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第二十五話「要塞都市の少年少女は巨人チートで無人島でも楽勝サバイバルライフ」8/8

 =珠川 紅利のお話=


 プリンセスに携帯を渡してから、私は央介くんを追いかけた。

 央介くんはキャンプの方で座って項垂れていて、傍には夢さん。

 一瞬、どう話しかけるか悩んだけれど、好転しそうという気持ちを見せて、明るく呼びかける。


「央介くん! その……、話が纏まるかもしれないって」


 それから私は、央介くんが離れてからの事を連絡。

 また央介くんが爆発しちゃうかもしれないから、余計な部分は伝えずに。

 央介くんは、大分落ち着きを取り戻してはいたけれど、それでも納得はしていない感じだった。


 これは、相手以外に央介くんの説得まで必要になっちゃったのかなと、こわくなってきた。

 そんな時だった。


 鳴り出したのは、央介くんの携帯。

 ずいぶん早いけれど、都市軍とプリンセスとの交渉が終わったのかな?

 央介くんは着信を確認して、少し驚いた顔をした。


「熊内さんからってことは――」


 狭山さん率いる獣人調査隊。

 彼女たちに何かあったのかな? まさか向こうでも巨人が――。


 私が心配する中で央介くんは通話を始めて、すぐに何とも言えない表情を見せた。

 驚きと、少し楽になったような、そんな表情。

 それから、央介くんは私たちに告げる。


「向こう、なんかあったって」


 ――“なんか”?



