第二十五話「要塞都市の少年少女は巨人チートで無人島でも楽勝サバイバルライフ」5/8
=珠川 紅利のお話=
「本当にこれで全部だろうな?」
佐介くんの前の地面に並ぶ、ギガントの凸凹コンビが持っていた鉄砲や怪しい道具。
そして、その先には鎖で縛られてパンツだけのかっこ悪い姿にされた凸凹コンビ。
この人たちに捕まって縛られたことが随分昔の事のように思える。
「工作員は体内に工作機器を隠し持つ可能性あり。自己申告のない場合にはそれらの身体検査を行います。具体的にはまず奥歯を引き抜き……」
「無い! 無い! 無いって!!」
テフさんが二重の意味で恐ろしい話を始めて、凸凹コンビは慌てて否定しだす。
巨人の鎖に縛られている今は悪さもできないと思うけれど。
一方で――。
「出てくるまでシェイク地獄だよ! これ本当に体に悪いんだから、体壊す前に降伏しなさい!」
翅が外れたアゲハは、まだ悪役乗り物のアトラスを捕まえたまま揺さぶっている。
それでもギガントのお姫様は中に籠ったままで、出てこない。
夢さんがアトラスを壊さないのは、それが島の制御に関わっているかもしれないから、らしい。
それにしても強情な抵抗、と私が思った時だった。
急にアトラスから声が響く。
《あなた方の中にESPが居る可能性が高いですわ! 乙女の心を踏みにじるような事は許さなくてよ!》
「えっ!?」
スピーカー越しにお姫様が訴えた抵抗の理由に、夢さんが困惑する。
“いーえすぴー”というのは、超能力のことで、となると――。
「……うん、実は居る。ごめん、黙ってて――」
ハガネの央介くんが言いにくそうに応じて、その次の瞬間。
(初めましテ、夢ちゃん。央介に協力しているESPのサイコでス)
いつものテレパシー。
多分、央介くんと、私と、それから夢さんへの語り掛け。
でも、あきらくんだよね? サイコ?
「ふえっ!? 何の声!?」
「夢、当現象は聴覚ではありません! 警戒状態に移行を……」
「うーん、流石は妹。似た反応したなあ」
何か、佐介くんが感慨深そうにテフさんを眺めている。
流れからすれば、佐介くんも最初はこんな対応をしたということだろうか?
「大丈夫、サイコとはもう数カ月の付き合いだから、警戒もいらないよ」
央介くんがアゲハの夢さんとテフに呼び掛ける。
みんなみんなで隠し事があるのは大変だと思う。
(ワタシもそこまで隠したくないんだけどサ、テフの機械成分考えるとそこから自衛軍側に探り当てられそうだからネ。夢ちゃんには正体を秘密にさせてもらうヨ)
それにしてもあきらくん。
変なキャラ作って喋ってるよね。
まあ、隠すためなら仕方ないか。
「むーん、仕方ない。……今までおーちゃんを助けてきてくれたんだったら、ありがとね」
(どーいたしましテ。今後ともよろしク)
当のあきら君は――近くには居ない。
サトウキビの作業をしながら、かな。
「あんまり当てにならないんだぜ、コイツ」
(言ってろ、ポンコツ!)
