同じ技術で襲われるのは我々か? それとも君達か?」


「……ッ!!」


 大神には反論できなかった。

 既に幾度も巨人の怪現象と戦い、危険性を理解している大神だからこそ、島に発生している巨人障壁、そしてその発展形が運用されることの脅威性を否定はできなかったのだ。


「いずれにしても決定事項だ。予定は明日正午を見ているが、確定した攻撃作戦時刻は追って知らせる。現地エージェントへの通達を急ぐように」


 相手方指揮官との通信会議はそこで終わる。

 画面ではオペレーターが引き継いだが、そちらの姿勢もよほどの事でもなければ上へ取り次がないというものだった。

 大神は苛立ちに奥歯を噛み締める。


「いくら何でも過激すぎませんかね……。人的被害も出ていない段階で、まともに運用されたこともない準戦略級兵器の投入だなんて」


 傍に控えていた技術士官が、オキナワ側の強行を訝しんだ。

 大神も思わず相手方への憤懣を吐きそうになり、しかし抑えて代わりの答えを返す。


「――今回の事件は、地域的に大陸や南方面からも観測されている。通常戦力で突破不能な広域障壁などというものはどこの国でも喉から手が出るほど欲しがるものだろう」


「あと、それをぶち抜けるゼラス・デストロイヤーの保有をアピールしたい、辺りですかね。高いオモチャ持ってるとそういう事したくなる」


「兵器的優位の抑止力と言っておけ」


 部下の軽口を、同じような事を思いながらも窘めた大神は、危険なカウントダウンが始まっていることを理解しながらも、わずかに時間を無駄にしてため息を吐く。

 しかしそれをスイッチとして思考を切り替え、巨人隊への対応に移ることにした。


「央介君達の状態はどうか!?」


「現在、ギガント拠点に侵入した所です。すぐに情報が入るはずですが――!?」


 その瞬間、通信回線を介して子供たちの悲鳴が指令室に響き渡った。




 =多々良 央介のお話=


 みんなの悲鳴が、地下空間で大きく響く。

 僕は、辛うじて声を上げなかったけれど、だけどおぞましさに全身の毛が逆立つ。


 ギガントの地下施設の奥。

 並ぶ巨大シリンダーの中に浮かぶ、子供たち。

 考えられる限りで最低最悪の――。


「注意!! 対象物体は、実体ある人間や人体ではありません!」


 ――急にテフが大声を上げた。

 あれ? なんて言った? これらは人間じゃあ、ない?


「繰り返します。 対象物体は人体実験などの被害者ではありません。これらの機器が投影を行っている映像状のものです」


 みんなはまだ混乱したまま周囲のシリンダーと、テフを交互に見ていた。

 そんな中で、テフの見解にすぐ反応して確認しはじめたのは佐介。

 シリンダーの表面に張り付いて、中身をしっかり見極めだす。


「……うー……? んー……、そう、だな。光源と影がおかしい。これホログラフかなんかだ」


 補佐体二人の行動で、ゆっくりとだけどパニックは収まっていく。

 それでも、不気味な機械には変わらず、特に女の子たちは機械から離れて寄り添っていた。


《大丈夫かね、央介君。夢君》


「え? ああ、大神一佐。ごめんなさい、お騒がせしました」


 通信を受け取ったのはむーちゃん。

 忙しい大神一佐が通信先にいるのは珍しいのに、それがよりによってこの大騒ぎの最中とは。


《いや、恐慌は仕方ない状況だった。だが、人体ではないのだな?》


「は、はい。そう、らしいです。……よく一瞬で気づいたね、テフ」


「当機テフには、健康観察のために赤外線熱診断機能が搭載されています。映像と実体の看破は容易です」


 僕が呼びかけると、テフは事もなげに自身の機能を説明してくれた。

 うん、僕らと一緒に驚いてた相棒のポンコツより高機能だ。


「シンプルイズベストと思ってもらいたいけどね。にしても、なんつー悪趣味な機械――あ?」


 減らず口の佐介は、急に奥へ走り出していった。

 そして奥にあるシリンダーの一つの前に立って、中身を睨む。

 それから、すぐに声をかけてきた。


「――央介、むーちゃん、テフ。これの中身について意見聞きたい」


「当機は現在、重大な懸念の確認作業中」


 テフは何故かシリンダーの前で立ち止まって、誘いも拒絶しだした。

 仕方なく、僕とむーちゃんは佐介の所まで足を運ぶ。

 それと紅利さんもついてきていた。


 佐介が見つめるそのシリンダーの中には小柄な、いや子供のシャチ獣人(オーク)の姿。

 それは沖ノ鳥諸島、東京島での生活では見慣れた姿で――。


「――これ、とっしーだ!」


 むーちゃんが驚きの声を上げた。

 僕も、その少年の身体的特徴から同じ事に気付いた。


「本当だ……! 鼻先の大傷、間違えようがない!」


「……とっしー? 鼻の、傷?」


 紅利さんが戸惑って訪ねてきた。

 それは当然の話だった。

 僕は、なるべく順序を考えて、説明する。


「うん……。とっしー、皐月(さつき) 俊明(としあき)。オークの男の子で、東京島でのクラスメイト。僕が、巨人を倒して……」


 その瞬間、フラッシュバックが僕を支配した。

 東京島での海中の戦い。

 そして、とっしーは巨人を倒した翌日から登校してこなくなって――。


「よ、よく見分けつくね。央介くん凄いなーって……」


 紅利さんの呼びかけのおかげで、僕は我に返った。

 でも、とっしーに関する説明が頭からは飛んでしまっていた。

 けれど、すぐにむーちゃんが代わる。


「この鼻先の大傷だもん。ボートのスクリューでざっくりやっちゃって、でっっっかい絆創膏で登校してきたの」


「ひえ……痛そう……」


 口元に手を寄せて怖がる紅利さんに、むーちゃんがフォロー。


「獣人だから、治るのも速かったけどね! 一週間もしない内に絆創膏とれて、いつもの給食の大食い早食い競争してた」


「ああ、でも……」


 僕は、思わず口を挟んだ。

 思い当たることがあった。


「多分だけどとっしーの巨人、両手のスクリューで攻撃してくる巨人だった。それが変に強くて……事故の事で部分的にだけど悪夢王化してたのかもしれない……」


「……そっか。とっしー、そんなこと言わなかったけど、やっぱり怖かったんだ」


 むーちゃんも、ちょっとだけ声のトーンを落として、今はここに居ない昔の同級生を心配してくれた。

 紅利さんも一時目を閉じて、思い遣るような仕草。

 事故に遭ったという意味では、紅利さんも強い気持ちを持ってくれたのかもしれない。


 子供の心の傷。

 それが混じった巨人は破壊力や狂暴性を増す。


 悪夢王、紅靴妃からの経験が、過去の記憶にも繋がっていく。

 繋がっていって、僕はある考えに思い至った。


「東京島のとっしーのホログラフがここにある。っていうことは、この子供たちのホログラフは――」


「――起動している全ホログラフの照合完了。80基中67基の映像が新東京小学および神奈津川小学の児童と確認」


 先ほどテフがはじめていた確認作業は、僕の考えをそのまま証明するものだった。

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