 獣人調査隊は通話のすぐ後で信号弾を焚いて、“なんか”の場所を知らせてくれた。

 空高くの花火から、更に高く立ち上がる真っ赤な色の煙の柱。


 私たちは、すぐにハガネとアゲハに分乗して現地に向かった。

 ハガネには央介くんと佐介くんは当然、巨人の足がどうなるか分からない私と、頭脳担当の葉子ちゃん。

 アゲハには夢さんとテフさん、そして――。


「おかしなことをしたら、容赦なく巨人で潰すからな」


「へいへい、分かっておりますよ」


 返事をしたのは凸凹の小男の方。

 もし目的の場所がギガントの何かだったら役に立つはずと、オペレーターさんからの指示でプリンセス一行も連れていくことになった。


「協力いたしますと宣誓したのに、拘束は解いていただけないのですの?」


「生身で鉄板引き千切る系の怪力女子に対しては十分な警戒が必要でね」


 プリンセスの質問へ、さっき被害を受けた佐介くんが答える。

 どうもこのプリンセスは名前どおりに可愛らしい姿の一方で、おかしな身体能力の持ち主みたい。


 そういうやり取りをしながら、二体の巨人は藪や林を突き抜けて走ること十数分。

 島の山陰の鬱蒼とした森の中に“なんか”はあった。


「よく……見つけられたな!?」


 皆が巨人から降りて、最後にハガネから分離した佐介くんが驚嘆の声をあげる。

 それぐらいに、地面からも空からも見えないような場所に、見つかりにくい色で彩られた金属の扉があった。


「へっへーん! オイラの嗅覚すげーだろ?」


 現場で自慢げに語るのは、ウサギネコ獣人の奈良くん。

 どうやら発見は彼の功績らしい。


「それまで美味そうなカエルの匂いだの蛇の臭いだの言ってたのが、急に新品の機械の臭いがするとか言い出してさ。おまえ、この島でひとりで生きていけるんじゃねえか?」


「やだよ! こんな寂しいとこ置いていかれたら泣くぞ! 泣いて死ぬ!」


 馬獣人の日々野くんがお手柄の奈良くんをからかう。

 一方で――。


「で、見慣れないそいつらは誰だ?」


「悪い奴ら」


 狭山さんの質問に、央介くんが簡素に答える。

 対象は、プリンセス一行。

 答えを受けた狭山さんは、特に感銘を受けた様子もなく。


「ふん、噓つきの多々良とどっちが悪い奴なんだろうな」


 ――央介くんとのケンカ状態にも変化はないみたい。


 そんな央介くんが警戒する中でプリンセスは一歩踏み出して扉へ近づき、それを確かめてから声を上げた。


「Hmmm... 確かにわたくしたちが使うオート・モール・ラボの扉ですわね。ここがバリアの発生施設の可能性が高いですわ」


「当たりか。一歩前進だな」


 そう言った佐介くんは央介くんにぐータッチを向けて、央介くんも毒気を抜かれた感じでそれに応えた。

 一方で――。


「で、それもハガネのお手柄になるって? あーあ、やっぱさっさとアタシがこじ開いちまえばよかった」


 とにかく風当たりの強い狭山さんの不平不満。

 その傍で小鳥遊くんが狭山さんが扉を開かなかった、開かせなかった理由を補足しだす。


「もし当たりだったら、罠とかそういうので大爆発! ってのがあるかもだからな。狭山は無事かもしれないけど俺らは消し炭じゃたまらない」


「そこの鳥の男の子は慧眼ですわね」


 小鳥遊くんの経緯説明に、プリンセスが反応した。

 そして更に説明が続く。


「オート・モール・ラボは名前どおり自動で地下に研究施設を設営するシステムですわ。そして不正規な侵入を受ければ爆発はともかく侵入経路が崩落する仕組みになっていますの」


 えーと、つまり、結構危ない所だった。

 危なく台無しにしそうだったということに気付いて引き攣った表情で固まってしまった狭山さんの隣で、奈良くんがやれやれのポーズ。


「で、どうすりゃ不正規じゃない侵入になるんだ? 埋まってからハガネで掘り返してもいいが、面倒っちゃ面倒なんでな」


 説明を受けて佐介くんがプリンセスに尋ねる。

 でも、それはプリンセスたちが何とかできることを考えての質問のように感じた。

 そしてプリンセスも当然のようにあっさり答えた。


「ギガントのエージェントコードで簡単に開きますわ。同じ組織ですもの、別動隊とでも接触すれば情報共有は自由ですの」


(それでやることは世界中から技術盗んで回っテ、色んな国に言う事きかせる死の商人のくせニ)


 あきらくんから、プリンセスやギガントに対する嫌悪のテレパシー。

 そう、基本的に悪い人たちだってことは忘れちゃいけない。


 私たちがプリンセスを後ろから睨みつけている中で彼女は地下への扉に近づいた。

 それで何が起こったのかはわからないけれど、扉は機械の音を立てて動き出す。

 たぶん生体認証とかそういうのだと思うのだけど。


「どうぞ、お入りくださいませ。ただし中の物品を破壊した場合に何が起こるかは先ほど説明したとおりですわ」


 プリンセスはそう言って、扉の隣でドレスを引いて会釈する。

 それだけ見れば本当にお姫様みたいなのに。


 けれど、入って良いと言われても、悪の組織の秘密基地に踏み入ろうという気持ちはなかなか出てこない。

 みんなでまごまご戸惑って、そんな中で央介くんが進み出て声を上げた。


「――ここにいる全員で中に入ろう。僕たちがここにいるから、巨人もこの近くに発生する可能性がある。外にいると危ない」


「でも、こういう研究所ってアレだろ? ゾンビとかミュータントとか殺人ロボが襲ってくるんだろ……?」


 奈良くんが恐い映画や番組での事例を挙げてしまった。

 やめてよ、想像しちゃって余計に足が重くなる。


 でも、その気持ちを佐介くんがくみ取ってくれて。


「そういう時はオレがなんとかする。――狭山もなんとかしろ、要塞都市・神奈津川で最強の狭山一尉の娘なんだろ?」


「今は、ひいばーちゃんが最強だ。……足引っ張るんじゃねーぞ、多々良の……えーとロボットの方」


 やっと状況に応じてくれた狭山さんに佐介くんが無言でうなずく。

 そしてそこから話をまとめてくれたのはテフさん。


「では、最前列を最大戦力の狭山氏、佐介。その後ろに開錠等の行動と監視の利便からギガント構成員を二名。その監視目的で央介さん、熊内氏。その後ろに紅利さんと辻氏、奈良氏、小鳥遊氏と夢。ギガント構成員一名、最後方を日々野氏と当機テフという隊列を提案します」