「さーちゃんがそういうなら信用できるね!」
うーん、佐介くんとあきらくん、なんか仲良いのかな。
あきらくんが軽口までぶつける相手は、狭山さんと奈良くんぐらいだと思っていたのに。
そして夢さんの対応は、えーと佐介くんは昔の央介くんに似ているっていうから、そこからの幼馴染対応で……人間関係の知恵の輪が難しくなってきたかも。
「じゃあ、役立つところを見せとくか」
佐介くんはそういって、凸凹コンビからとりあげた鉄砲を手に取って――。
――ばきん、と折り曲げて壊してしまった。
凸凹コンビは縛られたままで悲鳴じみた抗議をはじめる。
「あっ!? ななな何しやがる! 壊さなくてもいいだろ!?」
「僕たちの道具としては使いにくい。ドサクサで取り戻されたら危険。壊しちゃえば余計なものが消える」
央介くんが佐介くんのしたことを説明してくれた。
なるほど。
そして佐介くんの行動はそれだけに留まらない。
「むーちゃん! アトラスにオレとテフで乗り込んで中身を引きずり下ろすから、揺さぶりストップ!」
「あいあい。でも気を付けてねー、二人が補佐体でも相手がギガントの人だしねー」
夢さんの答えから早速に佐介くんとテフさんはアゲハの巨体を素早くよじ登って、そのままアトラスの開きっぱなしの扉へ飛び込む。
わずかな間だけの静か。
――それから酷く騒がしくなった。
《Eeeeeeeeeeek!!!! Hentaiですわ!! Fxxk’n goblin robot!! Please 触るんじゃねえ!!》
《痛っ! 抵抗するな! 怪我したいのか!! ……ぐえっ!!》
女の子の悲鳴と、佐介くんの悲鳴がどっちもスピーカーを通して聞こえてきた。
でも女の子が口にしない方がいいような良くない意味の英語がいっぱい。
そして、アトラスの中からは酷い破壊音と同時に何か色んなものが飛び出してくる。
《佐介、性差的問題が抵抗を激化させている可能性・大。当機テフが接触を担当します》
《そんなの気にして……ぐわっ!? こ、コイツ素手で機械引き千切っ――》
そこで、中からの音声は急に途切れてしまった。
央介くん――ハガネも流石に心配になったらしく、アトラスに手を延ばして――。
――という時にアトラスの中から佐介くんが姿を現した。
ただし中へ入った時にはなかった目立つ大きな襟巻きと、顔に青あざをつけて。
あの襟巻きは何だろうとよく見ると、金属的な何かの部品が首にはまって……あれ、これは佐介くんの頭が機械部品を貫通してるんじゃないの?
「……さ、佐介。大丈夫か?」
流石に央介くんも心配して声をかけるけれど。
「父さんに殴られたぐらいには効いた……。ああ、首のは気にしないでくれ。でも中の機械少し壊されたから、アトラスの機能が無事かわかんねぇ」
続いて、後ろ向きにテフさん。
彼女は、ぐったりしたドレスの女の子を引きずって出てきた。
ギガントのプリンセス、彼女が動く気配はない。
あれ……悪いお姫様とはいえ、大丈夫かな?
「――若年女性ギガント工作員、通称プリンセスを電撃端子を用いて無力化しました。失神状態ですが生命に異常はなし。回復前にハガネによる拘束への転換を要請します」
ハガネが出した鎖でパンツ一枚の凸凹コンビはひとまとめ。
プリンセスはそれとは別にアゲハの紐で縛られた。
そういう所にちゃんとデリカシーがあるのは良いなって思う。
縛った後で、ハガネ・アゲハから央介くんと夢さんが降りてきて、代わりに佐介くんとテフさんが出しっぱなしの巨人に溶け込む。
なんでも、鎖とかを出すのは央介くんや夢さんだけでもできるけど、それを維持するのは機械の補佐体さんたちの方が向いてるんだって。
私たちはギガントの悪い人たちと、向かい合う。
更に央介くんは一度周囲を気にしてから、声に出して呼びかけた。
「それじゃあ……えっと、サイコ。お願いできる?」
超能力幼馴染、あきらくんの出番。
これで、ギガントの人たちは一切嘘をつけない。
(言われずともやってル。大人たちに怪しまれる前にやらないといけないからナ。さテ、悪い情報がいくつカ、良い情報は……ほとんどないな。クソが)
あきらくん、夢さんの手前で気取った感じのテレパシーだけど、割と地が出てる気がする。
央介くんはそれを気にせずに、公開を促す。
「緊急性が高いか、前提になる情報からで」
(……じゃア、まずは悪くて前提になる情報。こいつラ、この島のシステムに関係がなイ――当然覆ってるバリアにも一切関与してなイ)
「えっ!?」
私たちは一斉に驚きの声を上げた。
央介くんと夢さんと私の三人は、衝撃の事実を告げたあきらくんの方に思わず向こうとして。
けれど遠くから語り掛けてきている彼はこの場に居なくて、やり場なくギガントの3人を見つめるほかなくなった。
(こいつら央介と夢さんを追いかけてきたら巻き込まれたってだけダ。最悪にマヌケな事にナ)
「この島を仕掛けてきたのがギガントだろ!? それならこいつらも脱出の手段ぐらい!」
央介くんが、普段になく荒い言葉遣いで聞き返す。
けれど、あきらくんからは無情な答え。
(こいつらもワタシたちと同じく脱出できなくなってたんダ。閉じ込められて慌ててギガント上層へ連絡とったが対応されズ、数日待ったが事態変わらズ、痺れを切らしてさっき巨人を操ろうとしテ、それも失敗)
「なんっ……だよ……!」
ギガントに関わることになると、央介くんは本当に怖い一面を見せる。
聞いた限りの話では、巨人に関わる何もかもを悪い方向にした原因なのだから、当然なのだろうけど。
「おーちゃん、落ち着いて。少なくともこのおマヌケさん達から襲われる可能性だけは無くなったんだから……。えーと、サイコさん。このおマヌケさん達が脱出できない理由って、わかる?」
(それカ。ギガントはチームごとに互いに関与しない構造になってるんダ。組織や技術の情報を漏らさないようにネ)
「それで、別のチームのすることが分からないから、ギガントがギガントの仕掛けたワナにはまった……?」
「マヌケのマヌケの大マヌケだな。あと有用そうな情報は?」
ハガネから佐介くんの声が響いて次の話を促したところだった。
そのとき、テフさんに何かされて意識を失っていたお姫様が我に返り、顔を上げる。
彼女は自分が縛られているのを理解して、それでも私たちを睨みつけてきた。
(……コイツの名前がプリンセスってのハ、役に立ちそうもないかナ)
あきらくんからの、全く役に立たないけれど意外な情報。
私は思わず、驚きの気持ちを言葉にして漏らしてしまった。
「え? あのお仕事とか、立場じゃなくて? 名前がプリンセスなの?」
(うン、まア……立場もプリンセスと言えなくもなさそうだけどナ……)
あきらくんが何か含みのある話をしかけたところで、“プリンセス”は私の話を聞き咎め猛然と抗議をはじめた。
「何かおかしいことありまして!? わたくしの名前はプリンセス=エル=エルダースですわ!」
プリンセスの結構な剣幕。
私も、個人の名前に余計な感想をつけてしまったかなと少しの反省を感じて。
――でも、そのどうでもいいやり取りに央介くんが反応した。
「エルダース……!?」
エルダース。
何か聞いたことあるけれど、なんだったろう?
私が記憶と知識からその名前を引っ張りだそうとすると、あきらくんから焦りを感じるテレパシー。
(ああクソ、言っちまいやがった……!)
「……サイコ。何か黙ってた事がある、そうだろう!?」
途端、央介くんが険しい顔と声であきらくんを問い詰める。
どうしたんだろう、央介くんがギガントの悪人相手にこんな刺々した空気を作るのは初めて見たかもしれない。
(ああ……。央介、落ち着いて聞け。ギガントってのはどうもDr.エルダースやガイア財団と繋がってる……というより同じ組織の表と裏、みたいだ)
ガイア財団のエルダース博士。
それなら私でも知ってる。
世界でも一番二番って言われるすごい科学者さん。
……え? でもそれが悪い人!?
「ガイア財団が……、ギガント?」
央介くんは深刻な顔で、でもそれ以上は何も口にしない。
そこへあきらくんが説得するように、宥めるように。
(だから、この間戦う前にDr.エルダースが敵だったらって、言っただろ? そういう風に何度か欠片を拾わせて免疫付けとこうって思ったんだけど……台無しだよ)
「そんな……何かの間違いじゃ……?」
(そういう風にな。央介はガイア財団とかDr.エルダース尊敬して盲信してるから、言いづらかったんだ。世界って子供の憧れだけじゃ語れないもんだぜ?)
動揺がはっきりわかる央介くんと、悪役ぶって話を進め切るあきらくん。
その傍では、気遣おうとする夢さん。
こんな時に私は――どうしていいか分からない。
(軍の上の方だけは、それを知ってるみたいだった。ただ、それが分かったからって何か解決につながるものでもないし、混乱も招く。……結局、巨人に関わる事件は上太郎博士の頑張りと、それまで央介が戦って、耐えられるかになるんだ)
「そういえば、偽物がエルダースのじじいとか言ってた、か。ヒントは出てたんだな」
背後のハガネから佐介くんが声をかけてきた。
偽物――もう一人の佐介くんは、ギガントが送り出してきたのだから、その奥深くを知っていたのかもしれない。
子供ではどうしようもない、世界の見えない部分のお話。
その大きさと怖さに私は少しの目眩を覚えた。
そんな時だった。
「Dr.エルダースはお爺様ではありません! お父様です!」
佐介くんが何気なく言った話に口を挟んできたのは、プリンセス。
私と、周囲の二人、それに二体の巨人はその意味を掴みかねて、考えて。
ほぼ同時に、おそらくの結論に至って。
「えっ……?」
――みんなで困惑の声を揃ってあげた。