 ……ざーっと言われたけれど。

 結局みんなもほとんどは覚えていなかったみたいで、テフさんの指導の下で並び直す。

 そうして並んでみれば、何となく強そうな子でギガントの人を挟んでおかしなことをさせないための並びだとわかった。


 逆にワンクッションが挟まれている私と葉子ちゃんは――うん、何かあった時にケンカは苦手って扱いみたい。

 配慮してもらってうれしいような、足手まといという事実が辛いような。


 並んで順序通りに扉を潜ってみれば、そこから先は土の中にビニールかプラスチックか何かで作られた不思議な通路。

 中に入った途端に明るく照明されて、幅も学校の廊下ぐらいはあって、葉子ちゃんと二人並んで歩くのに不便はなかった。


「自動で地下にこんなモグラ穴を作る……か。どんな技術なんだろう」


「掘った土だけで結構な量になるだろうにな。――おいギガント姫、左右の部屋は?」


 目の前の央介くんから、大きな熊内さんの向こうで見えない佐介くんが続ける。

 部屋は――あった、入口と同じような機械仕掛けの扉。

 だけどこっちのは周囲に隠す色じゃなくて銀色の金属。


「ドア・ユニットの裏側の複数の小型掘削ユニットが硬化液のラインを引きながらフレームを形成。フレームが完成してから内容の排土を行いますわ。……AR情報を見る限りここは生活用のブロックですわね。今は無人のようですけれども」


 プリンセスが難しい事と簡単な事をそれぞれ語ってくれた。

 応じたのは佐介くん。


「無人。じゃあ奥で誰かが待ち構えてるのか。それにAR、オレらに見えない情報見てるんだな」


「完全に無人ですわ。現在の所属人員の表記がありませんでしたもの。ARはわたくし専用のコンタクトレンズから、他の方には利用できませんの。悪しからずですわ」


 無人……、人がいない設備が私たちを島に閉じ込めていた?

 そんなおかしな機械がここにあるの?

 私の疑問に答えるように、央介くんが呟く。


「ギガントが人間を使わずに巨人を出せる技術で襲ってきた事があったんだ。ここもそういう機械仕掛けの巨人なのかもしれない」


「無人巨人なんてあったのか。それも俺らに回してくれりゃよかったのに」


「別部署エージェントが暴れてるのかと思ってたがなあ」


 央介くんの話に反応したのは前後に配置されたギガントの凸凹。

 この人たち、懲りてないよね。


 とりあえずの判断で、生活ブロックの調査は後回しということになった。

 生活ブロックに食料類がある可能性はあったけれど、バリア装置さえ停止させられればそんなものも必要ないという判断だった。


 そこから更に教室二つ分は進んだぐらいの先。


「――また部屋だ。こっちは?」


「こちらは……研究用ブロックですわね。データルームですかしら? 制御に関わってる可能性はありますけれども」


「こっちは開けていこう。島から脱出するヒントがありそうだ」


 佐介くんの判断に、央介くんや葉子ちゃんが頷く。

 一方でさっきから長い耳が垂れ下がりっぱなしの奈良くんは――。


「こわいの出てきませんように……」


 ……私と同じ気持ち。

 それでもプリンセスは扉に手をかざして、それを開く。

 開いてしまう。


 その時点では開いた広い部屋の中は真っ暗で、通路から差し込む光が照らす場所以外は良く見えなかった。

 でも、何か動く気配とかはなさそうで、いきなり怪物が出てくることはなさそう。


 ――よかった。


 佐介くんと狭山さんが慎重に進んでいくその部屋の中には、何か大きな機械が沢山ならんでいるみたい。

 その機械は、それこそ人や怪物が入っていそうな大きなガラスの筒。

 中は――嫌なものが入っていませんように。


 並び順のまま、私たち全員が部屋に入ったぐらいのとき、部屋に明かりが灯った。


 私は、急な明るさに目を瞑って、それからゆっくり目を開く。

 その時、目の前にあったのは。


「くっ!? なんだこれ!!」


「い、いや! こわい!!」


 周囲から悲鳴が上がった。

 私も、続いて悲鳴を上げる。


 だって、目の前の機械の大きなガラス壁の内側には、裸の子供が閉じ込められていたから。

 それが何十台も部屋の中にならんでいたから。





 =どこかだれかのお話=


「馬鹿な! それは正気の判断か!? こちらの傘下部隊は現地で解決のために行動中なのだぞ!?」


 要塞都市、神奈津川の司令室で都市自衛軍一佐の大神は声を荒げた。

 その相手は通信画面の向こう、遥か南方のJETTER OK(オキナワ)総合指令部の指揮官である准将。


「そうだ。あの島が国際テロ組織ギガントの拠点と判明し、既に一週間が経過しようとしている。放置期間が長すぎたと言えるだろう」


 通信回線からは慇懃な、しかし酷く一方的な言い渡しが行われる。

 そして――。


「繰り返す。JETTER OKは準備ができ次第、空間破砕兵器ゼラス・デストロイヤーによる島への攻撃を行う。次元兵器であるこれは巨人障壁であっても防御は不可能だ」


 ――そして、大神が先に反駁した、あまりにも極端な作戦案が再度口述された。


 See you next episode!!

 迫る無人島崩壊の刻限!

 央介達、少年少女は絶体絶命の危地から脱出できるのか!?

 次回『さらば巨人の島』

 君達も夢を信じて!Dream Drive!



 ##機密ファイル##

『“巨人”に対するサイオニックによる干渉現象への警告:草案』

 海底大要塞における協力者βとの訓練模擬戦として行わせていた実験過程に発生した事象として、特筆すべき事象を確認した。


 小官は巨人を発生させるのがPSIエネルギーという点に注目し、同じくPSIエネルギーを用いているとされていたサイオニックとの接触を計画。

 それは模擬戦の際に軍所属サイオニックを一般兵士として偽装配置、そのPSIエフェクトを巨人に加えるという形式で行った。

 その際、当該サイオニックの最小のサイコ・キネシスですら巨人には大きなダメージを与えることに成功。


 これはサイコ・キネシスに伴うPSIエネルギーが巨人というものを出現させているPSIエネルギーそのものにダメージを与えられるためと考えられる。

 例えるならば、怪力男が川に向かって大岩を投げ入れた場合に水が大きく飛び散り、川底が露呈するようなものと言えるだろう。


 一方で、サイオニック側も巨人という巨大・危険な対象との接触には大きく負担を覚えたとの供述を受けている。

 これが小官がサイオニックを対巨人戦に用いることは困難と判断した理由でもある。


 まず、巨人は適応層――特定年齢範囲であれば誰でも投影が可能な事象。

 仮定としてそれが物量として運用され出した場合、膨大な量の巨人が跋扈する状態となり得る。

 該当する危険状況が発生した場合、希少なサイオニックを投入し一体二体の巨人を撃退できてもそれが全ての戦術目標とはならない。

 川の水を飛び散らせても、水は次々と流れ込み、川は川としてそこに存在し続けるのだ。


 よって、特異巨人との決戦以外においてサイオニックという希少で繊細な怪力男をわざわざ用意し、疲弊させるのは悪手と言える。

 やはり実験中のPSI兵装を完成、充実させ、Eエンハンサー及び一般兵士による攻撃手段の拡充こそが巨人災禍への唯一の対策となるだろう。


 しかし我が陣営にある巨人隊は現在、少数部隊であり不安定な外部人員。

 今後、ギガントによるサイオニック、あるいはPSIエネルギー兵器の投入に警戒すべきである。

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